本の紹介1892 キーエンス解剖 最強企業のメカニズム(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

売れに売れている本ですが、最強企業がいかにして最強企業になったかがよくわかります。

わかることとできることの違いを再認識できると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・だが『普通じゃない』と感じる部分があった。仕組みをつくったら、その仕組みが役立つように本気で運用を徹底するという、『最後の数センチメートル』の差だ。一言でいえば、手を抜かないのだ。そして、全員がそれをやる。・・・『当たり前のことを当たり前にやる』ー。キーエンスの社員やOBはよくこう表現するが、この『当たり前』の設定値と徹底度が高い。」(243~244頁)

Easier said than done.

キーエンスに限らず、あらゆる分野において、そのまま当てはまる普遍の真理です。

「こうやれば結果が出ます」ということを知ることは、この時代、とっても簡単です。

問題は、それをやり続けられるかどうかです。

ただそれだけの違いです。

解雇388 無断欠勤等を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無断欠勤等を理由とする解雇の有効性について見ていきましょう。

キョーリツコーポレーション事件(大阪地裁令和4年9月16日・労判ジャーナル131号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、無断欠勤等を理由とする解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、本件解雇前の未払賃金等の支払を求め、XはY社のために時間外労働に従事したにもかかわらず、Y社は労働基準法37条所定の割増賃金を支払わないと主張して、未払割増賃金及び同法114条に基づき付加金等の支払を求めるとともに、XはY社の違法な業務命令により精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、損害金合計55万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払割増賃金等一部認容

【判例のポイント】

1 令和2年5月10日までの期間について、同年4月ないし同年5月頃の社会情勢に鑑みれば、Y社が、頭痛、けん怠感、発熱等の新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる症状を発症していたXに対し、感染のおそれが払拭され、体調が万全に回復するまで休業するよう指示したことについて、何らY社に責められるべき点はなかったというべきであり、また、同日以降の期間について、Xの主たる業務は、外回りを含む営業活動であるところ、この当時は、初の緊急事態宣言が発出されているまさにその期間中であり、一般市民及び私企業に対する行動の自粛も求められていたところであるから、Y社としては、微熱とはいえ、発熱が見られる状況にあったXを不特定多数人と接触する可能性の高い外回りの営業に従事させることが躊躇われる状況にあったことは明らかであるから、Xに外回りの営業を担当させなかったY社の判断は、何ら責められるべきものではなかったというべきであり、本件に関し、Y社の責めに帰すべき事由による就労拒否があったものと評価することはできない

2 Xは、取得することのできる有給休暇の日数を全て取得し終えた後もC営業所に出勤せず、また、X代理人を通じて職場復帰の意思を伝えたり、職場復帰のための条件を確認したりすることさえ一切せず、Y社はXに対して「コロナウイルス感染の恐れがなければ元通り業務に復帰していただきたい」との記載のある本件回答書を送付し、Xの復帰を歓迎する旨の連絡をしていたにもかかわらず、Xは、職場復帰に向けられた行動を何ら起こさないまま欠勤を続けていたのであって、上記期間におけるXの欠勤には正当な理由がないものといわざるを得ないから、Xには、就業規則所定の解雇事由(正当な理由がない欠勤が多く、労務提供が不完全であると認められるとき)があったものと認められ、また、Y社は、本件解雇に先立ち、X代理人に対し上記回答書を送付したものの、その後、約1か月半にわたり、Xからは何らの応答もなく、Y社において、これ以上、Xとの間の本件労働契約を維持することは相当でないと考えるに至ってもやむを得ないというべきであり、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものとはいえない。

結論には異論がないと思います。

本件同様、無断欠勤を理由とする解雇事案においては、「無断」といえるか否かが争点となるケースがあります。この点は、過去の裁判例を参考に慎重に対応する必要がありますので気を付けてください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1891 お客さまの「特別」になる方法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から12年前の本ですが、再度、読み返してみました。

何を買うかも大切ですが、誰から買うかも同じくらい大切です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

この『あなたから買いたい』という動機が生まれることに、いかなる要素が影響を与えるのかを私は考え、実践し、研究を続けてきた。何があれば『あなたから』となるのか。どんなことをすれば、お客さんのこの気持ちを獲得できるのか。そして至った一つの結論、『あなたから』のカギがある。それが『絆』である。」(43頁)

では、この「絆」は何から生まれるのでしょうか。

人口減少社会においては、顔の見えない売り手・買い手の大量売買を前提とする商売はなかなか厳しくなっていくでしょう。

目指すは、多数の希薄な関係よりも少数の濃密な関係。

価格競争とは無縁の世界です。

賃金248 在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案を見ていきましょう。

ITサービス事業A社事件(東京地裁令和4年11月16日・労経速2506号28頁)

【事案の概要】

Xは、令和2年5月、ITソフト開発やSES等の事業を行うY社との間で、労働契約を締結した。同契約書には、就業場所について「本社事務所」と、賃金月額(40万円)には「毎月45時間分のみなし残業」が含まれる旨の記載があった。
Xは、令和3年3月3日まで自宅でリモートワークを行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであった。Xが自宅で業務を行っている際には、Slackのダイレクトメッセージ機能を用いて、他の従業員との間でやりとりをしていたが、そのやりとりには、Y社代表者を揶揄する内容が含まれていた。
Xが本件やり取りを行っていたことが判明したことから、Y社代表者は、令和3年3月2日、Xに対し、Xを同月4日から出勤停止1か月等とする懲戒処分を通知するとともに、「管理監督の観点からリモートワーク禁止とする」旨を通告し、同月4日以降のY社の事務所への出勤を求めた(なお、懲戒処分は後に保留とされた。)。
Y社は、令和3年2月分の賃金については、Xの労務提供があったにもかかわらず、その一部(5万7144円)を支払っていない。また、同年3月分以降の賃金については、Xの欠勤を理由に同月分として3万8095円のみを支払った。
Xは、Y社の違法な懲戒処分等によって労務を提供できなかったと主張して、民法536条2項に基づき、令和3年から同年4月4日までの未払賃金等の支払いを求めて提訴した。

これに対し、Y社はXが報告していた勤務時間に虚偽報告等があると主張して、賃金規程6条に基づき、不就労時間分の賃金の返還を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、5万7163円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、40万円+遅延損害金を支払え

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件労働契約に係る契約書には、その就業場所は「本件事務所」とされているものの、Y社代表者自身が、①デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、②リモートワークが基本であるが、何かあったときには出社できることが条件である旨供述していること、③現に、Xは、令和3年3月3日まで自宅で業務を行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであり、Y社もそれに異論を述べてこなかったことからすると、本件労働契約においては、本件契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則としてXの自宅とし、Y社は、業務上の必要がある場合に限って、本件事務所への出勤を求めることができると解するのが相当である。

2 たしかに、Xは他の従業員との間で、本件やり取りも含め、必ずしも業務に必要不可欠な会話をしていたわけではないことは認められるものの、Y社が提出する証拠によっても、その時間が、Y社が主張するような長時間であるとは認められず、これにより業務に支障が生じたとも認められない。また、一般にオンライン上に限らず、従業員同士の私的な会話が行われることもあり、本件やり取りの内容は、Y社代表者を揶揄する内容が含まれる点でY社代表者が不快に感じた点は理解できるものの、そのことを理由に、事務所への出社を命じる業務上の必要性が生じたともいえない
これに加えて、Y社代表者は、令和3年3月2日午後3時24分にXに対し、メールを送った後、Xとの間で、メール上で、本件やり取りの当否をめぐって、お互いを非難しあう中で、Xの反省がないことを理由にその5時間後に本件懲戒処分とともに、本件出社命令を発したものであり、そのような経緯を踏まえると、本件の事情の下においては、本社事務所への出勤を求める業務上の必要があったとは認められない。
そうすると、Y社は、本件労働契約に基づき事務所への出社を命じることができなかったというべきであって、本件出社命令は無効であるといえる。

使用者側の判断・対応には共感しますが、裁判所の判断は上記のとおりです。

リモートワークを主たる働き方として採用している会社の経営者のみなさんは、上記判例のポイント1をしっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1890 勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から13年前の本ですが、再度、読み返してみました。

飲みにケーションが死語になりつつある昨今、このタイトルの意味がわかるZ世代がどれほどいるでしょう。

まあ、好きにすればいいですけどね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

これは人間の素直な感情であって、やはり理屈ではないし、エコ贔屓でもなんでもない。私は、そういった思わず応援したくなるような人間のことを、『かわいげ力のある人間』と呼んでいます。そして、若い人には『かわいげ力を身につけろ』とつねづね言っています。」(68頁)

特に力がない若いうちはこの「かわいげ力」の有無がとても重要な要素になります。

まさにIQより愛嬌なわけです。

著者も若い人には「かわいげ力を身につけろ」と言っているそうですが、まあ、ただ、正直なところ、実際にかわいげのある人を見る限り、努力によってなんとかなるものではないような気もします。

かわいげがある人は、もともとかわいげがあって、もはや無意識のレベルでそのかわいげ力を発揮しているように思います。

労働時間91 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効とされた事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日・労経速2506号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、61万0134円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金61万0134円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について「原則として」4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現にXが勤務すしていたQ1店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすとY社が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定していたものとはいえず、同法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足するものではない

2 Y社は、全店舗に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能であり、各店舗において就業規則上の勤務シフトに準じて設定された勤務シフトを使った勤務割は、就業規則に基づくものであると主張する。
しかし、労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、変形期間を平均し週40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず(通達)、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない
加えて、労働基準法32条の2第1項の「その他これに準ずるもの」は、労働基準法89条の規定による就業規則を作成する義務のない使用者についてのみ適用されるものと解される(通達)から、店舗独自の勤務シフトを使って作成された勤務割を「その他これに準ずるもの」であると解することはできない。
よって、Y社の定める変形労働時間制は無効であるから、本件において適用されない。

管理監督者性に関する別の日本マクドナルド事件同様、他の従業員への波及効果が大きいですね。

シフト表で事前に出勤日を管理するだけでなく、就業規則上でも特定をする必要があることをしっかりと押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介1889 群れない力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から10年前の本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「『人付き合いが上手い人ほど貧乏になる時代』における勝つ人の習慣」です。

要するに、人付き合いはほどほどに。付き合う人は選びましょう。

ということです。

八方美人ではいくら時間があっても足りません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

本来誰もが、好きなことに好きなだけ打ち込む権利というものを持っているんです。しかし、人と違ったことをやるのはいけないことだ、一人でいるのはよくないことだ、と学校教育から社会にでてまでずーーーっと洗脳され続けているがために、いつの間にか好きなことに打ち込むことをあきらめてしまうのです。そしていつしか、自分が何が好きであったかさえ忘れてしまうのです。」(227頁)

まさに今の日本そのものです(笑)

教育の賜物です。

個性の「こ」の字も育つはずのない社会において、ある日突然、個性を求めても無理な話です。

嫌われないこと、批判されないこと、目立たないことこそが、この国の多くの人にとっての美徳なのですから。

いつでもどこでも人の目を気にして、顔色を窺い、多数意見に寄り添う。

まさに付和雷同そのものです。

いつまでたってもマスクを外せないわけですよ。

感染予防ではなく批判予防ですから。

退職勧奨20 懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、原則として不法行為を構成するとはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、原則として不法行為を構成するとはいえないとされた事案を見ていきましょう。

A病院事件(札幌高裁令和4年10月21日・労経速2505号45頁)

【事案の概要】

本件は、①Y社事務部長は、Xの勤務先病院の人事を統括する者として、Xに対し、社会通念上相当と認められる限度を超えた退職勧奨を行い、②Y社主任科長は、Xの所属部署の上司として、Xに関する虚偽の非違行為の情報をY社事務部長等に提供するなどして違法な退職勧奨をさせた旨主張するXが、Y社らに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料の一部である600万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審はXの請求を棄却したところ、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、労働者に対して懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、労使の立場が対等ではないことや懲戒処分が労働者に与える不利益が大きいことから、労働者の退職の意思決定の自由に制約を及ぼす可能性が高く、原則として、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱し、不法行為を構成すると考えるべきである旨主張する。
 しかしながら、そもそも退職勧奨自体は当然に不法行為を構成するものではないし、仮に労働者に対して懲戒処分の対象となる旨を告知した上で退職を勧奨する場合であっても、それが、例えば、解雇事由が存在しないにもかかわらずそれが存在する旨の虚偽の事実を告げて退職を迫り、執拗又は強圧的な態様で退職を求めるなど、社会通念上自由な退職意思の形成を妨げる態様・程度の言動をした場合に当たらなければ、意思決定の自由の侵害があったとはいえず、かえって、当該労働者としては、懲戒処分の当否を争うのか否か、すなわち、懲戒処分を受ける危険にさらされることと自主退職してこれを避けることとの選択をする機会を得られるという利益を享受することができる場合もあるといえる。そうすると、懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨が原則として不法行為を構成するということはできないというべきである。

2 Xは、Y社事務部長がXに対して自主退職しなければ解雇を含む何らかの懲戒処分がされる旨を告げたと認定すべきであり、懲戒権を背景とした退職勧奨をしたから、Y社事務部長による退職勧奨行為は不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら、Y社事務部長はXに対して処分の内容等をいまだ検討中であるという旨を告げたにとどまり、虚偽を告げてXを誤信させるなどXの意思決定の自由を侵害したとはいえない。Xが(懲戒)解雇となることを恐れる旨の発言をし、Y社事務部長がこれを否定しなかったことは認められるものの、Y社事務部長がXの誤解を招く言動をしたとはいえず、Xが自らそのような危惧感を持ったにすぎない。

上記判例のポイント1は重要ですので、是非、しっかりと押さえておきましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1888 エースと呼ばれる人は何をしているのか#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

著者は、ダンスプロデューサー・指導者の夏まゆみさんです。

帯には「芸能人も、ビジネスマンも、成功する人はみんな、同じことをやっている。」と書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『こんないやなことがあったんです』という、『相談にみせかけた愚痴』です。若いアイドルたちならまだしも、いい歳をした大人から相談があると言われたときは、『相談にはもちろんのるけれど、私は建設的なことしか話したくないから、愚痴なら聞かないよっ』とハッキリ申し上げるようにしています。愚痴や恨みごとを聞かせるのは、不幸を配るのと同じことです。」(185頁)

これだけ窮屈で生きづらい社会ですから、愚痴や恨みごとの1つや2つ言ったところでバチはあたりません。

そうやって息抜き、ガス抜きをして、また明日からがんばるわけですから。

とはいえ、息抜き、ガス抜きはお互いに愚痴や恨みごとがある者同士でやるべきです。

いわゆる「お互い様」が成り立ちますので。

「相談にみせかけた愚痴」は多くの場合、お互い様が成り立たないため、聞き手からすると「時間泥棒」以外の何物でもありません。

相手を選んで愚痴りましょう。

賃金247 年俸制において、一方的な固定残業代の減額が年俸額決定権の濫用にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、年俸制において、一方的な固定残業代の減額が年俸額決定権の濫用にあたるとされた事案を見ていきましょう。

インテリム事件(東京高裁令和4年6月29日・労経速2505号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で本件労働契約を締結し、退職するに至ったXが、次の(1)のとおり、Y社に対し、本件賃金減額①ないし③について、本件労働契約に基づく未払賃金の支払請求をし、また、次の(2)のとおり、Y社及びY社の代表取締役であるY1に対し、Xを医薬品の延慶担当から外したことや、Xを退職にまで至らせたこと等について、不法行為による損害賠償請求等をする事案である。
(以下略)

原審は、本件労働契約に基づく賃金請求等につき、本件賃金減額①、③に係る賃金の減額は違法・無効であるとしつつ、みなし手当の減額については、労働者であるXの同意等がなければできない通常の賃金の減額には当たらないから、違法ではないとして、その差額分の賃金請求は認められないなどと判断した。
また、原審は、不法行為による損害賠償請求等については、一部認められるが、その余の各請求は認められないと判断した。
Y社らがその違法な行為によりXを退職せざるを得なくさせたことは不法行為に当たるが、その損害額は、66万円であると判断をしている。

【裁判所の判断】

1 原判決のうち、XとY社らに対する部分を次のとおり変更する。
2 Y社らは、Xに対し、連帯して33万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、39万円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、75万円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、45万円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、Xに対し、43万円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、Xに対し、10万4032円+遅延損害金を支払え。
8 Y社は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。
9 Y社らは、Xに対し、連帯して110万円+遅延損害金を支払え。
10 Y社らは、Xに対し、連帯して66万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 固定残業代として支払う旨合意されていたと認められる、14期のみなし手当(月額22万円)は、年俸960万円(月額80万円)に含める旨の合意がされていたことが認められる。このように、本件労働契約に係る年俸制の合意の内容は、職務給と同様に、みなし手当もその一部に含めるものであったというのであり、そうである以上、このような、みなし手当を減額できるのは、職務給の減額の場合と同様、Y社に最終的な年俸額決定権限を付与した本件賃金規程の定めに基づいて初めて可能であったものというべく、時間外労働等に従事していた時間がみなし手当で定められている時間より実際には少ないなどの理由から、Y社において自由に減額することはできない性質のものであったというべきである。
・・・Y社が本件賃金減額①を行うに当たって、合理的で公正な評価や手続を履践したとは認められず、Y社は、合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、年俸額決定権限を濫用してXの15期の年俸を決定したものと認められる。そうすると、本件賃金減額①については、固定残業代月額3万8000円分の減額についても、違法・無効なものと解するのが相当である。

2 たとえ割増賃金の支払方法について、様々な方法が許されるとしても、本件みなし手当は、本件労働契約において年額960万円として合意されていた年俸の一部を構成するものと位置付けられていたのであるから、これは、基本給の一部を構成する場合と同様に捉えられるものである。それにもかかわらず、Y社は、このような性質を有する「みなし手当」を、合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、年俸決定権限を濫用して本件賃金減額①ないし③を行ったものであるから、このような一方的な減額は、許されないものといわなければならない。

個人的には、使用者側からするとあえて年俸制を採用するメリットはほとんどないように思います。

年俸制を採用している会社では、残業代に関するいくつかの特殊な問題がありますので、事前に必ず顧問弁護士に相談をして対応しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。