管理会社等との紛争2 区分所有権者がマンションの各戸に当該管理会社を批判する文書を配布したことが同管理会社の信用・名誉を毀損するが違法性が阻却されるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有権者がマンションの各戸に当該管理会社を批判する文書を配布したことが同管理会社の信用・名誉を毀損するが違法性が阻却されるとされた事案(東京地判平成7年11月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理会社であり、また、同マンションの各種工事を受注している原告が、同マンションの区分所有権者である被告に対し、同人が原告の業務内容について虚偽の事実を記載し、原告を中傷、誹謗した文書を同マンションの各戸あてに配布したことにより、その名誉及び信用を毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償及び謝罪文の配布を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件文書の見出し及び本文の記述の表現から、全体として、これを読む者に対し、本件記載部分(一)は、原告の工事受注業者の適格性に問題があるかのような印象を与えるものであり、また、本件記載部分(三)及び(四)は、原告が本件管理組合の一部の理事と結託して独占的に巨額の工事を受注し、原告を不当に利するような不公正な過程により本件マンションの管理会社に選定されたかのような印象を与えるものであって、建築請負工事、建物の総合管理等を業とする原告の業務内容並びに本件マンションに関する工事受注及び管理会社への選任が公正に行われたか否かは、右業務を営む原告の信用及び名誉に影響を有するから、右記載のある本件文書の配布により、原告に対する社会的評価を低下させるものであると認めることができる。

2 被告は真摯に本件管理組合のことを考えて本件文書を配布したものであること、被告の意見に賛同する趣旨のアンケート回答が多数の区分所有者から寄せられていることが認められ、これらの事情と被告が私利私欲を図り、あるいは原告をことさらに誹謗中傷する等不純な動機により、本件文書の配布を行ったことを認めるに足る証拠はないことに鑑みれば、被告による本件文書の配布は、専ら公益を図る目的に出たものというべきである。

3 マンションの一区分所有権者であり、特に調査権限及び調査能力を有していたわけでもない被告において、一部の理事により原告に対する利益誘導行為があるのではないか、当初から原告を管理会社に選定する旨決めていたものではないかと疑ったことも、まったく根拠を欠くものではなく、被告がそのように信じるにつき相当の理由があったものというべきである。
したがって、本件各記載がこれを読む者に前記の印象を与え、原告の社会的信用を低下させたとしても、不法行為を構成しないものと解すべきである。

裁判所は、区分所有者の当該行為が管理会社の社会的評価を低下させるものであることは認めましたが、違法性阻却事由があると認め、不法行為責任を否定しました。

本件のような名誉毀損が問題となる事案においては、公共の利害に関する事項に係り、その目的がもっぱら公益を図るために出た場合には、当該記載について真実であるとの証明がなされるか又は当該記載を行った者において真実であると信じるにつき相当の理由があったときには、当該文書の記載配布は不法行為に該当しないと判断されます。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。