義務違反者に対する措置15 管理者が一部勝訴の場合、勝訴割合に応じて管理規約に基づく弁護士費用の請求ができるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、管理者が一部勝訴の場合、勝訴割合に応じて管理規約に基づく弁護士費用の請求ができるとされた事案(東京地判令和2年3月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、区分所有法所定の管理者として、区分所有者である被告Y1及び同Y2から区分建物を賃借し同所で飲食店を営業する被告会社に対し、①管理規約に基づき、被告会社との別件訴訟で要した弁護士費用等294万3040円、②不法行為に基づき、被告会社が共用部分に無断設置したダクト等の賃料相当損害金232万3687円及び③管理規約に基づき、本件訴訟で要した弁護士費用60万2297円他+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、原告に対し、連帯して36万4500円+遅延損害金を支払え。

被告会社は、原告に対し、106万8495円+遅延損害金を支払え。

被告会社は、原告に対し、14万0535円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件ダクトが設置された本件屋上は、共用部分であるが、本件建物の区分所有者等が冷暖房室外機を無償で設置していた場所である。
そうすると、原告は、被告らに対し、本件屋上に冷暖房室外機を設置することは黙示的に許諾していたといえる。
しかしながら、本件ダクトは、約13.5m2を占める相当程度大きなものであり、通常の冷暖房室外機と同等に扱うことは相当でなく、上記黙示的許諾の範囲に含まれるとは認められない。そして、原告が被告らに対し本件ダクトの無償設置を許諾したと認めるに足りる的確な証拠はないので、被告会社による本件ダクトの設置は正当な権原がなく、不法行為に当たり、被告会社は賃料相当損害金の支払義務を負担するというべきである。

2 本件屋上は、本件建物の屋根の上であって、従前は無償で本件建物に係る冷暖房室外機が設置されていた場所であり、原告において他に賃貸するなどして使用収益することがおよそ考えられない部分である。
もっとも、本件ダクトの大きさを考慮すれば、仮に原告が被告会社に対し本件ダクトの設置の許諾をする場合には、何らかの対価の支払が条件とされたであろうことは推認できるから、他に賃貸することなどが考えられないからといって賃料相当損害金が一切発生しないということは相当ではない
そこで、賃料相当損害金の額を検討するに、原告は、携帯基地局の賃料と同程度の賃料相当損害金が発生すると主張するが、本件屋上は1階部分の屋上であって携帯基地局を設置するような環境とは異なることが明らかであり、直ちに上記程度の賃料相当損害金が発生するとは認められない。
本件においては、同様に第三者に賃貸することが考えにくい部分である1階専有部分に接する庭の使用料(m2当たり年2098円)も参考にしつつ、弁論の全趣旨により、m2当たり年1万2000円(月1000円)の賃料相当損害金が発生したものと認めるのが相当である。

3 本件管理組合の管理者は、規約70条3項、4項に基づき、規約に違反した区分所有者等に対し、違反の是正を求めて訴訟を提起した場合には、これに要した弁護士費用を約定違約金として請求できる
しかしながら、規約70条3項、4項の合理的解釈として、弁護士費用を請求できるのは、管理者が勝訴した場合に限定すべきである
けだし、管理者が不当な訴訟を提起して敗訴した場合についてまで、勝訴した区分所有者等に対して弁護士費用を請求できるとするのは公平の見地に反することが明らかであり、このような場合の弁護士費用は管理者が自ら負担すべきものであるからである。
そうすると、管理者が一部勝訴した場合は、勝訴割合に応じた弁護士費用の支払を求めることができると解する。

区分所有に関する裁判においては、被告に対して弁護士費用の請求をすることが認められるケースがあります。

いかなる場合に、いかなる範囲で弁護士費用の請求が認められるのかについては多数、裁判例があります。

上記判例のポイント3の考え方をしっかりと理解しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。