管理組合運営21 管理組合が区分所有者において区分所有建物を賃貸するに際し、管理規約に基づき求めた承諾を拒絶したことが不法行為に当たるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が区分所有者において区分所有建物を賃貸するに際し、管理規約に基づき求めた承諾を拒絶したことが不法行為に当たるとされた事案(東京地判平成4年3月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

原告は、自己が所有するマンションの専有部分についてのコンピュータソフト開発会社との間で賃貸借契約を締結したところ、被告が正当な理由がないのに右契約を承認しなかつたために合意解約せざるを得なくなつたと主張して、被告に対し、不法行為を理由として損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、金513万3870円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 新規約12条1項は、区分所有者が住居部分を事務所に使用する場合には被告の承認を受けなければならない旨規定しているが、被告が右の承認を与えるか否かは、住居部分を事務所に使用しようとする区分所有者に重大な影響を及ぼすのであるから、その判断に当たつては、事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきである。

2 これを本件についてみると、たしかに、事務所としての使用を無制限に放任した場合は、床の荷重の問題のほか、消防設備あるいは電話設備等の改修工事の要否等、波及する影響は大きく、費用負担の軽減及び居住環境の悪化防止等の観点からも、その制限には一般論として合理性を是認できないわけではない。
しかし、本件においては、マンション分譲時に成立した旧規約の26条に専有部分のうち住居部分は住居又は事務所以外の用に供してはならない旨の定めがあり、本件専有部分の属する3階以上の建物部分についても事務所としての使用が許容されていたと認められるのであるから、区分所有者にとつてその同意なくして専有部分を事務所として使用することが禁止されることは所有権に対する重大な制約となることはいうまでもないところである。
特に、原告は、今回の規約改正の10年以上前から本件専有部分を賃借して事務所としての使用を開始し、2年余り前にはこれを購入し、右規約改正の1か月以上前から事務所用の物件として賃借人を募集し、新規約発効時には賃借人が本件専有部分を現実に事務所として使用していたのであるから、その既得権を奪われることによる原告の不利益は極めて大きいといわざるを得ない。
しかも、賃借人であるAは、コンピューターソフトの開発を業とする会社で、従業員が2、3名という小規模な会社にすぎず、その入居を認めることにより床の荷重の問題が生じたり、あるいは消防設備等を設置することが不可欠となるかは疑問の余地がないではなく、また、本件専有部分を事務所として使用することにより直ちに著しく居住環境が悪化するとも思えないのであつて、事務所としての使用を認めることによる被害が重大なものとはいいがたい
右の双方の利害状況を比較考量すれば、本件の承認拒絶により原告が受ける不利益は専有部分の所有権者である原告にとつて受忍限度を越えるものと認められるから、被告は、本件賃貸借契約を承認する義務を負つていたものと解するのが相当である。
したがつて、被告は、本件賃貸借契約の承認を拒絶することにより、原告の所有権を違法に侵害したものと認められる

上記判例のポイント1の規範はしっかりと理解しておきましょう。

管理組合の承諾が必要とされているからといって、合理的な理由なく承諾を拒絶すると本件のように損害賠償請求をされますので注意が必要です。

もっとも、比較衡量による判断が求められるため、判断は決して容易ではありません。

事前に必ず弁護士に相談することをおすすめいたします。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。