管理組合運営15 不起訴合意に反する提訴が不当提訴にあたるとされ不法行為に該当すると判断された事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、不起訴合意に反する提訴が不当提訴にあたるとされ不法行為に該当すると判断された事案(東京地判令和2年3月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴は、「本件マンション」の区分所有者である原告が、本件マンションの区分所有者全員で構成される区分所有法3条所定の団体である被告に対し、①平成30年6月17日開催の本件総会における第1号議案及び第2号議案に係る各決議について、決議に至る手続に瑕疵がある、決議内容に不合理な点があるなどと主張して、これらの決議がいずれも無効であることの確認を求めるとともに、②被告の管理規約68条に基づく、本訴における被告の弁護士費用に係る原告の債務が存在しないことの確認を求める事案である。

反訴は、被告が、原告による本訴の提起は当事者間における不起訴合意に反する不当な訴訟提起であると主張して、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本訴に係る弁護士費用(43万2000円)及びその他損害(10万円)の合計53万2000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

原告の各訴えをいずれも却下する。

原告は、被告に対し、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件各決議は、本件不起訴合意にいう「本和解成立までに行われた被告管理組合の運営及び役員の業務執行に関する一切の事項」に該当する。よって、本件各決議の無効確認を内容とする本訴請求(1)に係る訴えは、本件不起訴合意に抵触し、訴えの利益がないから、却下するのが相当である。
これに対し,原告は、本件不起訴合意は、訴権を不当に制限するものであり、無効であると主張する。しかしながら、本件不起訴合意は、「本和解成立までに行われた」と時間的限定を設けており、将来にわたって一切の裁判上の請求ができないとまではしていないこと、また、合意当時にはおよそ知り得なかった事情が後に発覚したような例外的場合にも一切の裁判上の請求を禁ずるものとは解されないことに照らせば、原告の訴権を不当に制約するものであるとはいえないから、原告の上記主張は採用できない。
 
2 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、本件不起訴合意の内容は明確であること、本件各決議が本件不起訴合意にいう「管理組合の運営及び役員の業務執行に関する」事項であることは明白であることからすれば、本訴に係る訴えが本件不起訴合意によって却下となることは通常人であれば容易に知り得たといえる。
したがって、原告は、その主張する法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを通常人であれば容易に知り得たといえる状況においてて、あえて本訴を提起したものといえる
加えて、本件不起訴合意に至る協議の中で本件各決議についても検討を行い、本件各決議があることを念頭に置いた上で本件不起訴合意に至ったのにもかかわらず、本件不起訴合意から間もなくして本訴提起に至っていることをも併せ考慮すれば、本訴の提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法なものと認められ、不法行為を構成するといえる。

「不起訴合意」の有効性は、裁判でよく争点となりますので、上記判例のポイント1でしっかり押さえておきましょう。

有効な不起訴合意に反して提訴した場合には、本件同様、不当提訴と判断され、不法行為責任を負うことになりますので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。