名誉毀損5 管理組合が区分所有者がマンション内で営む民泊事業が違法である旨を記載した書面を送付したこと等が名誉毀損にあたらないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合が区分所有者がマンション内で営む民泊事業が違法である旨を記載した書面を送付したこと等が名誉毀損にあたらないとされた事案(東京地判令和3年9月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者であり、同マンションにおいて住宅宿泊事業又は住宅宿泊管理業を営む原告らと、当該事業の禁止を求める本件マンション管理組合(被告管理組合)及びその理事(被告Y2)との紛争であり、①原告らが、被告らに対し、原告らが営む民泊事業が違法である旨を記載した書面を被告らが本件マンションの区分所有者に送付し、また、原告らが悪質な民泊事業者である旨を記載した書面を被告らが観光庁及び新潟県に送付したことについて、不法行為に基づき、連帯して、原告X1においては損害金500万円+遅延損害金の支払を求め、原告会社においては損害金1000万円+遅延損害金の支払を求め、②原告らが、被告らに対し、上記①の不法行為に基づく名誉回復措置として、謝罪広告の掲載を求め、③原告らが、被告管理組合に対し、被告管理組合の令和2年11月21日付けの第30期通常総会における第7号議案「役員選任の件」が偽りで、「理事会が推薦した推薦人リストの任命決議」であることかから、議案そのものが無効であることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、被告管理組合の令和2年11月21日付けの第30期通常総会における第7号議案「役員選任の件」が無効であることの確認を求める部分を却下する。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 ある事実を基礎とした意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったといえ、意見ないし論評の前提としている事実の重要部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠き(最判平成元年12月21日参照)、仮に意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者においてそれを真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意または過失が否定される(最判平成9年9月9日第三小法廷判決)。

2 本件要望書は、観光庁及び新潟県に送付されているところ、他人に伝播する可能性があったと認めるに足りる証拠はないから、被告らが原告らの社会的評価を低下させる事実又は意見を流布したとはいえない。したがって、名誉棄損を理由とする不法行為は成立しない。

3 ①原告らが、本件管理規約や理事会の不許可を認識しながら、本件マンションにおいて民泊事業を行っていること、②原告X1が、理事会メンバーに対し、旅館業法違反を主張したり、警察に被害届を提出したりしたこと、③原告らが、被告らに対し、被告らが原告らの住宅宿泊事業等を妨害したことなどを理由として、損害賠償等を求める訴えを提起したこと、④原告らが被告管理組合への管理費、修繕積立費、水道代などを滞納し、民泊事業を営んでいた本件マンション内の部屋の故障した暖房ボイラーの新規購入費用、取り付け工事の費用を支払わなかったことは真実である。また、⑤妨害行為を働く理事会が悪であるといった風評をYouTube等に投稿したとの事実について検討すると、原告X1が本件マンション内に監視カメラを設置して撮影した動画が、YouTube上に200本以上、掲載されており、そこには理事会を批判する内容が含まれていることが認められる。
この点,原告X1は,上記動画を掲載したのは原告X1ではないと主張するところ、被告らにおいて原告X1が上記動画を撮影していたと認識していたこと、それまでの原告X1の理事会に対する言動等に照らせば、少なくとも、被告らが原告X1において上記動画を掲載したと信じたことについて相当の理由があったというべきである。
以上からすれば、被告らが本件要望書を作成するに当たって、そこで摘示した事実の重要な部分は、真実であるかあるいは真実と信じるについて相当の理由があったこととなる。

管理組合や理事もしくは管理会社の対応が、区分所有者等との関係で名誉毀損に該当するかが争点となることは決して珍しくありません。

名誉毀損該当性を事前に把握することは容易ではありませんが、上記判例のポイント1の規範を理解し、同種の裁判例をフォローすることによりある程度はリスクヘッジができます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。