おはようございます。
今日は、管理費の増額に関する規約の変更が区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないとされた事案(東京地判平成31年3月22日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、原告が、被告に対し、被告が本件マンションの管理規約に基づく管理費及び修繕積立金を支払わないと主張して、上記管理規約に基づき、未払の管理費及び修繕積立金の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記管理規約に基づき、違約金としての弁護士費用等の支払+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 被告は、原告に対し、29万2080円+遅延損害金を支払え。
2 被告は、原告に対し、48万4560円+遅延損害金を支払え。
3 被告は、原告に対し、75万7000円+遅延損害金を支払え。
4 被告は、原告に対し、48万6000円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 本件においては、本件決議に基づく本件改定管理費等への変更について区分所有法31条1項後段おける被告の承諾がなければ被告に対して効力が認められないといえるかが問題となっている。
そして、同条項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、この「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決)。
これを管理費等の増額についていえば、管理費等の増額は一般的に区分所有権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された管理費等が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、区分所有者は管理費等の増額を受忍すべきであり、管理費等の増額に関する規約の設定、変更等は区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
2 亡Bは、本件各建物を自らの有していた建物所有権及び借地権との等価交換により取得した、すなわち、当該建物所有権及び借地権を譲渡する対価として、本件各建物及びその敷地の共有持分を取得したことが認められる。そして、亡Bの有していた借地権の価格自体は不明であるものの、本件マンションの所在する場所からすれば、等価交換当時においても借地権価格は相当の高額であったものと推測され、本件マンションの建設に当たり亡Bのような当初の地権者の協力が必要であったことは否定できない。
しかし、一方で、亡Bは、本件マンションの敷地に対して有していた借地権を消滅させる代わりに本件各建物の区分所有権を取得しているところ、本件各建物の面積は、合計で165m2(約50坪)を超えるものであり、かつ、その敷地の共有持分を取得していることに照らせば、その時点で既に相応の利益を享受しているものといえる。
しかも、亡B及び被告は、本件マンションが完成し、管理費等を支払い始めた昭和54年1月以降、本件決議がされる平成26年6月まで、25年以上にわたり、他の区分所有者と比べ、割合は時期によって異なるものの、低額に抑えられた管理費等を支払うことで足りる状況であったものである。
また、平成20年6月28日における第29期定期総会における決議により、本件規約が制定され、本件規約においては、管理費等の額について各区分所有者の所有する専有部分の床面積の割合に応じて算出する旨規定されていることが認められ、本件規約の制定手続について、上記総会が適法に成立し、本件規約の制定についても区分所有者総数及び既決権総数の4分の3を超えた賛成多数により可決されたことが認められ、その手続に瑕疵がないことが認められる。
そうすると、管理規約上は、区分所有建物の用途を問わず、専有部分の床面積の割合に応じて管理費等を算出することが明示されたといえる。
そして、本件決議に基づく本件改定管理費等が、本件規約を超えて、被告にのみ専有部分の床面積の割合を超える管理費等を負担させるといったことは証拠上認められない。
一方、本件決議によって被告が受ける不利益をみるに、本件規約に基づく管理費等となることで、従前の管理費等より高額とはなるものの、他の区分所有者よりも割合として管理費等の額が高額となるものではない。
また、本件各建物には平成27年9月中旬から平成28年3月下旬までの間に実施された本件マンションの大規模修繕の後には共用設備としての郵便受けがないこと、給水設備は被告所有のシステムを設置していること、防火設備が一部設置されていないこと、インターフォンが接続されていないこと、本件各建物に通じる階段下の各縁石が修繕されていなかったことが認められるが、区分所有者によって、現に利用する共用部分が異なることは被告に限った事情ではない。
これらの事情に照らせば、本件決議に基づき本件改定管理費等に管理費等を増額することは、必要性及び合理性があるということができ、かつ、他の区分所有者と同様に、専有部分の床面積の割合に応じて管理費等を定めることとする以上、その額も社会通念上相当であると認められる。
本件においても、増額した未払管理費の請求に加えて、違約金としての弁護士費用の請求がそのまま認容されています。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。