管理組合運営44 代表理事が自身が務める会社に対して毎月一定額の自動送金をした行為が不法行為にあたるとされた上で、当該行為が故意によるものであること等が考慮され過失相殺が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、代表理事が自身が務める会社に対して毎月一定額の自動送金をした行為が不法行為にあたるとされた上で、当該行為が故意によるものであること等が考慮され過失相殺が否定された事案(東京地判令和4年2月18日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である原告から、原告の代表理事であった被告が代表者を務める会社に対して、毎月一定額の自動送金がされていたことについて、①上記自動送金は、被告が代表理事の立場を利用して被告の利益を図るために行ったもので不法行為に該当するなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、自動送金された金額(振込手数料を含む。)の合計978万8496円、弁護士費用97万8849円+遅延損害金の支払を求め、②上記自動送金は、原告との利益相反取引に該当するのに監事が原告を代表することなく行われたから、原告の代表権がない者によってされたもので無効であると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、自動送金された金額(振込手数料を含む。)の合計978万8496円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、1284万8261円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 確かに、原告の予算は、総会の承認を受けることとされていることからすれば、b社ないしc施設管理に対して、管理業務等を委託することは、総会の意思決定によるものであって、あくまでその予算の範囲内で本件自動送金の形でb社に委託料が支払われていたとみる余地がないではない。
しかしながら、総会担当理事であった被告は、認定事実のとおりの役員報酬を得ているのであって、その範囲で予定されている業務のほかに、被告がその代表者を務める会社であるb社や個人事業であるc施設管理に原告の管理業務を委託し、実際に、b社やc施設管理が業として管理業務を行っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない

2 被告は、平成30年2月頃から、被告による業務に不信感を抱いた原告の組合員らから説明を求められるに至ったのに、具体的な説明を一切していないことからすると、被告は、本件自動送金に係る業務を行った業務報告書等は作成しておらず、原告に対して説明のできるような具体的な業務を実施しているものではないと推認されるところである。
このことは、平成30年9月の原告の総会までの間、b社やc施設管理が被告の営む会社等であることを原告の組合員のほとんどが知らなかったことからも明らかといえる。
そうすると、被告は、自らが原告の総会担当理事で、理事会や総会を取り仕切っていたことを奇貨として、自らが営むb社やc施設管理に業務委託をしたような予算上の措置を講じた上で、他の代表理事であるBに手続を手伝わせた上で、自ら又は自らが代表を務めるb社の利益を図るため、毎月b社に本件自動送金をしていたものと認めるのが相当であって、このことは、理由のない支払を原告にさせて原告の財産を不当に侵害したものと評価することができるから、被告の原告に対する不法行為に該当するというべきである。

3 被告は、仮に被告に不法行為が成立したとしても、原告が被告に管理業務を任せきりにしてきたことなどからすれば、原告側にも過失があったといえるから、過失相殺がされるべきであると主張する。
確かに、原告の理事会及び総会は、原告が取り仕切っており、他の理事や組合員は、高い関心を示していなかったことがうかがわれる。また、日常の管理業務についても、支払業務等は綜警ビルサービスに委託していたものの、管理業務全般を専門業者に委託していたわけではなかったようであり、総会担当の代表理事であった被告が日常の管理業務の一定部分を担っていた可能性は否定できない。
しかしながら、被告は、代表理事として行う業務とb社あるいはc施設管理として行う業務とを明確に区別することなく、また、b社あるいはc施設管理として行った業務を原告に説明することもなく、代表理事になった1年ほど後の平成24年12月から6年にもわたって、b社宛てに漫然と本件自動送金を行ってきたのであって、これは、被告の故意による不法行為というべきものであるから、原告側の無関心等が被告の行為を助長したことがあったとしても、それが、損害の公平な分担という観点から,原告に生じた損害を原告においても負担すべきとする事情と評価することはできない。したがって、本件において過失相殺をすることは相当でない。

原告が被告に管理業務を任せきりにしていたという事情があったとしても、被告の故意による不法行為であることを考慮し、損害の公平な分担の観点から過失相殺が否定されました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。