漏水事故18 大規模修繕工事により発生した専有部分の漏水被害に関し、施工会社の損害賠償債務について460万5000円を超えて存在しないことの確認請求が認められた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大規模修繕工事により発生した専有部分の漏水被害に関し、施工会社の損害賠償債務について460万5000円を超えて存在しないことの確認請求が認められた事案(東京地判令和4年2月28日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、被告が居住する専有部分を含むマンション(10階建て)の大規模修繕工事を施工した原告会社が、本件工事中に発生した被告専有部分の漏水被害に関し、被告に対し、上記漏水被害による不法行為に基づく損害賠償債務が460万5000円を超えて存在しないことの確認を求め、本件マンション管理組合である原告管理組合が、被告に対し、上記漏水被害による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告は、原告管理組合が、本件漏水被害が確認された時点で、直ちに漏水調査・工事を手配して原因究明及び被害軽減を図る当然の対応をしていれば、本件漏水被害を軽減することができた可能性が高いことから、原告管理組合も、原告会社と連帯して損害賠償責任を負う旨主張する。
しかしながら、本件漏水被害は、本件工事を施工した原告会社の施工不備によることが明らかである。
R社が本件漏水被害について調査及び補修工事を行ったのは、令和2年3月頃から同年5月頃にかけてであることが認められ、本件漏水被害が確認された令和元年5月21日から相当期間経過した後に調査等が行われたものであるが、本件全証拠によっても、この間に、原告管理組合について、不法行為と評価されるほどの何らかの注意義務違反があったことを基礎づける事実は認められないし、これにより本件漏水被害が拡大したと認めることもできない。
以上によれば、原告管理組合が、被告に対し、本件漏水被害に関して損害賠償債務を負うとはいえない。

2 本件工事により、被告専有部分の洋室、リビングダイニングキッチン(寝室を含む。)の天井及び壁面部分に漏水被害が生じたものと認められる。これら以外の箇所について、現在も補修を要する漏水被害が生じたことを認めるに足りる的確な証拠は存しない。
そして、専門委員の意見書では、上記の漏水被害の補修のためには、各部分のクロスの張替え及び漏水により変形した下地の石膏ボードの交換工事を行うことが必要かつ相当であり、その補修費用は、諸経費を含め、118万7037円が相当である旨の意見が述べられているところ、その信用性に疑問を抱かせる事情は何ら窺われない。
補修工事の内容及び被告専有部分の広さ等に鑑みると、同工事の期間中、仮住まいをすることが必要かつ相当ということはできるが、その費用を考慮しても、本件漏水被害と相当因果関係のある損害が460万5000円を超えないことは明らかである。
以上に対し、被告は、本件漏水被害に起因する修繕工事の見積書を根拠に、本件漏水被害の修繕工事費用は、888万2500円が相当である旨主張する。
しかしながら、S社による見積書は、被告専有部分の「リフォーム工事」についての見積書であり、その内容にも、浴室、キッチン撤去、洗面台、トイレ、給湯器、収納建具等の撤去、天井、床等の解体、コンパクトキッチンやユニットバス、洗面化粧台の設置等を含む給排水設備、電気工事等が含まれており、前記で認定した本件漏水被害が生じた範囲に照らしても、本件漏水被害の修繕のために必要な範囲を超えた工事についての見積りであることが明らかである。
また、M社による見積書及びT社による見積書についても、その内容に照らし、前記と同様、本件漏水被害の修繕のために必要な範囲を超えた工事についての見積りであることが明らかである。

漏水事故等による修繕工事費用について、複数の異なる見積書が証拠として提出されることは珍しくありませんが、本件では、専門委員が入っているため、裁判所としては専門員の意見書のベースに損害額を認定しています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。