おはようございます。
今日は、区分所有法所定の先取特権を有する債権者の配当要求により配当要求債権に時効中断効が生ずるためには民事執行法181条1項各号に掲げる文書により上記債権者が上記先取特権を有することが不動産競売手続において証明されれば足りるとされた事案(最判令和2年9月18日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件マンションの団地管理組合法人である上告人が、本件建物部分を担保不動産競売によって取得した被上告人に対し、上記競売前に本件建物部分の共有者であった者(本件被承継人)が滞納していた管理費、修繕積立金、専用倉庫維持費等及びこれらに対する遅延損害金の支払義務は区分所有法66条で準用される区分所有法8条に基づき被上告人に承継されたとして、上記管理費等及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
被上告人が、平成29年法律第44号による改正前の民法169条に基づき、上記管理費等のうち支払期限から5年を経過したものに係る債権は時効消滅した旨主張しているのに対し、上告人は、上記債権の一部について本件被承継人による債務の承認がされた後、本件建物部分の本件被承継人の共有持分についての強制競売の手続において、上記債権のうち本件配当要求債権等について、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有するとして、民事執行法51条1項に基づいて配当要求をし、これにより、本件配当要求債権について消滅時効の中断の効力が生じている旨主張して争っている。
原審(東京高判平成30年11月8日)は、本件配当要求債権は時効消滅したとして、上告人の請求の一部を認容し、その余を棄却すべきものとした。
【裁判所の判断】
破棄差戻し
【判例のポイント】
1 区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項)、区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は、上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合と同様、上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。
また、上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには、配当要求債権につき上記先取特権を有することについて、執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(法定文書)により証明されたと認められることを要するのであって、上記の証明がされたと認められない場合には、上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。
これらは、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。
2 以上に鑑みると、不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押え(平成29年法律第44号による改正前の民法147条2号)に準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り、債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。
3 以上によれば、法定文書により上告人が区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有することが本件強制競売の手続において証明されたか否かの点について審理することなく、本件配当要求債権及びこれらに対する遅延損害金の支払請求に関する部分を棄却すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
マニアックなテーマですが、専門家は知っておくべき重要な最高裁判決です。
なお、改正後の民法において上記配当要求が時効の完成猶予・更新事由となるか否かは、引き続き解釈に委ねられているため、本最高裁判決はその解釈においても参考になります。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。