おはようございます。
今日は、住民説明会及びアンケートによる区分所有者である原告に対する名誉毀損が否定された事案(東京地判平成30年3月12日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、区分所有建物であるマンション「a」の区分所有者である原告が、その管理組合である被告に対し、管理組合総会決議の無効確認と、これらの無効な決議がなされた総会の開催により原告は精神的損害を被り、また、その後になされた被告による住民説明会及びアンケートにより原告の名誉が毀損されたなどとして、不法行為に基づき、慰謝料合計220万円(無効な決議がなされた総会の開催による慰謝料100万円、名誉毀損等による慰謝料100万円及びこれらの弁護士費用20万円)並びに、無効な決議による慰謝料100万円につき不法行為の日又はその後である平成28年6月26日から、及び、名誉毀損等による慰謝料と弁護士費用の合計120万円につき不法行為の後である平成29年6月9日から、それぞれ支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払、さらに、名誉毀損について民法723条に基づき謝罪文による謝罪を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 不法行為の被侵害利益としての名誉とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことであり、名誉毀損とは、この客観的な社会的評価を低下させる行為のことにほかならず、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、名誉毀損による不法行為が成立し得る(最高裁昭和61年6月11日判決、最高裁平成9年5月27日判決)。
そして、ある表現行為の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうか、及び、当該表現行為が、事実を摘示するものであるか、あるいは意見ないし論評の表明であるかの区別に当たっては、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(最高裁昭和31年7月20日判決、最高裁平成9年9月9日判決)。
2 「甲山X氏の訴訟等に関するアンケート」と題する書面の記載内容は、本件マンションの一般居住者からすれば、これまでの経過及び本件アンケート実施に至る経緯の説明にすぎず、同書面のみをもって、原告の社会的評価が低下するとは到底いえない。
「〈甲山X氏が提起した訴訟等一覧〉」と題する書面の記載内容については、控訴・上告事件について項を分けて記載してあるものの、「上記…の判決を不服として東京高裁に控訴した」、「上記…の判決を不服として最高裁に上告した」と記載してあることが認められる。
本件マンションの一般居住者が、原告が7件もの裁判を起こしたと理解するとはいえない。そのほか、同証拠によっても、同書面のみをもって、原告の社会的評価が低下するとはいえない。
本件アンケートの回答用紙については、原告の訴訟活動等に賛同する選択肢も設けられ、自由記載欄も設けられていることからすれば、本件マンションの一般居住者が原告の一連の訴訟活動等を不当なものであると認識するとはいえず、同書面のみをもって、直ちに原告の社会的評価が低下するとはいえない。
また、上記各書面を全体としてみても、本件マンションの一般居住者が、原告の一連の訴訟活動等が不当なものであると認識するとはいえず、これらをもって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
本件理事会ニュースにおける本件アンケート結果に関する記載内容は、本件アンケート結果を開示することとなった経緯及び本件アンケートを質問項目ごとに集計した数字であって、本件マンションの一般居住者が、その記載以上に、原告の一連の訴訟活動等が不当なものであると認識するとはいえず、これをもって原告の社会的評価が低下するとはいえない。
なお,原告は,被告を相手方とする提訴は正当な権利行使であると主張しているところ、原告の正当な権利行使について記載された上記各書面を本件マンションの居住者に配布することが、なぜ原告の社会的評価を低下させることになるのか、説得的な説明をしない。
その他、本件アンケートの実施及び本件アンケート結果の配布が、法律上保護されるべき原告の名誉感情や人格権を侵害したと認めるに足りる証拠はない。
総会や説明会等における発言や書面の配布等が名誉毀損にあたるとして訴訟に発展することは決して珍しくありません。
だからといって、区分所有者に対して説明をしないわけにもいかないのが難しいところです。
避けがたいリスクとして受け入れ、手続きを進めるほかないと思います。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。