おはようございます。
今日は、規約に違反する区分所有者に対する訴訟係属中に規約を変更し、本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定を設け、後訴において当該罰金合計350万円を請求することの是非(東京地判令和4年1月25日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
原告は、本件マンションの管理組合であり、区分所有法3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする権利能力なき社団である。
本件は、原告が、本件マンションの101号室の区分所有権を共有する被告らに対し、①被告らに対して本件マンションの管理規約の違反行為の是正を求めて提起した前訴のために支出した弁護士報酬等の費用について、上記違反行為を不法行為とする損害に当たると主張して、上記費用相当額151万3236円の損害賠償金+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、②本件規約に違反した場合の罰金を定めた規定に基づき、平成28年12月から平成30年5月までの本件規約違反を理由とする月額20万円の割合による損害金合計350万円(ただし,平成28年12月分については10万円の一部請求)の連帯支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 本件前訴は原告が被告らに対して本件工事の是正等を求めて提起したものであるところ、原告は、本件前訴が1審に係属している中で、本件申入れをした上、本件規定を設け、さらに、本件前訴が控訴審に係属している中で、被告らに対して本件規定に基づく罰金請求をする旨の決議をしたものである。
このような経緯や、上記質疑応答の内容等に照らせば、本件規定は、専ら被告らのみに適用されるものではないとしても、本件前訴において係争中であった被告らへの適用を念頭に置いて設けられたものであることは明らかというべきである。
このことは、本件規定が本件建物だけでなく本件マンションの102号室にも適用された事実があったとしても、左右されるものではない。
そうすると、原告は、本件工事が本件規約に違反するなどと主張してその是正等を求める本件前訴を提起し、その係属中に、被告らに適用することを念頭に置いて本件規約の違反者に月額20万円の罰金を請求できる旨の本件規定を設け、これに基づいて被告らに対して290万円ないし350万円の罰金を請求する旨の決議を行い、本件前訴の判決が確定した後、上記決議に基づくものとして本件工事が本件規約に違反することを理由に被告らに対して350万円の損害金の支払を求める本件訴訟を提起したことになる。
このような経緯に照らせば、本件規定に基づく被告らへの請求は、被告らとの間で本件前訴が係属し、本件工事が本件規約に違反するか否かが裁判の場で争われて審理されていたにもかかわらず、本件工事が本件規約に違反するという原告側の裁判上の主張を前提として多数決により一方的に本件規定を設けて被告らに対して月額20万円という多額の罰金を課すことにより、原告側の裁判上の主張に従うように裁判外で経済的圧力を掛けたものといわざるを得ない。
規約違反が明白であれば、このような対応にも合理性があると考える余地はあり得るものの、本件工事が本件規約に違反するか否かについては、被告らは本件前訴において相応の根拠を示して争っていたものであって、本件前訴の1審判決や控訴審判決において被告らの言い分の一部が認められていることからしても、その違反は必ずしも明白ではなかったというべきである。
それにもかかわらず、上記決議に基づいて350万円という多額の損害金の支払請求をすることは、多数決により被告らに経済的圧力を掛けることによって、事実上、被告らが裁判において規約違反を争う機会を損なわしめるおそれがあるものというべきであって、被告らの裁判を受ける権利を実質的に侵害しかねないものとして権利の濫用に当たり許されないというべきである。
この点について、原告は、被告らが本件前訴の終了後も確定判決に従った対応をしていないことが悪質であるなどとも主張するが、この点は本件請求とは別個の問題であって、上記の認定判断を左右するものとはいえない。
したがって、争点2に関して本件規定が区分所有法に違反しないとしても、本件請求のうち本件規定に基づく350万円の罰金請求の部分には理由がない。
いろいろと考えさせられる事案です。
本件原告のみに適用される規定わけではありませんが、裁判所としては、これまでの経緯や罰金の額等に鑑みて、権利濫用にあたると判断しています。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。