Category Archives: 退職勧奨

退職勧奨24 原告の辞職または退職合意申込みの意思表示が否定され、賃金の支払が命じられた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、原告の辞職または退職合意申込みの意思表示が否定され、賃金の支払が命じられた事案を見ていきましょう。

永信商事事件(東京地裁令和5年3月28日・労経速2538号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されたXが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該雇用契約に基づく令和4年1月分以降の賃金月額22万6000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容
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【判例のポイント】

1 Y社は、令和3年12月27日、Y社代表者が、XがC大へフローリング材を搬送した際にガードマンに暴言を吐くなどしたと聞き及んだことから、Xに問い質したところ、Xが「もう勤まらない。」と発言したため、「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」と返答したところ、Xが、貸与された携帯電話及び健康保険証を置いてY社の事務所を立ち去り、翌日以降出勤しなかったことを指摘して、Xが辞職又は退職合意申込みの意思表示をした旨を主張する。
しかし、Y社が主張するXが本件発言をするに至った経緯を前提としても、XがY社における就労意思を喪失したことを窺わせる事情は見当たらず、本件発言は、Y社代表者からC大の案件について問い質されたことに憤慨したXが、自暴自棄になって発言したものとみるのが自然であり、これを辞職又は退職の意思をもって発言したものとみるのは困難である。
また、Xが本件発言をした後、健康保険証等を置いてY社の事務所を去り、翌日から出勤しなかったとする点も、Y社代表者の「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」との返答を受けての行動であって、かかる発言は、社会通念上、Xの退職を求める発言とみるのが自然であることからすると、これを解雇と捉えたXがとった行動とみて何ら不自然ではなく、その約3週間後(年末年始を挟んでいるため、近接した時期といえる。)である令和4年1月15日に、XがY社に対し解雇予告手当の支払などを求める書面をY社に送付していることもこれを裏付けるものといえる。
そうすると、Y社主張の事実からXが辞職又は退職合意申込みの意思表示をしたということはできない。

よくある事例です。

上記のようなやりとりから、会社が当該従業員の退職意思を判断することも十分理解できるところですが、裁判所は、非常に慎重に判断します。

会社としては、しっかり、退職届を受領するようにしましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨23 精神障害発覚による退職勧奨の違法性等(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、精神障害発覚による退職勧奨の違法性等に関する裁判例を見ていきましょう。

中倉陸運事件(京都地裁令和5年3月9日・労判1297号78頁)

【事案の概要】

本件は、貨物自動車運送事業等を目的とするY社に、4トンウイング車乗務員として雇用され、令和2年8月1日から就労を開始したXが、同月4日に精神障害等級3級の認定を受けている旨の書類を提出したところ、即日解雇されたが、本件解雇は無効であるなどと主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②同月6日から本判決確定の日までの未払賃金+遅延損害金の支払を求め、また、③障害者を差別した不当解雇、あるいは違法な退職勧奨を受けたとして、不法行為責任に基づき、慰謝料500万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、80万円+遅延損害金を支払え。

その余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、以前にも、勤務していた会社を退職する際、退職届を提出したことが複数回あり、Y社において就労を開始するに当たっても、勤務していた食品会社を退職する際、同様に退職届を提出したというのである。そうすると、Xは、本件退職届を作成、提出した際にも、その意味するところを十分に理解していたというべきであるから、Xの本件退職届の作成、提出につき、心裡留保があるとか、これに対応する意思の欠缺があるということはできない。また、Xがいう動機の錯誤は、自身が令和2年8月4日に解雇されたと認識していたことを前提とするところ、Xが同日解雇されたと認識していたとは認められないから、その点で錯誤があるということもできない。

2 退職勧奨行為自体は、その具体的内容や態様、これに要した時間等からみて、執拗に迫ってXに退職の意思表示を余儀なくさせるような行為であったとまでいうことはできず、退職に関するXの自由な意思決定を阻害するものであったとは認め難い

3 Y社は、Xが精神障害等級3級との認定を受け、通院して服薬治療を受けていることのみをもって、その病状の具体的内容、程度は勿論、主治医や産業医等専門家の知見を得るなどして医学的見地からの業務遂行に与える影響の検討も何ら加えることなく、退職勧奨に及んだものといわざるを得ない
そうすると、Y社の上記退職勧奨行為は、Xの自由な意思決定を阻害したものとまで評価できないにしても、障害者であるXに対して適切な配慮を欠き、Xの人格的利益を損なうものであって、不法行為を構成するというべきである。そして、Y社の上記退職勧奨行為の内容のほか、本件記録に表れた諸事情を考慮すると、Xの精神的苦痛を慰謝するには80万円をもってするのが相当である。

退職勧奨自体は有効にもかかわらず、障害者に対する配慮を欠いていたという理由で慰謝料が認められています。

退職勧奨が退職強要に及ばない限り、単に「勧奨」しているにすぎないため、それに応じるか否かは労働者の自由です。それにもかかわらず、上記判例のポイント3の第1段落の理由から裁判所が慰謝料を認めたのは驚きました。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨22 辞職の意思表示における錯誤の成否と辞職承認処分の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、辞職の意思表示における錯誤の成否と辞職承認処分の適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

栃木県・県知事(土木事務所職員)事件(宇都宮地裁令和5年3月29日・労判1293号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員であったXが提出した退職願に基づき、処分行政庁がXに対し令和元年10月31日付け辞職承認処分をしたことについて、Xが、Y社に対し、①本件退職願に係る辞職の意思表示は錯誤により無効であり、又は、詐欺を理由として取り消され、そうでなくとも、Xの自由な意思に基づかないものであるから、これを前提としてなされた本件処分は適法であると主張して、その取消しを求めるとともに、②Y社の職員がXに対し違法に退職を強要したと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

辞職承認処分取消し

その余の請求棄却

【判例のポイント】

1 職員から退職願が提出されている場合であっても、退職願の作成に至る経緯や職員の心身の状況その他の事情に照らし、その意に反しないものと認められない場合には、当該退職願に基づきなされた、当該職員に対する職を免ずる旨の行政処分は、違法であると解するのが相当である。

2 本件面談及び本件退職願の作成・提出はいずれも、Xが双極性感情障害のため傷病休暇を取得して約半月が経過し、なお傷病休暇中であった最中に行われたものであり、28余年にわたる公務員としての身分を失うという人生の重要局面における決断を、熟慮のうえでなし得るような病状であったとはいいがたい

3 本件面談当時のXは、頭の回転が落ちているという状況下において、必要な選択肢が明示的に与えられなかったことで、適切な判断をすることが困難な状況にあったものということができる。

4 本件退職願は自由な意思に基づくものとはいえず、退職がXの意に反しないものであったとは認められない。

精神疾患のある労働者に対して退職勧奨を行う際の注意点がわかる裁判例です。

現場における判断はとても難しいので、顧問弁護士等に相談をしながら慎重を進めるほかありません。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨21 辞職の意思表示と自由な意思(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、辞職の意思表示と自由な意思に関する裁判例を見ていきましょう。

栃木県事件(宇都宮地裁令和5年3月29日・労判ジャーナル137号18頁)

【事案の概要】

本件は、栃木県の元職員Xが提出した退職願に基づき、栃木県知事がXに対し辞職承認処分をしたことについて、Xが、栃木県に対し、本件退職願に係る辞職の意思表示は錯誤により無効であり、又は、詐欺を理由として取り消され、そうでなくとも、Xの自由な意思に基づかないものであるから、これを前提としてなされた本件処分は違法であると主張して、その取消しを求めるとともに、栃木県の職員がXに対し違法に退職を強要したと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金110万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

辞職承認処分取消請求認容

損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 本件退職願について、人事チームのリーダーのA及び次長であるBは、本件面談の際、Xが仕事を休むことで、他の職員等に迷惑が掛かっており、仕事をしないXに給与が支給されることに対し納税者たる県民の理解が得られないのではないかなどと、Xに対する消極的な事情を畳みかけるように告げ、さらに、県職員は向いていないという見方もできるとして、Xの適性にまで踏み込んで肯定的ではない評価を述べた上で、Xがそれまで自ら口にしていなかった退職という選択肢を栃木県側から示し、あらかじめ用意していた退職願の様式をその場で交付しているから、たとえAらに退職勧奨の意図がなかったとしても、Xからすれば、退職を勧められていると受け止めても仕方がない状況であったと認められるところ、Xが本件面談時にはあくまで復職を希望していたことや上記経過からすると、退職はXの意に反するものであったといえ、本件面談時の健康状態及び本件面談におけるAらの説明が相互作用したことにより、熟慮することができないまま退職の選択肢しかないという思考に陥った結果、本件退職願を提出するに至ったものと認められるから、本件退職願は自由な意思に基づくものとはいえないから、本件退職願を前提としてなされた本件処分は違法であるから、取り消されるべきである。

退職勧奨ですから、文字通り、退職を勧められているわけです。

労働者がそのように受け止めたからといって、直ちに自由な意思に基づかないとは限らないと思いますが、本件では自由な意思に基づくとは認められませんでした。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨20 懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、原則として不法行為を構成するとはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、原則として不法行為を構成するとはいえないとされた事案を見ていきましょう。

A病院事件(札幌高裁令和4年10月21日・労経速2505号45頁)

【事案の概要】

本件は、①Y社事務部長は、Xの勤務先病院の人事を統括する者として、Xに対し、社会通念上相当と認められる限度を超えた退職勧奨を行い、②Y社主任科長は、Xの所属部署の上司として、Xに関する虚偽の非違行為の情報をY社事務部長等に提供するなどして違法な退職勧奨をさせた旨主張するXが、Y社らに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料の一部である600万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審はXの請求を棄却したところ、Xがこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、労働者に対して懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨は、労使の立場が対等ではないことや懲戒処分が労働者に与える不利益が大きいことから、労働者の退職の意思決定の自由に制約を及ぼす可能性が高く、原則として、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱し、不法行為を構成すると考えるべきである旨主張する。
 しかしながら、そもそも退職勧奨自体は当然に不法行為を構成するものではないし、仮に労働者に対して懲戒処分の対象となる旨を告知した上で退職を勧奨する場合であっても、それが、例えば、解雇事由が存在しないにもかかわらずそれが存在する旨の虚偽の事実を告げて退職を迫り、執拗又は強圧的な態様で退職を求めるなど、社会通念上自由な退職意思の形成を妨げる態様・程度の言動をした場合に当たらなければ、意思決定の自由の侵害があったとはいえず、かえって、当該労働者としては、懲戒処分の当否を争うのか否か、すなわち、懲戒処分を受ける危険にさらされることと自主退職してこれを避けることとの選択をする機会を得られるという利益を享受することができる場合もあるといえる。そうすると、懲戒処分の対象となる旨を告知した上で行う退職勧奨が原則として不法行為を構成するということはできないというべきである。

2 Xは、Y社事務部長がXに対して自主退職しなければ解雇を含む何らかの懲戒処分がされる旨を告げたと認定すべきであり、懲戒権を背景とした退職勧奨をしたから、Y社事務部長による退職勧奨行為は不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら、Y社事務部長はXに対して処分の内容等をいまだ検討中であるという旨を告げたにとどまり、虚偽を告げてXを誤信させるなどXの意思決定の自由を侵害したとはいえない。Xが(懲戒)解雇となることを恐れる旨の発言をし、Y社事務部長がこれを否定しなかったことは認められるものの、Y社事務部長がXの誤解を招く言動をしたとはいえず、Xが自らそのような危惧感を持ったにすぎない。

上記判例のポイント1は重要ですので、是非、しっかりと押さえておきましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨19 使用者が承諾した後のため、従業員の退職の意思表示の撤回はできないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、録音の証拠能力を肯定し、従業員の退職の意思表示の撤回はできないとされた事案を見ていきましょう。

公益財団法人東京税務協会事件(東京地裁令和3年9月16日・労経速2468号43頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間の労働契約に基づき被控訴人に使用されていた控訴人が、被控訴人に対してした退職の意思表示が撤回、無効又は取消しにより効力を有しないと主張して、Y社に対し、①本件労働契約に基づき、未払賃金25万6000円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労基法114条、26条に基づく付加金25万6000円+遅延損害金の支払を求め、また、Y社の被用者がXに対して退職強要等のパワーハラスメントに及んだと主張して、Y社に対し、③不法行為(使用者責任)に基づき、慰謝料30万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決が控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これを不服とする控訴人が控訴した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者による退職の意思表示は、これに対し使用者が承諾の意思表示をした後は、もはや撤回することができないものと解される。
これを本件についてみると、Y社においては、幹部職員及び専門職員以外の職員(臨時職員として採用されたXもこれに当たるものと認められる。)の退職については事務局長が決定権限を有するところ、本件退職意思表示について、Y社の事務局長が、4月12日、これを受理して控訴人の退職を承認する旨の決定をしたものと認められる。
そうすると、同日の時点で、Y社は、本件退職意思表示に対し承諾の意思表示をしたものというべきであるから(改正前民法526条1項参照)、その後になされた本件撤回通知により本件退職意思表示を撤回することはできない。

2 Xは、乙第6号証(事業所面談における会話の録音反訳書面及び録音体)について、Xの許可なく録音されたものでありプライバシーを侵害するなどと主張し、違法収集証拠として証拠の排除を求めるものと解される。
そこで検討すると、民事訴訟法が証拠能力(ある文書や人物等が判決のための証拠となり得るか否か)に関して何ら規定していない以上、原則として証拠能力に制限はなく、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものである場合に限り、その証拠能力を否定すべきである。
これを本件についてみると、乙第6号証は、E所長が事業所面談においてXとの会話を録音し、これを反訳したものと認められるところ、当該証拠について控訴人が主張するところは、要するに控訴人の知らないところでその発言が録音されたというものであって、これを前提としても、当該録音が著しく反社会的な手段を用いてなされたとはいえないから、乙第6号証の証拠能力を肯定すべきである。

本件を通じて、民事訴訟における無断録音の証拠能力に関する考え方を押さえておきましょう。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨18 上司の退職強要・人格否定と損害賠償責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は、上司らの退職強要発言等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

東武バス日光事件(宇都宮地裁令和2年10月21日・労判ジャーナル107号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y1社の正社員であるXが、その余のY2らから退職強要や人格否定、過少な要求というパワーハラスメントを受けたとして、Y2らに対して共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対して使用者責任による損害賠償請求権に基づき、慰謝料200万円、弁護士費用20万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社らは、Xに対し、連帯して66万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件侮蔑的表現が、職責、上司と労働者との関係、指導の必要性、指導の行われた際の具体的状況、当該指導における言辞の内容・態様、頻度等に照らして、社会通念上許容される業務上の指導を超えて、過重な心理的負担を与えたといえる場合には、違法なものとして不法行為に当たるというべきである。

2 上司であるY2がX自身を「チンピラ」「雑魚」と呼称した部分については、行動に対する指導との関連性が希薄で、発言内容そのものがXを侮蔑するものであり、発言の態様や、その後Xが傷病休暇を取得してうつ状態と診断されたこと等も併せて考慮すれば、社会通念上許容される業務上の指導を越えて、過重な心理的負担を与えたといえるから、違法なものとして不法行為に当たる。

3 Y2らの一連の発言や指示は、Xの問題行動にも一因があるといえるものの、他方、特に本件退職強要発言は悪質性が強いといえることや、それにもかかわらずY社らが違法との評価を否定していること、Xが、Y2らの共同不法行為の後、うつ状態になったと診断されていること等に鑑みると、慰謝料の額として60万円が相当である。

慰謝料の金額よりもレピュテーションダメージを考えなければなりません。

退職勧奨の際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

退職勧奨17 試用期間の延長の可否・程度(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間の延長の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

明治機械事件(東京地裁令和2年9月28日・労判ジャーナル105号2頁)

【事案の概要】

本件は、産業用機械の制作、販売等の事業を営むY社との間で試用期間のある労働契約を締結していた既卒採用の従業員Xが、Y社に対し、延長された試用期間中に本採用を拒否(解雇)されたところ、その延長が無効であるとともに解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当でなく無効であるとして、雇用契約に基づき、労働契約上の地位確認などを求めるとともに、違法な退職勧奨により抑うつ状態を発症して通院を余儀なくされたなどとして、不法行為による損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容

損害賠償50万円認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における試用期間は、職務内容や適格性を判定するため、使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間で、試用期間中の労働関係について解約権留保付労働契約であると解することができる。そして、試用期間を延長することは、労働者を不安定な地位に置くことになるから、根拠が必要と解すべきであるが、就業規則のほか労働者の同意も上記根拠に当たると解すべきであり、就業規則の最低基準効(労契法12条)に反しない限り、使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許される
そして、就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても、職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に、そのような調査を尽くす目的から、労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されないから、上記のようなやむを得ない事情があると認められる場合に調査を尽くす目的から労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長しても就業規則の最低基準効に反しないが、上記のやむを得ない事情、調査を尽くす目的、必要最小限度の期間について認められない場合、労働者の同意を得たとしても就業規則の最低基準効に反し、延長は無効になると解すべきである。

2 Y社が本件雇用契約の試用期間を繰り返し延長した(1回目の延長及び2回目の延長)目的は、主として退職勧奨に応じさせることにあったと推認され、これを覆すに足りる証拠は存しないから、1回目の延長についても、2回目の延長についても、Xの職務能力や適格性について更に調査を尽くして適切な配属部署があるかを検討するというY社主張の目的があったと認めることはできない

試用期間の延長はそう簡単にはできないことを理解しておきましょう。

また、試用期間中の解雇や本採用拒否は、みなさんが思っているよりもハードルが高いです。

試用期間とはいえ、決して治外法権ではないことを理解した上で、顧問弁護士に相談をしながら進めて行きましょう。

退職勧奨16 違法な退職勧奨による損害とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、違法な退職勧奨を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

華為技術日本事件(東京地裁平成29年1月18日・労判ジャーナル62号66頁)

【事案の概要】

本件は、中国の民間企業であるA社との間で有期労働契約を締結し、A社の100%子会社であるY社に出向していたXが、Y社の従業員らから、相当性を逸脱した違法な退職勧奨を受けた結果、契約期間中に退職に追い込まれ、契約期間満了時までの逸失利益及び弁護士費用に相当する損害を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為(民法715条)に基づく損害賠償として約9166万円等の支払を求めた事案(なお、Xは、慰謝料の請求はしないことを明らかにしている。)である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・労働者に対して不当な心理的圧迫を加えるものであり、相当性を逸脱した違法な退職勧奨であるといわざるを得ない。

2 退職の意思決定は労働者の自由意思に委ねられるべきであって、退職勧奨が、そのような意思決定を促す行為としての相当性を逸脱する態様でなされた場合には、当該退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害するものとして違法性を有するものというべきところ、退職勧奨自体が、解雇とは異なって、雇用契約の終了という法的効果を生じさせる行為ではなく、雇用契約の終了という法的効果は当該労働者自身の意思決定をまって生じるものであることに鑑みると退職勧奨が違法であることを理由とした損害賠償の対象となるのは、基本的に、自己決定権を侵害されたことに伴う損害であり、雇用契約の終了に伴う逸失利益を含まないものと解されるから、Xの主張する逸失利益は、Xの退職に関する自己決定権侵害に伴う損害とはいえず、Y社による退職勧奨との間に相当因果関係があるとは認めがたい。

退職勧奨は違法と判断されながら、損害賠償は請求棄却という一見すると不思議な裁判例ですが、上記判例のポイント2がその理由です。

原告側は頑なに逸失利益を請求し、慰謝料については請求しなかったわけです。

確かに慰謝料が認められたとしても金額は知れていますが、だからといって念のためでも請求しなかったというのはなぜでしょう?

いずれにせよ、退職勧奨をする際は、事前に顧問弁護士に相談した上で慎重に対応しましょう。

退職勧奨15 違法な退職勧奨に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、違法な退職勧奨に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

碧南市事件(名古屋高裁平成28年11月11日・労判ジャーナル59号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で歯科医師として勤務していたXが、病院長による違法な退職勧奨を受けて退職せざるを得なくなったと主張して、病院を運営するA市に対し、国家賠償法1条1項に基づく、約4379万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

A市はXに対して、4078万9726円(減収分にかかる損害3167万7203円、退職手当にかかる損害911万2523円)+慰謝料50万円を支払え

【判例のポイント】

1 D教授は、Xに対し、Xが本件退職勧奨を応諾しない場合には、Xの下で診療等に従事する歯科医師について後任を派遣しない事態があることを告げたのであり、Xの下で診療に従事する歯科医師が派遣されないという事態は、病院に求められている水準の歯科診療を行うことが困難となることが確実であって、病院の歯科口腔外科部長として地域医療に従事するXにとっては、重大な不利益であるといえるところ、D教授が、Xに対し、上記の不利益を告知したことについては、本件退職勧奨の諾否にかかるXの自由な意思決定を促す行為として許される限度を逸脱し、その自由な意思決定を困難とするものであると認められるから、D教授が、C病院長の依頼に基づき、C病院長による本件退職勧奨の一環として、Xに対し、本件医局の関連病院の人事に関する影響力ないし事実上の権限をもって上記の不利益が生ずると告知して、暗に本件退職勧奨を応諾するよう求めたことは、少なくとも過失によりXの自由な意思決定を侵害する不法行為にあたる。

ドクターということもあり、損害額がかなり多額に及んでいます。

解雇を避けたいがために退職勧奨をするわけですが、やりすぎるとこのような結果となってしまいますので注意しましょう。

具体的な注意事項は顧問弁護士に確認しましょう。