Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍26(西日本鉄道(B自動車営業所)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、職種限定採用のバス運転士に対する職種変更の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

西日本鉄道(B自動車営業所)事件(福岡高裁平成27年1月15日・労判1115号23頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で、職種をバス運転士とする職種限定合意を含む労働契約を締結していたが、バス運転士以外の職種としての勤務を命ずる辞令が発せられ、その後、退職したため、Y社によるバス運転士以外の職種への職種変更は無効であると主張して、①労働契約に基づき、Y社に対し、得べかりし賃金と実際の受領額との差額327万5557円及び遅延損害金、得べかりし退職金と実際の受領額との差額37万3304円及び遅延損害金の各支払を求めるとともに、②Y社の従業員から退職を強要されたと主張して、Y社に対し、使用者責任に基づき、慰謝料120万円及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

原審(福岡地裁平成26年5月30日)は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労働契約が職種限定合意を含むものである場合であっても、労働者の同意がある場合には、職種変更をすることは可能であると解される。しかしながら、一般に職種は労働者の重大な関心事であり、また、職種変更が通常、給与等、他の契約条件の変更をも伴うものであることに照らすと、労働者の職種変更に係る同意は、労働者の任意(自由意思)によるものであることを要し、任意性の有無を判断するに当たっては、職種変更に至る事情及びその後の経緯、すなわち、①労働者が自発的に職種変更を申し出たのか、それとも使用者の働き掛けにより不本意ながら同意したのか、また、②後者の場合には、労働者が当該職種に留まることが客観的に困難な状況であったのかなど、当該労働者が職種変更に同意する合理性の有無、さらに、③職種変更後の状況等を総合考慮して慎重に判断すべきものであると解される

2 まず、Xに係る苦情、責任事故及び指定外運行の件数及び内容並びに本件事故後の所内教育中の状況によれば、Xには、バス運転士として適格性に欠けるところがあったといわざるを得ず、Y社において、Xについて運転士として乗務させることができないと判断したことには相当の理由があり、Xが運転士として乗務を継続することは客観的に困難であったといえる

3 そして、本件職種変更に至る経緯、すなわち、①本件事故後、A所長は、Xとの面談の際、繰り返し退職を勧め、懲戒解雇の可能性を示唆したこともあったものの、上記面談には、西鉄労組のH分会長らも同席しており、Xは、同分会長から、職種変更の場合の待遇等を含めて助言を受け、同所長に対して、一貫して職種変更の希望を述べていたこと、②そのため、Xと同所長の話し合いは平行線のままで、4月11日までには打ち切られ、Xの処遇はD課に委ねられることになり、Xは、同日、同課係員から、Xの処遇について未だ判断されていない旨の説明を受けたこと、③Xは、4月15日までに、弁護士に相談して、A所長らの対応に抗議させ、バス運転士への復帰を申し入れさせた上で、同月19日、C課長との面談に臨み、同課長に対し、運転士として継続したいが、それが難しいのであれば、別の部署で仕事を続けたい旨申し入れたこと、④同課長から、運転士として乗務させることはできないと告げられ、職種変更して他の仕事に就くという「提案」を受け、その際、職種変更の場合の待遇等についても説明を受けたこと、⑤Xは、上記④の「提案」について、4月21日、弁護士に相談した上で、同月22日、C課長に対し、職種変更を希望する旨回答し、本件申出書を作成し、本件職種変更がされるに至ったこと、⑥その後、12月6日まで、Xが本件職種変更について異議を申し出ることはなかったことなどに照らすと、本件同意は明示的または黙示的な矯正によるものではなく、Xの任意によるものであったと認められる。

4 以上によれば、本件職種変更は、Xの任意の同意による有効なものであり、その余の点について判断するまでもなく、賃金差額及び退職金差額の各支払を求めるXの請求はいずれも理由がない。

非常に参考になる裁判例ですね。

いかにして労働者の任意の同意を確保するかがポイントになります。

今回は、組合の分会長や代理人弁護士を同席させたことが、労働者の同意の任意性を判断する上で有効に働いています。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍25(公益財団法人えどがわ環境財団事件)

おはようございます。

今日は、動物施設職員2名に対する配転命令の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

公益財団法人えどがわ環境財団事件(東京地判平成26年11月26日・労判1115号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員であるX1及びX2が、Y社から平成24年4月1日付でされた配転命令が無効であると主張して、本件配転命令に基づく勤務の義務がないことの確認を求めるとともに、本件配転命令が不法行為に当たると主張して、慰謝料の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 X1の異動先であるみどりの推進係は、X1の異動後の平成26年まで動物関連事業を分担業務としていなかったため、X1に動物関連事業の業務を担当、調整させるために異動させたとするY社の主張は認められず、また、H事務局長は、X1が若手の職員を取り込んでBを孤立させ、飼育班内の人間関係を悪化させているという誤った認識に基づき本件配転命令を決定したものであり、本件配転命令が自然動物園の人間関係等の改善を目的としたものということもできないから、X1に対する本件配転命令は業務上の必要性を欠くものとして無効である。

2 Xらは、本件配転命令により、職業上の不利益を被ったと主張する。しかしながら、X1がみどりの推進係において担当している業務は、相応のキャリアを持った職員が担当すべきものであって、人格権侵害と評価されるような処遇を受けているとは認められない。また、X2が担当している業務は、X2が担当すべき業務とされている動物飼育であって、職業上の不利益は認められない。
また、Xらの主張する組合活動上の不利益については、組合員が同一の職場に配置されることが保障されているわけではないこと、本件組合の組合員が全員江戸川区内に勤務していることに鑑みると、本件配転命令によって本件組合の組合活動が若干不便になったことは否めないが、それをもって法律上の不利益とは評価できない。
したがって、本件配転命令は違法であるが、損害が認められないため、不法行為に基づく慰謝料請求権は認められない

本件については、Xらが組合員のため、不当労働行為に該当するのではないかが別途争われています。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍24(ジョンソン・エンド・ジョンソン事件)

おはようございます。

今日は、配転に違法はない等として就労義務不存在確認等請求が棄却された裁判例を見てみましょう。

ジョンソン・エンド・ジョンソン事件(東京地裁平成27年2月24日・労経速2246号12頁)

【事案の概要】

Y社の従業員であるXは、平成25年6月1日付で請求の趣旨第1項記載の外勤務に配転され、現在もその職務に従事している。

本件は、Xが、本件配転が無効であると主張して、現在の職務での就労義務がないことの確認を求めるとともに、違法な配転や退職勧奨がないことの確認を求めるとともに、違法な配転や退職勧奨によって精神的苦痛を被ったとして、慰謝料の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・Eが解雇という言葉を出したことは穏当ではないが、第5回面談の内容全体からみれば、Eは、Xが他社に転職して販売戦略等に携わる方がY社内で営業に配置されるよりもXにとって有利であるという退職勧奨の説得の一環として、上記のような発言をしていると認められるのであって、解雇か退職かを二者択一で迫るものではなく、社会的相当性を逸脱した退職勧奨とはいえない

2 本件配転に伴い賃金の減額や通勤上の著しい不便等の具体的な不利益はXに生じていない。Xが現在配置されている営業の業務が、Y社における一般的な営業業務と比べて特に過酷であるという事情も見当たらない。Xは未経験の外勤営業に配置されたこと自体が著しい不利益であると主張するが、Xの主張を前提とすれば、Xをおよそ外勤職に配置できないことと同じになるのであって、採用の限りではない

3 本件配転は、Xが介護休業を取得する予定であることを理由としてされたものとは認められないのであって、育児・介護休業法等違法を主張するXの主張は前提を欠く。また、本件指針は介護休業後に原職に復帰させることが多く行われていることに配慮すべきとしているが、法的義務として原職に復帰させることを定めた規定は見当たらないのであって、介護休業後に営業で復帰させたことが育児・介護休業法等違反に当たるとはいえない

4 以上によれば、本件退職勧奨も本件配転も違法とは認められないので、Xの請求は理由がない。

退職勧奨と配転命令の違法性が争われた事案ですが、いずれも棄却されています。

退職勧奨については、会社側も注意を払いつつ行うものですが、油断をすると違法になりかねないため、常に冷静に対応することが大切ですね。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍23(ゆうちょ銀行事件)

おはようございます。

今日は、配転命令の有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

ゆうちょ銀行事件(静岡地裁浜松支部平成26年12月12日・労経速2235号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、Xに対するY社浜松店からY社静岡店への配置転換命令が無効であると主張して、Y社静岡店に勤務する労働契約上の義務のないことの確認を求めるとともに、本件配転命令がXに対する不法行為を構成すると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料100万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件人事異動制度の一環として、不正行為の防止及びXのスキルアップを目的として本件配転命令を行ったことが認められるところ、長期間同一店舗に勤務する社員に対する人事異動は不正行為の防止及び社員のスキルアップに資する合理的なものであり、このことはXにも当てはまることから、本件配転命令には業務上の必要性があるものと認められる。

2 Xは、本件配転命令により通勤時間が延伸した結果、家族と過ごす時間が大幅に短くなり、生活上の著しい不利益を被った旨主張するところ、本件は移転命令により、Xが通勤のため60分から90分程度の時間を要することとなったことは上記認定のとおりである。しかしながら、本件は移転命令がされた当時、Xの妻は専業主婦であり、上記のとおりXの通勤時間が延伸したとしても、当時小学6年生の長女及び小学3年生の長男の養育が困難となるような客観的事情は見当たらない。このことは、Xが静岡店において残業や中勤を命じられる可能性があることを考慮しても異ならない

3 Xが家族と共に過ごす時間を何よりも重視していること、本件配転命令による通勤時間の延伸によりその時間が減少して苦痛を感じていることは認められるものの、長時間通勤を回避したいというのは、年齢、性別、配偶者や子の有無等に関わらず、多くの労働者に共通する希望である配転命令の有効性を判断するに当たって考慮すべき労働者の不利益の程度は、当該労働者の置かれた客観的状況に基づいて判断すべきものであり、上記のようなXの主観的事情に基づいて判断すべきものではない
以上によれば、本件配転命令によりXが受ける不利益は、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認められない。

配転事案についての裁判所の考え方がわかりますね。

配転により、かなり深刻な問題が生じない限り、通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは認定してもらえません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍22(学校法人越原学園(名古屋女子大学)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、配転命令拒否を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人越原学園(名古屋女子大学)事件(名古屋高裁平成26年7月4日・労判1101号65頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が設置・経営している名古屋女子大学の教授であり、Y社から平成23年4月1日付けで教職員研修室(兼務)の配転命令を受け、これを拒否したことを理由に普通解雇されたXが、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②未払賃金及び遅延損害金を求めた事案である。

原審は、本件配転命令は、業務上正当かつ合理的な理由や人選の合成はないのみならず、Xに対し不当な目的を持って行われたもので不当労働行為にも該当するから無効であり、これに従わなかったことを理由とする本件解雇も無効であると判断した。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

本件解雇も無効

【判例のポイント】

1 Y社は、具体的に誰に対して配転命令を出すかについては、使用者側に相当広い裁量権があるとして、別段組合員を狙い撃ちにしているのではなく、学内行政に対する貢献度が低い、すなわち、あからさまにいえば比較的暇な教員を選ぶと、結果的に組合員に当たるにすぎず、Y社には、Xに様々な問題行動があったればこそ、Xを教職員研修室に配属することがXの行動に良い影響を与えるのではないかとの目論見もあったなどと主張して上記認定判断を批判するが、様々な問題行動のある人物を教職員に対する研修を実施する立場にある教職員研修室の室員に選任するのはむしろ不合理というべきであって、上記Y社の目論見をもって業務上の必要性があるといえるものでないから、Y社の主張は採用できない

2 (原審判断)・・・以上の事情を総合考慮すると、Y社が教職員研修室への異動を命じる職員が大学組合の組合員である場合には、その選任は恣意的に行われており、その異動命令の目的は、組合活動を封じ込め、あるいは職員に対しことさら知識・技能の不足をあげつらい、また、あえて無意味・手間のかかる単純作業に従事させるなどして、当該教職員の自尊心を傷つけ、心理的圧迫・精神的苦痛を与え、これに耐えられない者についてはそのまま退職に追い込み、これに反発する者については懲戒処分を出した上で、最終的には解雇処分をすることにあると認めるのが相当である

3(原審判断)以上によれば、本件配転命令は、業務上正当かつ合理的な理由や人選の合理性はないのみならず、Xに対する不当な目的をもって行われたもので、不当労働行為にも該当するというべきである
したがって、その余の点(著しい不利益の生む、手続違背の違法の有無、信義則に反するか否か)について判断するまでもなく、本件配転命令は違法であって、無効というべきである。

配転命令は使用者に広い裁量が認められていますが、その対象が組合員(特にポストが上の人の場合)である場合には、不当労働行為の問題が起こります。

また、あからさまに配置転換を退職勧奨の手段として用いると、権利濫用となります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍21(リコー(子会社出向)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、希望退職の応募を拒否した従業員らに対する出向命令に関する裁判例について見てみましょう。

リコー(子会社出向)事件(東京地裁平成25年11月12日・労判1085号19頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社による2011年9月10日付け出向命令について、業務上の必要性及び人選の合理性を欠きXらに著しい不利益を与えるものである上、Xらに自主退職を促す不当な動機・目的に基づくものであるから出向命令権の濫用として無効であるなどと主張して、Y社に対し、①本件出向命令に基づく出向先において勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認、②Xらへの退職強要行為又は退職に追い込むような精神的圧迫の差止め、並びに③労働契約上の信義誠実義務違反及び不法行為に基づく損害賠償請求として、各原告に対し220万円及び遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xらが、Y社に対し、Xらが訴外リコーロジスティクス株式会社に出向して同社において勤務する労働契約上の義務が存在しないことを確認する

その余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 第17次中計の大規模な人員削減方針が公表されたわずか半月後に本件希望退職が発表されたこと、本件希望退職の公表後間もなく、余剰人員とされた従業員の面談が開始され、結果としてその9割近くが本件希望退職に応募し、退職していること、Xらの面談では、その当初から、本件希望退職に基づく退職金の計算結果が具体的に示され、本件希望退職への応募を継続して勧められていること、Xらが断るとさらに面談が重ねられ、B及びCが本件希望退職への応募を数度にわたって勧めた末に本件出向命令が発令されたことは、認定事実記載のとおりである。これらに加え、人選担当者であるB及びCが、本件出向命令の内示に至るまでXらの具体的な出向先及び業務内容を知らなかったこと等も併せ鑑みれば余剰人員の人選は、事業内製化を一次的な目的とするものではなく、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみるのが相当である

2 リコーロジスティクスにおける作業は立ち仕事や単純作業が中心であり、Xら出向者には個人の机もパソコンも支給されていない。それまで一貫してデスクワークに従事してきたXらのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難く、Xらにとって、身体的にも精神的にも負担が大きい業務であることが推察される。

3 以上に鑑みれば、本件出向命令は、事業内製化による固定費の削減を目的とするものとはいい難く、人選の合理性(対象人数、人選基準、人選目的等)を認めることもできない。したがって、Xらの人選基準の一つとされた人事評価の是非を検討するまでもなく、本件出向命令は、人事権の濫用として無効というほかない。

4 本件出向命令の内容及び発令に至る経緯は、認定事実記載のとおりであり、リコーロジスティクスにおける業務内容は、前記のとおり、Xらにとって身体的、精神的負担の大きいものであることは否定できない。
しかし、リコーロジスティクス自体、半世紀近くの歴史を持つ会社であり、事務機器の製造、販売及び保守を基盤事業とするY社グループの事業を支える主要会社の一つである。Xらが行う業務は、リコーロジスティクスにおける基幹業務であること、就業場所も東京又は神奈川であり、Xらの自宅からは通勤圏内であること、本件出向命令後、Xらの人事上の職位及び賃金額に変化はないこと、結果として事業内製化の一端を担っていること等も併せ鑑みれば、本件出向命令が不法行為にあたるとはいえない

有名な裁判例ですね。

出向命令を退職勧奨の一手段として用いていることが客観的に明らかな場合には、人事権の濫用と判断されます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍20(東京測器研究所(仮処分)事件)

おはようございます。

今日は、旧組合書記長に対する転居を伴う配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

東京測器研究所(仮処分)事件(東京地裁平成26年2月28日・労判1094号62頁)

【事案の概要】

本件は、昭和58年4月に債務者に入社し、入社とともに債務者の従業員を組織していた労働組合に加入した債権者が、平成25年11月1日付けで債務者の明石営業所勤務を命じる配転命令を受けたことについて、不当労働行為、協定違反等を理由に本件配転命令は無効であるとして、明石営業所において勤務する労働契約上の義務を負わないことの確認を求める権利を被保全債権として、同義務を負わないことを仮に定める仮処分を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、Y社の明石営業所において勤務する労働契約上の義務を負わないことを仮に定める。

【判例のポイント】

1 明石営業所への転勤後は、XがこれまでJMIUY社支部において中心的な役割を果たしてきたのと同程度に、上記脱退決議の効力を争いJMIUY社支部を存続させるための実効的な活動を行うことは相当困難になるものと推認される。そして、JMIU脱退決議の無効及びJMIUY社支部の存続を公然と主張するのはY社のみであるから、XがJMIUY社支部存続のための実効的な活動を行うことが困難である以上、JMIUY社支部存続の可能性は極めて乏しくなるものと考えられる。
XがJMIU脱退決議の無効を主張することが不当な言いがかりに類する行為であるとは直ちに断じ得ないのであり、XがJMIUY社支部の活動を中心的に担ってきた立場でJMIU脱退決議の無効を主張しJMIUY社支部の存続のための活動を始めようとしていたところを、本件配転命令によって、明石営業所への転勤を余儀なくされ上記の活動を実効的に行うことが困難となる結果、JMIUY社支部存続の可能性が極めて乏しくなるものと考えられるのであるから、本件配転命令は、JMIUY社支部の存続の可能性を失わせる結果をもたらす点で、外形的にみて、JMIUY社支部の運営に対する支配介入に当たるものと評価し得る

2 明石営業所に技術職の従業員を配置する必要性自体は否定できないものの、Aの大口計測工事以外には、技術職の従業員の明石営業所への配置を緊急に要する業務が具体化している状況ではなく、Aの大口計測工事に関しては、2か月半程度で終了する業務であったことからすると、技術職の従業員を上記期間Aに常駐する形で出張させることでも賄うことは可能であったものと考えられるところであり、Xがただ一人公然とJMIU脱退決議の効力を争い、JMIUY社支部の存続のための活動を行おうとしていたまさにそのときに、時間的な猶予を与えない形で、あえてXを東京本社から引き離して明石営業所へ転勤させなければならないほど緊急の必要性があったとまでは認め難いというべきである

3 本件配転命令は、Y社が、少なくともJMIUY社支部の存続の可能性を失わせる結果になることを認識しつつこれを容認する意思の下で行ったJMIUY社支部に対する支配介入にあたると認められるから、労働組合法7条3号が禁じる支配介入に該当するというべきである。

4 以上のとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件配転命令は、不当労働行為に該当するため、違法であり、無効であると認められる。

基本的には、配転については、会社に広い裁量が認められています。

しかし、本件のように、従業員が組合員であり、かつ、重要なポストに就いている場合には、不当労働行為該当性にも配慮する必要が出てきます。

客観的にみて、組合の弱体化と判断されうる場合には、顧問弁護士に相談の上慎重な対応が求められます。

 

配転・出向・転籍19(新和産業事件)

おはようございます。

さて、今日は、違法な配転命令に対する無効確認と賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

新和産業事件(大阪高裁平成25年4月25日・労判1076号19頁)

【事案の概要】

Y社は、①Xが営業職としての適性を欠いていたことと②Xが総務や経理の経験がなかったことを理由として、配転命令をした。

Xは、本件配転命令につき、業務上の必要性がなく、他の不当な動機・目的で行われたもので、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるから、権利の濫用として無効であるであると主張し争った。

なお、Xは、本訴訟以前に、賃金仮払仮処分を申し立て、裁判所は、これを認めている。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

新たに慰謝料等として60万円を認めた。

【判例のポイント】

1 Y社は、業務上の必要性が乏しいにもかかわらず、Xが退職勧奨を拒否したため、Xを退職に追い込み、又は合理性に乏しい賃金の大幅な減額を正当化するという業務上の必要性とは別個の不当な動機及び目的の下で本件配転命令をしたことが認められる。そうすると、本件配転命令は、社会的相当性を逸脱した嫌がらせであり、Xの人格権を侵害するものであるから、民法709条の不法行為を構成するというべきである。

2 給与規定上、賞与の支給については、勤怠、能力、その他を考課して決定するとの定めがあるにとどまり、具体的な支給額及び算定方法についての定めはなかったこと、Y社は、従業員ごとの個別の考課査定及び従業員間の配分額の調整をした上で賞与の具体的な支給額を決定していたことが認められるから、Xの賞与請求権は、Y社が支給すべき金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものと解される。

3 Y社は、Xの平成23年の夏季賞与及び冬季賞与、平成24年の夏季賞与及び冬季賞与について、総合職であることを前提に、人事考課査定及び調整をした上で具体的な支給額を決定し、支給日までにこれを支払うべき労働契約上の義務を負うというべきである。
・・・そうすると、Y社のXに対する上記各賞与の支給額の決定は、使用者としての裁量権の範囲を逸脱したものであり、これにより、Xが給与規定等に基づいて算定された賞与の支給を受ける利益を侵害するものであるから、民法709条の不法行為を構成するというべきである
・・・そうすると、仮にXが総合職として正当に考課査定を受けたならば、基本給、職務給及び付加給の合計額(基準額)に上記業績係数(夏季は1.6、冬季は1.7)及び査定係数の下限値である0.6を乗じた金額を算出した上で、社長により調整がなされることを考慮して、上記算出額に8割を乗じた額を賞与として支給を受けた相当程度の蓋然性があるというべきである

本件は、不当な目的による配転が違法と判断された事案ですが、それよりも、上記判例のポイント4の考え方を是非、参考にしてください。

賞与の請求をしようとする場合には、このような切り口があることを知っておくと有効かもしれません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍18(新和産業事件)

おはようございます。

さて、今日は、違法な配転命令に対する無効確認と賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

新和産業事件(大阪地裁平成24年11月29日・労判1067号90頁)

【事案の概要】

Y社は、①Xが営業職としての適性を欠いていたことと②Xが総務や経理の経験がなかったことを理由として、配転命令をした。

Xは、本件配転命令につき、業務上の必要性がなく、他の不当な動機・目的で行われたもので、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるから、権利の濫用として無効であるであると主張し争った。

なお、Xは、本訴訟以前に、賃金仮払仮処分を申し立て、裁判所は、これを認めている。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

降格命令も無効

Yに対し慰謝料として40万円の支払いを命じた

Xの賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xが主として担当していた新規開拓営業が既存顧客に対する営業より難しいことは容易に推測できるところであって、Y社において、Xは入社以来、新規開拓営業を担当しながらさしたる成果も挙げず、Y社において度々注意・指導をしてきたが、入社後10年間ほぼ変わらなかったと主張しており、Y社の営業本部長であるAもXの勤務態度や営業成績が採用時以降、向上したともいい難いと証言しているにもかかわらず、Xを入社4年後に課長に昇格させた上、本件業務命令までXに対し課長からの降格を検討したことはなく、営業成績を理由にXの賃金を減額したこともなかったし、さらには、Xより高い新規開拓の営業能力を有する従業員を採用したり、他の営業部員にその営業を担当させたりしていないことが認められる
以上の事実を総合考慮すれば、Y社においても、少なくともXに対して本件退職勧奨を行うまでは、Xの上記採用の経緯や新規開拓営業の困難性を考慮して、Xの営業成績を厳しく問題にしたことはなかったことが推認できるのであるから、仮に、Xが本件業務命令を受けるまでに挙げた営業成績がY社が主張するように微々たるものであったとしても、それをもって、直ちにXの新規開拓に関する営業能力が著しく低いと断定することはできない。
ましてや、Y社においても、本件業務命令前3年度のXの営業成績について、既存の営業を維持するだけで十分達成可能であると主張するに止まり、Xを他の営業部員と同様に主として既存顧客に対する営業を担当させたりしていないのであるから、Xが他の営業部員と同様の営業成績を挙げることができないとは認めるに足りず、Xが営業職としての適性を欠くと断定することはできないというべきである

2 本件降格命令の効力如何は、本件配転命令の効力如何にかかってくるところ、Xが営業職としての適性を明らかに欠くとはいえないにもかかわらず、本件退職勧奨を拒否したことにより、Y社がXに対し、退職に追い込むために、必要性の薄い大阪倉庫に配転した上、給与も半額以下となる本件減給という効果を伴う本件配転命令及び本件降格命令を一体として行ったことが認められるから、本件配転命令が権利の濫用として無効である以上、それと一体としてされた本件降格命令も権利の濫用として無効というべきである

3 Y社は、Y社が仮処分命令に従ってXに支給している部分について弁済の抗弁を主張しているが、仮処分債務者の仮払金支払義務は、当該仮処分手続内における訴訟法上のものとして仮に形成されるにとどまり、その執行によって実体法上の賃金請求権が直ちに消滅するものでもないから(最高裁昭和63年3月15日判決)、主張自体失当である

4 Y社は、仮執行宣言を付する必要性・相当性がなく、付する場合にも仮執行免脱宣言を求めているが、仮処分命令が出されていることが直ちに仮執行宣言の必要性を消滅させるとはいえないし、本件業務命令が無効であることは明らかであるから、仮執行免脱宣言を付するのは相当でない

事実認定の勉強になりますね。

また、判例のポイント3、4も一応参考までに。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

配転・出向・転籍17(コロプラスト事件)

おはようございます。

さて、今日は退職勧奨後の配転命令の効力に関する裁判例を見てみましょう。

コロプラスト事件(東京地裁平成24年11月27日・労判1063号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の営業サポート職(いわゆる営業事務)として勤務していたXが、平成23年7月、埼玉県のA発送センターへ異動を命じられるとともに、業務をカッティングサービス、検品に変更されたことについて、同配転命令は、XがY社からの退職勧奨を拒んだことに対する報復であり、X・Y社間の雇用契約で合意された範囲を超え、権利濫用に当たるものであるから無効であるなどと主張して、XにA発送センターで勤務する義務がないことの確認を求めるとともに、Y社に対し、本件配転命令に伴い減額された差額賃金の支払を請求したという事案である。

【裁判所の判断】

配転命令は有効

【判例のポイント】

1 Xが採用に当たり勤務地が東京であり業務内容が事務職であることを告げられ、以後、東京において事務職として勤務してきたものであるとしても、本件雇用契約が長期間の雇用関係を予定した正社員としての契約であって、職種や勤務場所について限定する旨明確に合意した形跡が認められないことや、Xの職務が、通常の事務職であって格別特殊な技能や資格を要するわけでもないものであることなどの事情に照らすと、本件雇用契約が他業種、他の勤務場所への配転を排除するような職種限定・勤務地限定の雇用契約であると認めることはできない。

2 使用者の配転命令は、長期的な雇用関係を予定した正規従業員に対し使用者の人事権の行使として広く行われることが予定されているというべきである。しかし、特に転居を伴う転勤については、労働者の生活環境に少なからず影響を与えるというべきであるから、使用者としてもこれを無制約に行使できるものではないというべきであり、それが権利の濫用に当たる場合には無効となると解される。すなわち、当該配転命令に業務上の必要性が存しない場合や、業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機をもってなされたものであるとき又は労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情がある場合には同配転命令は権利の濫用に当たるものとして無効になる場合があるというべきである。もっとも、ここでいう業務上の必要性とは、余人をもってしては容易に替え難いといった高度の必要性に限定されるものではなく、労働者の適正配置、業務の能率増進、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りはその存在を肯定すべきである(最高裁昭和61年7月14日判決)。

3 ・・・遠距離通勤になることについても、Xが単身で生活しており、要扶養、要介護の親族を抱えているわけでもなく、転居が可能な立場にあったことからすれば、この点を重視することはできない

4 ・・・なお、本件配転命令の経緯については、Xからすれば、それまでXに甘い言動をしていたC本部長が、態度を翻して退職勧奨をし、配転を命じたという点で唐突に感じた面があるかも知れないが、自らの勤務ぶりに対する営業職らからの評判が芳しくなかったことについては察知できたと考えられるし、また察知すべきであったともいえる。また、平成22年11月にはC本部長からも直接厳しい内容の話をされており、自らの勤務態度を省みる機会を与えられていたといえるのであるから、本件配転命令が不意打ちであるということもできない

配転命令については、使用者に広い裁量が認められているので、労働者側からすると、解雇の有効性を争うときに比べてハードルが高くなります。

配転により遠距離通勤となることについては、裁判所はほとんど重視していないようです。

上記判例のポイント3を参考にしてください。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。