Category Archives: 配転・出向・転籍

配転・出向・転籍36 配転命令と労働者の自由意思に基づく同意(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用社員に対する配転命令の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

KSAインターナショナル事件(京都地裁平成30年2月28日・労判1177号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、違法無効な配転命令により損害を受けたと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき426万5800円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求している事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、214万5000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、平成27年1月16日にA監査室長から外す旨の配転命令を発しており、同月16日にはXが一度提出した始末書を書き直させることもしており、さらにXは同月22日に労働組合に加入して本件配転命令の撤回を求めていることからすると、Xが同月16日に嘱託契約書に署名捺印したのは、本件配転命令に不服があったものの、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
また、Y社では、同月26日に、同年2月1日付けでXを関西営業本部B事業部参事に異動させる配転命令をしたのであるから、それに基づいてXが引き継ぎをしたことについても、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
そして、配転命令が、その本来の適法性いかんにかかわらず、労働者の同意によって有効とされるためには、配転命令が違法なものであってもその瑕疵を拭い去るほどの自由意思に基づく同意であることを要すると解するのが相当であるから、本件では、Xがこのような同意をしたとは認められない
したがって、本件配転命令がXの同意を理由に有効であるとは認められない。

2 ・・・A監査室長の地位が、Y社の業務の内部監査と社員の研修を行う立場にあることを考慮しても、この社内メールをもってXがA監査室長として不適格であると認定することは、いささか早計に過ぎるというべきである。そして、XをA監査室長から外すことにより、Xが本件特約による退職金の補てん措置の対象外に減給措置を伴うものといえ、Xに経済的な不利益を及ぼすものでもある。これらの点を考慮すると、本件配転命令は、Xに経済的な不利益を及ぼしてまで行う業務上の必要性に欠けるというべきである。

3 本件配転命令により、Xは、月額5万円の退職金の補てんを得られなくなり、これは本件配転命令の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。そして、平成27年2月から本件口頭弁論終結日の属する月である平成29年12月までの間の35か月間の合計額は、175万円である。Xは、それ以後の分の損害も請求するが、XとY社との労働契約に職種限定がないことからすると、Xは業務上の必要があれば配置転換を命じられるべき立場にあるから、将来分の請求については未だ損害として認めるに足りない。
また、Xは、本件配転命令により精神的苦痛を受けたと認められるところ、経済的な不利益は前記により償われること、Xにも、A監査室長の立場にありながらY社の財務状況が悪いと根拠なく社内メールで述べたことに責められるべき点があることを考慮すると、本件での慰謝料は20万円と認めるのが相当である。

上記判例のポイント1はとても大切です。

当該同意が自由意思に基づいているかという論点はさまざまな事案で登場します。

裁判所がどのような点に着目して判断しているのかを理解しておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍35 上司の不適切発言と慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 みなさん、よいGWを!

今日は、転勤命令の有効性ならびに上司らの言動等による不法行為の成否に関する裁判例を見てみましょう。

ホンダ開発事件(東京高裁平成29年4月26日・労判1170号53頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として採用され、そのA5事業部総務係に配属されたXが、その後、上司であるC及びDらの言動により精神的に苦痛を与えられた上、合理的な理由なく、不当な動機・目的によりY社のA3事業部ケータリングサービス課ランドリー班に異動させられたとして、Y社に対し、A3ランドリー班において勤務する労働契約上の義務を負わないことの確認を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求権により、慰謝料500万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。

原審は、請求棄却。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、100万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社の労働協約及び就業規則には、業務上の都合により、配置転換等を命ずることがある旨が規定されており、Y社には社員の配置転換等について、裁量が認められるところ、Xも出張精算業務や常便業務等の一定の総務業務は担当していたが、担当する業務においてミスが多く見受けられていたこと、A5総務では総務係の人数等から総務業務以外の業務も内部で手分けして担当する必要があった反面、A3ランドリー班では洗濯物の数量が増加し、人員の補強が求められており、本件異動命令が不当な動機・目的をもってなされたとまでは認めるに足りる証拠がないことからすれば、C及びDがしたXへの業務分担の在り方や本件異動を命ずることなどは、新卒社員に対する対応としては配慮に欠ける部分が多く見られるものの、これを違法と評価し、本件異動命令が無効であるとまで認めることはできない

2 しかしながら、Xが、大学院卒の新入社員でありながら、配属直後に、X以外誰も経験していない配属先の部署とは異なる部署で約1か月半もの間の研修を命じられたこと、その後も2年以上にわたって、配属先の部署の業務に専念し、同業務を修得する十分な機会を与えられないままの状態にありながら、本来達するべきレベルに達していないとの評価をされた上、それまでの業務とは関係がなく、周囲から問題がある人と見られるような部署に異動させられたことが認められる。また、Xは、総務係の仕事を担当することを希望しながら、実際には、C又はDの指示により、販売部門の所管する自販機の在庫集計作業やOJTプログラムには記載がない社員寮の契約社員の面接事務を担当した上、自販機の在庫集計作業では、自らの提案が認められなかったのに、Jの同様の提案は採用され、Cから、Jを見習うように指導されたことが認められる。そして、Cの平成23年12月の面談の際の発言は、X本人尋問の結果からうかがわれるXの内向的な性格に加え、同期会が関東地区で行われたことに鑑みると、Y社における上司で、先輩社員であることからの助言であるとしても、配慮を欠いたものというべきである。また、Cの平成24年8月の面談の際の発言についても、ミスは重ねながらも、ケアレスミスをなくし、少しずつではあるができる役割を増やそうとしているXに対し、配慮を欠いた言動であり、これを聞いたXが悔しい気持ちを抱いたことは十分に理解できる。さらに、平成25年7月の新入社員の実習終了後の送別会の二次会でのDの「多くの人がお前をばかにしている。」との発言に至っては、Xに対する配慮が感じられない発言であり、内向的な性格のXが「多くの人って誰ですか」と問いただしたことからも、Xの屈辱感には深いものがあったというべきである
以上のC及びDの言動並びに本件異動は、一体として考えれば、Xに対し、労働者として通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものと評価すべきであり、かつ、前記のC及びDの言動はY社の業務の執行として行われたものであることから、全体としてY社の不法行為に該当する。

通常、このようなケースでは、裁判所は多額の慰謝料を認めない傾向にあります。

本件では、100万円を認めており、金額としては比較的高額になっています。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍34 配転命令の必要性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員2名に対する配転命令の有効性と不当労働行為該当性に関する事案を見てみましょう。

廣川書店(配転)事件(東京地裁平成29年3月21日・労判1158号48頁)

【事案の概要】

本件は、東京都文京区所在の出版社であるY社の従業員であり、労働組合の組合員であるX1及びX2が、Y社から、平成28年2月1日付けで、埼玉県所在のZ分室で勤務するように命じられたこと(本件配転命令)について、これは就業場所の変更を伴う配転命令であるところ、Y社には配転を命じる権限がないので、本件配転命令は法的根拠を欠き違法、無効である、そうでなくとも、本件配転命令は裁量権の濫用に当たり、又は労働組合法7条1号所定の不当労働行為に当たり違法、無効であって、不法行為を構成すると主張して、Y社に対し、それぞれ、Z分室に勤務する義務のない地位にあることの確認と、精神的苦痛の慰謝料50万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、30万円+遅延損害金を支払え

2 X2が、Yに対し、Z分室に勤務する義務のない地位にあることを確認する。

3 Y社は、X2に対し、30万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 XらがZ分室で行っている業務は、それらが業務の全てであるかどうかは別にして、基本的に従前と同様の内容であるから、それらを敢えて本社社屋から片道約1時間かかるZ分室まで赴いて行う意味があるのか、大いに疑問がある上、Y社が命じた勤務形態が、午前9時に本社社屋に出社し、タイムカードを打刻してからZ分室に向かい、同所で作業後、午後5時には本社社屋に戻るということであり、Z分室への往復に要する2時間程度の間は業務が処理できず、停滞を余儀なくされることも勘案すれば、本件配転命令は明らかに不合理であり、Z分室にXらを配転する業務上の必要性があるとは容易に認めることはできず、むしろ、このような配転には業務上の必要性がないという推定が働くというべきである。

2 ・・・加えて、Xらは外気を壁や扉で遮断する措置が講じられていない倉庫の一角という、およそ事務作業をするのに適さないと思われる作業場におり、同所は、Xらが平成28年3月10日に調査した際には、暖房の近くでも摂氏14度しかなく、そのことを伝えられたY社がヒーターを設置した経緯があることからしても、本件配転命令に当たってのY社の準備等はいかにも場当たり的であって、この点も、本件配転命令の不合理性を示すものといえる。

3 しかも、本件配転命令には、他の組合員の継続雇用に関する非組合員との差別的取扱いや団交拒否について、Y社に対し、複数の不当労働行為救済命令が出されている中で発せられたという経緯があり、その経緯からは、Y社が労働組合を嫌悪し、本社社屋から組合員を排除するという不当な目的をもって本件配転命令を発したことが推認されるというべきところ、・・・この推認を覆すような証拠は見当たらず、前述のとおり、業務上の必要性が認められないことも、この推認を支えるものである。

わかりやすく配転の必要性がないケースですね。

これではさすが無効です。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍33(大王製紙事件)

おはようございます。

今日は、降格処分は有効であるが出向命令は無効とされた裁判例を見てみましょう。

大王製紙事件(東京地裁平成28年1月14日・労経速2283号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社による配置転換命令、降格処分、出向命令、懲戒解雇はいずれも無効であると主張して、Xが労働契約上の権利を有し、降格処分前の地位にあること、配置転換先及び出向先に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成25年2月分の未払賃金、解雇後である同年4月以降の月例賃金及び賞与+遅延損害金の各支払を求め、また、Y社がXの内部告発に関するプレスリリースを発出したことによりXの名誉を毀損し、懲戒委員会を開催してXを難詰し、全く合理性のない配置転換命令等を乱発し、無効な降格処分及び懲戒解雇をするなどした一連の行為が、Y社のXに対する不法行為を構成すると主張して、民法709条、715条に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 XとY社との間で、Xがダイオーロジスティクス株式会社赤平営業所に勤務すべき労働契約上の義務がないことを確認する。

3 Y社はXに対し、36万0841円+遅延損害金を支払え

4 Y社Xに対し、平成25年5月から月例賃金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社において、Xを重要な機密情報を取り扱わない部署に再配置する必要があったことは認められるものの、赤平営業所所長という役職は、業務内容の観点からみてXの配置転換先としての合理性を欠くといわざるを得ないものであった。・・・加えて、赤平営業所署長という役職は、実質的には赤平製紙業務課の物流業務の一担当社にすぎず、関係会社の取締役総務部長を歴任したXの配置転換先として余りに不相応なものであった。これらの事情に、赤平出向命令が、本件降格処分を告知した直後にその場で発せられたものであり、Y社において、懲戒処分の検討と平行してXの配置転換先の検討が進められたと考えられることをも併せ考慮すれば、Y社は、懲戒事由に該当する非行をしたXの処遇として、本件降格処分と赤平出向命令とを併せて決定したものであり、実質的にXを懲戒する趣旨で赤平出向命令を発したとの評価を免れないというべきである
そうすると、赤平出向命令は、その動機・目的が不当なものであるといわざるを得ないことになるから、出向命令権を濫用したものとして、無効であるというべきである(最判昭和61年7月14日)。

2 出向命令権や懲戒権の行使が無効であることから直ちに不法行為が成立するものではなく、別途、不法行為に成立要件を充足するか否かを検討すべきであるところ、赤平出向命令は、実質的に懲戒の趣旨で配置転換先を決定したと評価される点において不当というべきものであったが、他方において、その当時、Xを暫定的な配置先であった総務人事本部人事部付から配置転換する必要があったことまで否定されるものではなく、その際、XがY社の秘密に属する情報を漏らしていたことに照らし、重要な機密情報を取り扱わない部署に配置する必要があると判断したことにも合理が認められること、Xは懲戒事由に該当する程度の思い非行をしていたのであり、懲戒事由がない者に対して懲戒の趣旨で配置転換をした場合とは異なること、Xは赤平出向命令に従っておらず、出向に伴う事実上の不利益を実際に受けたわけではないことに鑑みれば、Y社が赤平出向命令を発出し、これに従わなかったことを理由として本件懲戒解雇をしたことが、社会的相当性を逸脱し、不法行為法上違法であるとまでいうことはできないというべきである。

懲戒的意味合いで出向命令を行う場合、上記判例のポイント1のような判断につながってしまいます。

配転・出向後の役職や仕事の内容が大幅に下がる場合、当該業務命令の有効性は、合理的な理由を説明ができるかどうかにかかってきます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍32(社会福祉法人奉優会事件)

おはようございます。

今日は、出向命令が有効とされた裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人奉優会事件(東京地裁平成28年3月9日労経速2281号25頁)

【事案の概要】

本件は、主位的に、Y社のXに対する違法な出向命令により、Xの出向後の給与及び賞与が出向前よりも減額したとして、その差額について、不法行為に基づく損害賠償を求め、予備的に、出向命令が有効であるとして、上記差額について、出向規程に基づく補償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件限定合意がある以上、Xの同意のない本件出向命令は違法・無効であると主張する。確かに、労働条件通知書には、「就業の場所」として、「特別老人ホーム白金の森」と記載されているが、当該記載は、採用時の労働条件の明示事項(労働基準法15条1項)である勤務の場所を記載したものであり、採用直後の勤務場所を記載したものにすぎないと認められる。また、Xは、募集要領に「法人内異動:有」と記載されているところ、Xの就業場所としてY社が経営する施設以外への出向等がないかについて、就職時、特に確認していたと主張する。しかし、Y社は本件限定合意の成立を否認しており、Y社職員のうちXだけ出向規程の適用を排除すべき特段の事情があったと認められないこと、他に上記合意の成立を認めるに足りる的確な証拠がないことからすれば、本件限定合意が成立していたと認めることはできない

2 Y社は、ケアマネージャーとして勤務したいというXの希望を踏まえた上で、本件出向命令に至っているのであって、出向を命ずる業務上の必要性はあったと認められ、他に本件出向命令について、不当性をうかがわせるような事情はない。また、本件出向命令によってXの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容(SPM)について、事前に説明会が実施されており、Xは自分が担当するSPMの業務内容について十分理解していたこと、出向規程において、出向中の職員の地位、賃金、退職金その他処遇等に関する規定等、特に本件補償規程を設けて、経済的不利益が大きくならないように配慮していることを勘案すれば、Xが労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そして、本件出向命令に至る経緯及び本件出向命令後、Xは何ら異議を述べることなく出向先での勤務を開始していることからすれば、Y社において、Xが出向に同意したものと認識し、出向同意書の返送を催促せず、その結果、出向同意書が未提出のままになっていたことも理解できるものであり、当該事実が、本件出向命令の不当性をうかがわせるような事情であるとはいえない
これらの事情にかんがみれば、本件出向命令が権利の濫用に当たるということはできない。

X側とすれば、限定合意の存在を強く主張しましたが、この点について裁判所が否定したためにかなり厳しい戦いとなりました。

出向命令自体、特に不当な目的のためになされたものでもなく、かつ、経済的不利益を減らすための措置を講じていることからこのような判断となりました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍31(L産業(職務等級降級)事件)

おはようございます。

今日は、職務変更に伴うグレード格下げと賃金減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

L産業(職務等級降級)事件(東京地裁平成27年10月30日・労判1132号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社が採用するいわゆる職務等級制の人事給与制度の下で、Y社によって職務を変更され、これに伴い職務等級(グレード)が降級され賃金が減額されたこと等について、当該措置が無効であるとして、降級前の等級(マネジメント職のグレード「E1」)につき労働契約上の地位を有することの確認、降級前後の月額給与の差額及び賞与の差額+遅延損害金の支払を求めるとともに、当該措置が違法であり、これによって精神的苦痛を被ったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料+弁護士費用)+遅延損害金を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Gチームの解散により、Xがそれまで就いていたGチームのチームリーダーの職務、役職自体はなくなったものであるから、Xを同チームリーダーの地位からはずすことについては業務上の必要性が認められる。また、Xが本件人事発令により就いた臨床開発部医薬スタッフという職務は、医薬情報部がXをチームリーダーとして受け入れられなくなって、急きょXに割り当てるポストを探したところ、臨床開発部の人員が足りないので、Xの配置先となったという経過からすると、Xをそこに配置する業務上の必要性自体は認められるというべきである。

2 確かに、上記異動時にはH部長からXに医薬情報部の元のポストに戻ることを念頭に置いた説明があったにもかかわらず、Gチーム解散時には専らH部長の反対によってXの上記ポストへの復帰が実現せず、本件人事発令に至ったとの経過が認められ、前言を翻したかのような配転、処遇を強いられたXにおいて、期待・信頼を裏切られたと考えても無理からぬところがあったといえる。
とはいえ、Gチームの解散時期すら当初は未確定であり、H部長の説明にしても、その間に事情変更が生じかねないことも織り込んだ上で、将来にわたる人事異動・配置の見とおしを述べた程度のものとみるべきであり、Y社においてXに対する何らかの義務を負うような合意が成立したとみることはできない。本件人事発令と同時期にJを医薬情報部チームリーダーに充てたことについても、XとJのいずれが適任であるかについては人事上の裁量判断に属し、Xがかつて同じポストに就いていたことや、XがGチームグループへ異動する際に上記のとおりの経緯、H部長の説明があったことだけでは人事上の裁量権の範囲の逸脱を基礎付けるに足りるものとはいえない。

3 もとより、ここで生じた減収を少額ということはできず、超過勤務手当の支払額は労働実態に呼応して変動し得る不確定なものであるとの事情も無視はできないが、本件人事発令により管理職に相当するマネジメント職の地位からはずれ、その職務内容・職責に変動が生じていることも勘案すれば、Xに生じた上記減収程度の不利益をもって通常甘受すべき程度を超えているとみることはできない

マネジメント職から一般職への配転命令に伴い、減収が生じる場合、どうしても訴訟リスクが高まります。

裁判所は、本件配転命令の有効性について、東亜ペイント事件最高裁判例の規範に基づき判断しています。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍30(ナカヤマ事件)

おはようございます。

今日は、ノルマ未達成を理由とする配転・降格の有効性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ナカヤマ事件(福井地裁平成28年1月15日・労判1132号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、福井支店から長野支店への配転命令を受け、その有効性を争ったことを契機として出勤していないところ、Y社に対し、①1か月当たり29万円の未払賃金、②未払の時間外労働賃金367万9812円及び③労働基準法114条所定の付加金232万3036円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、46万0010円+遅延損害金を支払え

2 Y社はXに対し、506万2984円+遅延損害金を支払え

3 Y社はXに対し、232万8186円+遅延損害金を支払え

4 Y社はXに対し、232万3036円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 ①本件賞罰規定は、Xら「M社員」に対し、地域的特性も考慮することなく、困難な売上高の達成を求めるものである一方で、それが1か月でも達成できなかった場合には、直ちに、固定給を月額10万円減額するか、Y社の決定する他の支店に異動させるという制裁を課すものであること、②本件賞罰規定上の制裁措置として、実質的な降格と配転命令があったが、Y社は、Xが制裁対象となった後、繰り返し申請に基づく降格か自主退職かを選ぶよう求めるだけで、配転命令については言及していなかったこと、③Y社側から連日のように働き掛けたのに、Xが降格に応じようとしなかったため、異動先の内示も全くないまま、突如、本件配転命令を発令したこと、④Aは、Xに対し、本件配転命令発令後、直ちに異動先の長野支店に向かうよう指示し、これに応じないのであれば自主退職をするしかないと述べたことが認められる。

2 以上の事実によれば、まず、本件賞罰規定による制裁は、その発令要件との関係で過酷にすぎ、著しく不合理であるといわざるを得ない。また、本件賞罰規定は、制裁措置として「S社員」等への実質的な降格の他に配転命令を挙げてはいるが、Y社は、制裁対象となったXに対し、自主的な降格又は退職のみを勧め、Xがこれらのいずれにも応じずにいたところ、突如として本件賞罰規定に基づいて本件配転命令を発令し、これに応じないXに対して、やはり自主退職を促したというのであって、本件配転命令の根拠となった本件賞罰規定の目的は、専ら固定給の高い「M社員」を減らすという点にのみあったと認められる
・・・以上によれば、本件配転命令は、Y社が主張するように、Xの能力開発、勤労意欲の高揚に資する面が全くないわけではなく、業務上の必要性が皆無であったとはいえないことを踏まえても、Y社の権利の濫用によるものであって、違法であると認めるほかない。

3 法26条が、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、使用者に対し、平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として付加金や罰金の制度が設けられている(法114条、120条1号参照)のは、労働者の労務給付が使用者の責めに帰すべき事由によって不能となった場合に、使用者の負担において労働者の最低生活を上記の限度で保障しようとする趣旨に出たものであるから、法26条の規定は、労働者が、使用者の責めに帰すべき事由により、違法に配転命令の発令を受け、これにより、発令前の勤務部署に出勤することができなくなった場合にも、適用ないし準用されるものと解される(最高裁昭和37年7月20日)。
これを本件についてみると、・・・したがって、Y社のXに対する未払賃金額を算定するに当たっては、Xが他社から支払を受けた給与等を控除するべきであるが、その限度は、XがY社から支払を受けていた月額給与29万円の4割に当たる月額11万6000円にとどまる

会社に、高額の支払いが命じられています。

本件においては固定残業制を採用しているのですが、裏目で出ているケースです。

また、上記判例のポイントには載せていませんが、会社が途中で配転命令を撤回の意思表示をしていますが、裁判所は認めていません。

解雇事案においても途中で会社側が解雇を撤回することがありますが、撤回したからそれで無事終了というわけにはいかないことを理解しなければなりません。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍29(T社事件)

おはようございます。

今日は、出勤停止の懲戒処分、配転命令が有効とされた裁判例を見てみましょう。

T社事件(東京地裁平成27年9月9日・労経速2266号3頁)

【事案の概要】

本件は、使用者であるY社から、元交際相手の男性との復縁工作を探偵社に依頼した行為に関し3日間の出勤停止の懲戒処分を受け、その後、配転命令を受けたXが、Y社に対し、前記懲戒処分及び配転命令は無効かつ違法であると主張して、①出勤停止ないし休職期間中の賃金7万0975円及び遅延損害金の支払、②配転先の部署であるY社の電力・社会システム技術開発センター高機能・絶縁材料開発部環境機能性材料開発担当において勤務する雇用契約上の義務のないことの確認、及び③違法な懲戒処分及び配転命令により受けた精神的苦痛について不法行為に基づく損害賠償請求として200万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件依頼行為は、本件男性及び被害女性のプライバシーを正当な理由なく侵害する行為で、かつ、社会通念上相当とはいえない行為である。そして、本件依頼行為がなければ起きなかった本件名誉毀損等の行為により、被害女性はインターネット等において実名をもって著しく名誉を毀損され、その結婚式の二次会は中止を余儀なくされ、Y社は数日間の業務妨害により多数の従業員による対応を余儀なくされた。つまり、本件依頼行為は、それ自体が権利侵害である上、起きた結果はさらに重大である。
そうすると、Xが、本件名誉毀損等の行為が行われることについて認識、認容していなかったこと、Xにとって初めての非違行為であること、被害女性と示談が成立していること、Xが、交際相手から他の女性との結婚を伝えられ、焦りの余りとった行動であることを考慮しても、出勤停止3日の懲戒処分を行うことは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、懲戒権の濫用であるとはいえない(労働契約法15条)。

2 Y社としては、被害女性の二次的な被害及び他の従業員の動揺等による業務遂行の支障を避けるため、被害女性が業務でしばしば訪問するIECにXを配置しておくことはできず、Xを被害女性との接触可能性が少ない部署に配転する業務上の必要性があったと認められる。

3 配転先の選定については、被害女性が業務で訪問している部署や訪問する可能性が高い部署を外し、かつ、Xの学部時代の専攻である無機材料の物性分析と関連がある、素材の性質の分析に関わる部署を選定していること(Xは本件配転先で一定の成果を上げている)、Y社は、本件配転前に居住していたXの自宅から通勤時間が2時間弱程度かかることに配慮し、Y社の寮の利用を提案していることからすれば、本件配転において、Xを退職させる目的があったとは認められない

4 本件配転により、Xの自宅からの通勤時間は1時間以内であったのが、2時間程度になったが、その通勤時間が、首都圏において一般的に通勤時間として許容できない範囲であるとはいえないし、Y社がXに対し、本件配転先に近い寮の利用を提案していることからすれば、通勤時間が長いため著しい不利益があるとのXの主張は採用できない。

5 Xには本件配転前後で基本給の変更はなく、初めての部署であることを考慮し、自立的な業務遂行ができること等を要件とするフルフレックス制を適用しない合意をしたため、本件配転後の平成26年1月から同年9月まで業務手当10万5100円が支給されなくなり(その代わりに勤務時間に応じて時間外労働手当が支給されることとなった)、一時的に手取り額が減少した。他方、平成26年10月からフルフレックス制が適用されて、本件配転前より多額の10万7720円の業務手当が支給されている。そうすると、・・・その趣旨目的、賃金が減少していた期間、代替措置に照らし、著しい不利益とまでは認め難い。

出勤停止3日という絶妙な懲戒処分であるため、処分の相当性についても問題なく認められています。

配転命令については、会社が退職勧奨の目的がないことを裏付けるために、どのようなアプローチをしたらよいのか、是非、この事例から読み取って下さい。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍28(大和証券ほか1社事件)

おはようございます。

今日は、営業社員に対する転籍の有効性と組織的嫌がらせの存否に関する裁判例について見てみましょう。

大和証券ほか1社事件(大阪地裁平成27年4月24日・労判1123号133頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社からY2社に出向して同社で営業業務に従事していたXが、Y2社への転籍同意書に署名押印したが転籍の合意は成立していない又は無効であるなどとして、Y1社に対し、労働契約に基づき、労働者たる権利を有する地位にあることの確認及び転籍後の平成25年4月以降の賃金の支払を求めるとともに、Y2社に出向した後、上司から様々な嫌がらせを受けて精神的損害を被ったが、これらの行為は、被告らが共謀して行ったものであるとして、共同不法行為に基づき、Y1社及びY2社に対し、連帯して、慰謝料200万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1社及びY2社は、Xに対し、連帯して、150万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 平成24年9月28日、C副部長は、Xに対し、Y2社に当初6か月間出向となり、その後転籍となることを予定していることなどを説明した上で、Xに対し、本件同意書に署名押印するよう求め、Xはこれに応じている
本件転籍は、平成25年4月1日にXがY1社を退社するとともにY2社に入社することを内容とするものであるから、C副部長はその旨の申込みをし、Xはこれを了承して同内容の合意が成立したことになる。
Y2社は、平成25年3月27日に原告に対して転籍のために必要な書類として退職願などの書類を交付し、作成及び提出を求めているが、本件転籍についての合意自体は平成24年9月28日に成立しているから、Xが退職願などの書類を作成しなかったことは本件転籍の効力を妨げるものではない
また、Xは業務命令に従う趣旨で本件同意書に署名押印したのであるから、転籍についての合意は不存在であると主張しているが、本件同意書の内容に従った法律効果が発生することに同意しているのであるから、転籍の合意は成立しており、原告がどのような認識の下で合意することに至ったかは、錯誤の問題にすぎない。

2 そして、C副部長は、Y2社との間で事前に調整をした上でXに対し本件転籍についての同意を求めていること、Y1社の人事関連業務だけでなくグループ本社の人事副部長としてY2社の人事関連業務も担当していたこと、転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであり両社が個別にXに合意を求める類の合意ではないことからすると、C副部長は、Y2社を代理して本件転籍に係る意思表示を行う権限を有していたことが認められるから、C副部長とXとの間に成立した本件転籍にかかる合意の効力は、Y1社だけでなく、Y2社に対しても、その効果が帰属する
したがって、Xが本件同意書に署名押印したことにより、本件転籍につき三者間で合意が成立したものと認めるのが相当である。

3 これに対し、Xは、仮にC副部長にY2社を代理して転籍の申込みを行う権限があったとしても、本件同意書の名宛人はY1社のみであり、また、C副部長はXにY2社のために行うことを示していないからY2社にはその効果が帰属しない旨主張しているものと解される。
しかし、転籍は転籍元の退職と転籍先への入社が一体となっているものであるから、C副部長がY1社のためだけではなくY2社のためにも同意を求めていることは当該合意の性質上明らかである上、商人である会社による労働契約の締結は、特段の反証のない限りその営業のためにするものと推定されるから商行為であり(商法503条)、C副部長が本人であるY2社のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、Y2社に対してその効力を生ずるから(商法504条本文)、Y2社のために行うことの顕名がなくとも、Y2社に合意の効果は帰属する。

4 Xは、Y2社への転籍は、Xに諾否の自由のない業務命令であると誤解して、その誤解に基づいて本件同意書に署名押印したものであるから、Xによる本件転籍に同意するとの意思表示は錯誤により無効であると主張している。
しかし、本件同意書は、表題に「転籍同意書」、本文の初めに「下記の条項を了承のうえ、転籍することに同意します。」と記載されているから、Xが同意することが転籍の前提となっていることはXにも容易に分かり得る。
Xは、本件同意書の第4項に「今後もaグループ内での出向・転籍を命ずることがある」と記載されていることやC副部長から決定事項として伝えられたことから諾否の自由がないものと思ったとも主張しているが、他方で、本件同意書には「同意書」「転籍することに同意します」とも記載されているのであるから、本件同意書に「転籍を命ずることがある」との文言が記載されていることを根拠として、Xが諾否の自由がないと誤信したとの事実を認定することはできず、他にXが諾否の自由がないものと誤信したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
加えて、仮にXが諾否の自由がないものと誤信していたとしても、諾否の自由についての誤信は動機の錯誤にすぎず、その動機が表示されていたとも認められない

非常に参考になる裁判例です。

グループ会社間での出向や転籍が頻繁になされている会社の総務担当者は、それぞれの法的相違点や取扱いの留意点を理解しておく必要があります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

配転・出向・転籍27(大和証券ほか事件)

おはようございます。

今日は、転籍先での嫌がらせについての転籍元の責任に関する裁判例を見てみましょう。

大和証券ほか事件(大阪地裁平成27年4月24日・ジュリ1484号4頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社からY2社に出向して同社で営業業務に従事していたXが、Y2社への転籍同意書に署名押印したが転籍の合意は成立していない又は無効であるなどとして、Y1社に対し、労働契約に基づき、労働者たる権利を有する地位にあることの確認及び転籍後の平成25年4月以降の賃金の支払を求めるとともに、Y2社に出向した後、上司から様々な嫌がらせを受けて精神的損害を被ったが、これらの行為は、被告らが共謀して行ったものであるとして、共同不法行為に基づき、Y1社及びY2社に対し、連帯して、慰謝料200万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1及びY2はXに対し連帯して150万円+遅延損害金を支払え

その余の請求を棄却する

【判例のポイント】

1 本件転籍は、平成25年4月1日にXがY1社を退職するとともにY2社に入社することを内容とするものであるから、Bはその旨の申込みをし、Xはこれを了承して同内容の合意が成立したことになる。・・・Xが退職願などの書類を作成しなかったことは本件転籍の効力を妨げるものではない

2 BはY2社を代理して意思表示を行う権限を有していたと認められるので、BとXとの間に成立した合意の効力は、Y1社だけでなく、Y2社に対しても効果が帰属する。Xが本件同意書に署名押印したことにより、本件転籍につき三者間で合意が成立した。

3 Y2が、旧第二営業部室内にXの席を設けるなどしてXを隔離したこと、約1年にわたり新規顧客開拓業務に専従させ、1日100件訪問するよう指示したこと、Xの営業活動により取引を希望した者の口座開設を拒否したことは、Xに対する嫌がらせであり、不法行為に該当する。

4 BはY2社でのXの業務内容につき報告を受けており、Y2社のXに対する対応を認識していた。Xが本件転籍までY1社の社員であり、新規顧客開拓業務への専従についてはBからもXに説明していたことからすれば、Y2社が上記嫌がらせをY1社と何ら相談することなく行っていたとは考え難い。
Y1社らは、XはY1社入社以来様々な業務に従事したが期待される役割を果たせず、勤務態度等にも問題があり、営業業務への配属後も同様の結果であったなどと主張しており、Y1社にはXを退職に追い込む動機がある。
以上によれば、Y2社はY1社の了解を得た上でXに対する嫌がらせを行っていた

珍しい裁判例ですね。

上記判例のポイント4の認定はどうなんでしょうかね・・・。担当する裁判官により判断が異なる部分だと思われます。

一応このような判断もあり得るということは理解しておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。