Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍16(エバークリーン事件)

おはようございます。

さて、今日は、ドライバー職から工場職への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

エバークリーン事件(千葉地裁松戸支部平成24年5月24日・労経速2150号3頁)

【事案の概要】

Y社は、再生油の販売、産業廃棄物の収集・運搬・処分、産業廃棄物のリサイクル等を業とする会社である。

Xは、平成20年4月、Y社と労働契約を締結し、ドライバーとして廃棄物等の収集・運搬業務に従事していた労働者である。

Y社は、Xをドライバー職から工場職へ配転命令を出した。

Xは、配転命令は、職種限定の合意違反又は権利の濫用であるから無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 Xは、ドライバーを募集している旨の求人広告を見て応募し、Y社と労働契約を締結したこと、雇用契約書にも「ドライバー」との記載があったこと、就労の当初からドライバーとして勤務していたことが認められ、Y社においては、ドライバーとして稼働する従業員についてはその他の従業員と別途の就業規則及び賃金規程が定められていたことが認められる。
しかし、Y社のドライバー職従業員を対象とした就業規則には、Y社が業務の都合により、従業員に勤務地、所属、職務の変更を命ずることがある旨の規定があること、Y社においては従前からドライバーから工場職(製造部勤務)に異動する従業員が年間5名程度いることに照らせば、上記事実をもって、本件労働契約においてXの職種をドライバーに限る旨の合意があったと認めることはできないというべきである。

2 本件労働契約締結の経緯、Xが従前ドライバーとして就労していたこと、ドライバーと工場職(製造部勤務)の勤務内容の違いに照らせば、Y社における業務上の必要性は相当程度のものであることを要し、また、不当な動機ないし目的のもとにされたものである場合においても権利の濫用に当たると解すべきである
この点、Xは、平成20年9月6日に腰を痛めて稼働できなくなり、同月17日まで出勤せず、平成21年1月22日には業務作業中に痛風性関節炎を発症し、同年4月7日まで出勤しなかったことがあったところ、平成22年3月24日、業務作業中に右足を負傷し、同年5月8日、業務作業中に右足を負傷したことが認められる。そして、平成22年5月8日の負傷については、少なくとも2、3日程度業務に従事することを差し控えることが相当な程度であったことが推認されるところ、以上の経緯及びドライバー職が一人で客先を回ることとされ、また、重量物を一人で持つことがあり、長距離の運転を行うことから、Y社において、Xに対する安全配慮義務及びY社の業務の円滑な遂行の見地から、本件配転命令を出すべき業務上の相当程度の必要性が認められるというべきである。

3 Xは、Y社には不当な目的がある旨主張し、同主張に沿う証拠もある。しかし、従前、Y社の管理職において退職に追い込む目的をもって工場職への異動を命じた例があったとしても、直ちに本件において同様の目的が推認されるとまではいえないところ、前述したとおり、業務上の相当程度の必要性が肯定されること、・・・Xに抵抗感があることに理解を示しつつ、身体に無理をさせないように配慮する旨や収入が下がらないように配慮する旨を述べるなどをしたことが認められることに鑑みれば、Xが主張する不当な目的があったことを認めることはできないというべきである

配転命令は有効との判断です。

労働者側からすれば、ドライバー職から工場職への配転ですから、業務上の必要性はないし、不当な動機目的に基づく配転だと主張したくなる気持ちはわかります。

問題は、業務上の必要がないことや不当な動機目的を立証できるか、です。

使用者側からすれば、当然のことながら、必要性があったことを主張立証することになります。

手持ちの証拠の多さからしても、一般的には、労働者にとって、この立証の壁を超えるのは容易なことではありません。

配転命令が無効となるのは、よほど使用者側のやりかたがまずかったり、へたくそな場合ですね。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍15(静岡県立病院機構事件)

おはようございます。

さて、今日は、病院の新生児科科長に対する配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

静岡県立病院機構事件(静岡地裁平成24年1月13日・労経速2136号11頁)

【事案の概要】

Y社は、一般医療機関では診断・治療の困難な小児患者を静岡県内全域より紹介予約制で受け入れる高度専門病院である。

Xは、平成4年からY社新生児科において勤務し、その後、新生児科科長として、NICUを初めとする新生児科のベッドをコントロールしてきた。

静岡県知事は、平成21年3月、Xに対し、静岡県立総合病院臨床医療部女性・小児センター新生児科主任医長への配転を内示し、Y社は、これを受け、Xに対し、同職への配転命令を発した。

Xは、本件配転命令以後、めまい等の症状で自宅静養し、反応性うつ状態と診断された。

Xは、その後、総合病院において勤務しないまま、Y社を退職する届けを提出した。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転命令は権利の濫用になるものではないというべきである。

2 ・・・これらの点に照らすと、Xは、こども病院が地域の病院で対応できない患者をその紹介により扱う高度専門病院でありながら、地域の病院と信頼関係を築くことができず、また、患者の受入数において、順天堂病院や聖隷浜松病院と比較して十分でない面があり、Xのベッドコントロールが適切で高度専門病院としての機能を十分に果たしていたか疑問があるとともに、こども病院内においても他科や新生児科の看護師らと十分な意思疎通を図れていないことがうかがえるのであるから、Xを新生児科科長から配転する業務上の必要性があったものと認めるのが相当である。そして、Xの配転先である総合病院における分娩数は年間400件ないし500件を超えるもので、産科医師も4人ないし6人というのであるから、Xが主任医長としてその能力を発揮できる職場であり、本件配転命令が他の不当な動機・目的でされたとは認めがたい。また、本件配転命令によりXは転居が必要となるものではないし、本件配転命令の前後でXの労働条件に特段の差異はないのであるから、本件配転命令が労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものということはできない。
したがって、本件配転命令が権利の濫用であり、違法であるということはできない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件配転命令に係る損害賠償請求は理由がない

3 なお、Xは、Dが本件配転命令について事前に全く説明しておらず、適正な手段を経ていないと主張するが、本件は配転命令について個別にXの同意を得なければならないものでないことは前記のとおりであるし、Dは本件配転命令前に新生児科科長としてのXの問題点について度々注意を与えていたのであるから、Xの上記主張は採用することができない。

地元静岡の裁判例です。

裁判所は、Xが本件配転により被る不利益は、通常甘受すべき程度を著しく超えるものではないと評価しています。

また、これまでの経緯から、不当な動機目的も認められないとしています。

どのような点を考慮して、配転命令の有効性を判断しているか、を研究すると、何が重要なのかがだんだんわかってきます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍14(N事件)

おはようございます。

さて、今日は、京都工場から横浜所在の本社への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

N事件(京都地裁平成23年9月5日・労判1044号89頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車・電気その他の部品に対するコーティング加工を行う会社である。

XとY社は、平成18年6月に労働契約を締結し、Xは、京都工場で製造課長として勤務をするようになった。

Y社は、平成21年8月、Xに対し、客先や京都工場の部下からXに対する苦情がでていると述べ、解雇すると述べた。

Xは、解雇の撤回を求めるとともに、労働組合に加入し、団体交渉を申し入れた。

Y社は、本件解雇を撤回するとともに、Xに横浜市所在の本社勤務を命じる配転命令をした。

Xは、本件配転命令の撤回を求めて本社での勤務をせず、これに対し、Y社はXが本件配転命令に反して本社で勤務をしなかったことから、給与を支払わなかった。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働することを合意するものであるところ(労働契約法6条参照)、使用者は、企業目的を達するため、変化する顧客のニーズや経済情勢に合わせて、あるいは労働者の能力開発や育成などをしながら企業を効率的かつ合理的に運営することが必要となり、そのためには、従業員から提供される労働力について、その種類、態様、場所を適正に配置することが必要となるから、通常、使用者が一定の配転命令権を有することは明示あるいは黙示に労働契約において予定されており、多くの場合、就業規則にその旨の定めがされている。
他方、就業規則に配転に関する定めがない場合であっても、それをもって直ちに配転命令権がないということはできないが、配転命令の内容が多様で、労働者の社会生活上、職務上の負担やキャリア形成に与える影響も様々であることや、労働契約の内容は労働者及び使用者が対等な立場で自主的交渉において合意することにより締結し、変更されるべきであること(労働契約法1条、3条1項参照)にかんがみると、Y社が主張するように、労働契約を締結したことにより使用者が包括的な配転命令権を取得するということはできないのであり、労働契約締結の経緯・内容や人事異動の実情等に照らして、当該労働契約が客観的に予定する配転命令権の有無及び内容を決すべきである。
そして、本件配転命令は、住居の移転を伴う配転を命じるものであるところ、このような配転命令は、使用者が配慮すべき仕事と家庭の調和(労働契約法3条3項)に対する影響が一般的に大きなものであるから、その存否の認定判断は慎重にされるべきものであると考える

2 Y社の就業規則には、諸規則や上長の指示命令に従うことを定めた32条があるが、その文言に照らすと、これをもってY社の配転命令権の根拠とすることはできず、他に配転命令権に関する定めが一切ないと認められる。そして、Y社の求人広告においても、Xの採用面接においても、勤務地が京都工場であるとされていた上、転居を伴う異動の可能性があることについての説明が全くされていない。また、Xの採用は、長期人材育成を目的とした新卒者の採用ではなく、管理職としての即戦力を重視して、当初から京都工場で勤務するために行われた中途採用であって、本社で採用された後に京都工場に配置されたものではない。加えて、転居を伴う配転実績も、本件配転命令が発令されるまでに、約20年前に1件、約12年前に1件の合計2件あったのみであり、Y社の企業規模を考慮しても極めて少ないといわざるを得ない
これらのことからすると、本件労働契約において転居を伴う配転が客観的に予定されていたとはいえず、Y社に本件配転命令をする権限があったとは認められない

3 これに対し、Y社は、Y社がXの雇用維持を考慮して解雇を回避し、配転命令としたにもかかわらず、配転命令が無効であるとなれば、(1)解雇権濫用法理を前提とする日本の雇用システムにおいて矛盾となること、(2)整理解雇の4要素のうち解雇回避努力において配転の可能性の考慮が求められていることと相反することを指摘する。
・・・しかしながら、一般的な配転命令権が認められない場合であっても、使用者が個々の場面で配転に対する労働者の個別の同意を得る努力をすることで、解雇を回避することは可能なのであり、解雇権濫用法理や整理解雇における解雇回避努力の要請も、それを前提にしていると解されるから、当裁判所の考え方も、解雇権濫用法理を前提とする日本の雇用システムと矛盾したり、整理解雇の解雇回避努力において配転の可能性の考慮が認められていることと相反するものではない。かえって、上記の極限的な場面を想定することで、労働者の社会生活上、職務上の負担に影響する配転命令権を安易に認めるのは相当とは思われない

配転命令に関する裁判所の考え方がよくわかります。

京都から横浜への転居が必要となる配転ということもあり、比較的厳しい判断がされています。

上記判例のポイント3は、思考方法として参考になりますね。

解雇回避努力との関係でどのように考えたらよいかは、会社側とすれば当然悩ましい問題です。

裁判所は、「極限的な場面を想定することで・・・配転命令権を安易に認めるのは相当とは思われない」と判断しています。

会社側としては、どのような判断が妥当かを適切に判断するのはとても難しいと思います。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍13(C株式会社事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業担当者に対する配転命令の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

C株式会社事件(大阪地裁平成23年12月16日・労判1043号15頁)

【事案の概要】

Y社は、スイスに本社を、世界各国に支社・営業所等を置き、陸・海・空にわたる国際的な運送業務を主な営業内容とするA社の100%出資にかかる日本法人である。

Xは、アメリカの大学を卒業し、日本において国際輸送業務を扱う企業数社に勤務した後、平成18年11月、Y社と雇用契約を締結した。

Xは、Y社入社後、大阪営業所の営業担当として勤務していた。

Y社は、親会社からの売上減少による人件費削減の指示を受け、退職勧奨を開始した。

Xは、Y社からの退職勧奨を拒絶したところ、Y社から整理解雇する旨の通知を受けた。

Xは、大阪地裁に対し、本件解雇は無効であるとして、地位保全、賃金仮払いの仮処分申立てを行ったところ、大阪地裁は、賃金仮払いの一部を容認する決定をした。

Y社は、その後、本件解雇を撤回すること、名古屋営業所の「輸出入カスタマーサービススタッフ」としての勤務を命ずる旨の辞令を発した。

Xは、本件配転命令は無効であると主張し、提訴した。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

Y社に対し、慰謝料として50万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 ・・・これらの点からすると、Xが主張するような勤務地限定の合意があったとは認められない。

2 確かに、遠隔地異動に際しては、当該対象者の意向を尊重することは望ましく、これまでY社としてもかかる取扱いをしてきたことがうかがわれるが、同取扱いが上記就業規則や雇用契約上の条項等に優先した労使慣行になっていたとまで認めるに足りる的確な証拠は見出し難い。したがって、その限りにおいて、Xの上記主張は理由がないといわざるを得ない

3 配転命令については、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存する場合には権利の濫用として無効であると解するのが相当である(東亜ペイント事件最高裁判決)。

4 (1)名古屋営業所においては、Xが配属されるまで、Xが担当する輸出案件に特化したカスタマーサービススタッフはおらず、名古屋営業所における輸出案件は、主としてO社員が担当していたこと、(2)名古屋営業所のL社員は、K業務部長に対し、Xにいかなる業務を担当させたらいいのかという趣旨のメールを送信したのに対して、K業務部長は、Xが担当する輸出案件は多くない旨のメールを返信していること、(3)本件配転命令後、Xが名古屋営業所において実際に従事した業務内容は、特に輸出案件に特化したものではなく、その点について、特に直属の上司であるK業務部長から個別具体的な指示等があったとは認められないこと、Y社は、平成22年7月輸出業務に必要な免許を取得し、同年8月16日から輸出業務の自営が開始されたところ、本件配転命令の時点で、特に、輸出業務に特化したカスタマーサービススタッフが必要であったとまでは認められないこと、(4)船の請求書や実際の輸出のドキュメントを作成したり、顧客と直接コンタクトをとって、集荷の手配等のいわゆるオペレーション業務については、大阪営業所で行っており、名古屋営業所では行っていなかったこと、一方、(5)大阪営業所においては、Xが配転した後、同じ営業職の後任者は配属されておらず、同事務所全体としては、輸出案件に特化した(あるいは、輸出もできる)カスタマーサービススタッフを大阪営業所に配置することも十分に可能かつ容易であったと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実を総合的に勘案すると、本件解雇を撤回し、Xが職場復帰するという平成22年3月時点において、あえてXを輸出案件に特化した、あるいは輸出案件もできるカスタマーサービススタッフとして名古屋営業所に配転する必要性及び合理性があったとまでは認め難い。

5 (1)本件配転命令は、配転命令権を濫用する無効なものであって、XにはY社の名古屋営業所において就労する義務があるとはいえないこと、(2)本件配転命令が本件解雇に関する仮処分決定後、本件解雇を撤回した後、Xを元の職場である大阪営業所に復帰させることなくなされていること、(3)大阪営業所には、Xを受け入れることが不可能な状況にあったとはいえないことからすると、本件配転命令は、業務上の必要性及び合理性がないにもかかわらず、本件仮処分決定を契機としたXの復帰に当たって、不当な動機目的をもってなされたものと推認することができ、かかる経緯等にかんがみると、損害賠償請求権を発生させるに足りる違法性を有しているといえ、不法行為に該当すると認めるのが相当である

まず、勤務地限定の合意については、裁判所はそう簡単には認めてくれません。

今回のケースは、解雇に関する仮処分決定が事前に出されている点が大きいですね。

これが、不当な動機目的を推認させる事情となっています。

こういうわかりやすい事情があると従業員側としては、戦いやすいですね。

会社側とすれば、時期をずらすなどの工夫が必要です。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍12(オリンパス事件)

おはようございます。

今日は、内部通報を理由とした配転の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

オリンパス事件(東京高裁平成23年8月31日)

【事案の概要】

Y社は、デジタルカメラ、医療用内視鏡、顕微鏡、非破壊検査機器(NDT)等の製造販売を主たる業とする会社である。

Xは、Y社に正社員として入社し、平成19年4月から、IMS事業部国内販売部NDTシステムグループにおいて営業販売業務の統括責任者として業務に従事していたところ、取引先からY社関連会社に従業員が入社した。

これについては、Xは、取引先の取締役から、当該従業員と取引先の従業員と連絡を取らせないように言われるなどし、更に、2人目の転職者が予定されていることを知った。

Xは、上司に対し、2人目の転職希望者の件はとりやめるべきであるなどと言った。

これに対し、上司は、Xが上司に提言しに来たのは大間違いなどと電子メールで返信した。そこで、Xは、Y社のコンプライアンス室長らに対し、取引先からの引き抜きの件を説明し、引き抜きがまだ実行されるかもしれない、顧客からの信頼失墜を招くことを防ぎたい等と相談した。

その後、Y社は、Xに対し、IMS企画営業部部長付きとして勤務する旨命ずる配転命令をした。

Xは、この配転命令の効力を争うとともに、この配転及び配転後にXを退職に追い込もうとしたことが不法行為を構成するとして慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 本件内部通報は、少なくとも運用規定第4条(1)の行動規範(第1章第2項「企業活動を展開する上で、企業活動を行なう国や地域の法令や文化、慣習を理解することに努めます。したがって、法令はもとより、倫理に反した活動や、これにより利益を得るような行為はしません。」との規定)に反する、または反する可能性があると感じる行為に該当するし、さらには運用規定第4条(2)の「業務において生じた法令違反等や企業倫理上の疑問や相談」にも該当する。したがって、コンプライアンス室のEらは、Xの秘密を守りつつ、本件内部通報を適正に処理しなければならなかったというべきである。

2 Xの本件内部通報を含む一連の言動がXの立場上やむを得ずにされた正当なものであったにもかかわらず、上司であるY2はこれを問題視し、業務上の必要性とは無関係に、主として個人的な感情に基づき、いわば制裁的に第1配転命令をしたものと推認でき、第1配転命令は、Xの内部通報をその動機の一つとしている点において、通報による不利益取扱いを禁止した運用規定にも反するものである

3 ・・・第2配転命令がXの本件訴訟提起後に、第3配転命令が第2配転命令の9か月後にされたものであること、各配転命令による配置先におけるXの担当職務は、第1配転命令前のXの経歴にそぐわないものであること等をしんしゃくすると、第2配転命令及び第3配転命令は、いずれも本来の業務上の必要性やXの適性とは無関係に、第1配転命令の延長としてされたものと推認できる。

4 第1配転命令及び第2配転命令は、いずれも被控訴人が人事権を濫用したものであり、第3配転命令もその影響下で行われたものであって、これらにより。Xに昇格・昇給の機会を事実上失わせ、人格的評価を貶めるという不利益を課すものであるから、被控訴人の上記行為は、不法行為法上も違法というべきである。

今、注目を集めているあのオリンパスでの労働事件です。

オリンパス事件の地裁判決については、配転・出向・転籍1で既に検討したところです。

1審では、配転命令は有効と判断されましたが、控訴審では、無効と判断しました。

当然会社側は、上告しています。

個人的には、高裁の判断の方がしっくりきます。

最高裁はどのように判断するでしょうか。 

次回、社労士勉強会では、この事件を題材にしたいと思います。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍11(マリンクロットメディカル事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

マリンクロットメディカル事件(東京地裁平成7年3月31日・労判680号75頁)

【事案の概要】

Y社は、米国に親会社を置く医療機械器具等の輸入、販売等を業とする外資系会社で、従業員は約100名であり、大阪、仙台、札幌、福岡及び名古屋に営業所がある。

Xは、平成3年2月、Y社に採用され、東京において、マーケティング担当のマネジャー(課長代理待遇)として、職務に従事した。

Y社は、平成6年3月、Xに対し、営業部として仙台へ配転する旨の辞令を発令した。なお、本件配転命令以前に、Y社において、マーケティング部から営業部への異動を内容とする配転の前例はなかった。

Xは、本件配転命令に承服できない旨主張した。

Y社は、就業規則に基づきXを懲戒解雇した。

Xは、本件配転命令及び懲戒解雇の有効性を争い、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

懲戒解雇も無効

【判例のポイント】

1 本件配転命令につきどの程度業務上の必要性があったかが不明確であるうえ、Y社がそのような配転命令をしたのは、むしろ、Y社が、Y社社長の経営に批判的なグループを代表する立場にあったなどの理由からXを快く思わず、Xを東京本社から排除し、あるいは、配転命令に応じられないXが退職することを期待するなどの不当な動機・目的を有していたが故であることが一応認められ、結局本件配転命令は配転命令権の濫用として無効というべきである

2 本件解雇は、Xが本件配転命令に従わなかったことを主たる理由とするところ、本件配転命令が無効というべきであることは前記認定のとおりであり、また、Y社が主張する他の解雇事由についても、Xの勤務成績ないし勤務態度の不良をいう点については、本件疎明資料の限度では具体的解雇事由としてのそれを認めるには不十分であり、また、Y社や経営陣を誹謗中傷する文書を米国本社に送り続けたという点についても、これを認めるに足りる疎明資料はなく、結局本件解雇は正当な解雇事由の存しない無効なものというべきである

本件は、仮処分事件ですが、賃金仮払いだけ認められています。

仮払期間は、1年間です。

やはり地位保全のほうはダメですね。

本件では、Y社が主張した配転命令の業務上の必要性について、裁判所はことごとく否定しています。

どうしても会社の主張は後付けになりがちなので、うそくさくなってしまうのです。

事前の準備が大切です。 気をつけましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍10(東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部・配転)事件)

おはようございます。

今日は、配転命令に関する仮処分事件についての裁判例を見てみましょう。

東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部・配転)事件(宇都宮地裁平成18年12月28日・労判932号14頁)

【事案の概要】

Y社は、4か所のゴルフ場を運営し、15か所のスポーツクラブを経営する会社である。

Xは、Y社が運営するゴルフ場でキャディ職従業員として勤務している。

Y社は、平成18年11月、Xらの職種をキャディ職から外し、就労場所を、本件ゴルフ場からY社の指定する不確定な場所へ変更する方針であるとする回答書を交付した。

Xらは、本件配転命令の有効性を争い、仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xらは、Y社によるキャディ職従業員の募集に応募して採用され、一般職とは異なる就業規則及び給与規定の適用を受けてきたこと、キャディ職は一定の専門的知識を必要とする職種であり、Xらの多くは、キャディ職としての研修を継続して受けながら、長期間勤務を継続してきたこと、キャディ職従業員が他の職種へ配置転換されるのは例外的な場合であったことからすれば、Y社とXらとの間の雇用契約においては、職種をキャディ職と限定する旨の特約が存在したと認めるのが相当である
・・・以上によれば、Y社は、Xらの同意なくして、その職種をキャディ職以外の職種に変更することはできないものと言い得る。

2 キャディ制度の存廃という雇用及び労働条件に重要な変更を及ぼす事項についての検討や、従業員へ説明可能な程度の経営施策等の決定も未了なまま、ただ、人員削減の目的で希望退職募集を提案したこと、また、雇用及び労働条件について具体案を提示しないまま現行キャディ制度の廃止を通告するに至ったこと、特段支障がないにもかかわらず計算書類の開示を一律に拒絶したことは、Y社において、Xらの雇用の確保、労働条件の維持について、真摯な検討を加え、Xらに対し誠実に対応をしたものとは到底言い難い。さらに、・・・Y社には、Xらの意思に配慮して配転を行おうとする姿勢が欠落しているものと断ぜざるを得ない
以上によれば、Y社は、本件配転命令の予告に至る過程及びその後のXらへの対応において、Xらの雇用、労働条件に関する問題の解決に向けて本件組合と誠実に協議を行ったものと評価することはできず、Y社の対応は、本件労使合意に抵触し、労使間の信義に反するものというべきである。

3 職種変更命令が実施された場合には、これに伴い、Xらのうち相当数の者について、通勤時間及び通勤距離が片道2時間超、片道平均80kmを要する那須フットサルクラブにおいて勤務することを余議なくされ、多大な負担が生じることになる。
また、約250万円という高額とはいえない賃金を、さらに約20%も減額する点については、Xらは、これにより、日々の生活において大きな困難を被ることが当然予想されるものであるし、個人事業主形態のキャディが取得するラウンド給よりも賃金が低額となることになる

・・・そうすると、職種変更命令は、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものというべきである。 
以上の事情を総合考慮すれば、職種変更命令を行うことは、職種限定特約違反の点をおくとしても、権利の濫用に該当し、許されないものというべきである。

判例のポイント1で勝負がついているんですけどね。

念のため、他の要件も検討しています。 

判例のポイント2は、どの要件との関係で検討しているのでしょうか・・・?

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍9(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件)

おはようございます。

今日は、格下げの配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク事件(神戸地裁平成16年8月31日・労判880号52頁)

【事案の概要】

Y社は、資本金3億2900万ドルで設立された選択洗浄関連製品、紙製品、医薬部外品、化粧品、食品などの研究開発、販売、輸出入等を事業目的とする外国法人である。

Xは、Y社のマーケット・ディベロップメント・オーガニゼーション部門(MDO)においてコンシューマー・マーケティング・ナリッジと呼ばれる市場調査(CMK)を担当していた。

Xは、Y社から退職を勧奨され、これを拒否すると、スペシャル・アサインメント(特別任務)を通告されるなどの嫌がらせを受け、さらにその後、単純な事務作業を担当する部署へ異動させ、降格することなどを内容とする配転命令を受けた。

Xは、これに従うことを拒否すると賃金の支払を停止されたが、本件スペシャル・アサインメント及び本件配転命令は、いずれも違法、無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の配転命令権につき、就業規則上ないし労働契約上、根拠規定が見当たらないと主張するが、一般に、労働契約は、労働者がその労働力の使用を使用者に包括的に委ねるというものであるから、使用者は、個々の労働契約において特に職種又は勤務場所を限定している例外的場合を除いて、上記の労働力に対する包括的な処分権に基づき、労働者に対し、その職種及び勤務場所を変更する配転命令権を有していると解されるところ、本件において上記の例外的事由は認められず、むしろ、Y社の就業規則には、転勤、すなわち勤務地の変更を伴う異動に関する規定が設けられており、これはY社に勤務地の変更を伴わない配転命令権があることを前提にしているものと見ることができるし、XとY社間の労働契約上も、正当な理由がない限り、Y社がその運営上命ずる異動に従う旨の合意が存するから、Y社は、Xに対する配転命令権を有すると認められる

2 本件スペシャル・ アサインメント発令の時点で、MDO-CMKにおいて、Xがなすべき職務がなかったとはいえず、それにもかかわらず、Y社が、早々にXに従前の仕事を止めさせ、もっぱら社内公募制度を利用して他の職務を探すことだけに従事させようとしたのは、実質的に仕事を取り上げるに等しく、いたずらにXに不安感、屈辱感を与え、著しい精神的圧力をかけるものであって、恣意的で合理性に欠けるものというべきである。 
・・・以上により、本件スペシャル・アサインメントは、業務上の必要性を欠いていたと認めるのが相当である。

3 ・・・本件スペシャル・アサインメントは、Xに不安感、屈辱感を与え、精神的圧力をかけて任意退職に追い込もうとする動機・目的によるものと推認することができる。 

通常、配転命令に業務上の必要性が認められない場合には、その裏返しで、不当な動機・目的が認定されやすくなります。

労働者側としては、会社の配転命令が、「嫌がらせ」目的であることをいかに立証していくかがポイントになってきます。

その際、直前に配転命令を動機付ける事情があったか否かを重点的に主張していきます。

会社としては、表向きまっとうな理由を説明できるように、事前の準備が大変重要になってきます。

過去の裁判例にヒントがいっぱいつまっていますよ!

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍8(帯広厚生病院事件)

おはようございます。

今日も昨日に引き続き配転命令に関する裁判例を見てみてましょう。

帯広厚生病院事件(釧路地裁帯広支部平成9年3月24日・労判731号75頁)

【事案の概要】

Y社は、農業協同組合法に基づいて設立された医療に関する事業及び保健に関する事業等を目的とする法人である。

Xは、昭和43年4月、看護婦としてY社に雇用され、以後帯広厚生病院において看護業務等に従事しており、昭和56年4月に副総婦長の発令を受けた。

Y社は、平成6年3月、Xに帯広厚生病院中央材料室で、同日の組織変更の結果、副総婦長を改めた副看護部長待遇として勤務することを命じた。

中央材料室は、医療材料、器具類等の供給管理、消毒、滅菌等を主たる業務とする部署であり、本件配転命令当時、看護助手のみが配置され、看護婦は配置されていなかった。

Xは、本件配転命令が人事権の濫用に当たるものであり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

慰謝料として100万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、従業員は業務遂行上転勤又は担当業務の変更を命ぜられることがあり、正当な理由なくこれを拒んではならない旨定められていること、XがY社に看護婦として雇用されるに際し、特に勤務部署等を限定する旨の約定のなかったことが認められる。したがって、Y社は、少なくとも右範囲内において、同意がなくともXに配転を命ずることができ、業務上の必要性に応じ、その裁量によってXの勤務場所等を決定することができるというべきである。

2 しかしながら、Y社の配転命令権も無制限に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されないのであって、Y社の配転命令権の行使が人事権の濫用に当たる場合には、当該配転命令は無効であるものと解される。そして、右人事権濫用の有無の判断は、労働力の適正配置、業務の能率増進、従業員の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など事業の合理的運営という見地からの当該配転命令の業務上の必要性と、その命令がもたらす従業員の不利益との利益衡量によって行われるべきである。そして、右業務上の必要性を判断するに当たっては、、当該人員配置の変更を行う必要性とその変更に当該従業員を充てることの合理性を考慮すべきであって、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどには、右配転命令は人事権の濫用に当たるものと解するのが相当である
なお、Xのように管理職の配置に関する業務上の必要性については、特に当該職員の能力、適性、経歴、性格等の諸事情のほか、組織や事業全体の運営を勘案した総合的見地からの判断がされるべきである

3 Y社は、Xの看護婦としての実務能力自体については大きな問題はないと把握していたこと、Xに職場秩序を大きく乱したり、職務上の指示命令を拒否したりするなどの問題行動もなかったこと、Xの協調性がないことや部下の管理ができていないことなどの問題点についても、これまでにY社の管理職等を通じての具体的事実関係の確認や是正を求める指示は限られた範囲で行われたにすぎず、Xに対して適切な指導、助言を行い、その管理能力について反省、改善を促すこともしていなかったこと、・・・Xが看護婦として副総婦長にもなり約13年間もその職にあり、また総婦長の候補にもなったことを考慮すると、Xの管理能力等の問題点が、看護部から外し、本件配転命令による権限縮小を要するまでの重大なものであったということはできず、また、その改善自体も困難であるとは認めることができないところ、Xを看護部の通常の指揮命令系統から排するまでの必要性があったものと認めることはできない

4 一方、Xの経歴、能力、従前の地位等に照らすと、その権限を大幅に縮小され、またXは病院内の情報に接することも困難な状況下に置かれるとともに、中央材料室における単純な職務に従事することを余議なくされ、これにより看護婦としてこれまで培ってきた能力を発揮することもできず、その能力を発揮することもできず、その能力開発の可能性の大部分をも奪われたばかりでなく、何らの具体的理由を説明されず、また弁明の機会を与えられないまま一方的に不利益な処遇を強いられた上、その社会的評価を著しく低下させられ、その名誉を著しく毀損されるという重大な不利益を被ったものと
いうべきである

5 以上の諸事情を総合考慮すれば、本件配転命令はその業務上の必要性が大きいとはいえないにもかかわらず、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、人事権の濫用に当たるものであって、無効であるといわざるを得ない。

この裁判例は、総論部分が参考になりますね。

どのあたりの事実を重点的に主張していけばいいかというのは、過去の裁判例の検討からおおよそ推測することができます。

東亜ペイント事件だけおさえておけばいいというものではありません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍7(ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件)

おはようございます。

今日は、フライトアテンダント(FA)から地上職勤務への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件(東京高裁平成20年3月27日・判時2000号133号)

【事案の概要】

Y社は、アメリカ合衆国に本社を置く航空会社である。

Xらは、Y社のFAであったが、平成15年3月、地上職である成田旅客サービス部に配転を命じられた。

Xら5名は、(1)採用時に、職種をFAに限定する旨の合意があった、(2)Xらの所属する組合とY社の間で締結された労使確認書において、Xらの職種をFAに限定する旨の合意がされていた、(3)配転命令が、配転命令権の濫用に該当する、(4)配転命令が不当労働行為に該当する、などと主張して、配転命令の無効及び不法行為に基づく慰謝料請求をした。

【裁判所の判断】

配転命令は無効であり、不法行為に基づく慰謝料の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社において本件配転命令当時、コスト削減のための方策の一つとして、人件費の節約、余剰労働力の適正配置などを行う一般的な業務上の必要性はあったが、本件配転命令を行う具体的必要性について、(1)配転案の根拠となったコンピューターソフトの試算結果の信頼性が薄いこと、(2)Y社の主張するFA人員の余剰は、外在的原因によるものではなく、乗務便総数の増加以上に契約社員の乗務便を増やし、FAの乗務便を減らすなどしてY社自身が短期間に作り出したものであること、(3)契約社員の積極的活用についてXらFA、組合から反発を受けることを認識していながら、FAの乗務する便は従前程度とするなどの案が具体的に検討された形跡がないこと、(4)本件配転により、決して少額ではない人件費削減が見込まれるが、Y社の企業規模からすれば、本件配転を実施して人件費削減を断行しなければY社の経営が危機に瀕するあるいは経営上実質上相当の影響があるとは認められない

2 Xらは、本件配転命令により、月額数万円の諸手当を得ることができなくなり、誇りを持って精勤してきたFAの仕事から外され、無視できない経済的不利益及び精神的な苦痛を受けた

3 Y社は、FAの職位確保に関する努力義務並びにこれを果たすために努力状況及び対象事項が達成できない理由を具体的に説明する義務があるところ、(1)上記1(2)のY社の行為は、努力義務の対象事項達成の障害となる事実を自ら作出し、積極的に維持したものであること、(2)労使確認書を取り交わしたことを本件配転命令を控える方向で勘案すべき要素として考慮せず、その条項を考慮して具体的な努力をしたと認められないこと、(3)労使確認書締結のわずか11か月後、Xらの内2名の復職のわずか5か月後に本件配転命令がされたこと、(4)本件配転命令の問題を明らかにしてから実施までの間の期間が余りにも短く、Y社の交渉態度は誠実性に欠けることなど、Y社には努力義務違反又は信義則違反がある。

4 以上の諸事情を総合考慮すると、本件配転命令については、Y社の有する配転命令権を濫用したと評価すべき特段の事情が認められるというべきで、本件配転命令は権利の濫用に当たり無効である。

5 Y社が行った本件配転命令は、Xらとの関係で労使確認書による合意を含む雇用関係の私法秩序に反し違法であり、かつ、少なくとも過失があると認められ、不法行為が成立する

会社の配転命令権は解雇権と異なり、広い裁量が認められています。

配転命令が権利濫用と認められるケースを検討することで、権利行使の限界がわかってきます。

なお、本件の第1審は、Xらの請求を棄却しています。

高裁は、Xが主張した職種限定合意や労働協約違反の主張、不当労働行為の主張はいずれも排斥しましたが、配転命令権の濫用について認めました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。