本の紹介1288 よくばらない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

医師の鎌田先生の本です。

帯には「”がんばる私”に苦しんでいる人へ」と書かれています。

そういう系の本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

よくばらないと、優しくなれる。よくばらないと、強くなれる。よくばらないと、幸せになれる。」(帯)

物欲、所有欲が良い例です。

もっといいモノを手に入れたいという欲がないと、お金はそんなにたくさん必要ありません。

どうでもいいことにこだわらない生き方をすると、もうほとんどのことがどうでもよくなります。

大きい家に住みたい、高級外車に乗りたい、何百万もする腕時計をしたいとか、もうほんとどうでもいいです。

小さいアパートでいいです。

軽トラでいいです。

時計しません。

物欲・所有欲0。

メンタルヘルス8 リハビリ期間中の賃金請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、リハビリ期間中の賃金請求の可否に関する裁判例を見てみましょう。

ツキネコ事件(東京地裁令和3年10月27日・労判ジャーナル121号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、休職していたXが、Y社に対し、インク班インク製造チームへの復職命令を受けたが、同命令が違法であるとしてこれに応じずに復職後の配属先の変更を求めて出勤しなかったところ、Y社から解雇されたため、同解雇が無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記復職命令以降Y社がXの労務提供を受領拒絶したとして、また、休職中に行った復職に向けたリハビリが労務の提供に当たるとして、労働契約に基づき、未払賃金等の支払を求めたほか、Y社の代表取締役であるCがXに対して違法な退職勧奨を行ったとして、損害賠償金約823万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Cは、リハビリの経過を観察することのほかに、リハビリを通じて本人の適性を受け入れさせること、経営がNグループに替わったことを理解させることなどの目的で、7か月余りの間にXと21回の面談を行い、その間、たびたびY社を退職して別の会社で働く選択肢もある、復職したら嫌なこともあると予想されると話すなどしており、Xに対して複数回にわたって退職勧奨を行ったことが認められるが、Xは、Cに対し、退職勧奨をも明示的に拒絶したことはないし、CもXの復職には応じない、Xを辞めさせるなどと明言したことはないことから、Cによる退職勧奨の頻度、回数はやや多いとはいえるものの、Cの退職勧奨がXの自由な意思形成を阻害したとは認められず、現に、XはCの退職勧奨に応じていないし、CもXに対して復職命令を発していること等から、Cによる退職勧奨は違法とは認められない。

2 Xは、リハビリ作業期間中、休職を前提として、傷病手当金を受給しており、傷病手当金は、「療養のため労務に復することができないとき」(健康保険法99条1項)に支給されるのであるから、Xがこのような手当を受給している以上、リハビリ作業が債務の本旨に従った労務の提供であるとは認められず、また、Xのリハビリ開始に先立つ平成30年8月8日、X、C及びKで行われた面談の際、リハビリ期間中は傷病手当金を受給し、リハビリを経て復職となり、その時点で給与が発生することが話し合われており、リハビリ期間中は無給であることが合意されたと認められるから、Xは、リハビリ期間中、債務の本旨に従った労務の提供をしたとは認められない上、その期間中は無給であることが合意されたのであるから、Xのリハビリ期間中の賃金請求を認めることはできない。

休職期間中に、復職の可否を判断するために、リハビリ出勤が行われることがありますが、その際に賃金支払義務の有無が争点となることがあります。

ポイントとしては、「債務の本旨に従った労務の提供」に該当しないように留意するという点です。

リハビリ出勤をさせる場合は、顧問弁護士の助言の下に慎重に進めることをおすすめいたします。

本の紹介1287 勝ちスイッチ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

絶対王者井上尚弥選手の本です。

帯には「王者は何を考えて、何を考えないのか。」と書かれています。

日頃、井上選手がどのようなことを考えているのかを知ることができます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自信は大事だが、それが過信になれば、諸刃の剣となって、自分を見失い、ボクシングを壊すことになる。それを人はスランプや不調と呼ぶのかもしれないが、それをコントロールするのは自分しかない。」(147頁)

僕は「根拠のない自信」という言葉が嫌いです。

そんなものは存在しないと思うからです。

何の努力もせず、どうやって自信を持てというのでしょう。

どれだけの準備をしてきたのかを一番知っているのは自分自身です。

人と同じ生活をして、「俺は強い」と自分を信じ込ませて一体何の役に立つのでしょう。

弱い弱い自分が小さな自信を持つためには、毎日努力を続けるほかに方法はありません。

配転・出向・転籍50 配転命令拒否を理由とする懲戒解雇の有効性

おはようございます。

今日は、配転命令拒否を理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

NECソリューションイノベータ事件(大阪地裁令和3年11月29日・労経速2474号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、配転命令を拒否したことを理由として懲戒解雇されたことにつき、同懲戒解雇が無効であるとして、労働契約上の地位を有することの確認、同懲戒解雇後の賃金及び賞与並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めるとともに、多数の従業員の面前で懲戒解雇通知書を読み上げられたことが不法行為に当たるとして、民法709条に基づき損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 c社グループの時価総額は厳しい競争の中で大きく低下しており、平成28年度に策定した中期経営計画を翌年度である平成29年に撤回せざるを得ない状況にあったところ、そのような状況にあれば、経営状況を改善するために様々な方策を講じる必要性があるといえる。実際、c社グループにおいては、平成24年に特別転進支援施策を実施して人員削減を図るなどしており、同施策に応じて多数の従業員が応募するという状況にあった。
そして、c社グループがそのような状況にあることに照らせば、拠点(事業場)を集約して、組織の構造改革や業務の効率化を図ることも経営改善に向けて講じられる方策の一つであるということができる。
本件においては、統合オペレーションサービス事業部について、関西、北海道及び東海の三つの事業場を閉鎖し、東北、北陸、九州、沖縄及びh事業場の五つの事業場に集約されることとなったところ、閉鎖する事業場の選定において、不自然・不合理な事情は見受けられない
また、拠点集約に伴い、事業場を閉鎖することとした場合には、閉鎖される事業場に勤務していた従業員の処遇が問題となるところ、使用者としては、従業員の失業を可及的に回避するため、ほかの事業場への配転、出向、転職支援等の方策を検討することとなる。・・・閉鎖する事業場である関西・西日本オフィスに勤務していた従業員を、h事業場に配転するということは、業務の効率化や、閉鎖される事業場に勤務していた従業員の雇用の維持という観点からみても、合理的な方策であるということができる。
以上からすると、本件配転命令について、業務上の必要性があったということができる。

2 本件懲戒解雇は、Xが本件配転命令に応じなったことを理由とするものであるところ、本件配転命令が有効であることは前記で説示したとおりである。
そして、Y社の就業規則においては、業務上必要がある場合には、配転を命じることがあること、職務上の指示命令に反して職場の秩序を乱した場合には、懲戒解雇事由に該当するとされているところ、前記認定したとおりの経過を経て配転命令がなされたにもかかわらず、同命令に応じないという事態を放置することとなれば、企業秩序を維持することができないことは明らかである。
以上を総合考慮すれば、本件懲戒解雇は、客観的に合理性があり、かつ社会通念上も相当なものといえ、懲戒権の濫用に当たるということはできない。

リストラの一環として行われた配転命令が有効と判断され、当該配転命令に応じなかったことが懲戒解雇事由に該当すると判断されました。

リストラを進める場合には事前に顧問弁護士に相談し、正しく進めることをおすすめいたします。

本の紹介1286 スイッチ・オンの生き方#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

遺伝子に着目した本ですが、特に遺伝子に興味がなくても、十分参考になる本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

同類を求めていたら、いつまでたっても『どんぐりの背比べ』の域を出ることができません。目指していることがあるのなら、先にそれを成し遂げた『その道の先輩』との出会いを積極的に求めていくといいでしょう。一流に交わることによって刺激を受けて、眠っていた遺伝子がオンになることもあるのです。」(126頁)

毎日毎日、同じ人とだけ接していても、そこには刺激も成長もありません。

みなさんは、1週間のうちに、何冊本を読み、また、何人の人と話をしますか。

意識をしなければ、これから先もずっと、昨日と同じ今日の繰り返しです。

同じレベルの人たちと、愚痴を言い合っても、傷をなめ合っても、状況は何ひとつ変わりません。

求めよ、さらば与えられん。

自分の人生は、自分の力で変えるしかありません。

従業員に対する損害賠償請求11 自損事故の損害に基づく元従業員に対する損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、自損事故の損害に基づく元従業員に対する損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

阪本商会事件(大阪地裁令和3年11月24日・労判ジャーナル121号36頁)

【事案の概要】

甲事件は、Xを雇用していたY社が、Xに対し、XがY社の所有する普通貨物自動車を運転中、自損事故を起こして本件車両を損傷させ、Y社に損害を発生させたと主張して、不法行為に基づき、損害金32万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
乙事件は、Xが、Y社に対し、①XはY社から平成30年4月16日から同年5月15日までの賃金の支払を受けていないと主張して、労働契約に基づき、上記未払賃金27万3310円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②Y社はXの賃金から月額500円ずつ積立金の名目で控除しながら、退職後も上記金員を返還しないと主張して、不当利得に基づき、利得金合計2万6500円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、甲事件については、Y社のXに対する請求を、10万円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、乙事件については、XのY社に対する前記①の請求を、27万3310円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、XのY社に対する前記②の請求を棄却したところ、Y社が敗訴部分を不服として控訴した。
なお、原審は、乙事件におけるXのY社に対する前記②の請求を棄却したが、これに対してXは控訴も附帯控訴もしていないため、上記請求については当審の審理・判断の対象ではない。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件事故により32万円の損害を被っており、本件事故はXによる自損事故であり、その原因は専らXの過失にあることが認められる。
他方、Xは、Y社代表者の運転手を勤めながら、日常的にY社代表者の命じる様々な雑用をこなし、これを通じてY社の業務に従事してY社に貢献していたものであり、かかる事情は、損害の公平な分担の見地から考慮されるべきである。
そうすると、本件の事実関係の下においては、Y社が本件事故により被った損害のうちXに対して賠償を請求し得る範囲は、信義則上10万円を限度とするのが相当であり、Y社がXに対してこれを超える部分の請求をすることは認められないというべきである。

32万円の損害に対して10万円の限定で請求可能と認定されています。

感覚的にはこの程度だろうという相場観を理解しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

本の紹介1285 人生で起こることすべて良きこと#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

戦争や大きな地震で亡くなられる方を見ると、必ずしも素直にタイトルのように考えることは容易ではありませんが。

とはいえ、逆境を乗り越えるために必要なマインドであることに違いはありません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

何が起こったか それが、我々の人生を分けるのではない 起こったことを、どう『解釈』するか それが、我々の人生を分ける」(43頁)

よくこのブログでも紹介する考え方です。

事実それ自体に意味などありません。

事実は事実です。

それ自体が私たちの幸せ、不幸せ、喜怒哀楽に影響を与えているわけではありません。

当該事実をどのように解釈するかこそが、私たちの感情に影響を与えているのです。

つまり、幸せ、不幸せは、客観的な状況から決まるのではなく、純主観的なものだということです。

いかに恵まれた環境にいても、幸せを感じられない人がいることを思い浮かべれば理解できることでしょう。

つまるところ、幸せは探すものでなく、感じるものなのです。

このことに気付けるかどうかが、まさに「我々の人生を分ける」といっても過言ではありません。

決して腐らず、希望を持って前に進むことがとても大切です。

可能な限りポジティブに物事を解釈することで、人生の幸福度を上げることができると確信しています。

解雇367 診療所の閉鎖と合意退職の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、診療所の閉鎖と合意退職の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人一栄会事件(大阪地裁令和3年11月15日・労判ジャーナル121号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する診療所に勤務する歯科医であった原告が、同診療所を閉鎖するとの通知を受けたため退職に同意したが、実際は、同診療所は閉鎖されなかったから、退職同意は錯誤によるものとして無効又は欺罔行為に基づくものであるから取り消したとして、①雇用契約に基づき、(a)雇用契約上の地位確認、(b)退職から本判決確定までの賃金及び各支払期日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めるとともに、②Xが退職した後も管理者の変更届出を怠り、Xを同診療所の管理者としたまま放置し、診療報酬を請求する際にXの氏名を不正に利用したとして、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)+遅延損害金を求める事案である。

【裁判所の判断】

退職同意は無効

【判例のポイント】

1 本件診療所全体の閉鎖であればもとより、仮に、Y社が主張するように本件診療所のうち外来診療のみを閉鎖する場合であったとしても、患者に対する説明やほかの歯科医院への紹介が必要になるほか、訪問診療をb診療所に集約するのであれば従業員の勤務地が変更されることになり、b診療所には集約せず、本件診療所で訪問診療のみを行うこととしたとしても、勤務体制に変更が生じるのであるから、X以外の従業員に対しても、その方針を説明することが必要となる。
しかし、本件において、患者に対して本件診療所の外来診療を閉鎖する旨の説明がなされたことやほかの歯科医院への紹介がなされたことを的確かつ客観的に裏付ける証拠はなく、本件診療所に勤務していたX以外の従業員に対し、本件診療所の廃止について説明したことを認めるに足りる証拠もない。
・・・以上を総合考慮すると、Y社は、本件診療所全体を閉鎖する意図は有していなかったが、Xに対して本件診療所全体を閉鎖する旨の説明を行い、Xは、その説明を信じて、合意退職することとしたことになる。
そうすると、Xが合意退職の前提としていた本件診療所全体の閉鎖という主要な部分が事実と異なっていたことになるから、本件合意退職には、意思表示の瑕疵(錯誤あるいは詐欺)があったといわざるを得ない

2 同期間におけるY社の本件診療所に係る診療報酬請求の内容が、実際は診療を行っていないにもかかわらず診療を行ったものとして報酬を請求する架空請求のように不正なものであったというような事情はうかがわれず、また、本件診療所の診療報酬請求に何らかの不手際があり、その管理者としてXの氏名が報じられたり、Xが保険診療を所管する機関から事情聴取を受けたというような事情もうかがわれない。
そして、Xの供述を前提としても、Xが、自らが管理者として登録されたままであることを認識したのは令和元年5月頃であり、同事実を認識した後も、Y社に対し、管理者を変更するよう求めたことはなく、Xが本件診療所の管理者とされていることでXに何らかの被害が生じたというような事実もなかったというのである。
以上に加えて、事後的ではあるものの、Y社が、本件診療所の管理者の登録を是正していることなど、本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、Y社が、Xの退職後も原告を本件診療所の管理者としたままであったことをもって、Xに、金銭をもって慰謝しなければならない損害が発生したと認めることはできない。

上記判例の判例のポイント1は重要なので、しっかり押さえておきましょう。

退職合意の前提となる事実について錯誤等が存在すると認定されないように、丁寧に説明することが心がけましょう。

退職合意をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1284 お金の科学#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

何回読んでも勉強になる、とてもいい本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

聖書の詩編に次の言葉が書き記されている。『助言のない所で、民が滅びる。助言の多さに安全がある。愚か者の道は、自分の目において正しい。しかし、助言に耳を傾けるものは賢者である』これこそ、偉大な富を入手し、これを保ち続ける人たちの道なのだ。」(362頁)

愚者は経験に学ぶとはよく言ったものです。

愚者の3つの特徴。

1 助言を求めない。

2 助言を求める適切な人がいない(結果、多数の人の意見を聞く)。

3 助言を受けても、結局、聞かない。

私のまわりのうまくいっている経営者の方々の多くは、自分の専門外のことはすべてその分野の専門家に助言を求めています。

下手の考え休むに似たり。

労働時間77 事業場外みなし労働時間制適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、事業場外みなし労働時間制適用の可否に関する裁判例を見てみましょう。

アネビー事件(大阪地裁令和3年11月16日・労判ジャーナル121号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、未払割増賃金として、試用期間中である平成29年9月1日から同年12月10日までの勤務分につき割増賃金元本25万0530円+遅延損害金、並びに平成29年12月11日から平成31年2月10日までの勤務分につき割増賃金元本123万1542円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、21万5712円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、87万4208円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、常時ノートパソコンでY社のサーバーに保存された顧客情報等にアクセスすることができるようにするため、Y社からノートパソコン及びスマートフォンを貸与されていたのであり、Xは、顧客への営業活動や展示会の参加の際に、大阪支社のXの上司に相談したり、Xの上司がXに営業に関する指示をしたりすることもあったはずである。
だとすれば、Xが直行又は直帰する場合であっても、貸与したスマートフォン等により、Xが顧客のもとに到着し、営業活動を始めた時間や、営業活動を終え、顧客のもとを離れた時間を報告させることにより、Xの労働時間を管理することが十分可能であったといえる。
実際にも、Y社は、業務終了後、Xに日報メールを送信するよう指示し、これを直帰した場合のタイムカード代わりに捉え、その送信をもって業務終了と考えていたほか、証拠によれば、原告は、社用車での移動中にスピーカーフォンに切り替え、運転しながら上長に業務の相談や報告をすることもあったと認められ、原告の直帰時の終業時刻を実際に把握していたものといえる。

2 また、Xは、大阪支社に出勤した際には、その日の予定を朝礼で伝えていたものであり、朝礼に出ることができない場合についても、Xは、口頭で上長に翌日は朝から直行する旨や直行先、おおよその帰社時刻を伝えていたものと認められる。また、Xが直行後大阪支社に戻ってきた場合には、Xの上司がその結果を当然に確認するはずであるし、Xは、各案件の進捗状況等を随時案件シートに更新していくよう指示を受け、訪問日時、担当者名、次回訪問予定日、打合せ内容(具体的な会話内容)、案件の進捗状況、決定事項等を入力していたものと認められ、この認定に反する証拠はないのであって、このようなXから伝えられた情報や案件シートの記載内容を参照することによって、Y社は、Xの大まかな労働時間を把握することはできたはずである。
とりわけ、展示会の場合には、展示会の前日に現地に入る場合には、概ね午前9時頃から遊具等を会場に搬入し、大きな会場では午後6時過ぎ頃まで会場設営を行い、その後、翌日午前9時に集合し、午前10時から展示会が始まり、午後6時頃に終了することが多く、展示会の最終日には、閉会後に撤収作業を行い、多くは翌日に搬出作業を行っていたものであって、上司が営業担当者に展示会への参加を振り分けていた以上、Y社は、展示会の日程は当然に把握していたはずであるし、これにXを含む営業担当者が参加する場合には前記のようなスケジュールとなることも把握していたものと推認される

3 以上に加え、社用車を利用して出張する場合、事前に、行先、出発予定時刻及び帰社予定時刻を社内の共有システムに入力して予約することが義務付けられていたこと、レンタカーを利用する場合や新幹線を利用する場合、宿泊を伴う場合は、事前に必要経費を計算して申請し、上司の許可を得ることが義務付けられていたことなどが認められ、これらの事情によれば、Y社は、Xが出張に際して提出する各種申請内容等によっても、Xの行動予定を大まかに把握することができたものといえる。
以上の諸点を総合すると、Xが事業場である大阪支社外で業務を遂行した場合の労働時間をY社が算定することは十分に可能であり、これを算定し難いということはできない
Y社の主張は、要するに労働時間の管理は可能であるが、敢えてこれを行わないというに過ぎず、その他Y社が種々主張するところを踏まえても、前記判断を左右しない。
よって、Xの事業場外での労働につき、労働基準法38条の2第1項の適用があるということはできない。

ご覧の通り、事業場外みなし労働時間制の要件は極めて厳しく判断されるため、同制度を採用することは、非常にリスクが高いといえます。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。