漏水事故7 漏水事故につき被告の過失が認定されたが原告主張の損害との因果関係が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき被告の過失が認定されたが原告主張の損害との因果関係が否定された事案(東京地判令和2年3月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、建物1階で保育園を運営する原告が、同建物2階で家庭支援センターを運営する被告において、漏水事故が発生する可能性がある施設を適切に管理するという注意義務を怠るとともに、同センター内の設備の保存に瑕疵があったため、同センターにおいて漏水事故を発生させ、階下の同保育園に浸水被害を生じさせたと主張して、民法709条の規定又は717条1項本文の規定に基づき、被告に対し、損害金1億4530万8560円(修繕除菌費用5953万5000円、仮園舎の建築解体費用7236万円、仮園舎との間の引越費用10万円、人件費10万3691円及び弁護士費用1320万9869円の合計額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件漏水事故の原因は、シャワー開閉ボタンの押下によって本件シャワーから出水したことにあると認められ、被告においては、物品がシャワー開閉ボタンを押下して本件シャワーから出水しないよう、同物品の配置に配慮するなどすべき注意義務を怠った過失があると認められる。

2 原告は、客観的には幼児を含めた人の健康被害が生ずる具体的な危険性が認められない状況の下、実際にも、原告使用部分において原告保育園の運営を継続していた平成28年12月までの間に園児に健康被害が多発したなどの事情がなく、本件各工事に先立ち原告使用部分の検査を実施することもしなかったのに、総額1億3000万円超を要する本件各工事の実施を決断しているのである。
このような事情からすると、本件各工事を実施するという原告の判断は、それが原告にとって、乳幼児の健康を対象にした万が一の事態等に備えたものであったとしても、原告独自の判断であるといわざるを得ず、その判断により生じた費用を被告に負担させることが相当であるという意味で本件各工事の必要性があったとは認められない。

3 本件各工事の施工が原告独自の判断と評価せざるを得ないものであり、その判断により生じた費用を被告に負担させることが相当であるという意味で本件各工事の必要性があったと認められないことは、前記で説示したとおりであるから、本件各工事の施工に伴い原告保育園の機能を移すために要した人件費も、本件各工事の工事費用と同様に、本件漏水事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない
また、本件漏水事故の発見日に係る人件費についても、本件漏水事故によって原告の従業員に対する給与支払額が現実に増加し、その支払を余儀なくされ、原告に損失が生じたと認めるに足りる的確な証拠がないから、同人件費が本件漏水事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。

漏水事故につき、被告の過失が認定されてましたが、原告が主張する損害との間の因果関係がいずれも否定されたため、請求棄却となっています。

相当因果関係の有無については、損害が広がり過ぎないように、謙抑的に解釈される傾向にありますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。