おはようございます。
今日は、マンションの建築工事を受注した建設会社の執行役員らの管理組合に対する住民集会の様子を撮影した動画の削除請求が棄却された事案(東京地判令和元年12月19日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
原告らは、マンション管理組合である被告の構成員らが居住するマンションの建築工事を受注した建設会社の執行役員等であるが、被告は、当該工事に関する謝罪等を行うために開催された住民集会における原告らの様子を動画撮影し、その一部をインターネット上の動画投稿サイトに投稿して公開したほか、撮影した動画データをマンションの住民が閲覧可能なクラウドサービスに保存した。
本件は、原告らが、被告に対し、上記動画の撮影及びインターネット上での公開は原告らの肖像権を侵害し、不法行為に当たるとして、慰謝料として各100万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、肖像権に基づく差止請求として、投稿動画のインターネット上からの削除、撮影動画のクラウドサービス上からの削除及びこれらのデータの廃棄を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(平成17年最高裁判例)。
また、人は、自己の容ぼう等を撮影された動画をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり(同判例参照)、人の容ぼう等が撮影された動画をその承諾なく公表することが不法行為法上違法となるかどうかについても、上記同様に総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決するのが相当である。
2 本件集会は、本件マンションの集会室において、b社及びc社が本件マンションの雨水排水設備やくい施工の問題に関して住民に謝罪し、説明を行うために開催されたものである。原告らは、そのような集会に、b社の代表取締役に代わり、同社を代表する立場として参加し、その立場において、本件マンションの住民らに対して、上記各問題に関する謝罪や説明を行っている。
被告は、その際の様子を、集会に参加できない他の住民が後日に集会の状況を確認できるようにし、また、原告らの発言の内容を正確に記録するために、原告らの目の前で、その冒頭から集会の様子を撮影したものである。
以上のような本件集会の内容、目的や開催場所、原告らがこれに参加した経緯及び立場、撮影の態様及びその目的、必要性に照らすと、本件動画には原告らが立ったまま謝罪し、住民らから糾弾される様子が映っている部分が存在しているとはいえ、撮影が原告らの承諾なく行われたか否かにかかわらず、これにより原告らの人格的利益が社会生活上の受忍限度を超えて侵害されたと評価すべきものであるとは認め難い。
3 また、本件投稿動画は、本件集会において、原告らが、b社を代表する立場として、くい施工に関する調査をする意向を示したにもかかわらず、後日になってこれを翻し、一向に調査を実施しないb社の法人としての姿勢を社会的に非難するために投稿されたものである。くい施工の調査は本件マンションの建物自体の安全性に関わる重大な事柄であることなどからすると、このような投稿目的には正当性が認められるというべきであるし、本件投稿動画は、前記の場面を中心に編集がされた長さ約3分30秒程度のものであり、当該目的を達するために必要な限度での公表にとどまるということができる。
適宜テロップを付したり、b社がくい施工の調査を拒否したことが記載された書面を示す映像を差し込むなどして、上記の投稿目的や動画の趣旨が明確となるような編集も施されている。
これらの事情や、上記に検討したところを併せ考慮すると、本件投稿動画の投稿による動画の公表についても、原告らの人格的利益の侵害の程度は社会生活上の受忍限度を超えているということはできない。
4 本件動画のデータをクラウド上に保存することは、本件マンションの住民がいつでも閲覧できる状態にするものに過ぎず、以上に照らし、これが違法性を帯びることはない。
まずは、肖像権侵害に関する最高裁判決の規範を理解しておきましょう(上記判例のポイント1参照)。
その上で、本件におけるあてはめ部分を読むことによって、裁判所の判断方法を把握すると、実務で役に立つと思います。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。