メンタルヘルス13 主治医により復職可能との診断はされたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、主治医により復職可能との診断はされたが、産業医との面談結果等から復職が認められなかった事案を見ていきましょう。

ホープネット事件(東京地裁令和5年4月10日・労経速2549号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して主に営業職として就労していたXが、双極性感情障害を発症して平成30年9月1日からY社を休職していたところ、Y社から、就業規則で定められた休職期間の満了を理由に令和2年3月31日をもって自然退職したものと取り扱われたことにつき、上記の双極性感情障害は、職場でパワーハラスメントを受けたことによるストレスに起因して発症した業務上の疾患である上、令和2年3月31日時点において、休職前に従事していた通常の業務を遂行できる程度にまで回復し、あるいは、復職後ほどなく回復する見込みがあったほか、休職前の業務以外の他業務であれば復職することは可能であったから、休職期間の満了を理由に原告を退職扱いとしたY社の措置は無効であり、また、Y社による上記の措置及び職場におけるパワーハラスメントはXに対する不法行為を構成し、これにより精神的苦痛を被ったと主張し、Y社に対し、(1)雇用契約に基づき、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②令和2年5月から本判決確定の日までの毎月25日を支払日とする賃金月額52万6000円+遅延損害金の支払、③令和2年5月から本判決確定の日までの毎年3月28日を支払日とする賞与24万3000円、毎年6月8日を支払日とする賞与41万3100円、毎年12月10日を支払日とする賞与37万3000円+遅延損害金の支払、(2)不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円及び弁護士費用150万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、令和2年2月21日の診察時に、C医師から症状の改善を認めるため同年3月1日より復職可能と判断できる旨の診断がされている旨を主張する。
この点、C医師により上記の旨が記載された本件診断書が作成されているものの、Xについては、同年3月時点においても、本件傷病に対する治療内容や処方内容等に特段の変化は見受けられず、多剤投与が続いていたことからすれば、通院当初から継続して行われている治療が継続されている状態にあったものと解されるのであって、Xが休職期間の満了後である令和2年5月22日に河内クリニックを受診した際にG医師からあらためて「躁うつ病」と診断されたことも上記の判断を裏付けるものである。
また、C医師は、同年3月から復職が可能であると判断した理由について、本人が働けるかどうかを一番分かっているので、復職を希望するXの言葉を聞いて同日から復職可能であると判断し、ただ、いきなりフルタイムということはあまりないので労務軽減を要する旨の診断をしたことが認められ、特にXの従前の就労状況や担当業務を踏まえて復職可能という判断をしたものではないことがうかがわれる
かかる諸事情に加え、Xにおいて、当初復職を目指していた令和2年3月1日の直前である同年2月の時点でも、復職に向けた取組は何ら行われていなかったことや双極性障害の治療において重要とされている生活リズムのコントロールが十分に図られていなかったことなどの事情も併せると、C医師の本件診断書に係る意見が、Xが未だ治療途上にあり復職できるほどに回復した状況にあったとはいい難い旨のD医師の意見を超える有意性を有するとまでは認め難いものといわざるを得ない。したがって、Xの上記主張は採用することができない。

2 Xが「最初の1か月間は午前中のみの勤務とし、労務軽減した形での復職が望ましい。」と記載された本件診断書を被告に提出したことをもって、配置される現実的可能性がある他の業務について労務の提供を申し出ていたものと解する余地もあるため、さらに検討するに、Y社は、令和2年4月期において672人の従業員を擁していたが、実質的には、そのほとんどはY社の取引先である派遣先への派遣が予定されている者、あるいは現に派遣先に派遣されている者であって、Y社の本来業務に従事している従業員(派遣先へ派遣されている者及び派遣予定の者を除いた従業員)は54人程度であったこと、Y社の事業内容は人材派遣業及びそれに関連する事業が主体であることが認められるから、Y社が多様な職種や業務部門を有していたとまでは認め難い。
また、平成30年10月に株式会社bの完全連結子会社となり、令和2年3月当時も○○グループの一翼を担っていたが、Y社と株式会社bとの間、あるいはY社と○○グループの他の企業との間で人事交流や異動等がされるということはなかったことがうかがわれる。
加えて、令和2年3月時点でXの本件傷病は未だ治療中であり、当該時点において本件傷病が復職後ほどなく軽快することが見込まれていたとは認め難いところ、本件全証拠を子細にみても、令和2年4月時点で存在したY社の業務部門の中で、Xが休職原因となった本件傷病(双極性障害)を有する状態のまま就労可能な業務密度や業務量の少ない業務や部署が現に存在したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

主治医と産業医で復職の可否に関する意見が割れることは決して珍しいことではありません。

このような場合、会社としてはどのように判断すればよいのか悩むところだと思います。

本件では、産業医の意見が採用されましたが、事案によっては主治医の意見が採用されることもあります。事案によるわけです。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

本の紹介2125 最高のキャリアを作る10のルール#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

著者は、32歳でオバマ前大統領首席補佐官代理を務めた方です。

プロとしての厳しさ、意識の高さを学ぶにはとてもいい本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『準備のできている自分』でいるために」(77頁)

チャンスはいつ訪れるかわかりません。

だからこそいつチャンスが来ても対応できるように日頃から準備をしておくのです。

また不思議なことに、準備をしているとチャンスが訪れるのです。

一発逆転なんて狙わずに、人が寝ているとき、休んでいるとき、遊んでいるときに地道に努力を続ける。

ただそれだけのことです。

労働時間107 不活動仮眠時間について労働時間該当性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不活動仮眠時間について労働時間該当性が認められた事案について見ていきましょう。

大成事件(東京地裁令和5年4月14日・労経速2549号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて東京都内のビル内での設備管理業務に従事したXらが、Y社は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないと主張して、Y社に対し、それぞれ次の各支払を請求する事案である(以下略)。

【裁判所の判断】

Y社は、
①X1に対し、708万2791円+遅延損害金を支払え
②X1に対し、付加金462万9917円+遅延損害金を支払え。
③X2に対し、835万2375円+遅延損害金を支払え。
④X2に対し、付加金557万3823円+遅延損害金を支払え。
⑤X3に対し、427万2058円+遅延損害金を支払え。
⑥X3に対し、381万9861円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 勤務の実態として、当直設備員2名のうちいずれかの仮眠時間に当たる時間帯においても、当直設備員らは、トラブル等に複数名で対応していたもので、2名以上で対応した件数は、平成29年2月から令和元年8月までの2年6か月間に少なくとも46件、Xらが対応したものだけでも33件に上り、その頻度は、1か月間に1件を上回るものであった。

2 設備控室に内線電話、緊急呼出装置、インターフォンが設置されていたほか、設備員は、勤務中、休憩・仮眠の時間であっても館内PHSの携帯を義務付けられ、仮眠時間中であっても、防災センターから容易に連絡を取ることができる状況にあり、仮眠に入る際、寝間着等ではなく、洗濯後の別の制服に着替えていたことをも踏まえれば、仮眠時間中の設備員も労働から離れることはできていなかったと認められ、Xらは、本件仮眠時間中、労働時間に基づく義務として、設備控室における待機とトラブル等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けされていたと認めることができる。

上記の事情が認められる以上、仮眠時間が労働時間にあたることは、過去の裁判例から明らかです。

警備員の労働時間の長さゆえに、結果として高額な未払残業代が認定されています。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2124 人生の「師匠」をつくれ!#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

人生は『何のために』で動き出す」と著者は言います。

目的を明確に持っていると漫然と日々を過ごすということが受け入れられなくなります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『でっかいことをしろ!』と教えてくれる師匠も、とてもすばらしいのです。しかし、平凡なやさしさと思いやり、毎日を丁寧に生きるという当たり前のことを教えてくれた父も、僕の大切な師匠です。」(192~193頁)

みなさんは日頃、どのようなことを心に留めていますか。

私は、死ぬ直前まで向上心を持って生きたい、と思って、日々、生活しています。

勉強を続けるのも、筋トレやボクシングを続けるのもすべて、1年前よりも成長したいと願うからです。

人や社会のせいにして不平不満ばかりを口にする人生なんてまっぴらです。

そんなことをしていたって、何ひとつ状況が好転しないことは自分が一番よくわかっているのに。

自分の人生は自分の力で切り拓くしかありません。

セクハラ・パワハラ87 不法行為とされた上司のセクハラ言動の一部と、原告の精神疾患発症との因果関係が認められず、会社の安全配慮義務違反及び一部を除き使用者責任も否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不法行為とされた上司のセクハラ言動の一部と、原告の精神疾患発症との因果関係が認められず、会社の安全配慮義務違反及び一部を除き使用者責任も否定された事案を見ていきましょう。

A社事件(東京地裁令和5年5月29日・労経速2546号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し就労していたXが、上司であったAからセクシュアル・ハラスメントを受け、Y社が事前及び事後に適切な措置をとらなかったため、PTSDないし複雑性PTSDを発病し、休職を余儀なくされた旨主張して、①Aに対しては不法行為に基づき、Y社に対しては使用者責任又は債務不履行に基づき、連帯して、合計1726万3741円の損害賠償+遅延損害金の支払を求めるとともに(請求1)、②Y社に対し、債務不履行に基づき、合計330万円の損害賠償+遅延損害金の支払を求める(請求2)事案である。

【裁判所の判断】

1 Aは、Xに対し、55万円(5万5000円の範囲で被告会社と連帯)+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、Aと連帯して、5万5000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Aの不法行為及びY社の不適切な対応によりXがPTSDないし複雑性PTSDを発病した旨主張する。そして、K医師は、同人作成の「診断書および意見書」において、Xが「PTSD(DSM5)、複雑性PTSD(ICD-11)」であるとし、その原因となった出来事として、「1)勤務先の部長(当時)から、拒否しているにも関わらず、頻繁に食事の誘いをされ、拒否してもやめてくれない上に、社内で追いかけられたり、盗撮されたりしていたことを知ったこと」、「2)2017年1月29日取引先との新年会の帰りのタクシー内で、上記部長から強制わいせつ(無理やり送ると言われ、にじり寄られ、身体に触れるため、叫んで逃げようとしたが、キスをしようとしてきた)を受けたこと」、「3)この出来事に会社が対処してくれなかったこと。」を指摘している。
しかしながら、上記診断結果は、上記意見書の記載内容に照らせば、もっぱらXの主訴に基づくものと解されるところ、Xが主張するAによる不法行為はその一部しか認定できず、Y社の職場環境配慮義務違反を認めることができないことは既に認定説示したとおりである。
そうすると、K医師の上記診断結果は、客観的に認定できない事実関係等に依拠したものといえ、これを直ちに採用することはできない
このことに加え、PTSD(DSM-5)の診断基準としては、・・・とされるところ、本件訴訟において認められるAの不法行為(写真撮影行為及び本件タクシー内行為)は、Xの性的自由を侵害するものであり、Xに屈辱や恐怖等の精神的苦痛を与えるものであったということができるものの、肉体的接触を含む行為に及んだと認められるのは、本件タクシー内行為の一件のみであり、その態様も、タクシーに乗車していた約20分の間、Xの手や太ももに触り、覆いかぶさって抱きつくようにしたというもので、重大な性犯罪に該当するとはいえないし、タクシーには、当然、運転手も乗車しているのであって、Aと二人きりで閉じ込められていたというものではなく、Xは、Aから逃れるためにタクシーを停車させてタクシーから降りたとの事情も併せ考慮すると、当該行為が、上記診断基準を満たすような極めて脅威を感じさせるような性的暴力であったとまでは評価できない
以上によれば、Xが、Aの不法行為及び被告会社の不適切な対応により、PTSDないし複雑性PTSDを発病したとは認められない。

裁判所が、心療内科医の診断とは異なる判断をすることは決して珍しくありません。

裁判では、「診断書にそう書いてあるから」というだけでは十分とはいえない場合がありますので注意が必要です。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2123 感動経営#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

経営において何が大切であるかを振り返るのにとても良い本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

企業は、成長本能と違って、進化に対しては臆病になりがちだ。進化は、企業の本能にはないものだ。だからこそ、進化しようという強い意志が必要となる。」(107頁)

過去の成功体験が時として進化を邪魔することがあります。

過去の延長線をただひたすら歩いていくほうがリスクが少ないように感じてしまうことがあります。

でも、それでは今まで以上に上手に歩くことはできるようになるかもしれませんが、決して空を飛べるようにはなりません。

同一労働同一賃金276 定年後再雇用時の賃金を従前の6割としたことが旧労契法20条に違反せず、また通勤手当を一定距離未満の場合、不支給とした規程の不利益変更が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用時の賃金を従前の6割としたことが旧労契法20条に違反せず、また通勤手当を一定距離未満の場合、不支給とした規程の不利益変更が有効とされた事案を見ていきましょう。

日本空調衛生工事協会事件(東京地裁令和5年5月16日・労経速2546号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を平成30年3月に定年退職し、その後、令和2年3月まで嘱託職員として再雇用され、定年退職前の6割の賃金を受給していたXが、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
定年後再雇用に際し、労使慣行に基づき賃金を定年退職前の7割とする再雇用契約が黙示的に成立した、又は再雇用契約において賃金を定年退職前の6割としたことは平成30年7月6日法律第71号による改正前の労働契約法20条に違反するとして、賃金請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、差額賃金相当額及びこれに対する遅延損害金の支払
②Y社が平成26年11月19日改正施行の就業規則及び給与規程に基づき、従前は利用距離にかかわらず通勤に利用するバス運賃を通勤手当として支給していたのを改め、最寄駅までのバス路線距離が1.5km未満の場合はバス運賃を支給しないこととしたのは、就業規則等の不利益変更に当たり無効であるとして、賃金請求権に基づき、上記改正により支払を受けられなくなったバス運賃相当額及びこれに対する遅延損害金の支払
③Y社がXとの再雇用契約を更新せず、令和2年3月限りで終了させたことは、65歳到達以降も再雇用契約が更新されるというXの合理的期待に反するとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1年分の未払賃金相当額(定年退職前の7割を前提に算出)及びこれに対する遅延損害金の支払
④Y社在職中に上司から別紙記載のパワーハラスメントを受けたなどとして、使用者責任又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの職務の内容に関しては、配置部署、勤務時間、休日等の労働条件は定年前後で変化がない。定年退職時に有していた主任の肩書は、再雇用に当たり外されたものの、主任としての具体的な権限は明らかでなく、責任の範囲についても変化は窺われない。しかし、業務の量ないし範囲については、従前はA課長とXの2名で担当していた経理課の業務を、新たに入職したDを含む3名で担当することとなり、経理業務、決算業務を中心に、Xが担当していた相当範囲の業務がDに引き継がれ、再雇用後はXが単独で担当する予定であった福利厚生関係業務も、実際にはA課長と分担していたのであるから、Xの業務が定年前と比べて相当程度軽減されたことは明らかである。

2 定年後再雇用であることが、賃金の減額の不合理性を否定する方向に働く事情として考慮されるべきことは上記のとおりである。特に、定年前のXの給与は、年功序列の賃金体系の中で、長年の勤続ゆえに、担当業務の難易度以上に高額の設定になっていたことが推認され、1400万円を超える退職金も受給したこと、Y社における定年は63歳であり、平成30年4月当時は男女とも特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給可能であったこと、Xの本件更新拒絶による退職後にその担当業務を引き継ぎ、定年退職時点でのXと概ね同様の業務を分担することとなったEの月給額は、再雇用後のXの基本給と同水準であることも、「その他の事情」として考慮することが相当である。
以上を総合勘案すれば、Xの定年後再雇用に当たり、賃金を定年前の6割としたことが不合理であるとは認められず、旧労働契約法20条に違反しない。

3 本件規程変更に伴い、自宅から最寄駅まで1.5km未満のバス路線を通勤に利用してその運賃相当額を通勤手当として受給していた職員には、これを受給することができなくなるという不利益が生じることになる。しかし、自宅から最寄駅まで1.5km以内という距離は、一般に徒歩圏と受け止められる範囲であり、身体に特段の障害等がない限り、バス路線が設定されていても、徒歩で駅に向かうのが合理的であると解される。現に、この変更によって不利益を被った職員はXとJの2名のみであり、被る不利益も1.5km以内の徒歩を要する程度で、理由はどうあれ、XもY社から身体的な事情による特例支給を打診されながらこれを申請していない。また、かかる打診から明らかなとおり、Y社において変更後も当該規程を柔軟に運用している。こうした事情に照らせば、本件規程変更に伴う不利益は、軽微なものと評価するのが相当である。
他方、Y社においては、予算の効率的執行を図るため、通勤手当の算定方法として最も経済的かつ合理的な通勤経路を明記するという目的で本件規程変更を実施したものと認められるところ、これによる経費節減の効果は僅少とはいえ、一般社団法人であるY社に求められる予算の効率的執行に資することは確かであり、相応の必要性を肯定することができる。
内容面においても、変更後の規定は、社会通念上徒歩圏といえる範囲で、一般的には合理的な通勤経路とはいい難いバスの運賃について通勤手当の支給対象外とするものであり、身体的事情による特例支給も許容する柔軟な運用と相まって、合理的なものと評価することができる。
さらに、Y社は本件規程変更を含む就業規則等の改正に関して、平成26年7月25日の説明会から意見聴取の機会を付与し、職員代表であったXは2回にわたり意見書を提出しており、その中でも本件規程変更に関しては何らの言及がなかった。Xは「条文を読解するには十分な時間がな」いと述べていたものの、意見表明のための検討期間としては、Y社が当初設定した同年9月1日まででも十分な猶予があったというべきであり、同年11月19日に本件規程変更を施行するまでの間に、Y社は職員との関係で必要な手続を履践したと評価することができる。Xが加入する労働組合から、本件規程変更に関する異議が述べられたのは、施行から6か月近く経過した後のことであって、本件規程変更の効力を左右するものとはいえない。
以上によれば、本件規程変更は有効であり、Xの主張は理由がない。

正社員と嘱託社員との同一労働同一賃金問題について、裁判所がどのような点に着目して判断をしているのかを是非確認してください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介2122 幸せになる勇気#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

幸せになるのに勇気なんて必要なのかな、と思う方もいるかもしれません。

幸せの定義によりますが、他人の評価から自由になるためには一定の勇気が必要だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

われわれは誰しも、客観的な世界に住んでいるのではなく、自らが意味づけした主観的な世界に住んでいる。われわれが問題としなければならないのは、『世界がどうであるか』ではなく、『世界をどう見ているか』なのだ。われわれは主観から逃げることはできないのだ、と。」(53~54頁)

同じものを見ていても、見方、感じ方は人それぞれです。

まさに、グラスに半分入っている水を見て、half fullと感じる人とhalf emptyと感じる人の違いです。

つまり、幸せは客観的な条件を意味するのではなく、純主観的な感じ方に完全に依拠します。

自らの幸せの定義が明確にわかっており、それに沿った生き方ができていれば、たとえどんな状況であったとしても幸せなのです。

労働時間106 就業時間前後における制服の更衣時間の労働時間性が肯定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、就業時間前後における制服の更衣時間の労働時間性が肯定された事案について見ていきましょう。

日本郵便事件(神戸地裁令和5年12月22日・労経速2546号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、Y社から着用を義務付けられていた制服の更衣に要する時間は労働基準法上の労働時間に該当するにもかかわらず、Y社はこれを労働時間として扱わず、更衣に要する時間に応じた割増賃金を支払っていない旨主張して、Y社に対し、①〈ア〉主位的に、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成29年12月から令和2年11月までの間の未払賃金相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計である各Xに係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求め、〈イ〉予備的に、(a)雇用契約に基づく賃金請求として、令和元年7月から令和2年11月までの間の未払賃金である各Xに係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求めるとともに、(b)労働基準法114条に基づく付加金請求として、上記各Xに係る別紙1の「請求額」欄記載の金員と同額の付加金+遅延損害金の支払を求め、また、②雇用契約に基づく賃金請求として、令和2年12月から令和4年3月までの間の未払賃金である各原告に係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局には、いずれも更衣室が設置されている。そして、このうち、C3郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局及びC9郵便局においては、制服を着用して通勤していることが確認できるのは、調査対象者のうちのごく一部であり、これらの郵便局においては、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っているのが実態であるということができる。
また、Y社が作成した「郵便業務のコンプライアンス指導教材(2016年1月期①)」には、「2016年1月1日(金)~31日(日)の間に、対象者(=郵便業務を担当する部署に所属する社員及び総務部に所属し郵便業務に携わる社員)全員に対し、本研修教材を用いて指導してください。」との記載とともに、「勤務時間外のユニフォーム着用・ユニフォーム通勤の禁止」、「お客さまから見た『ユニフォームを着用している社員』は『勤務時間中である』と認識され、ユニフォームを着用したままの飲食店での飲酒等は会社のイメージ低下に繋がるため、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止」、「ユニフォームに郵便物・現金等を隠して事務室から持ち出し、窃取等する犯罪を防止するため、ユニフォーム通勤の禁止」との記載があるところ、これらの記載は、Y社として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたということを窺わせるものである。
さらに、会計事務マニュアルにおいても、平成29年5月付けで改訂される前の会計事務マニュアルには、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止が明示的に記載され、同月付けの改訂後においても、これを基本的には控えさせる旨が記載されているのであり、このような記載も、Y社として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるものといえる。
他方、C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局のそれぞれにおいて、ユニフォームを着用しての通勤が許されている旨がY社から各従業員に対して告知されたことはこれまでないことが認められる。
以上のとおり、Y社がユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるY社作成の資料があるほか、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っていたという実態がある一方で、Y社からユニフォームを着用しての通勤が許される旨の告知がされたことはないのであるから、Y社は、C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局の各郵便局内の更衣室において、制服を更衣するよう義務付けていたものと認めるのが相当である。

古典的な論点ですね。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2121 先が見えない時代の「お金」と「幸福」の黄金比(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは、「最短最速で結果を出して幸せに生きる!新しい『お金の思考法』」です。

まさに今の時代だからこその実現可能な稼ぎ方、生き方を説いています。

もはや昭和の価値観とは180度異なりますね。

経済的にも精神的にも自由に生きたい方は是非読んでみて下さい。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

僕が見る限り、事業で失敗する人はほとんどが生活水準を上げたことによる『自滅』です。・・・それを考えると、どれだけ成功しても生活水準を一定に保ち、復活できる資金を用意しておくことが大事だと思います。」(130~131頁)

少し表現は違いますが、私も常日頃、「徒に固定費を増やさない」「管理コストがかかるモノには極力手を出さない」ということを強く意識しています。

順調なときを基準にしない、順調なときに調子に乗らない、ということです。

ビジネスは、経済と同様、波があります。良いときもあれば悪いときもあります。

不必要に生活水準を上げなくても、十分楽しめますし、幸せを感じられますので。