義務違反者に対する措置27 管理規約に違反する民泊営業の停止請求が棄却されたにもかかわらず弁護士費用は全額認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に違反する民泊営業の停止請求が棄却されたにもかかわらず弁護士費用は全額認容された事案(大阪地判平成29年1月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理者である原告が、被告に対し、被告は、本件建物において本件マンションの管理規約上禁止されている不特定の者を宿泊させる営業を行っている、その際の鍵の管理が不適切であってマンションの安全性が害されている、多数の利用者がエントランスホールでたむろするなどして他の区分所有者等の邪魔になっている、ゴミを指定場所に出さず放置し害虫も発生している、共用部分の床のメンテナンスの回数が増えている等の事実を挙げ、これらは建物の管理、使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する(区分所有法6条1項)ものであると主張して、法57条1項により民泊営業の停止等を求め(請求の趣旨1項)、あわせて、本件訴訟に関し弁護士費用を支出することになったのは、被告の不法行為による損害であるとしてその損害賠償(遅延損害金を含む。)を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、50万円+遅延損害金を支払え。

 原告のその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 法57条1項は、「区分所有者」である行為者等を請求の相手方とするものであるから、区分所有権を失った者に対し同項に基づく請求をすることはできない
被告が、平成28年10月21日に新所有者に対して本件建物を売却し、本件建物の区分所有権を失ったことは、所有名義移転の事実から容易に認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
したがって、原告の行為停止請求(請求の趣旨1項)については、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
なお、管理規約に基づく差止請求(63条3項)をするとしても、被告が本件建物を売却したことにより、被告による民泊営業は終了したと言わざるを得ないから、そのような差止請求も認められない。

2 すべてが不法行為に当たるとまで言えるかはともかく、被告の行っていた民泊営業のために、区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状況、床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった、不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものが含まれる。)が現実に発生し、原告としては管理規約12条1項を改正して趣旨を明確にし、被告に対して注意や勧告等をしているにもかかわらず、被告は、あえて本件建物を旅行者に賃貸する営業を止めなかったため、管理組合の集会で被告に対する行為停止請求等を順次行うことを決議し、弁護士である原告訴訟代理人に委任して被告に対する本件訴訟を提起せざるを得なかったと言える。
そうすると、被告による本件建物における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当たると言え、被告は弁護士費用相当額の損害賠償をしなければならない。
本件の経緯等にかんがみると、被告が本件建物を売却したことは被告に有利な事情とは言えず、弁護士費用としては50万円が相当である。

まず、判例のポイント1は、実務上は基本的知識ですが、とても重要ですのでしっかり理解しておきましょう。

結果として原告の行為停止請求は棄却されましたが、違約金としての弁護士費用については全額認容されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。