管理会社等との紛争33 賃貸借契約を締結する際に宅建業者が宅建業法上の説明義務を果たしていなかったにもかかわらず、宅建業者に対する損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃貸借契約を締結する際に宅建業者が宅建業法上の説明義務を果たしていなかったにもかかわらず、宅建業者に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判平成29年6月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴は、原告が被告会社の仲介により被告Y1及びBから本件建物を賃借し、本件建物にて水産加工食品販売店を営むことを計画したが、賃貸借契約を締結した後、本件建物入口上部の赤色ビニールテントを白色ビニールで覆って店舗名等を書き入れた看板テントを設置するなどしたところ、同看板テントの設置がマンション管理規約に違反するとして撤去等を求められ、他の宣伝方法を試みたものの、断念せざるを得ず、有効な集客を図る手段がなかったことから、本件建物における営業自体も断念せざるを得ない状況に追い込まれたが、被告会社は宅地建物取引業者として賃貸借契約を締結する際の判断に重要な影響を与える事実について正確な情報を伝える義務を怠り、また、被告Y1は積極的に管理規約等における制限の有無を十分に調査した上で正確な情報を説明する義務を怠ったなどとして、原告が、被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金484万2860円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件反訴は、原告による本訴提起は訴権の濫用と評価すべきものであるとして、被告Y1が、原告に対し、不法行為に基づき損害賠償金532万2860円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 確かに、被告会社は、本件契約の締結に先立ち、原告に対して上記特約事項を説明していない上、本件契約の契約書及び重要事項説明書を原告に郵送し、原告がこれに署名押印して返送するなどの過程を経て本件契約が締結されており、宅地建物取引業法に定める宅地建物取引業者としての業法上の義務を履践していないことを指摘することができる(原告が本件テントを広告等に使用することについて制約があることを認識していても、かかる義務が発生しないわけではない。)。
しかし、債務不履行責任又は不法行為責任が発生するために必要な説明義務違反は、個別の契約当事者の理解の程度と契約に至る過程において示された要望の内容等に応じて発生する具体的な義務違反であるべきところ、すでに指摘したとおり、原告は、本件建物を賃借する際に被告らに対して本件広告を掲示することを希望する旨を伝えていないほか、本件テントは本件建物及びこれと隣接する本件マンションの区分所有建物とで共用している雨避けであって共用部分に該当し、原告はこれを広告等に使用することについて制約があることを理解していたことからすると、被告会社が、宅地建物取引業者として、賃貸借契約等を締結する際の判断に重要な影響を与える事実を調査し、説明する義務の具体的内容として、原告に対し、本件テントに広告を掲示することができない旨を予め具体的に伝えるべき義務が生じていたとまでいうことはできない。
そして、上記のとおり、被告会社は、宅地建物取引業法における義務を履践していないことは認められるし、そのことが同法上是認されるわけではないが、この点から直ちに民法上の債務不履行責任又は不法行為責任が発生するということもできない

仲介業者の説明義務違反の判断基準をしっかりと押さえておきましょう。

また、業法上の義務違反が直ちに民法上の債務不履行又は不法行為とはならないことも押さえておく必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。