おはようございます。
今日は、ペットの適切な管理を行わない区分所有者に対する59条競売請求が認容された事案(東京地判平成30年3月2日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、別紙物件目録記載の建物の管理組合の理事長(管理者)である原告が、他の区分所有者からの授権を受け、同建物の区分所有権を有する被告に対し、被告がペットの管理を適切に行わない、共有部分に私物を放置する、管理費等を滞納する、定期的な検査等に非協力的であるなどと主張して、区分所有法59条1項に基づき被告の区分所有権及び敷地利用権の競売の請求をするとともに、被告が区分所有権を有する部分の使用禁止及び共用部分である玄関ドアの補修作業を妨害しないことを求め、加えて、被告の上記行為が他の区分所有者に対する不法行為に当たるとして、共用部分の補修費用や慰謝料等の損害の賠償を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 原告は、被告が所有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。
2 被告は、別紙物件目録記載の建物内における被告専有部分を、判決の日の翌日から前項の競売による引渡し時まで使用してはならない。
3 被告は、別紙物件目録記載の建物内の701号室玄関扉について、別紙「御見積書」記載の補修作業を妨げてはならない。
4 被告は、原告に対し、227万5900円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 被告は、本件居室に入居当初から、猫を飼育していたところ、現在に至るまで、本件申請書を提出していない。また、本件訴訟提起後の被告の主張を前提としても、口頭弁論終結時に飼育している猫の数が6匹、それ以前に少なくとも合計10匹を減らしたというのであり、一度に最低でも16匹の猫を飼育していたか、本件訴訟後に繁殖させた。
また、本件物件の他の住民から、被告の飼育している猫による臭気、体毛による苦情が複数出ていた。さらに、大量のはえが発生し、これら住民が殺虫剤等ではえを処分する対策をとるも、抜本的には改善されなかった。
本件居室内の飼育環境として、キッチンや床、扉がひどく汚損し、腐食している部分が見られ、また、玄関ドアの下部が腐食している。
平成28年4月6日及び同月12日、臭気判定士により、本件居室前の臭気検査が行われたところ、いずれも、猫糞尿臭気を感知し、同月6日の検査で臭気強度4(強いにおい)、同月12日の検査で本件居室前廊下から1歩階段を下りた地点での臭気強度5(嗅いでいられないほどの強いにおい)という結果であり、臭気判定士は、この臭気が本件居室内の糞尿による臭気が玄関ドアの腐食した部分から室外漏出したことによるものであること、加えて、玄関ドア枠外側付近にも猫の尿が付着していることを指摘している(被告は、上記検査の信用性を否定するが、同検査は、臭気強度表示法(悪臭防止法4条2項)により行われており、環境省においても、当該方法は、規制基準を定めるための基本的考え方として用いられていると指摘されており、臭気判定士により行われた検査であることを踏まえ、信用できるというべきである。)。
2 これらの状況を併せると、現在においても、本件物件の被告以外の区分所有者の共同生活上の障害が著しいといわざるを得ない。
また、このような状況が、およそ10年にわたり続いてきたのであり、その間、本件管理組合としても、改善を求める書面を被告に送付したり、被告に総会への出席を求めたりしながら、何らかの解決の道を探っていたということができ、それでもなお、現状のとおり、解決が見られないというのであるから、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるというべきである。
そうすると、原告は、区分所有法57条1項に基づき、本件居室について、競売の請求ができるというべきである。
3 原告は、本件の被告による不法行為による精神的苦痛は甚大であるとして、そのことによる慰謝料が発生する旨主張する。確かに、本件では、約10年間、原告を含む区分所有者は、本件の問題に悩まされ続けてきたものであり、上記玄関ドアの修理代だけで、その損害を慰謝できるという状況でないことは理解できる。
一方で、上記のとおり、本件居室自体は、競売請求が認められ、今後はそのような問題が生じない可能性が高く、それにより、精神的苦痛の一定の部分は解消されるということもできる。
その他、本件に顕れた一切の事情に鑑み、原告を含む区分所有者1戸当たりの慰謝料額を10万円とみて、本件で原告が請求できる慰謝料額は、140万円とするのが相当である。
そして、上記不法行為と相当因果関係のある損害としては、上記損害額の合計(206万9000円)の1割(20万6900円)をもって相当とする(これを超える部分は、相当因果関係がなく、原告の主張は採用できない。)。
なお、原告は、被告の不法行為の結果必要となった臭気鑑定費用9万8280円も本件の損害であると主張するが、被告の不法行為との間に条件関係はあるといえるものの、上記認定の弁護士費用を超えて、更に本件訴訟の主張立証活動のために要した費用までを相当因果関係があるということはできず、原告の主張は採用できない。
59条競売の大変さがよくわかります。
臭気鑑定は、騒音問題同様、専門家に測定してもらう必要がありますので注意が必要です。
本裁判例は、弁護士費用、慰謝料、臭気鑑定費用について、かなり厳しい判断をしています。
裁判体が異なれば、結論が異なる可能性は否定できません。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。