おはようございます。
賃借人が気に喰わない居住者に暴行脅迫行為等をしたことを理由とする賃貸借契約解除、建物明渡請求(東京地判平成8年5月13日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、区分所有法に基づいて、建物等の管理及び共同生活の維持等を目的として設立されている原告が、右建物の一つの専有部分の区分所有者である被告A及びその部分を同被告から賃借してそこに居住している被告Bに対し、区分所有法60条1項の規定に基づいて、被告ら間のその専有部分の賃貸借契約を解除することを、並びに被告Aに対して、当該専有部分の明渡しを、それぞれ求める事案である。
【裁判所の判断】
請求認容
【判例のポイント】
1 区分所有法60条1項は、区分所有者が占有者に対し、訴えをもってその専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することのできる要件として、占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をし、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときでなければならないという実体的要件と、あらかじめ当該占有者に弁明の機会を与えたうえ、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でした決議に基づかなければならないという手続的要件とを設定した。したがって、同条項に基づく請求の当否を審理する裁判所としては、当該請求がその手続的要件及び実体的要件のいずれをも充足しているものであるかどうかを判断すべきである。このうち、手続的要件の存在は、本件議決のされた当時において、本件議決に則してこれを判断すれば足りるが、実体的要件は、本件議決のされた時と、本訴口頭弁論終結時のいずれにおいても、これが存在することが必要であるものと解される。それは、区分所有法60条1項の規定によれば、この実体的要件が、議決がされるための要件であると同時に、訴えをもってした請求が認容されるための要件としても規定されていると解されるからである。
2 同被告は、原告から多数の議決によって賃貸借契約の解除と建物引渡しを求められ、本訴において係争中であるのであるから、これ以上の区分所有者らとのトラブルは避けようとするのが人情であると考えられるのに、右に認定した同被告の行動にはそのような配慮が全く感じられず、むしろ前と同様といわれてもやむを得ないような行動を繰り返しているのであって、これら認定事実によれば、同被告の行為については、区分所有法60条1項所定の実体的要件が本訴口頭弁論終結時においてもなお失われていないと判断する他はない。
上記判例のポイント1は重要ですのでしっかり押さえておきましょう。
実体的要件は、共同利益背反行為が、本件議決のされた時のみならず、口頭弁論終結時のいずれにおいても存在することが必要とされています。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。