おはようございます。
今日は、理事に対して支給する交通費が最短経路におけるものでなくてもOKとされた理由とは?(東京地判令和4年3月11日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、マンションの管理組合法人である控訴人が、その理事を務めていた被控訴人に対し、主位的に、控訴人内部で定められた支給要件を満たさない交通費実費相当額が被控訴人に支給されたとして、不当利得返還請求権に基づき、利得金131万6080円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、被控訴人は、控訴人に対する委任契約上の善管注意義務に違反し、あえて不合理な通勤経路を選択することにより交通費実費の支給を受けて控訴人に損害を与えたとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、交通費実費支給額131万6080円+遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 本件基準は、理事に対して支給する交通費の定めについて、「往復の交通費が3000円を超える場合には5000円を限度に別途実費全額を支給する」とするのみで、理事が利用する経路が最短経路であることを要件として求めていない。
そうすると、被控訴人が往復交通費3000円以上を要する経路を現に利用し、支給された交通費の実費が上限5000円の範囲内に収まっている以上、控訴人が受領した交通費の実費は、本件基準に基づいて給付されたものであるといえるから、法律上の原因があるというべきである。
この点について、控訴人は、控訴人自身が管理費を原資として運営されるものであり、また、本件基準が公平性・透明性を確保する趣旨で設けられたものであるなどとして、本件基準においては、理事の利用経路が最短経路であることは当然の前提とされており、その限度でしか交通費は支給されない旨主張する。
しかし、交通費の実費を支給する要件として最短経路の利用を求めるのであれば、そのように重要で、かつ、容易に定めることができる要件は、明記されるべきであるし、また、通常は基準として実際に明記されているものであるが、本件基準にはそのような記載はない。
また、本件基準は、従前の取扱いで定められていなかった支給される交通費の実費上限額を新たに定める一方で、実際に理事が利用した経路の妥当性等を検証する事務手続(どの機関が、どのような方法で検証するのか等)については特に定めていないのであって、最短経路の利用を求めていることをうかがわせる内容ともなっていない。
そうすると、本件基準は、各理事が申告し実際に利用した経路に基づき、上限額の範囲内で交通費の実費を支給することとしたものと解するのが自然であって、利用経路は最短経路でなければならないという明示されていない付加的な要件が別途本件基準に課せられていると解することはできない(なお、このように解したとしても、本件基準において支給されるのは交通費の実費であるから、理事が利用もしていない経路に基づく交通費を請求することは防止することができるし、また、支給される交通費の上限額が定められていることから、控訴人又は組合員の資産に不測の損害を生じることはない。)。
したがって、控訴人の主張は採用することができない。
常識的な感覚でいえば、控訴人の主張は十分理解できるところですが、裁判所が述べているとおり、「最短経路の利用を求めるのであれば、そのような規定を設けていくべきでしょ」ということです。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。