名誉毀損4 マンションの下の階の住民が、管理組合の総会及び理事会で、上の階の住民が騒音の発生源であるかのように述べた発言が名誉毀損に当たるとして慰謝料の支払いを認めたが、謝罪広告の掲示を求める請求は棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、マンションの下の階の住民が、管理組合の総会及び理事会で、上の階の住民が騒音の発生源であるかのように述べた発言が名誉毀損に当たるとして慰謝料の支払いを認めたが、謝罪広告の掲示を求める請求は棄却された事案(東京地判平成9年4月17日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの六階に居住する被告が、その階上で発生する、ゴルフのパター練習によって生ずると考えられる騒音のため、生活の平穏を害されたとして、本件マンションの管理組合の総会で右騒音を問題とし、善処を求めたことに端を発した事案である。

本訴請求は、原告は、被告の主張するような騒音を発生させていないのに、被告が管理組合の総会及び理事会で、あたかも原告が騒音を発生させているかのような事実無根の発言を行ったことにより、名誉を毀損されるとともに、精神的苦痛を受けたとして、原告が被告に対し、謝罪広告及び損害賠償を請求するものである。

反訴請求は、原告が原告方で行うゴルフのパター練習によって発生する騒音のため、階下に居住する被告が、睡眠妨害等の精神的苦痛を受けたとして、原告に対し、夜間のゴルフ練習の中止及び損害賠償を請求するものである。

【裁判所の判断】

本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、50万円+遅延損害金を支払え。

本訴原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 原告が被告の主張するような騒音を発生させた事実は、いまだ認めることができない。それにもかかわらず、被告は3年間にわたり、合計3回の管理組合の総会において、階上からの騒音を問題とし、しかもその際、騒音の発生源が原告方であることを示唆する発言を行い、また理事会では、具体的に原告の名をあげて、原告が騒音を発生させていることを明言してきたものである。
本件マンションのような集合住宅においては、他の居住者の迷惑となる行為をしないこと、とりわけ階下その他周辺居住者の生活の平穏を害する騒音を発生させないことは、いわば居住者として当然に守るべき最低限のルールである。
ところが、被告の発言は、これを聞く者に対し、原告が税理士という地位にあり、しかも管理組合によって夜間の生活騒音を防止するよう要請していたにもかかわらず、こうした最低限のルールすら守ろうとしない自己中心的かつ規範意識のない人物であるかのような印象を与えるものである。
 したがって、本件における被告の発言は、原告の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものとして、違法と断じられるべきものである。

2 被告による発言の内容、発言の期間、発言の行われた機会、原告の地位、当事者双方の事情、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、原告が右名誉毀損により受けた精神的苦痛を慰謝するための金額は、50万円をもって相当であると認める。

3 本件は、被告が原告方が発生源であるとする生活の支障となる騒音被害を訴えたところ、結果的に当該騒音が認められなかったことから、管理組合の総会等における被告の発言が、騒音発生源とされた原告の名誉を毀損したものと判断された事案であり(本件全証拠によっても、被告が当初から原告の名誉を毀損しようとの意図の下に、現実には存在しない騒音被害を捏造し、管理組合の総会や理事等に申告したとまでは認められない。)、その限りで被告にも斟酌すべき余地がある。また、居住者の少なからぬ者が、本件の証人又は当事者双方のために陳述書等を作成しているのであって、これらに照らせば、既に本件マンションの相当数の住民が、好むと好まざるとにかかわらず、関与を余儀なくされていると認められる。
これらの事情に照らせば、本件において、被告に対して謝罪広告を命じ、この問題を本件マンション全体に知らせることは、紛争を再燃させるばかりか、新たな紛争を惹起させる可能性も否定できない
したがって、これらの観点に照らせば、本件における原告の名誉毀損に対しては、被告から原告に対して前記慰謝料を支払わせることをもって十分であり、それ以上に謝罪広告を命ずることは相当ではないと判断する。

騒音問題に端を発した名誉毀損事件です。

被害者が主張する騒音の存在が立証できない場合、結果として、被害者の発言(加害者を断定するような内容等)が違法とされるリスクがありますので注意が必要です。

なお、本件では、上記判例のポイント3記載の理由から謝罪広告までは認められませんでした。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。