おはようございます。
今日は、専有部分をナイトクラブの営業を予定している第三者に賃貸することを管理組合が承認しなかったことは違法?(東京地判令和3年12月9日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、マンションの区分所有者である原告が、当該マンションの管理組合である被告管理組合及び被告理事らに対し、原告が専有部分を第三者に賃貸することについて被告管理組合が承認しなかったことが違法であり、これにより原告に賃料収入相当額の損害が生じた等と主張して、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、9000万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件マンションの店舗部分の営業については、営業開始前に被告管理組合の同意を得る必要があるものとされている(店舗使用細則2条2項)。
被告管理組合が、具体的にどのような場合に上記同意をすべきかについて、要件や基準を明確に定めた規定は見当たらないものの、上記規定の直前に位置する店舗使用細則2条1項が、店舗部分の営業内容について規定した管理規約12条2項を準用していることに照らすと、同項が禁止する営業に当たらない場合には、被告管理組合が原則としてこれに同意することが想定されていると解するのが相当である。
もっとも、管理規約12条2項は、風俗営業や性風俗営業等を例として挙げながら、「他の区分所有者や占有者の迷惑となる営業をしてはならない」と抽象的に規定している上、上記同意をするか否かは営業開始前に判断される。
したがって、被告管理組合は、店舗部分の営業に同意するか否かについて、一定の裁量を有するものと解される。
2 S社は、1階店舗において、特定遊興飲食店営業に当たるナイトクラブの営業をすることを予定していたものである。特定遊興飲食店営業は、平成27年改正後の風営法において、「風俗営業」には当たらないものと定義されているが、同改正前は、「風俗営業」の一つとされていた営業形態であった。
そして、管理規約12条2項は、平成27年改正よりも前に設定されたものであることに照らすと、同項が禁止対象として例示する「風俗営業」については、平成27年改正前の風営法に規定する「風俗営業」と同義であると解釈する余地があり、その場合には、特定遊興飲食店営業もこれに該当することとなると考えられる。
また、ナイトクラブ等の特定遊興飲食営業は、風俗営業に該当しないとしても、風営法による規制(許可)の対象であり、東京都において児童福祉施設や病院等から一定の距離があることがその許可の要件とされているように、周辺環境への影響が生じることが法令上も想定された業態であるといえる。
本件マンションは、我が国でも有数の繁華街に所在するが、その3階から12階までは住宅又は事務所とされていることにも照らせば、ナイトクラブ等の営業によって、騒音やい集等により他の区分所有者に迷惑が生じると被告管理組合が懸念することには、相応の根拠があるといえる。
そして、被告管理組合は、原告から本件賃貸の意向を示された後、4月理事会で一旦は原告に本件営業は認められない旨の申入れを行うこととしたものの、その後も本件各理事会及び8月理事会において、本件営業の内容等について継続的に検討していた。
一方、Aは、4月理事会、5月理事会及び8月理事会をいずれも欠席し、原告は、1月理事会に至るまで、本件営業について詳細な図面等を用いた具体的計画を示さなかった。
したがって、1月理事会が開催されるまで、被告管理組合において、上記懸念が払拭できないと判断して本件営業に消極的態度を示したことにも合理的理由があったといえる。
以上のことからすると、被告管理組合が、本件調停に至るまで本件賃貸及び本件営業に同意しなかったことについて、合理性を欠くとか裁量の範囲を逸脱したということはできず、違法であったとは認められない。
本件マンションは渋谷区宇田川町に所在するようですが、結果としてはナイトクラブの営業について承認しなかった管理組合の決定については違法ではないとされています。
本件のようなケースでは、原告からは逸失利益の請求がなされることから、請求額が高額になる傾向にあります(本件では9000万円!)。
したがって、手続及び判断については極めて慎重に行う必要がありますのでご注意ください。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。