管理費・修繕積立金1 組合員による消滅時効の援用が信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員による消滅時効の援用が信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事案(東京地裁平成27年7月16日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理組合であるXが、同マンションの一室の区分所有権を不動産競売により取得した被控訴人S社及び同人から同室の区分所有権を売買により取得したYに対し、区分所有法8条及び管理規約34条に基づき、S社の前区分所有者が滞納した平成20年7月分から11月分までの管理費等合計19万9670円及び各月分の金額に対する各支払期限の翌日から支払済みまで管理規約の定める年14.6%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審はXのY社らに対する各請求をいずれも棄却したことから、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

→請求認容

【判決のポイント】

1 本件規約上、組合員が変更した際にはその資格の取得者及び喪失者はその旨を書面により原告に届け出なければならない(本件規約40条1項)にもかかわらず、Yは、上記規約に違反し、被控訴人S社から本件居室の区分所有権を取得した平成21年1月9日以降、Xに対して組合員変更の届出をせずに被控訴人S社名義で本件居室の管理費等を支払い続けていたことに加え、本件マンションが全3棟に及ぶ地上42階地下2階の大規模高層マンションであって区分所有者が多数いることが認められることからすると、Xにおいて、本件居室の区分所有者がYに変更されたことを認識することができなかったのはやむを得ないといえる。

2 上記事実関係に加え、Yは、S社の代表取締役として、平成20年11月7日には、NからS社に組合員を変更することを届け出て、その際にはXからNの滞納管理費等の存在を知らされていた上、遅くとも平成25年8月12日には、本件催告の存在を認識し、Xに対してNの滞納管理費等の存否につき問い合わせるなどしたにもかかわらず、XのS社に対する督促事件が通常訴訟に移行した後の平成26年6月になるまで、本件居室の区分所有権の自身への移転を明らかにしなかったことが認められることなどをも併せて考慮すると、XのYに対する適時の権利行使を著しく困難ならしめた要因はYの行動にあったといわざるを得ない。
そうすると、Yが消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。
したがって、Yの短期消滅時効の抗弁は失当である。

事案によって、消滅時効の援用が信義則に反し権利濫用により無効と判断されるケースがあり得ることを認識しておきましょう。

ポイントは「XのYに対する適時の権利行使を著しく困難ならしめた要因はYの行動にあった」と評価し得るかどうかです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。