おはようございます。
今日は、用途複合型区分所有建物における店舗部分の区分所有者で組織された店舗部会が専有部分における心療内科クリニックの営業開始を承認せず,区分所有者による専有部分の賃貸を妨げたことが同店舗部会の同区分所有者に対する不法行為に当たるとされた事案(東京地判平成21年9月15日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
原告は、区分所有法2条2項所定の区分所有者である。
被告管理組合は、原告が区分所有権を有する区分所有建物の管理組合であり、被告店舗部会は、被告管理組合の下に、当該区分所有建物のうち店舗等に使用される専有部分(店舗部分)の区分所有者全員で構成される団体である。
原告は、自らが区分所有する専有部分(店舗部分)を心療内科クリニックとして使用させる目的で賃貸することを予定していた。そして、管理組合規約と店舗使用規則(店舗部分の使用及び管理等に関する事項を定める規則)において、店舗部分で営業を開始する場合には、被告店舗部会の部会長による承認を得なければならないと定められていたため、原告から当該専有部分を賃借する予定であった者が被告店舗部会に対し営業開始の承認を求めたところ、被告店舗部会がこれを不承認とした。
そこで、原告は、被告らとの間で、その不承認処分が無効であることの確認を求めるとともに、被告らに対し、不法行為に基づき、営業開始が不承認とされなければ得られたであろう賃料等に相当する確定損害金165万円+平成19年12月2日から本判決確定の日まで1か月33万2000円の割合による損害金の連帯支払を求め、さらに、区分所有権に基づき、原告が上記専有部分を心療内科等のクリニックとして賃貸することを妨害することの禁止を求めている。
【裁判所の判断】
被告店舗部会が平成19年8月3日付けでCに対してした営業開始承認願を承認できない旨の処分の無効確認を求める訴えを却下する。
被告店舗部会は,原告に対し,398万4000円を支払え。
原告のその余の請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 裁判所が被告店舗部会が営業者による営業開始を承認するかどうかの判断は、被告店舗部会の合理的裁量にゆだねられるべきものである。
もっとも、被告店舗部会が営業開始を承認せず、その営業のために店舗部分を使用することを禁止すると、区分所有者等の権利が制約されることになるので、その適否について司法審査が一切及ばないと解するのは妥当でなく、例外的に被告店舗部会の上記判断が違法となる場合があると解すべきである。
そして、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、被告店舗部会と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、被告店舗部会の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最判昭和29年7月30日、同昭和49年7月19日、同昭和52年12月20日、同平成8年3月8日各参照)。
2 被告店舗部会が本件理由に基づいて本件承認願を承認しなかったことが不法行為として違法かどうかを見ると、心療内科、精神科や神経科に通院する患者が周囲の者に対し不安感を与えたり又は迷惑を掛けたりするような行動を取るとの事実を認めるに足りる証拠はないし、被告店舗部会がこのような事実の裏付けとなり得る資料に基づいて承認しないとの判断をしたことを認めるに足りる的確な証拠もない。
被告らは、被告店舗部会の理事の親戚が精神病に罹患し、ショッピングモールで事件を起こしたことがある旨を主張し、これに沿うD証人の証言がある。
しかし、仮に、この事実が認められるとしても、飽くまでも個別具体的な事例にとどまるのであって、これだけでは、一般的に、心療内科、精神科や神経科に通院する患者がこのような行動を取る危険があることを裏付けるには足りないといわなければならない。
そうすると、被告店舗部会は資料又は事実による裏付けを欠く本件理由に依拠して、本件承認願を承認しなかったと認められるので、被告店舗部会は、その裁量権を逸脱し、又は濫用して、本件承認願を承認せず、原告の区分所有権を制約したものといわざるを得ず、このような行為には不法行為としての違法性が認められるというべきである。
3 Cは、平成19年12月ころには、本件専有部分を賃借することを断念する旨を原告に告げていたことが認められる。
当該事実からすると、同月ころには、原告がCに本件専有部分を賃貸する可能性はなくなったといわざるを得ない。このような場合、原告が、ほかの賃借人を探すなどして、損害を回避又は減少させる措置を執ることなく、上記の損害すべての賠償を被告店舗部会に請求することは、条理上認められないといわなければならない(最判平成21年1月19日参照)。
そして、借地借家法26条1項と27条1項が更新拒絶の意思表示又は解約の意思表示がされた時から建物の賃貸借契約の終了まで少なくとも6か月間を要する旨を定めていることを勘案すると、原告は、通常,6か月の間に、本件専有部分について新たな賃借人を見つけることによって、上記措置を執ることができたというべきである。そうすると、Cが本件専有部分を賃借することを断念した時から6か月が経過した後の平成20年7月以降の期間の賃料に相当する損害については、その賠償を請求することはできないといわなければならない。
店舗部会の判断が違法であることについてはほぼ争いのないところだと思います。
むしろ、このような事案における損害額の算定方法(上記判例のポイント3)が参考になりますのでしっかり理解しておきましょう。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。