管理会社等との紛争15 管理組合法人の代表者が総会決議を経ずに不動産売買契約を締結した行為につき、表見代理は成立せず無権代理により無効とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人の代表者が総会決議を経ずに不動産売買契約を締結した行為につき、表見代理は成立せず無権代理により無効とされた事案(東京地判令和2年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が被告(管理組合)に対し、売買契約について理由なく残代金支払期限を徒過したとして、違約金(1996万円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 被告は、本件マンション管理組合法人であり、その目的及び業務は、本件マンション並びにその敷地及び附属施設の管理とされており、不動産の購入は被告の業務に入っているとは解し難い。
したがって、被告代表者が業務を統括する権限を有しているといっても、本件駐車場の売買契約の締結は、被告の業務の範囲外であることは明らかであるから、被告代表者が本件契約を締結するには個別に理事会や総会の決議による授権が必要である。
また、被告の現在の管理費の積立金は9000万円余りであるところ、本件契約は、9980万円もの極めて高額な売買契約であるから、被告の業務に関する「重要事項」として、総会決議事項であると解される(本件規約52条16号)。
本件についてみるに、被告の理事会や総会において本件契約の締結について承認決議がなされたと認めるに足りる証拠はなく、被告代表者は、理事会や総会の決議を経ずに、本件契約を締結していることからすれば、本件契約は、権限を有しない被告代表者により締結されたものとして、無権代理により本件契約は無効である。

2 この点、原告は、本件契約締結の際、被告代表者が、被告の理事会の承認を得ているかどうか確認されたのに対し、絶対に大丈夫ですと回答し、理事会の承認を得ていると回答していたと主張し、原告従業員のDもその旨述べる。
しかしながら、被告代表者は、本件契約締結の際、応対したのは原告代表者であって、Dはその場にいたものの、特にやり取りはしていなかったと述べる。
また,被告代表者は,原告代表者との間で,被告の理事会や総会の承認があるかの確認をされたこともないと述べている。
 また、原告は、被告の法人理事を務めており、本件契約の締結について理事会や総会が開催されていないことも知り得る立場にあった。したがって、仮に被告代表者から、本件契約の締結について、理事会や総会の決議があると言われても、かかる決議の存否については容易に知り得る立場にあったといえる。
特に決議の有無については、議事録の提出を求めるなどして調査することも容易であったといえる。
この点、原告は、被告と対立していたため、被告の理事会や総会への出席を控えていたとも主張する。しかし、理事会決議、総会決議の有無は、理事会、総会への出席の有無とは関係なく、議事録の有無などを調べれば容易に判明することである。特に原告は、宅地建物取引業者であるから、本件契約の締結にあたっては高度の注意義務が課されているといえ、本件契約の締結にあたり、被告の理事会決議や総会決議の有無について、被告の理事長の発言を漫然と信じたということであれば、過失があるといわざるを得ない。
したがって、被告代表者が本件契約を締結するについて権限があると信ずべき正当な理由が原告にあったとは認められず、表見代理は成立しない

管理組合法人の代表者による無権代理行為について表見代理の成立が否定された事案です。

裁判所が、いかなる事情に着目して「被告代表者が本件契約を締結するについて権限があると信ずべき正当な理由」の有無を認定しているかを押さえておくといいでしょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。