おはようございます。
今日は、建築前のマンション売買交渉において、売主が居室からの眺望についてした説明が建築完成後の状況と異なるときは、買主は契約を解除して損害賠償を請求することができるとした事案(大阪高判平成11年9月17日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、被告販売業者が販売する分譲マンションにつき、被告販売代理人から説明を受けて同マンション完成前にその一居室を購入した原告が、パンフレットでは高い静粛性を売りにしているのに隣接ビルの騒音は極めて大きく、騒音について告知もしなかったとして、被告販売業者に対し、マンション売買契約を解除し、手付金の返還を求めるとともに、被告販売代理人に対し、交渉当初から眺望を重視する旨伝えたにもかかわらず、隣接ビルにより眺望を遮られることなどの説明をしなかったとして、契約解除によって生じた損害の賠償を求めた事案
なお、原審は、原告の請求を棄却した。
【裁判所の判断】
原判決を次のとおり変更する。
→被控訴人Z社は、控訴人に対し、558万4503円+遅延損害金を支払え。
→被控訴人Y社は、控訴人に対し、558万4503円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 未だ完成前のマンションの販売においては、購入希望者は現物を見ることができないから、売主は購入希望者に対し、その売買予定物の状況について、その実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務があるというべきである。
そして、売主が説明したところが、その後に完成したマンションの状況と一致せず、かつそのような状況があったとすれば、買主において契約を締結しなかったと認められる場合には、買主はマンションの売買契約を解除することもでき、この場合には売主において、買主が契約が有効であると信頼したことによる損害の賠償をすべき義務があると解すべきである。
2 これを本件についてみるに、被控訴人ら作成のパンフレット等では、本件マンションの本件居室からは二条城の眺望・景観が広がると説明し、本件居室の西側には窓があるとされており、二条城は、本件マンションの西側に存するのであるから、西側窓からも二条城の景観が広がると説明したことになる。また、販売代理人である被控訴人Y社の社員Aは、控訴人の質問に対し、隣接ビルは五階建であって六階にある本件居室の西側窓からは視界が通っていると発言しているのである。
ところが、現実に建築された結果では、本件居室の南側バルコニーからはやや斜めに二条城を望むことができるが、西側窓の正面に隣接ビルのクーリングタワーがあるため、窓に接近しないと二条城の緑がほとんど見えない状態であったのである。この状態は、説明の「二条城の眺望・景観が広がる」状態とは明らかに異なるものである。
3 控訴人は本件居室を購入するに当たり、被控訴人Y社の担当者に対して、視界を遮るものがないかどうかについて、何度も質問しており、被控訴人Y社においても、控訴人が二条城への眺望を重視し、本件居室を購入する動機としていることを認識し得たのであるから、被控訴人Y社は、未完成建物を販売する者として、本件居室のバルコニー、窓等からの視界についてその視界を遮るものがあるか、ないかについて調査、確認して正確な情報を提供すべき義務があったといわざるを得ない。
控訴人としては、当初から隣接ビルの屋上にクーリングタワーが存在し、それが本件居室の洋室4.6畳の西側窓のほぼ正面の位置に見えるとの説明を受けるか、少なくともその可能性について告知説明があれば、その購入をしなかったものと認められる。
もっとも、本件居室は、控訴人の解除後に、同一価格で購入した者があり、そのときには本件マンションは既に完成していたからその購入者は西側窓からの眺望が充分とはいえないことを知って契約したものと推認される。
しかし、マンションの居室の売買においては、眺望は重視される一つの要素であり、それであるからこそ被控訴人らも、パンフレットでそのことを強調したものである。
そのうえ、自ら使用する物の売買契約においては、購入者にとって目的物が購入者の主観的な好み、必要などに応じているかが極めて重要な点である(このことは、衣類売買における衣類の色を考えれば、明らかである。)。本件において、控訴人は、被控訴人らのパンフレット等にも記載されていた二条城の景観を特に好み、重視し、被控訴人Y社の担当者Aに対して、その点の質問をしていたのである。
そうすると、控訴人は本件売買契約を解除でき、被控訴人Z社は既に受領した手付金の返還に応じる義務がある。
原審は、同種裁判例でよく目にする「市街地における住居の眺望は、その性質上、長期的・独占的に享受しうるものとはいい難く、隣接建物により眺望が阻害されることは、特段の事情がない限り受忍せざるを得ない」という理由により請求を棄却しました。
これに対して、控訴審では、上記判例のポイント1のように判断し、真逆の結論となりました。
なお、本件は、上告受理申立てがされましたが、最高裁は、不受理の決定をしました(最判平成12年9月26日)。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。