Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍6(芝実工業事件)

おはようございます。

今日も配転に関する裁判例を見てみましょう。

芝実工業事件(平成7年6月23日・大阪地裁平成7年6月23日)

【事案の概要】

Y社は、自動車、農機具、工作機械部品用のコントロールケーブル等の製造を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員であり、入社後一貫してY社大阪事業所において勤務し、ケーブル製造の業務に従事してきた。

Y社は、Xらに対し、文書で平成7年5月から、本社工場に勤務せよとの配転命令を行った。

Xらは、本件配転命令は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものであるが、労働契約等により労使間で就労場所が特定されている場合には、その変更には、従業員の同意を必要とする
また、使用者は、労働者に対する指揮命令権に基づき配転命令をすることができるとしてもこれを濫用することが許されないことはいうまでもなく、当該配転命令につき業務上の必要性が存在しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情の存する場合は権利濫用として無効になるというべきである。

2 Y社は、平成5年3月付、本件組合との間で、大阪事業所の縮小に伴い、同事業所を縮小して存続させて、当時大阪事業所に勤務するXらを含む4名の従業員が定年退職するまで存続させることを合意する旨の協定をしており、Y社は、Xらの同意がないかぎり、就労場所を変更することはできない

3 Y社において経営の合理化による収益性を高めることは企業として当然考慮すべき事項ではあるが、そのことから直ちに、Xらの同意及び本件組合の事前協議のなされていない本件配転命令を適法にするものではない。

とても興味深い裁判例です。

経営の合理化を進める必要がある場合であっても、勤務場所の限定がされている場合には、当然には、配置転換をすることはできない、というものです。

とはいえ、合意が得られない場合も考えられます。

この場合には、合意を得ようと真摯に努力したことが裁判所の判断に影響を及ぼすことになるのでしょう。

プロセスが非常に重要になってくるわけです。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍5(古賀タクシー事件)

おはようございます。

今日も、昨日に引き続き、配転に関する裁判例を見てみましょう。

古賀タクシー事件(福岡地裁平成11年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、タクシー運送事業を営む会社である。

Xは、Y社に採用された従業員で、タクシー乗務員としてY社に勤務していた。

Y社は、平成7年7月、Xに対し、Xの同意を得ることなく従来のタクシー乗務員から営業係(営業補助)への配転命令をした。

Xは、本件配転命令が無効であるとして、命令後から旧職務に復帰するまでの期間の賃金を請求した。

【裁判所の判断】

本件配転は無効

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と規定されている。
Y社は、この規定を根拠に、労働者の同意なく配置転換ができると主張するが、この規定は、一般的に使用者が労働者に対し、配置転換を命ずる根拠となるものであるが、職種を限定された労働者を同意なく自由に配置転換することができる根拠となるものとは解されず、Y社の主張は採用できない。

2 そこで、Xの職務が限定されたものであるかについて検討する。
Y社がXを本採用するに当たっては作成された契約書には不動文字で、表題として「労働契約書(乗務員)」、業務内容として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」と記載されていることが認められる。この契約書の文言によれば、採用時に右文言によらないt区別な合意がない限り、本件労働契約においてはXの職種は「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務」に限定されていたものと解するのが相当である。
前記認定のとおり、営業補助の職務はタクシー乗務員の職務とは別の職務と解すべきであるから、本件の配置転換は職務の限定を越えるものであり、労働者の同意なく一方的に使用者が配置転換を命ずることはできないものである。

3 もっとも、労働契約において職務の限定が認められる場合でも、労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められ、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用と認められる場合は、労働者の同意がなくても、配転命令が許される場合がありうると解される。

4 Y社に(1)ジャンボタクシーの運行増加、(2)営業係の不足、(3)乗務員の過剰という事情があったことが認められる。しかしながら、Xの意思を無視してまで、配置転換を強行するほどの必要性や、営業補助にX以外の余人をもっては代え難いという職務の特殊性はなく、本件命令に強い合理性があるとは認められない部長はXに対し賃金体系が異なるのにその十分な説明もしていないし、Xが妻と相談するから待ってくれと言っているのに、翌日から担当車を取り上げて、タクシー乗務を禁止していることが認められるが、この対応は性急であり、労使関係の信義則に反するといえるものである
以上のとおり、本件には労働者に配置転換を命じることに強い合理性が認められるべき事情はなく、労働者が配置転換に同意しないことが同意権の濫用とはならないというべきである。

本件裁判例では、職種が限定されている場合の配転命令には、「強い合理性」が要求されています。

会社側に広い裁量を認めていません。

また、この裁判例の特徴は、配転命令をする際の手続きを非常に重視している点です。

最高裁の3要件とは異なった視点です。

この裁判例を一般化することは難しいと思いますが、参考にはなります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍4(東京サレジオ学園事件)

おはようございます。

今日は、配置転換に関する裁判例を見てみましょう。

東京サレジオ学園事件(東京地裁八王子支部平成15年3月24日)

【事案の概要】

Y社は、養護施設の設置経営を目的とする社会福祉法人である。

Xは、Y社に雇用され、Y社が設置経営する児童福祉施設において児童指導員として18年間勤務していた。

Xは、平成11年4月、Y社から、厨房で勤務する調理員への配転を命じられた。

Xは、本件配転命令は無効であることを主張して、その撤回を求めた。

【裁判所の判断】

本件配転命令は無効

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対して配転を命ずる場合であっても、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても当該配転命令が他の不法な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存するときには、当該配転命令は権利の濫用として無効となると解するのが相当である。

2 Y社は、Xが児童指導員としての適格性を欠いているから本件配転命令につき業務上の必要性があったと主張しているが、前記のとおり、Xの児童指導員としての適性の欠如を窺わせるような具体的事実が存在するとは認められないから、結局のところ、本件配転命令は上記必要性が存しないものであったといわざるを得ない

3 本件配転命令は、業務上の必要性を欠いている上、現場での経験をもとに信念を通そうとするXを短絡的に児童養護の現場から排除する目的でなされたものと解されるのであって、配転命令権の濫用にあたるといわざるを得ない。 

配転命令が権利濫用にあたり無効とされた裁判例です。

配転命令は、会社に広い裁量が認められているので、無効とされた裁判例を検討すると大変勉強になります。

本件で、Y社は、Xの児童指導員としての適性の欠如を示す事実をいくつも主張していますが、いずれも配転を認めるだけの業務上の必要性を基礎づけるものではありませんでした。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍3(GEヘルスケア・ジャパン事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

GEヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁平成22年5月25日・労判1017号68頁)

【事案の概要】

Y社は、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)の医療部門であるGEヘルスケア等の出資で設立された、医療用機器の製造等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、期間の定めのない雇用契約を締結して、製造本部EHS(環境・安全衛生)室長であったが、平成20年1月1日付けで物品等の受入検査部門(現在は、製造本部・製造部内に設置されたクオリティチーム内のトランザクションチーム)への配置転換を命じられた。

Y社は、(1)Yにコミュニケーション能力やリーダーシップが不足していること、(2)EHS業務の専門知識が欠如していること、(3)Xには、上司の命令に従わずに、決定済みの事柄を蒸し返して指揮命令系統を無視するなど、業務命令違反等の問題行動があったことを背景に本件配転を行ったと主張する。

これに対し、Xは、(1)EHS室長として十分なコミュニケーション能力やリーダーシップを備えており、それに見合う高い評価を受けていたし、業務命令違反等の問題を起こしたこともなかった。ところが、Y社は、XをEHS室長から外し、単純作業を繰り返すだけの、Xの知識・経験・技能を必要としないトランザクションチームに配置した。このような本件配転は、業務上の必要性に基づかない。

(2)仮に業務上の必要性に基づくものであったとしても、(ア)本件配転は、上司がXをいわれなく嫌悪し、パワハラを重ねたあげくに行われたものであるから、不当な動機・目的をもってなされたものである。しかも、Xが社外の労働組合に加入したことを決定的な動機としており、不当労働行為にも該当する。

などと主張し、配転無効無効確認及び慰謝料300万円等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(配転命令は有効)

【判例のポイント】

1 配転命令は、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、(中略)他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき」には権利濫用になるものと解される(東亜ペイント事件)。

2 Xは、EHS室長当時、同室長の適性を疑われてもやむを得ないというべき言動を繰り返したことから、XがEHS室長の適性を備えていないというD本部長の判断は、相当で合理的なものであったと認めることができる。本件配転先のトランザクション業務は、EHS室長のそれに比べれば仕事のスケールが小さく、単調なものと考えられるが、そうだとしても、Y社がXを無理矢理当てはめるためにこれを作り出したとか、Xがそこで実質的に仕事を与えられていない状態に置かれているなどとはいえない。したがって、本件配転は、業務上の必要性に基づくものということができる。

3 前記のとおり、Xは、EHS室長当時、同室長の適性を疑われてもやむを得ないというべき言動を繰り返したことから、XがEHS室長の適性を備えていないという本部長の判断は、相当で合理的なものであったと認めることができる。そうだとすると、・・・Xの働きぶりに変化がなかったとはいえないし、本部長がXを嫌悪して、その業績評価を恣意的に下げたとも認められない。

4 Xの資格区分や給与の額は、本件配転を人事上の降格ということはできない。Xは、直属の上司が本部長ではなくなったことから、本件配転によって、実質的に3段階も降格されたと主張するが失当である。
本件配転の前後を通じて、Xの職務の責任範囲や指揮命令の及ぶ範囲が大幅に縮小されたとは認められない。また、Xは、本件配転後、祝日出勤を義務付けられるなど、労働条件が低下していると主張するが、そうだとしても、これは、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえない。

本件では、XのEHS室長としての資質に疑問があるということで、配転の必要性が認められました。

その裏返しとして、不当な動機・目的は存在しないとも認定されています。

配転と降格が動じに行われるという降格的配転となれば、降格の要件も満たす必要があり、それを欠く場合には両者が一体として無効となります。

しかし、本件では、配転の前後を通じてXの資格区分や給与の額が変更されていないという事情があり、裁判所は、この点に着目して、本件配転が降格的配転ではないと評価しました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍2(大阪府板金工業組合事件)

おはようございます。

今日は、降格と配転に関する裁判例について見てみましょう。

大阪府板金工業組合事件(大阪地裁平成22年5月21日・労判1015号48頁)

【事案の概要】

Y社の主たる事業は、情報収集・交換による経営方針の確立のための活動、職業能力開発促進法に基づく大阪府板金高等職業訓練校の運営等の指導教育情報事業、建設雇用改善事業の実施、全国板金業国民健康保険組合の運営等の福利厚生事業、資材の共同購入による経費節減等の共同購買事業、共同受注事業である。

Xは、Y社の正社員である。

Xは、Y社に対し、(1)違法に賞与、賃金を減額されたとして、賞与請求権ないし賃金請求権に基づく支給額との差額の支払、(2)Xが、Y社の事務局長代理の地位から経理就任に降格されたことが無効であることを理由とする事務局長代理の地位確認及び降格された地位に係る手当との差額の支払い、(3)Xに対する配転命令が違法であることを理由とする地位確認、(4)Y社のXに対する不利益取扱いが女性従業員に対する差別的取扱いであることを理由とする不法行為に基づく損害賠償をそれぞれ求めた。

【裁判所の判断】

賞与請求は棄却

本件降格は無効

配転命令は有効

女性従業員に対する差別的取扱いとは認められない。

【判例のポイント】

1 賃金規程に「賞与は、組合の業績および業界の動向、職員の業務遂行能力、勤務成績等を考慮し、原則として毎年7月と12月に措定の金額を支払うものとする」、「経済状況等によりやむを得ない場合、賞与を支給しない場合がある」との規定があり、これらに沿った賞与の算定が行われていた場合に、入社時に賞与の算定方法についての説明・合意があったというXの主張を退けて、個別具体的な賞与の算定方法、支給額、支給条件が労働契約の内容になっているとは認められないと判断した

2 事務局長代理から経理主任への降格を行う人事権は、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているものであり、その権限行使については使用者に広範な裁量権がありこのような人事権行使に裁量権の逸脱または濫用があるか否かを判断するに当たっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力、適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無およびその程度等諸般の事情を総合考慮するのが相当である

3 Xが事務局長代理としての能力を備えており、その適性を欠いていたとは認めがたいこと、Xが休暇を取得することによって事務局長代理としての職責を十分に果たすことができなかったとも認めがたく、本件降格後、Y社では事務局長代理の地位に就いた者はいないことにかんがみると、本件降格は人事権を濫用したものであるというのが相当である

4 経理部から資材部への異動を命じる配転命令および資材部から経理部への異動を命じる配転命令は、業務上の必要性がないのに行われた場合、それが他の不当な動機ないし目的をもって行われた場合、または、Xに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合など特段の事情がある場合には、権利の濫用として許されない。

5 資材部所属の職員が病気入院したことを契機としてY社事務局の担当職務を変更する必要性が生じたことから、職務の必要性はあり、配転命令がXを退職に追い込もうと嫌がらせ目的で行われたとまでは認められないことから、不当な目的はなく、配転命令は濫用に当たらない

6 Y社のXに対する不利益取扱いが既婚女性従業員への差別であるとの主張について、本件配転命令には業務上の必要性があったと認められ、他方、不当な動機目的があったとは認められないこと、Y社事務局には、Xの他にも女性従業員が在籍しているが、特にこれらの者から同様の苦情等が出ているとはうかがわれないことなどからすると、Y社のXに対する不利益取扱いが既婚女性従業員への差別であるとまでは認められない。

やはり、配転は、使用者の裁量が相当広いですね。

そうそう簡単には無効とはなりません。

上記判例のポイント2の判断基準を参考にして準備をするべきです。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍1(オリンパス事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

本件は、公益通報者保護法とも関連するケースです。

オリンパス事件(東京地裁平成22年1月15日・判時2073号137頁)

【事案の概要】

Y社は、デジタルカメラ、医療用内視鏡、顕微鏡、非破壊検査機器(NDT)等の製造販売を主たる業とする会社である。

Xは、Y社に正社員として入社し、平成19年4月から、IMS事業部国内販売部NDTシステムグループにおいて営業販売業務の統括責任者として業務に従事していたところ、取引先からY社関連会社に従業員が入社した。

これについては、Xは、取引先の取締役から、当該従業員と取引先の従業員と連絡を取らせないように言われるなどし、更に、2人目の転職者が予定されていることを知った。

Xは、上司に対し、2人目の転職希望者の件はとりやめるべきであるなどと言った。

これに対し、上司は、Xが上司に提言しに来たのは大間違いなどと電子メールで返信した。そこで、Xは、Y社のコンプライアンス室長らに対し、取引先からの引き抜きの件を説明し、引き抜きがまだ実行されるかもしれない、顧客からの信頼失墜を招くことを防ぎたい等と相談した。

その後、Y社は、Xに対し、IMS企画営業部部長付きとして勤務する旨命ずる配転命令をした。

Xは、この配転命令の効力を争うとともに、この配転及び配転後にXを退職に追い込もうとしたことが不法行為を構成するとして慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。

2 すなわち、配転命令は、配転の業務上の必要性とは別個の不当な動機や目的をもってなされた場合には、権利濫用となる。また、配転命令が、当該人員配置の変更を行う必要性と、その変更に当該労働者をあてるという人員選択の合理性に比し、その命令がもたらす労働者の職業上ないし生活上の不利益が不釣合いに大きい場合には権利濫用となる。

3 そして、業務上の必要性については、当該勤務先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

4 本件配転後、Xの賞与は若干、減額されているものの、勤務地は変わらず、本件配転命令によるXに生ずる不利益はわずかなものであり、本件配転命令が報復目的とは容易に認定し難い

5 Xによる上司及びY社のコンプライアンス室に対する通報内容は、業務及び人間関係両側面の正常化を目的とするものであった。Y社らは、不正競争防止法については全く認識しておらず、公益通報者保護法にいう「通報対象事実」に該当する通報があったとは認められない。

6 公益通報者保護法5条は、「公益通報」をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないと規定する。「公益通報」は「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を」「通報することをいう。」(同2条1項)とされ、
「通報対象事実」は、同法2条3項で定義されているものに限定され・・・不正競争防止法を含む多数の法律が政令で規定されている。そのため、内部告発にかかる事実が、これらのうちどの法律の問題であるかは必ずしも明確ではない。

配転に関する訴訟で勝訴するのは、従業員側にとって、非常にハードルが高いです。

それは、最高裁(東亜ペイント事件)が示した判断基準が、解雇等と比べて、緩やかだからです。

本件でも、不当な動機目的は認定されませんでした。

配転、出向、転籍に関する裁判例を検討し、いかなる場合に無効と判断されるのかについて、具体的事例を見ることとは、実務において参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。