おはようございます。
今日は、組合員である妻の代理人として総会に出席し、理事長に選任された非組合員である夫の行為は妻に及ぶか(東京地判平成30年2月28日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、平成29年1月に区分所有建物の管理組合法人として設立された原告が、同建物の区分所有者である被告に対し、被告が、平成18年4月1日から平成25年9月31日までの間、同建物の管理組合の理事長として、善良なる管理者の注意をもって職務を行うべきであったところ、同義務に反して同管理組合に損害を与えたとして、債務不履行に基づく損害賠償として472万5233円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 原告は、被告が本件管理組合の組合員であり、Bを被告の代理人として、本件臨時総会に出席させ、Bが理事長に選任されたことから、その効果が被告に及ぶと主張するが、同主張を採用することはできない。その理由は次のとおりである。
まず、被告は、Bに対して、本件管理組合の組合員としての一切の権限を委任している。
その趣旨は、組合員として本件管理組合の総会に出席して区分所有者としての権利を行使するに当たり、通常必要となる行為について委ねたものと解される。
しかしながら、区分所有者が、理事長に就任してその職務を行うことを全部第三者に委任することは、その性質上できないと解するのが相当であり、このことは、本件規約第32条4項の定めからしても明らかである。
したがって、被告がBに対して、本件管理組合の理事長に就任することについて代理権を与えたと解することはできない。
2 本件臨時総会の議事録の記載によれば、本件臨時総会で理事長として選任されたのは、Bであると認められる。
そして、本件役員会議事録中に、「理事長は601号室区分所有者Y他の代理人組合員であるが、これを認める。」とあるのは、Bが非組合員であることを確認する趣旨であると解される。
すなわち、区分所有法によれば、区分所有者は、全員で、建物等の管理を行うための団体を構成し、同法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるとされ(3条)、規約に別段の定めがない限り、集会の決議によって、管理者を選任することができるとされている(25条1項)。
そうすると、区分所有法は、管理者の選任について区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ねているものと解される。
これを本件についてみるに、区分所有法には、管理者となるべき者の資格要件について特段の定めがないが、本件規約は、本件管理組合の組合員であることを理事長の資格要件としている。
これは、理事長が本件管理組合を代表することから、非組合員より組合員を理事長にした方が、その職務が誠実に行われると期待したからであると解される。
しかし、本件規約は、その一方で、組合員及び議決権の4分の3以上の総会決議によって、規約を変更することができると定めるところ、本件管理組合では、運営体制の改善・強化を行うために、合議による運営や理事会の設置を含め本件規約の変更を検討するために本件臨時総会を開催したもので、本件臨時総会には、委任状による出席を含め本件マンションの組合員全員が出席していること、本件臨時総会の議事録には、全員から推挙されて、Bが理事長に就任したとする記載、及びEが本件規約に直接記載のない「副理事長」に就任したとする記載があることからすると、本件臨時総会では、Bが非組合員であることによる資格の欠缺を不問とし、後に本件規約を全面的に見直す際にその点を明確させる趣旨で、本件臨時総会決議がされたと認めるのが相当である。
判例のポイント1のとおり、被告がBに対して、本件管理組合の理事長に就任することについて代理権を与えたと解することはできないですね。
そうすると、理事長の行為に対する責任追及をするのであれば、理事長本人に対してするほかありません。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。