おはようございます。
今日は、育児休業後の復職予定日以降の不就労の一部につき会社に帰責性があるとされた裁判例を見てみましょう。
X商事事件(東京地裁平成27年3月13日・労経速2251号3頁)
【事案の概要】
本件は、Xが育児休業後の復職予定日である平成25年6月17日以降Y社に出社していないことについてY社に帰責性がある旨主張し、X及びY社間の雇用契約に基づき同日以降の賃金の支払を求めるとともに、Y社が産前産後休業中のXに退職通知を送付するなどした行為が違法である旨主張し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)250万円を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、64万6627円+遅延損害金を支払え
Y社はXに対し、15万円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 Xが育休を取得している以上、復職予定日に復職するのが当然であり、また、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律4条、22条等に照らせば、Y社は、事業者として、育休後の就業が円滑に行われるよう必要な措置を講ずるよう努める責務を負うと解されるところ、平成25年4月1日以降のY社の対応は、Y社がXの復職を拒否し、又はXを解雇しようとしているとの認識をXに抱かせてもやむを得ないものであり、他方で、Xは、平成25年4月22日付けのC宛てのメールにおいてY社の行為が実質解雇に当たる旨を明記しているから、Y社としても、XがY社の一連の対応について上記のような認識を有していることを把握することは可能であったといえる。
そうであれば、Y社は、自らの対応によりXに抱かせた誤解を速やかに解き、Xの復職に向けた手続が円滑に進むように、Xに対し、復職のための面談が必要であるから出社するよう明確に指示をする必要があったというべきであるが、本件全証拠によっても、乙2の通知書を送付するまで、Y社がXに対して上記のように明確な指示をしたとは認められないから、乙2の通知書がXに到達する平成25年8月31日までの間のXの不就労については、Y社に帰責性があると評価するのが相当である。
2 ・・・他方、乙2の通知書がXに到達した後については、XがY社に出社しないことについて合理的な理由はなく、Y社に帰責性が存するものとは認められないというべきであり、また、Xが平成25年6月から家庭保育室に子を預けることができるよう枠を確保していた等の事情に照らせば、Xが上記通知を受けた後直ちにY社に出社することが困難であったとも認め難いというべきである。
3 ・・・なお、Y社は、Xの求めに応じて退職扱いを取り消したことをもってY社の上記行為が清算された旨の主張をするが、当該取消しにより違法な状態の継続が阻止されたとは評価し得るものの、当該行為自体の違法性がすべて阻却されるものとは評価し得ない。
4 Y社がXを退職扱いにし本件退職通知を送付した行為は、不法行為に該当すると認められるところ、XがY社から退職扱いの告知を受けたのが出産の翌日であったこと、当該退職扱いは、復職を希望して産休・育休を取得したXにとって全く予想外の出来事であったこと、Xが退職扱いの取消しをY社に求めていたにもかかわらず、Y社は本件退職通知を退職金とともにXに送付していること、他方で、本件退職通知を送付した数日後にY社がXの退職扱いを取り消していることなどの事情を総合考慮すれば、Y社の上記不法行為によりXが受けた精神的苦痛は、15万円をもって慰謝するのが相当である。
労使の行き違い、勘違いなどが原因でトラブルになることもあると思います。
そのような場合には、会社としては、「相手が勘違いしているのだから放っておけばいい」といじわるに考えるのではなく、状況の確認をしっかりすることが求められます。
労務管理は、日々、顧問弁護士に相談しながら1つ1つ冷静に対応することが大切です。