名誉毀損15 管理組合の理事長の名誉を毀損する内容を記載した文書を配布した行為が名誉毀損にはあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合の理事長の名誉を毀損する内容を記載した文書を配布した行為が名誉毀損にはあたらないとされた事案(札幌地判平成28年10月7日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者によって組織される管理組合の理事長の地位にある原告が、本件マンションの区分所有者である被告らに対し、同人らが本件マンションの区分所有者のうち原告を除く全員に対し、原告の名誉を毀損する内容が記載された文書を送付又は配布したとして、不法行為に基づき、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払を求めるとともに、本件マンション内に謝罪文を掲示すること及び全区分所有者に通知文を送付することを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 文書の意味内容が他人の評価を低下させるものであるかどうかは、当該文書を読む対象者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものであるところ、本件各記載は、いずれも原告が理事長を務める本件組合が、原告の夫が代表を務めるa社に対し、本件マンションの工事を直接又は間接的に発注したことが、違法行為(犯罪行為)とみられる利益相反行為に当たる旨を指摘する内容であり、本件各文書が配布された本件マンションの区分所有者からみて、本件組合の理事長である原告の評価を低下させるものといえることから、被告らが本件各文書を配布したことは、原告の名誉を毀損する行為といえる。

2 ところで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最判昭和41年6月23日第1小法廷判決、最判昭和58年10月20日)。
一方、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合には、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である(最判平成元年12月21日、最判平成9年9月9日)。
上記のとおり、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるのか、意見ないし論評の表明であるかによって、名誉毀損に係る不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、当該表現がいずれの範ちゅうに属するかを判別することが必要となるが、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである。

3 本件各記載は、要するに原告が理事長を務める本件組合が、原告の夫が代表を務めるa社に対し、直接又は間接的に本件マンションに関する工事を発注したことが、利益相反取引として違法行為又は違法行為の疑いがある旨を指摘するものであり、このうち利益相反取引として違法行為又は違法行為の疑いがあるとの点については、法的な見解を表明するものであって、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に対する特定の事項に当たらないことは明らかである。
したがって、・・・本件各記載は、上記で判示した意見ないし論評の表明に当たると解するのが相当である。
 
4 本件文書1は、その表題や全体の記載内容に照らし、本件マンションの区分所有者に対して、現在の本件組合の運営に関する問題点を指摘し、総会への出席を求めるものであり、また、本件文書2についても、その表題や全体の記載内容に照らし、本件マンションの区分所有者に対して、総会後に開催された説明会を含むこれまでの事実経過を報告し、本件組合役員の早期解任を訴えるものであると認められ、いずれも本件マンションの区分所有者全体の利害に関する本件組合の運営改善及び管理費等の保全を図る目的で配布されたものであり、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる。
そして、a社による本件マンションに関する工事の受注については、当事者間に争いがないことから、本件各記載の前提となる事実の重要部分について真実と認められる。
加えて、上記のとおり、本件各文書は本件組合の運営改善及び管理等の保全を図る目的で配布されたものであり、その表現をみても、安易に断定することなく、「疑いも有る」、「可能性がある」、「考えられる」等の記載がされるなど、一定の配慮がされており、上記目的を離れて原告個人を誹謗中傷したり、人格を攻撃するような内容の記載はないことから、いまだ意見ないし論評の域を逸脱しているとは認められない。
以上によれば、本件各記載は意見ないし論評の表明として違法性を阻却されることから、不法行為に該当しない。

区分所有建物においては、本件同様の名誉毀損事案が発生することが珍しくありません。

本裁判例では、名誉毀損に関する考え方が非常にわかりやすく記載されているので、是非、参考にしてください。

書面等を配布する際に、どのような点に注意すべきかがよくわかります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。