本の紹介2001 夢と金(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

帯には、「お金が尽きると、夢が尽きる。これが真実だ。」と書かれてます。

お金の話に異常なまでにセンシティブな国であるゆえに、この内容はとてもキャッチーです。

言うまでもなく、お金があれば、「できること」、「やりたいこと」の選択肢が増えます。

お金は大事、だということです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

世界中の貧しい地域をたくさん見てきたが、彼らにはお金がなく、あまりにも少ない選択肢の中から将来を選ばなければいけない環境にあった。遠い世界の話じゃない。日本は今、同じ環境に向かっている。とりあえず始められるコトが減り、数少ない選択肢の中から『やりたいこと』を探さなければいけない状況に追い込まれている。『お金がない』『お金の知識がない』『お金を作る選択肢が少ない』・・・。これらがもたらすダメージの大きさを知れ。」(327頁)

真実ですが、この国ではお金の話、お金儲けの話は、タブー視されがちです。

ほとんどの人が、お金の稼ぎ方の教育を受けずに社会に出るわけですから、どうやってお金を稼いだらいいのかは、まさにその人の勉強と実践次第ということになります。

玉石混交とはいえ、必要な情報はインターネットでほぼ入手可能です。

あとはやるかどうか。

本当にただそれだけの違い。

やる前から「大変そう」「面倒くさい」「時間がない」「どうせ無理」・・・

それでは何も変わらない。

有期労働契約119 雇止め後、使用者が動産の撤去等を行ったことが違法として、動産の引渡し、損害賠償請求が認容された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、雇止め後、使用者が動産の撤去等を行ったことが違法として、動産の引渡し、損害賠償請求が認容された事案を見ていきましょう。

学校法人乙ほか(損害賠償請求等)事件(大阪高裁令和5年1月26日・労経速2510号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との労働契約に基づきY社が運院するQ大学の専任講師として勤務していたXが、Y社から労働契約の期間満了による終了の通知を受け、その効力を争っていたところ、Y社らから、Xが占有使用していた研究室の占有を侵奪され、同研究室に置いていたX占有に係る動産も撤去されたとして、
(1)本件研究室を占有し上記動産を所持するY社に対し、①本件研究室の占有権に基づく占有回収として本件研究室の引渡し及び②原判決別紙動産目録記載の本件動産の占有権に基づく占有回収として本件動産の引渡しを求めるとともに、
(2)共同して上記占有侵奪行為をしたY社らに対し、上記占有侵奪行為が違法であるとして、Y2、Y3、Y4については同法709条、719条に基づき、Y2及びY3の使用者であるY社については民法715条1項に基づき、損害賠償として慰謝料100万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審は、XのY社に対する(1)②本件動産の引渡請求を認容するとともに、(2)損害賠償請求を慰謝料5万円+遅延損害金の支払を求める限度で認容したが、その余の請求は棄却した。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、別紙物件目録記載の建物部分を引き渡せ。

2 Y社は、Xに対し、別紙動産目録記載の動産を引き渡せ。

3 Y社らは、Xに対し、連帯して20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが施錠された本件研究室内に相当量の動産を保管して同室を占有していることは容易に想定されていたのであるから、その占有が労働契約に伴い開始されたものであり、仮にその契約がXの主張にかかわらず期間満了により終了したというべきであったとしても、物の所持者が明確に拒否しているにもかかわらず、その占有を奪うことが違法となり得ることは見やすい道理であり(例えば窃盗罪の保護法益は占有である。)、Xが加入していた本件組合やX代理人弁護士らからも事前に同様の警告等を受けていたことを考えれば、Y2及びY3において、弁護士であるY4と相談の上適法であるとの見解が得られたというのみでは、過失がなかったということはできない

2 Y4が、法律専門家である弁護士としてY社による違法な自力救済の実行を容易にした点につき過失があったことは明らかというべきである。なお、Y4が、Y社において本件研究室使用の必要性が高い状況にあり、自力救済も許されるとの誤った判断に至ったものであるとしても、対立するX代理人弁護士らから既に自力救済の違法性を強く警告されていた状況に照らせば、少なくとも、法的手段として、いわゆる明渡断行の仮処分命令の申立て(民事保全法23条2項)が検討対象となるべきであったと考えられるが、Y4が、Y社に対して、そのような提案をしたことがないことはもとより、検討を行ったことを窺わせる事情すらない。
したがって、Y4が、弁護士として代理人の立場で関わったにとどまるとしても、Y4もまた、本件動産の撤去行為等を幇助したものとして、民法719条2項に基づき、共同不法行為者とみなされ、他の3名と連帯してXに対する損害賠償責任を負うというべきである。

冷静に考えればわかることかと思いますが、その場の雰囲気から突発的に不適切な判断をしてしまうことは否定できません。

しっかり法的手続きをとるということが大切です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

本の紹介2000 あなたの経験には意味がある(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から13年前に出版された本ですが、再度、読み返してみました。

経験の意味をどのように解釈するかで人生が決まります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生は選択の連続です。そして、あなたの明日は、今日の選択の結果が作り出します。そして、今あなたが今の場所にいるのも、過去の選択の結果です。人生のすべての責任を自分で負う、と決めて、そのために、すべての選択を、意識的に行うと決めるだけで、人生はがらりと変わります。」(178~179頁)

いつもこのブログで書いていることですね。

まさにこのとおりです。

毎日の小さな選択のちりつもの結果が今の自分です。

そして、5年後、10年後の自分は、今日からの小さな選択の集積によりつくられます。

自分の商品価値を高める選択をするか否か。

自分の思い描く人生を歩めるか否か。

すべては自分の日々の選択次第。

労働者性52 労災保険法上の労働者該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労災保険法上の労働者該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

国・横浜西労基署長事件(大阪地裁令和4年12月21日・労判ジャーナル133号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が請け負った太陽光発電パネル設置工事作業等に従事していたXが、Y社の労働者として上記作業等に従事したことによりうつ病を発病したと主張して、横浜西労基署長に対し、労災保険法に基づく療養補償給付の請求をしたところ、同署長が、XがY社の労働者には当たらず、かつ、上記精神障害の発病はY社の業務上の事由によるものにも当たらないとして、これを不支給とする旨の処分をしたため、Xが、国を相手として、本件処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社からの仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由を有しており、本件工事での作業等の方法について一定の裁量が認められ、Y社から業務遂行上の具体的な指揮監督を受けてもいなかったものであり、勤務場所及び勤務時間については指定されていたものの、これらの事情が使用従属性を強く裏付けるものとは評価できず、労務提供の代替性もあったものであって、これらを総合すれば、労務提供の形態の面で、XがY社の指揮監督下に置かれていたものとは評価し難く、また、報酬についても、基本部分や「早出」及び「残業」名目での支払は、労務対償性があることを示すものといえる一方で、管理費名目で利益分配も受けており、必ずしも使用従属性を強く補強する程度に労務対償性があるとまではいえず、さらに、その他の事情についてみても、Xは、本件工事での作業に使用する道具を一部自ら調達し、作業検収書の作成及び提出やY社への請求書の送信に際して自らが設立したA興業の名義を使用し、請求に当たって消費税を加算し、その支払いを受けるなど、本件工事の作業等を受注したのが、自らが設立したA興業であってその契約関係は雇用ではなく請負であるとの認識を有しているものと推認されることなどから、XがY社の指揮監督の下でY社に使用されてY社に対して従属的に労務を提供し、その対価としてY社から賃金を支払われていたと評価することは困難というべきであって、Xが労災保険法上の「労働者」には当たるということはできない。

労働者性が争点となる事案では、100:0のようなわかりやすいケースはほとんどありません。

総合考慮によるため、雇用と請負のどちらの色が濃いかを見ていくことになります。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介1999 チェンジ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から7年前に出版された本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「人生のピンチは考え方を変えればチャンスになる!」です。

すべては評価ですからね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

きっと、多くの人は『自分がやらなくてもいいこと』をあまりにもたくさん押し付けられています。単純な事務作業など、誰がやっても同じ結果になることは『やるべきこと』ではありません。誰もが『自分がやるべきこと』だけに集中できれば、きっと働く人たちの幸福度も上がり、企業の力も高まるのではないかとさえ思います。」(197~198頁)

これはもう何十年も前から言われていることです。

多くの方が、とにかく日々、雑務に追われており、肝心なことに時間を割けないのです。

気付いたら1日が終わり、1週間、1か月、1年が終わってしまう。

時間がなさすぎて、自己投資もへったくれもない状況ではないでしょうか。

すべては自分の選択の集積が今の自分を作り上げているので、環境を整えるのも、時間配分もすべては自分次第です。

とはいえ、1度作り上げられた環境を変えるのは至難の業です。

「最初が肝心」、つまり、20代、30代前半における選択が極めて重要だと言われる所以です。

賃金253 中退共に基づく退職金から社内規定に基づく退職金額を控除した差額を会社に支払う旨の合意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職金の差額分返還請求と損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

タイムス物流事件(大阪地裁令和4年12月22日・労判ジャーナル133号22頁)

【事案の概要】

本件は、貨物の輸送等を業とするY社に勤務し退職したXが、独立行政法人勤労者退職金共済機構との間で締結していた、中小企業退職金共済法に基づく退職金共済契約に基づいて、機構から退職金の支払いを受けたところ、本訴において、Y社が、Xとの間で、Xが機構から受け取る退職金からY社の社内規定に基づく退職金額を控除した差額をY社に対して支払う旨の合意を締結したと主張して、Xに対し、同合意に基づき、同差額である約113万円等の支払を求め、反訴において、本訴の提起が、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く行為であるとして、Xが、Y社に対し、不法行為に基づき、本訴に対応するための弁護士費用である11万円の損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求棄却

【判例のポイント】

1 中小企業退職金共済法の定め等によれば、同法は、従業員の福祉の増進と中小企業の振興という同法所定の目的を達するため、従業員が、事業主を介することなく、直接、機構から原則として同法の定める額の退職金を取得する仕組みを設け、国は、掛金の助成や事業主に対する税制における優遇といった、通常の退職金制度では認められない措置を講じるものとしているところ、従業員が、機構から受け取る同法所定の退職金と事業主があらかじめ定めた額との差額を、事業主に対して返還する旨の合意の効力について検討すると、同同意は、使用者である事業主が、労働者である従業員に対し、実質的に、退職金請求権の一部を譲渡することを義務付け、中小企業退職金共済法10条5項の要件を満たさないのに、これが適用された場合と同様の結果をもたらすことを可能とするものといえ、また、同合意は、事業主が、同法の規定する退職金額よりも低い水準の退職金制度をもうけながら、中退共を利用することによって、国から、より高い水準の退職金の支給を前提とした掛金の助成を受け、自ら運営する退職金制度では得られない税制面の優遇を受けることを可能とするものといえるから、中退共退職金返還合意は、中小企業退職金共済法1条、10条5項及び同法20条等の趣旨、目的に著しく反するものであって、民法90条により、無効であると解すべきである。

中退共を利用されているみなさんは、是非、この裁判例を理解しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1998 マネー・コネクション#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

この本に書かれていることを愚直に行えば、ビジネスでの成功確率は飛躍的に上がると思います。

とはいえ、愚直に行える人は、全体の1%でしょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

すべてが整うまで待っていてはいけません。完璧になることなどありえないのです。挑戦、障害、完璧とはいえない状況は、いつでも存在します。だから何なのでしょう?今すぐ始めてください。一歩進むごとに、あなたはさらに強くなり、スキルを高め、自信を持ち、成長していくことでしょう。」(273頁)

挑戦しても、成功は保証されていませんが、成長は保証されています。

リスクばかりに気を取られていては、何もできません。

トライしてみる勇気と、やり続けるしつこさがあれば、たいていのことはうまくいきます。

昨日と同じ今日を漫然と過ごしていては、年を重ねるごとに沈んでいきます。

1年前と比べてどれだけ自分の商品価値を上げられたでしょうか。

社会、政治、経済、会社、上司、環境のせいにしたところで、状況は1ミリも好転しません。

自分の商品価値を高めるために、日々、トライし続ける。

やっている人はやっている。

やり続けている人は、ほんの一握り。

解雇394 新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、新型コロナウイルスの影響による整理解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

ジャパンホリデートラベル事件(大阪地裁令和4年12月15日・労判ジャーナル133号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XがY社からされた整理解雇は無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることを求めるとともに、労働契約による賃金支払請求権に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって営業面で壊滅的な打撃を受ける一方で、そのままでは毎月約1億円の人件費及び管理費の支出が続くのであって、本件解雇の時点において、Y社が人員削減によって業務全般に支障を来す部署を除いて各部署の4割から5割程度の人員削減を行ったことは、企業経営上のやむを得ない措置といえ、人員削減の必要性に欠けるところはなく、また、Y社は、管理費の削減を行いながら、休業や雇用調整助成金の利用、希望退職の募集等を順次実施しているのであるから、解雇回避に向けた措置を講ずるという信義則上の義務を果たしたものといえ、さらに、経理部においては、①会計伝票の登録数によって仕事量を比較し、②簿記資格の有無又は資格取得に向けた姿勢の有無によって専門性の高さを比較し、その上で、③他の従業員により代替困難な業務に従事していない者を整理解雇の対象としており、これらは経理部内における業務に関連する指標を用いて被解雇者を選定するものであって合理的なものであるといえるところ、Xは、①会計伝票の登録数は本部長であるCを除くと最も少なく、②本件解雇時において簿記資格を有せず、③Xの業務内容は代替困難な業務ではないから、XはY社の設定した選定基準に沿うと被解雇者に該当するのであって、人選の合理性に欠けるところはなく、そして、Y社は、人員削減に至る経緯と必要性に加えて、希望退職の時期・規模・方法について適時に周知をした上で、Xを含む従業員に対して必要な説明を行っているのであるから、解雇手続は相当なものであるといえるから、本件解雇は、適法な整理解雇であるといえる。

整理解雇の有効要件(要素)は、とても厳格に判断されますが、上記の事情が認められる場合には、さすがに裁判所も有効と判断してくれます。

押さえるべきポイントをしっかり押さえることが大切です。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1997 ニホンという滅び行く国に生まれた若い君たちへ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

タイトルだけで買ってしまう系の本です。

帯には「君たちはニホンという国ができて以来、最も過酷な時代を生きなくてはならないのだ・・・」と書かれています。

小論文の勉強にいいと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ニホンの学校は自分の頭で考えることを教えません。学校で行われることは、公務員が作ったカリキュラムであって教育ではないのです。そしてそれは国とマスコミの言うことを信じさせるための教育要綱ですから、大人になっても分析的に判断することができないのです。」(174頁)

残念ながら真実です。

そりゃ論理的な思考が苦手なわけです。

自分の意見を持たず「多くの人がそうするから」という理由で物事を判断する。

目立たないように、批判されないように。

もっと自由に、生きたいように生きればいいのに。

賃金252 時間外労働手当の定額払いの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、時間外労働手当の定額払いの有効性に関する最高裁判決を見ていきましょう。

熊本総合運輸事件(最高裁令和5年3月10日・労判ジャーナル133号2頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、トラック運転手として勤務していたXが、Y社に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金並びに付加金等の支払を求める事案である。

原審(福岡高裁令和4年1月21日判決)は要旨、次のように述べて、弁済により賃金の未払はなくなったなどとして、Xの各請求を棄却した。
本件割増賃金のうち調整手当については、時間外労働等の時間数に応じて支給されていたものではないこと等から、その支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたということはできない。他方、本件時間外手当については、平成27年就業規則の定めに基づき基本給とは別途支給され、金額の計算自体は可能である以上、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができる上、新給与体系の導入に当たり、Y社から労働者に対し、本件時間外手当や本件割増賃金についての一応の説明があったと考えられること等も考慮すると、時間外労働等の対価として支払われるものと認められるから、その支払により同条の割増賃金が支払われたということができる。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、上記方法以外の方法により算定された手当を時間外労働等に対する対価として支払うことにより、同条の割増賃金を支払うことができる。そして、使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。
雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべきである。その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである(以上につき、最高裁平成30年7月19日判決、最高裁令和2年3月30日判決)。

2 新給与体系の下においては、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される本件割増賃金の総額のうち、基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条等に定められた方法により算定された額が本件時間外手当の額となり、その余の額が調整手当の額となるから、本件時間外手当と調整手当とは、前者の額が定まることにより当然に後者の額が定まるという関係にあり、両者が区別されていることについては、本件割増賃金の内訳として計算上区別された数額に、それぞれ名称が付されているという以上の意味を見いだすことができない
そうすると、本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものといえるか否かを検討するに当たっては、本件時間外手当と調整手当から成る本件割増賃金が、全体として時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かを問題とすべきこととなる。

3 Y社は、労働基準監督署から適正な労働時間の管理を行うよう指導を受けたことを契機として新給与体系を導入するに当たり、賃金総額の算定については従前の取扱いを継続する一方で、旧給与体系の下において自身が通常の労働時間の賃金と位置付けていた基本歩合給の相当部分を新たに調整手当として支給するものとしたということができる。
そうすると、旧給与体系の下においては、基本給及び基本歩合給のみが通常の労働時間の賃金であったとしても、Xに係る通常の労働時間の賃金の額は、新給与体系の下における基本給等及び調整手当の合計に相当する額と大きく変わらない水準、具体的には1時間当たり平均1300~1400円程度であったことがうかがわれる。一方、上記のような調整手当の導入の結果、新給与体系の下においては、基本給等のみが通常の労働時間の賃金であり本件割増賃金は時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、Xに係る通常の労働時間の賃金の額は、19か月間を通じ、1時間当たり平均約840円となり、旧給与体系の下における水準から大きく減少することとなる。
また、Xについては、上記19か月間を通じ、1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される本件時間外手当をも上回る水準の調整手当が支払われていることからすれば、本件割増賃金が時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系が導入されたこととなる
しかるところ、新給与体系の導入に当たり、Y社からXを含む労働者に対しては、基本給の増額や調整手当の導入等に関する一応の説明がされたにとどまり、基本歩合給の相当部分を調整手当として支給するものとされたことに伴い上記のような変化が生ずることについて、十分な説明がされたともうかがわれない
以上によれば、新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。
そして、前記事実関係等を総合しても、本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない以上、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなるから、被上告人の上告人に対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。
したがって、Y社のXに対する本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

有名な最高裁判決です。

振り分け方式に基づく賃金体系については、今後は採用しにくくなることは明らかです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。