おはようございます。
今日は、地下駐車場のシャッターの故障を理由とする損害賠償請求における警備費用として認められる範囲(東京地判平成31年1月25日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
1 本件は、
(1) マンションの管理組合である原告が、被告の従業員は、トラックを運転して、同マンションの地下駐車場の出庫口を通過しようとした際、同出庫口に設置されたシャッターが完全に上がり切らずに停止していたのを看過し、同トラックの上部を同シャッターに衝突させ、これを破損させたと主張して、被告に対し、民法715条1項に基づく損害賠償として、939万7080円(①シャッター修理費用507万6000円、②警備費用346万6800円、③弁護士費用85万4280円)+遅延損害金の支払を求めた(本訴事件)のに対し、
(2) 被告が、原告が管理していた同シャッターには、同トラックの通過中に落下し、あるいは本来の位置まで上がり切らなかったという瑕疵があり、これにより同トラックを破損させたと主張して、原告に対し、同法717条1項本文に基づく損害賠償として、10万3974円(①トラック修理費用9万4522円、②弁護士費用9452円)+遅延損害金の支払を求めた(反訴事件)
事案である。
【裁判所の判断】
1 被告は、原告に対し、46万1538円+遅延損害金を支払え。
2 原告は、被告に対し、7万2781円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 原告は、本件事故により、本件シャッターを閉鎖できなくなり、平成28年11月29日から平成29年3月15日までの間、毎日午後11時から午前8時までの時間帯に、警備員1名を本件シャッター下付近での立哨警備に、警備員1名を本件出庫ゲート付近の管理室内での警備に、それぞれ従事させ、その費用として346万6800円(1万5000円×2名×107日×1.08)を支出したことが認められる。
しかし、本件マンションが所在する地域の犯罪発生率は低く、本件マンションの管理事務所には24時間体制で警備員2名が勤務しているのであるから、本件出庫口から不審者が侵入する危険性が高いとはいえない。
また、原告が配置した警備員は、基本的に、午後11時から午前8時までの時間帯に、本件出庫口から不審者が侵入しないかを監視するのが主たる業務であり、通常の交通関係の監視等に従事する警備員等と比較しても精神的緊張は少なく、「断続的労働に従事する者」(労働基準法41条3号)に当たるともいえ、原告が、「行政官庁の許可」を受けていれば、同法34条1項により警備員に休憩を与える必要がなかった可能性は否定できない。また、警備員に休憩時間が必要であるとしても、原告としては、交代制で警備員を配置するなどして、休憩が必要となる6時間を超えないように勤務時間を設定することもできなかったとはいえない。
そして、原告が配置した警備員が、不審者を発見するなどの不測の事態に遭遇した場合には、直ちに本件マンションの管理事務所や警察に連絡し、常駐の警備員2名や警察官と協同して事態に対処することもできたといえる。それゆえ、原告が、本件出庫口からの不審者の侵入に備えるために、警備員2名を配置する必要があったとまではいえない。
したがって、本件事故と相当因果関係のある警備費用は、被告が主張するとおり、警備員1名分の費用にとどまると認めるのが相当である。
2 原告は、本件事故前である平成28年10月19日に、LIXILから本件シャッターの交換工事に係る見積書を受領しており、板金製作物や購入部品等の拾い出しも完了し、LIXILに発注書を提出すれば、直ちに工事に着手することが可能な状況にあったといえる。
しかし、原告は、本件事故が発生した同年11月26日の後も、被告側保険会社と交渉をしていたこと等を理由に、平成29年1月29日になって初めて、理事会の承認を得て、本件シャッターの修理を正式に発注し、工事の完了が同年3月15日になっているところ、遅くとも平成28年12月14日には、同保険会社からの回答により任意賠償の可能性が低いことを認識し得たはずであり、損害拡大防止義務に照らしても、同年11月29日から平成29年3月15日までの全期間の費用を請求することはできないというべきである。
他方で、LIXILの報告書によれば、本件シャッターの修理期間は、長くとも①設計作図期間8日間、②工場手配納期3日間、③工場資材調達期間10日間、④板金加工・組み立て製作期間30日間、⑤出荷配車準備期間4日間、⑥施工者手配・現場調整期間7日間、⑦工事施工期間4日間の合計66日間(発注書受領後の工程は③以降の合計55日間)であり、実際にはLIXILが発注書を受領した同年1月29日から同年3月15日までの46日間で工事は完了している。
以上の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある警備費用は、被告が主張するとおり、せいぜい原告が警備員を配置した平成28年11月29日から55日間分の費用にとどまるというべきである。
損害賠償請求訴訟における損害の評価、相当因果関係の考え方というのは、非常に独特な感じがするかもしません。
仮に原告が実際に警備費用を支払っているとすれば、大赤字になってしまいます。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。