おはようございます。
今日は、マンションに隣接して老人ホームを建築したことによる騒音・振動の被害や日照・眺望の阻害等を理由とする妨害排除請求等が棄却された事案(東京地判令和元年9月17日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件マンションに居住する原告らが、本件マンション敷地に隣接するホーム敷地に有料老人ホームを建築した被告T社及び本件ホームの設計及び建築工事を請け負った被告K社に対し、被告らによる本件ホームの建築により、受忍限度を超えて、日照及び眺望の阻害、プライバシーの侵害、子どもの安全に対する危険並びに居宅の財産的価値の下落等の損害を被り、また、本件工事により、騒音・振動の被害及び本件マンションの壁の一部にひび割れの被害を被った旨主張して、人格権(日照権)に基づく妨害排除請求として本件ホームの4階部分の撤去等を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して、慰謝料、資産的価値の下落による損害金、本件工事によって生じた壁のひび割れの修繕費用及び弁護士費用の各合計金+遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、原告らは、当初、本件ホームの建築禁止を求めていたが、本件訴訟係属中の平成29年5月23日に本件ホームが完成したため、その訴えを4階部分の撤去等に変更した。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 環境省の通達(騒音振動規制法の施行について)は、測定場所について「測定しやすく、かつ、測定地点を代表すると認められる場所とすること。この場合、法が生活環境の保全を目的としていることから、原則として住居に面する部分において行うものとすること」と規定しているところ、これは測定しやすさや代表的地点と認められる場所を測定場所とするに際し、生活環境の保全の目的から、原則として住居に面する部分において行うとするもので、必ずしも測定場所を隣接する敷地との境界線上にしなければならないとするものとはいえない。
そして、本件集音マイクがホーム敷地とマンション敷地の境界線の北端から東に約2.5メートル離れているに過ぎないこと、本件集音マイク及び本件振動測定器の測定結果は、北側道路面に電光掲示板によって騒音及び振動の数値が表示されるように設置されていること及び北側道路を挟んだ向かい側は駐車場であるがその向こうには他の住居があることが認められ、測定値を表示して近隣者に示すためには道路面が適切であること及び本件マンション以外にもホーム敷地の周辺には住居があることなどからすれば、本件集音マイクの設置場所が上記通達に反して不適切なもので、被告らが意図的に騒音値を低くするために設置場所を操作したとまでいうことはできない。
なお、原告ら各居室は、いずれも本件マンションの東側かつ北側道路側にあり、本件集音マイク及び本件振動測定器の設置場所に近接した位置にあるから、測定値は実際に原告らの受ける騒音に比較的近いということができる。
また、原告らは、境界線上に集音マイクを設置したと仮定して、各くい打ち地点と本件集音マイクの設置場所との距離とくい打ち地点に最も近い境界線上の距離との距離差を基に騒音減衰状況を計算するけれども、前提として測定時の騒音源が特定されておらず、くい打ち地点すべてが測定時の騒音源であるということはできない上、その計算方法も十分に検証されたものであるとはいえない。
したがって、これをもって、原告ら主張の騒音があったと認めるには足りない。
2 結局、平成28年6月6日から平成29年4月29日までの間、本件集音マイクの設置場所における音量が80デシベルを超える1時間の時間帯は、5回であり、その測定された数値は最大でも82.9デシベルであり、東京都の規制基準の基準値である80デシベルを、基準値全体の4パーセント弱上回るにすぎないことからすれば、本件工事の騒音が受忍限度を超えるものであると認めることはできない。
騒音問題に関する訴訟の難しさを感じますね。
騒音の存在及び原因の特定が求められますが、費用をかけて専門家による調査が必須であるように思います。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。