漏水事故1 漏水事故につき管理組合の管理義務違反を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき管理組合の管理義務違反を理由とする損害賠償請求が棄却された事案(東京高判令和3年9月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの専有部分の区分所有者である一審原告が、本件マンションにおける区分所有法3条の団体(管理組合)である一審被告に対し、本件建物において発生した天井からの2回に及ぶ漏水事故は、一審被告が本件マンションの管理規約に基づき一審原告に対して負っている共用部分の管理義務の履行を怠ったために発生したものであるとして、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、本件建物の修繕費用として390万円の、漏水事故によって一審原告が本件建物を賃貸できなかったことによる逸失利益として平成23年1月1日から判決確定まで1か月当たり14万1500円の割合による損害金の各賠償を求める事案である。

原審は、一審原告の請求のうち、本件建物の修繕費用390万円全額と、賃料の逸失利益466万9500円(月額14万1500円の33か月分)との合計856万9500円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分を認容し、その余を棄却したところ、一審原告及び一審被告がそれぞれの敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

一審被告の控訴に基づき、原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。

前項の部分について、一審原告の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件マンションの規模や現況、管理組合の財政状態等の状況に照らせば、仮に、一審原告が主張するように、管理組合である一審被告が個別の区分所有者に対して本件マンションの建物等の維持管理をする債務を負うと解したとしても、その債務の内容は、建物等に瑕疵が一切存在しない状態を常時維持するというようなものではあり得ず、その時々の管理費等の積立額、区分所有者らの意向、当該瑕疵による損害発生の切迫度等の諸事情を総合的に考慮して、一審被告ないしはその管理者の合理的な裁量によって、修繕工事の内容や時期を決定し、数年あるいはそれ以上に長期の年月をかけて、順次これを実施していくというものにならざるを得ないのは当然であり、特に、区分所有者の中に一審原告のように管理費等を滞納する者がいる場合や、大規模な修繕工事のために近い将来における多額の費用の支出が見込まれる場合などには、なおさらである。
そうすると、一審原告が、一審被告に対し、一審被告において本件分電盤の修繕や汚水桝の清掃をしなかったことが一審原告に対する債務不履行に当たるとして、その責任を追及するためには、一審原告において、一審被告には善良な管理者の注意をもって建物等の共用部分の維持管理をする義務があるというような抽象的な主張をするだけでは足りないのであって、一審被告が本件各漏水事故が発生する前のそれぞれの時期において本件分電盤を修繕し、汚水桝を清掃すべきことが善管注意義務に基づく建物等の管理業務の具体的な内容となっていたことを基礎付ける事由を、主張立証する責任があるというべきである。
しかし、一審原告は、そのような事由を主張立証していない。

2 結局、一審原告は、偶々本件各漏水事故が本件分電盤の故障と汚水桝の目詰まりを原因として発生したという結果から遡って、いわば後知恵として、第一漏水事故が発生する前に本件分電盤を修繕し、第二漏水事故が発生する前に汚水桝を清掃しておくべき義務が一審被告(管理者)にはあったと主張しているにすぎないのであって、上記の主張立証責任を果たしていないというべきである。
このように、抽象的に管理組合が区分所有者に対して善管注意義務をもって建物等を管理する債務を負うとしてみたところで、当時の具体的状況の下での義務の内容は不特定のままであって、本件各漏水事故が発生した当時において、その債務の具体的な内容に他の業務に優先して本件分電盤の修理や汚水桝の清掃をすべき義務が含まれていたことの主張立証がされていないことになるから、一審被告(管理者)においてそれらの管理業務を行わなかったことをもって債務不履行に当たるということはできず、一審原告の主張は、失当というほかない。

原審(東京地判平成31年4月23日)判決とは180度異なる判断をしています。

漏水事故発生時の対応については、上記判例のポイント1の考え方をしっかりと理解しておく必要があります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。