義務違反者に対する措置1 区分所有者からの使用借人(息子)が「早く死ね」などと居住者の悪口を叫んだり奇声、 騒音、振動を発する等の行為を行ったことが共同利益背反行為に該当するとされ、建物使用貸借契約解除・建物引渡し請求及び競売請求が認容された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者からの使用借人(息子)が「早く死ね」などと居住者の悪口を叫んだり奇声、騒音、振動を発する等の行為を行ったことが共同利益背反行為に該当するとされ、建物使用貸借契約解除・建物引渡し請求及び競売請求が認容された事案(東京地判平成17年9月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの管理組合の理事長であり、管理者である原告が、区分所有者の一人である被告A及びその専有部分を被告Aから使用貸借して居住している、被告Aの子である被告Bに対し、被告Bの異常な行動等が区分所有者の共同の利益に反する行為に当たると主張して、区分所有法60条1項に基づき、被告Aと被告Bとの間の上記使用貸借契約の解除及び本件専有部分の引渡しを請求し、併せて、区分所有法59条1項に基づき被告Aの区分所有権及び敷地権の競売を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 被告Bが本件専有部分内で発生させている騒音は、隣接専有部分内において測定した結果によれば、大部分が40ないし45デシベルを超えるものであり、著しいものは69デシベルに達している。これは本件マンションが属する第一種低層住居専用地域、準住居地域について東京都環境確保条例が定める深夜の騒音基準値たる40ないし45デシベルを超えている。こうした振動・騒音・叫び声は、被告Bが発生させていることは論をまたない。

2 本件専有部分を除く本件マンションの全専有部分21戸のうち少なくとも18戸の居住者が、被告Bが昼夜に発生させている振動を伴う騒音や叫び声によって被害を受けている

3 このような被害を受け始めた時期は、遅くとも平成13年には、相当広範囲の居住者が被害を受ける状況となり、それから4年後の現在に至るも同様の状況が続いていると認められ、その期間は長期にわたっている。

4 その被害の内容をみても、夜眠れず健康や仕事に支障を来す、本件専有部分に近接する特定の部屋を通常どおりに使えない、場合によって居住者が他所へ避難せざるを得ない、本件マンションの構造に損害が与えられているのではないかという不安感を感じる、家族の受験勉強や就職活動に支障を来している等であり、これは区分所有関係にある者同士で甘受すべき生活上の不利益の限度を大きく超える不利益と言える。本件専有部分の隣室に居住するaにおいては、被告Bによる騒音により睡眠障害と診断され、睡眠薬を処方されるに至っていること等からすると、被告Bの上記の行為は刑法上の犯罪を構成する可能性すらある

5 被告Bは、本件マンションの管理組合が毎年実施している配水管清掃や消防設備点検などの各種設備の清掃及び点検を、本件マンションの居住者の中でただひとり正当な理由もなく拒絶している。本件マンションのような区分所有関係においても、上記各設備は全体の共有部分に属しており、その保守点検作業は当該専有部分のみならず、本件マンション全体の事故発生などの悪影響を防止する意義もあるから、被告Bのこのような行為によって本件マンションの区分所有者の共同の利益が害されていると言える。

6 dや本件マンションの居住者が被告Bの発生させている騒音等の問題について何とか交渉によって解決したいと希望し、被告Bに対し、話し合いたい旨申し入れても、被告Bは、冷静に対応することができず、また、dらが被告Aと話合いの場を持ちたい旨複数回に渡り申し入れても、被告Bが母親である被告Aに対して話合いに応じないよう指図するなどした結果、本件訴訟提起まで被告Aは、話合いに応じていない

7 被告Bは、前記d及びほかの居住者から被告Aに対する話合いの申入れを拒絶させた後も前記認定の激しい騒音及び振動の発生を継続し、本件訴訟提起後から本件マンションの居住者のうちの数名が証人として証言した期日に至るまで当該行為を停止せず、さらにその後も続行していることも認められ、これらの事実を総合すると、被告らが自主的に事態を改善することは全く期待できない状況にあることが認められる。

8 以上の事実によれば、被告Bによる本件専有部分内における騒音・振動・叫び声等を発生させる行為や各種設備の点検拒否等は、本件マンションの区分所有者の共同の利益に反する行為であり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、引渡し以外の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な場合に当たるものと言わざるを得ない。

 以上によれば、区分所有法60条に基づき、被告Bによる本件専有部分の引渡しと、その前提となる被告両名による使用貸借契約の解除を認めるのが相当である。

9 本件マンションにおいて、現実に区分所有者の共同の利益を侵害する行為をしているのは被告Bであり、被告Bに対する引渡請求が認容されれば、本件マンションのほかの居住者らに対する被告Bの迷惑行為はひとまず除去されることになる。
しかしながら、被告Aの被告B及び本件マンションの現状について把握しようとする意思、能力の欠如及び被告Bの言い分のみを真実と主張し、裁判所による引渡を命ずる判決に対してもこれに従わないことを表明するような態度、被告Bの経済力、同被告の今後の生活をめぐる家族の意識等からすると、裁判所が原告による本件専有部分等の競売を認めず、被告Bに対する引渡請求のみを認容した場合には、これが執行されたとしても、被告Aが被告Bを再度本件専有部分に居住させる事態を迎えることは容易に予想されるところであり、そうなると結局原告の本件訴訟全体が水泡に帰することとなる。
本件競売請求は、被告Aの区分所有権を強制的に奪うという重大な結果を招くものであり、その要件を満たしているか否かについては慎重に判断すべきものではあるが、この点を考慮してもなお、以上のような被告Bと被告Aとの一体性、被告Aの自主的に本件の問題を解決しようとする意思及び能力の欠如からすれば、被告Aが本件専有部分等を所有し続けることは、必然的に本件マンションの区分所有者の共同の利益に反することになると認めざるを得ないし、これによって、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、被告Aの区分所有権及び敷地利用権の競売以外の方法によってはその障害を除去して共用部分の維持を図ることが困難であると認めるのが相当である。
したがって、原告の区分所有法59条1項に基づく被告Aの区分所有権及び敷地権の競売請求も理由がある

要件の厳しさがよくわかるとともに、どのような事情があれば59条、60条請求が認容されるのか非常に参考になる裁判例です。

なお、本裁判例では、被告Bに対する建物引渡しを認容する部分に限り、仮執行宣言が付されています。

一般的に、区分所有法59条、60条の請求に対する認容判決には仮執行宣言は付けることができないと解されています。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。