管理費・修繕積立金9 管理規約の改定に伴う管理費及び修繕積立金の増額が「特別の影響」に該当せず被告の承諾を要しないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約の改定に伴う管理費及び修繕積立金の増額が「特別の影響」に該当せず被告の承諾を要しないとされた事案(東京地判令和2年10月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合である原告が、同マンションの居室の区分所有者であり、組合員である被告に対し、従前の組合の規約を改定する組合総会の決議に基づき、管理費及び修繕のための積立金の未払分の支払を求めるとともに、遅延損害金(確定遅延損害金を含む。)並びに現行の規約に基づく違約金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告は、原告に対し、77万2885円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件改定が、aマンションの区分所有者の1人である被告の権利に区分所有法31条1項後段所定の「特別の影響」を及ぼすものであれば、本件改定について被告の承諾を要することになり、同承諾を得ずになされた本件決議は無効となる。
区分所有法31条1項後段の趣旨は、規約の設定、変更等が区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による総会の決議によってされ(同項前段)、多数者の意思によって特定の少数者のみに不利益な結果をもたらす規約の設定、変更等が実現するおそれがあることから、そのような事態の発生を防止することにあり、「特別の影響」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれにより受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量して、当該区分所有者が受忍すべき程度を超える不利益を受けると認められる場合を指すものと解される。

2 本件改定についてみると、本件決議がなされた平成29年5月27日当時、aマンションには被告を含め9名の区分所有者がおり、本件改定後の管理費等は、被告において月額5万円に増額されたほか、結果として月額3万円にとどまった者が2名、月額3万1000円に増額された者が1名、月額3万2000円に増額された者が2名、月額3万5000円に増額された者が1名、月額3万6000円に増額された者が2名であった。確かに、本件改定により、被告の管理費等は、他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたものということができる。
そこで検討するに、本件改定の対象となった管理費等は、当時効力を有していた乙2規約においては管理共有物の管理に関する業務に要する費用に充てるためのものであり、共用部分の管理に関する必要経費に充てるために組合員に課されたものといえる。
共用部分に関し、区分所有法は、①14条1項において、各共有者の共用部分の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による旨を、②19条1項において、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じる旨をそれぞれ定めている。
これらの規定によれば、同法は、共用部分の負担につき、各区分所有者が各自の専有部分の床面積の割合に応じて引き受けることをもって、それぞれに応分の負担をさせる実質的公平にかなう原則的な取扱いとしたものと解される、そうすると、各区分所有者一律に月額3万円の管理費等を課していた従前の規約は、専有部分の床面積が比較的少ない区分所有者に実質上過度の負担を課していたという問題点があったということができる。
したがって、上記従前の規約を改めて管理費等の額を各専有部分の登記簿面積に応じた按分額に改定する旨の本件改定は、上記問題点を是正し、区分所有法の原則的な取扱いを採用するものであるから、必要性、合理性とも十分に認められるものというべきである。

3 そして、本件改定による変更後の規約は、被告のみならず全区分所有者に適用され、上記のとおり被告の管理費等が他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたのは、被告の専有部分の登記簿面積が他の区分所有者に比して広いことによる必然の結果にほかならず、不合理ということはできない
本件改定による被告の管理費等の増額は、上記の本件改定の必要性、合理性と比較衡量して、被告が受忍すべき限度を超える不利益に当たらないと考える。
以上によれば、本件改定は、被告の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、よって、本件改定に被告の承諾は要しない。

区分所有法31条1項後段の「特別の影響」に関する考え方は非常に重要です。

本件同様、「特別の影響」のあてはめが争点となった裁判例をフォローしていくと裁判所の考え方や傾向を理解することができますので、是非、複数の裁判例を確認してください。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。