おはようございます。
今日は、イタリアンレストラン開業のための内装工事を不承認とした管理組合等に対する損害賠償請求が棄却された事案(東京地判令和4年1月20日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、被告Y2から、本件マンションの区分所有建物を賃借した上、本件建物でレストランを開業しようとしたところ、本件マンションの管理組合である被告管理組合から内装工事の不承認決議を受けたため、レストランを開業することができなかったことにつき、①被告管理組合に対しては、上記不承認決議は不法行為を構成するとして、335万1300円の損害賠償+遅延損害金の支払を求め、②被告Y2に対しては、賃貸借契約の締結に当たり必要な説明がされていなかったとして、債務不履行に基づき、152万1300円の損害賠償及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 原告が本件建物で開業しようとしていたのはイタリアンレストランであって、その食材等から臭気が発生する営業形態であることは否定し難い。
この点、原告は、本件店舗で提供予定のメニューによれば、住環境に悪影響を及ぼすような臭気を発するものは予定されていなかったと主張し、原告本人もこれに沿う供述をするが、そもそもイタリアン料理そのものが臭気を伴うものであることは否定し難いし、メニューは随時容易に変更することができるから、被告管理組合が、本件店舗の開業によって臭気が発生することにより住環境が悪化するのではないかという懸念を抱くことが不合理であるとはいえない。
現に、本件マンションでは、近隣のイタリアンレストランでの臭気による住民トラブル(竣工時トラブル)が発生し、同レストランが閉店する事態となった上、その後同所で開業したインド料理店についても、被告管理組合と店主との間で臭気対策について協議が行われ、排気ダクトを延長する対策がとられたというのである。
他方で、本件建物は、長らく事務所として使われており、寿司屋が開店する話が持ち上がったものの、飲食店として実際に使用されたことがなかったと認められる。
このことからすると、本件マンションでは、飲食店の臭気を気にする区分所有者が多く、被告管理組合としても臭気を伴うレストランの開業につながる工事については、承認の可否を慎重に判断することが求められる立場にあったといえる。
そして、被告管理組合が臨時総会を開催して区分所有者に諮ったところ、条件付き承認案(A案)に賛成する者はなく、圧倒的多数で不承認案(B案)が決議されたというのであり、区分所有者の多数も本件店舗の営業に反対するという状況にあった。
このような事情に加えて、そもそも本件建物で飲食店の営業が保証されていることをうかがわせる条項が管理規約に存しないことも併せ考慮すると、被告管理組合による本件不承認決議は、区分所有者の共同の利益を慮ったものであって、不合理とはいえない。
したがって、本件不承認決議は違法ではなく、原告に対する不法行為を構成するものではない。
2 原告は、本件賃貸借契約締結当時、本件建物において内装工事をするには、管理規約上、被告管理組合の承認が必要であること、本件建物は臭気等を発生させ住環境に悪影響を及ぼす用途には使用できないことを知っていたと認められる。
そうすると、被告Y2が上記各説明をするまでもなく、原告は、事前に工事内容を被告管理組合に説明する必要があること、被告管理組合が工事を不承認とすることによって店舗の開設が難しくなる可能性があることを認識することができたというべきであるから、被告Y2に、上記各説明をすべき義務があったとはいえない。
上記判例のポイントのとおり、このような事案においては、不承認とした管理組合のほかに賃貸借契約の仲介業者の説明義務違反を理由に責任追及をされることがありますので注意が必要です。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。