労働者性43 アイドルの労働基準法上の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、アイドルの労働基準法上の労働者性について見ていきましょう。

Hプロジェクト事件(東京地裁令和3年9月7日・労判ジャーナル119号58頁)

【事案の概要】

本件は、亡Bの相続人である原告らが、Bとアイドル活動等に関する専属マネジメント契約等を締結していたY社に対し、Bは労基法上の労働者であると主張し、Bが上記契約等に基づいて従事した販売応援業務に対する対価として支払われた報酬額は、最低賃金法所定の最低賃金額を下回るとして、労働契約に基づく賃金請求権として、上記報酬額と最低賃金法所定の最低賃金額との差額+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Bは、本件賃金請求期間中、平成28年契約又は本件契約に基づき、Y社が提供するタレント活動のためのトレーニングを受けながら、Y社が企画したり、取引先等から出演依頼を受けたイベント等に参加してライブ等を行ったり、イベント会場に出店した小売店等の販売応援を行うなどのタレント活動を行っていたことが認められる。
Bは、本件グループのイベントの9割程度に参加していたが、イベントへの参加は、本件システムに予定として入力されたイベントについてBが「参加」を選択して初めて義務付けられるものであり、「不参加」を選択したイベントへの参加を強制されることはなかった。また、平成28年契約にも本件契約にも就業時間に関する定めはなかった。
以上によれば、Bは、本件グループのメンバーとしてイベント等に参加するなどのタレント活動を行うか否かについて諾否の自由を有していたというべきであり、Y社に従属して労務を提供していたとはいえず、労基法上の労働者であったと認めることはできないというべきである。

2 本件グループのメンバーに報酬が支払われるようになった経緯に照らすと、本件グループのメンバーに支払われていた報酬は、本件グループのメンバーの励みとなるように、その活動によって上がった収益の一部を分配するものとしての性質が強く、メンバーの労務に対する対償としての性質は弱いというべきである。
また、販売応援に対する報酬は、1回当たり2000円又は3000円を支払うというものであり、Xが指摘するとおり、日当のような外形を有しているものの、これは平日の販売応援に対してのみ支払われるものであり、ライブが行われる土日祝日に販売応援を行ったとしても支払われることはなかった。
本件グループのメンバーは、アイドル活動をすることを目的に本件グループに所属していたものであり、その本来の目的であるライブができたときには販売応援をしても上記のような報酬が支払われることはなかったことに照らすと、上記報酬は、メンバーの多くが参加したがるライブに出演できなかったにもかかわらず、アイドル活動としての性格が相対的に弱い販売応援にのみ従事したメンバーに対し、公平の見地から支払われていたものと見るのが相当であり、このような上記報酬の性質に鑑みると、販売応援という労務に対する対価としての性質は小さかったというべきである。

かなり際どい事実認定だと感じます。

労働者性が争点となる場合には、「どう考えても労働者でしょ」という事案から「微妙だなー」という事案まで幅広くありますが、本件は後者だと思います。

書こうと思えば、逆の結論の判決も普通に書けるのではないかと思います。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介1256 時を稼ぐ男(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

帯には「死ぬか稼ぐか」と書かれています。

いいですね~。

今の時代の稼ぎ方に関する著者の考え方が書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

挑戦する人がかなり少ない日本の社会では、思い切って挑戦さえすれば、挑戦をしない者たちを押しのけて成功する確率は高くなるのです。周囲の人たちが同調圧力によって委縮しているのを横目で眺めながら、人と異なることを恐れずに、自分を周りから切り離して一生懸命努力をしてください。たったそれだけで、あなたが成功する可能性は一気に跳ね上がります。」(138頁)

取引価格を上げるためには、他と違っていることが必要です。

他との違いがわからないものに高いお金を払う人はいません。

他との差別化が出来ていれば、値下げなんてしなくても売れます。

モノも人も。

なぜあの商品は、あのお店は、あの人は、高くても引く手あまたなのか。

そこには必ず理由があるのです。

人が休んでいるとき、遊んでいるときに、見えないところで改善を続けているのです。

不当労働行為282 組合と合意した休日出勤の振替休日等にかかる会社の対応の不当労働行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様です。

今日は、組合と合意した休日出勤の振替休日等にかかる会社の対応が不当労働行為に当たるとされた事案を見ていきましょう。

東京空港交通事件(東京都労委令和2年7月7日・労判1253号150頁)

【事案の概要】

本件は、組合と合意した休日出勤の振替休日等にかかる会社の対応が不当労働行為に当たるかが争そわれた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 会社は、本件合意B及び本件合意Cで合意した事項を遵守したとはいえず、また合意を遵守する努力も怠っていたといえる。そして、休日の振替休日等が厳格に管理されていなかったことを踏まえ、本件合意Bでその改善を図ることを労使間で確認した上、本件合意Cでは、「必ず事前に振替休日を設定して実施し」、「3か月以内に必ず代休を取得させる」、「責任を持って説明する」など強い文言で実施の徹底等を図ることが労使間で合意された経緯を考えれば、本件合意B及び本件合意Cがあるにもかかわらず、事前の振替休日の設定もせず、3か月以内に代休を取得させることもせず、その理由も説明せず、同一給与計算期間の精算も行わなかった会社の対応は、労使間で懸案事項となっていた振替休日等の管理の改善と実施の徹底を図った組合との合意を軽視するものであるといわざるを得ない。このような会社の対応は、組合との合意を軽視することにより、組合員や従業員の組合に対する信頼を損ない、組合を弱体化させるものであるから、組合の運営に対する支配介入に当たるといえる。

合理的理由なく組合との合意に反した対応をすると本件同様、不当労働行為とされてしまいます。

守れない約束はしない、約束したら守る、ということに尽きます。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介1255 幸せ基準(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「時間とお金から自由になれる世界一シンプルな生き方。」です。

「幸せ」の定義、基準は人それぞれです。

もっとも、「時間とお金」から自由になるには、自分の価値を高めつつ、いろんなものを背負い込まないことに尽きます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

上手くいっていない人たちの側で話を聞いていると、悪口や愚痴などの『汚い言葉』を使っています。『あの人は、〇〇(よくない意味)だよね』『ムカつく』『面倒くさい』『しんどい』『疲れた』などです。こういったマイナスのエネルギーを持つ『地獄言葉』を使うと、不幸になるスイッチが入ります。呪文と同じです。」(141頁)

著者曰く、運がよく幸せな人と運が悪く不幸な人の違いは、日頃使っている言葉が原因であると。

確かにそうかもしれませんね。

言葉遣いが悪いから不幸なのか、不幸だから言葉遣いが悪いのか。どちらが原因なのかはよくわかりませんが。

悪口や愚痴を言う人は、同じように愚痴っぽい人たちと固まります。

引き寄せの法則からすれば当然の帰結です。

「そんなに嫌なら、辞めたら?」

辞める覚悟も辞めても大丈夫という自信もないからこそ、現状を受け入れざるを得ず、結果、愚痴ばかりが出てくるというのが実際のところでしょう。

悪口や愚痴や不満を言えば言うほど、幸せは遠のくばかり。

解雇359 採用内定成立は否定されたが、期待権侵害による損害賠償は認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、採用内定成立は否定されたが、期待権侵害による損害賠償は認められた事案を見ていきましょう。

フォビジャパン事件(東京地裁令和3年6月29日・労経速2466号21頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、①主位的に、Y社との間で解約留保権付労働契約(採用内定)が成立しており、Y社による採用内定の取消しが無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該労働契約に基づく令和元年3月分から判決確定日までの賃金月額39万円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Xの労働契約締結に対する期待は法的保護に値する程度に高まっていたものであり、その後、Y社が従前提示した賃金では採用しない旨を一方的に通告したことによりXY社間の労働契約が成立せず、Xが収入を失うなどの損害を被ったと主張して、不法行為(期待権侵害)に基づき、Y社に対し、損害賠償金422万4000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Xの主位的請求をいずれも棄却する。

Y社は、Xに対し、59万4000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当時、従業員の採用を決定する権限はAにあり、Bはその権限を有していなかったものと認められる。
そして、①平成31年1月21日にXがBに対しY社へ転職したい旨を告げた際、Bが、Xに対し、採用に当たり、Y社の現場責任者及び会長(A)との面接を受けることになる旨を説明したこと、②一次面接の後、BがXに対し同面接の結果が良好であった旨を告げた際にも、Aとの面接が不要である旨の発言はしていないこと、③同年2月に入った後、Xが、Eとの間で、Aとの面接について言及し、「傾向と対策」を要望したことに照らすと、同年1月31日の時点で、Xは、Bが従業員採用について自ら決定する権限を有していなかったことを認識していたものと認めるに十分であり、Y社は、Xに対し、Bの代表権に加えた制限を対抗することができるというべきである(会社法349条5項の反対解釈)。
したがって、Bの行為によりXとY社との間で解約留保権付労働契約が成立したとはいえず、Xの上記主張は採用することができない。

2 Y社の代表取締役であるBは、①平成31年1月21日、Y社への転職を希望したXに対し、採用された場合の給与が当時b社から得ていた給与(月額34万円)を上回る月額39万円となることをいわゆる定額残業代部分の有無も含めて明言し、②同月31日、Y社の現場責任者であるCらとの面接(一次面接)を終えたXに対し、同面接の結果が良好であった旨を告げるとともに、就業開始の具体的日程について言及しており、採用に関し確度の高い発言をしたものということができる。また、③それまで、b社から複数の従業員がY社に転職しており、Aとの面接の結果転職に至らなかった事例も存在せず、④b社からY社に転職した従業員の一人であるEは、一次面接の後、b社を退職した際の手順を尋ねたXに対し、Xも同様に採用されるであろうとの認識から、即座に、「明日Fさん、Gさんに辞意を表明してください」と具体的な手順を教示している。そして、Xは、これらの結果、それまでの待遇を上回る条件でY社に採用されることが確実であるとの認識を抱き、b社に対し退職届を提出したものと認められる。
以上の経過を踏まえると、Y社から書面等による正式な採用の通知はなされておらず、Xにおいても採用に至るにはAとの面接が必要であることを認識していたと認められることを踏まえても、上記のXの認識(期待)は法的保護に値するものというべきであり、Y社が、Xがb社を退職する直前(在籍最終日の2日前)になって、Bの提示(給与月額39万円)説明を覆し、それまでの待遇(給与月額34万円)をも下回る条件(給与月額30万円)を提示したことは、Xの期待権を侵害するものであって不法行為を構成する

よく内定取消しで問題となる「期待権侵害」ですが、本件では、採用内定の成立自体は否定されましたが、期待権侵害は認められました。

なお、期待権侵害の場合は、通常、逸失利益までは認められず、慰謝料として本件同様の金額が認められることが多いです。

内容取消しをせざるを得ない場合には、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

本の紹介1254 上には上がいる。中には自分しかいない。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

武田真治さんの本です。

タイトルのセンスが素晴らしいです。

付箋に書かれたたくさんの言葉を1冊の本にまとめたものです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

鍛えたことのない人は、ジムで鍛えている人の身体を指して『どうせ見せかけの筋肉でしょ?』などと揶揄する。言われたほうも面倒だから『そうですね』などと答えるが、筋肉は実際に負荷がかからないと大きくはならない。苦しみに耐え続けなければ維持もできない。そう、『見せかけ』なんてことは決してないのだ。」(82頁)

これは決して筋肉や筋トレの話だけをしているのではありません。

自らは何も行動せずに単に他人の努力や行動を揶揄したり批評したりする人がとても多いです。

寄付をしたりボランティア活動を見て「偽善だ」という例のあれと一緒です。

「どこを目指しているの?」と、どこも目指していない人から質問されるという滑稽さ。

行動した結果に「見せかけ」なんてありません。

労働時間76 障害者就労支援施設等での泊まり込み時間が実労働時間として認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、障害者就労支援施設等での泊まり込み時間が実労働時間として認められた事案を見ていきましょう。

グローバル事件(福岡地裁小倉支部令和3年8月24日・労経速2467号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、就労移行支援施設、グループホーム、自立準備施設等を運営しているY社に対し、①未払賃金(X1につき1112万8136円、X2につき2357万7345円)、②前記①に対する遅延損害金の支払、③付加金+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、945万1705円+遅延損害金、付加金を支払え

Y社は、X2に対し、1637万9459円+遅延損害金、付加金を支払え

【判例のポイント】

1 Xらには、利用者の対応をしていない不活動時間もあると考えられるところ、利用者から対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、Y社の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。
ただし、Xらにも朝食を取るなど、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、午前6時から午前8時30分までの間の30分は労働時間にあたらないというべきである。

2 平日の午後4時から午後9時までの間、Xらは、支援記録を欠いたり、夕食の配膳等を行ったりする他、利用者の入浴の見守り・介助を行っていたから、これらの時間は労働時間にあたる。
また、それ以外の不活動時間においても、介助等の利用者対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているといえるとして、Y社の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。
ただし、Xらも夕食を取ったり、風呂に入ったりしていたと考えられること、Xらは、週に3、4度、1度につき30分から1時間程度、自分の用事で外出していたことからすれば、Xらにも、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、少なくとも午後4時から午後9時までの間の1時間は労働時間にあたらないというべきである。

拘束時間が長い職業の場合、今回の事案同様、すごい金額になってしまいます。

このような施設は極めて多いと思います。

消滅時効の期間が伸長されていることを考えると今のうちに対策を考えないと経営破綻してしまいます。

労働人口がますます減っていくことからしますと、抜本的な解決はかなり難しいといえます。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介1253 5000日後の世界(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「すべてがAIと接続された『ミラーワールド』が訪れる」です。

2022年時点においても、学校や家庭における旧来の教育がほとんど意味をなさない状況にあることを考えると、5000日後はもう想像もつかないくらい世界が変化しているのでしょうね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

このように、グローバリゼーションやテクノロジーの進歩がどんどんと加速し不確実性が増す世界では、小学校から高校までの十二年間の教育で、『学び方を学ぶ』という汎用のスキルを持つ必要があるのでしょう。そして高校卒業の段階で、自分に最適化した学びの方法を習得していなければなりません。」(147頁)

学ぶための「ツール」は時代とともに進歩してきましたが、「学び方」自体は自分で習得するほかありません。

これは今も昔も変わりません。

勉強する内容は年齢や立場によって異なりますが、「学び方」は汎用性があるため、一度、効率の良い勉強法を身に付けるとその後がとても楽になります。

勉強が得意な人たちはみな、勉強する中身は違えど「結局、やることは一緒でしょ」と思っているのです。

限られた時間の中で効率よく勉強するというのは決して才能ではなく技術です。

賃金222 元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

エイシントラスト元代表取締役事件(宇都宮地裁令和2年6月5日・労判1253号138頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Aは、Y社の代表取締役として、同社をしてその従業員であったXに対し割増賃金を支払わせる義務があるのに、これを怠った等と主張して、Aに対し、会社法429条1項又は民法709条に基づき、未払割増賃金に相当する損害賠償金1023万0677円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

AはXに対し、1023万0677円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 会社の従業員に対する賃金の支払義務は、一時的には当該会社自身が負うべきことは当然であるが、会社は基本的に従業員を労働させることによって利益をあげており、従業員は会社の重大な存立基盤である上、従業員の側からみても、会社から適法に賃金の支払がされることは、その生活を維持するために最も重要な事項であって、違法な賃金の不払には罰則が定められていること(労働基準法119条等)も踏まえれば、会社によって賃金支払義務が履行されず、その不履行が役員の悪意又は重大な過失によるものであって、かつ、従業員が会社に対する賃金支払請求権を有するとしても、なお従業員に損害が生じているものと認められる場合には、当該会社の役員は、会社をして従業員に対し適法な賃金の支払をさせる任務を怠ったものとして、会社法429条1項に基づき、従業員に生じた損害を賠償する責任を負うものと解すべきである。

2 Y社のようなトラックによる運送事業を営む会社において、その運転手の労務管理は経営上重要度の高い事項であり、かつ、必ずしも容易なものではないと考えられるところ、Bらは同業のC社の従業員であったとはいえ、運送会社の経営や労務管理を行った経験があったとは認められないのであるから、Aには、Bらに対して運転手の労務管理についてC社のノウハウを具体的に伝えて指導する等し、また、Y社の業務開始後少なくとも当面の間は、自ら行うか又は専門家に依頼するなどして、給与規程の内容、従業員の稼働状況及び給与の支払状況を確認し、従業員に対し適法な賃金の支払がなされているかどうかを確かめる義務があったというべきである

3 ところが、Y社は、Y社の給与規程の内容や、いわゆる36協定の有無について把握しておらず、法令の遵守について、口頭で法令を守るようにBらに指示することはあったが、具体的な就業規則、給与規程の作成を指示することはせず、従業員の稼働状況や給与の支払い状況について確かめておらず、Xから未払賃金の請求を受けた後も、A代理人弁護士を通じて、Y社の代表取締役を辞任した旨の通知を送った後は、Xの稼働状況等を調査し未払賃金の有無を確認することもしなかったのであって、これは、上記の義務を怠ったものと評価せざるをえず、少なくとも重大な過失により自らの代表取締役としての任務を怠り、BらがY社をしてXに対し労働基準法に定められた割増賃金を支払わせる義務を怠るのを看過したものであって、会社法429条1項に基づき、これによりXに生じた損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である。

労使ともに今回の裁判例をしっかり押さえておきましょう。

会社法429条1項により役員の責任追及の形で会社と不真正連帯債務を負うことになる可能性があります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1252 数こそ質なり#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から7年前に紹介した本ですが、再度読み直してみました。

もうタイトルがいいですよね。

まさに圧倒的な量が圧倒的な質を生み出すのです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

他人から見れば、自分を犠牲にした生活を送っているようにも見えるのかもしれない。しかし、私自身にそんな感覚はまったくない。野球に打ち込む野球選手、サッカーのことしか頭にないサッカー選手とも変わらず、好きな仕事に専心しているだけだ。それくらいこの仕事は楽しいし、やり甲斐がある。」(84頁)

私の周りの多くの経営者は、このような方ばかりです。

能動的に仕事を行っている人にとって、労働時間の長さはたいした問題ではありません。

働く時間が制限されるほうがむしろストレスなのです。

サッカー選手、野球選手がサッカーや野球のやりすぎで過労死したという話を私は知りません。

好きなことをやっている人は、そもそも仕事を「労働」であると意識していないため、労働日数や労働時間数には全く関心がないのです。

仕事に熱狂している人には勝てません。