Category Archives: 賃金

賃金219 休職中の不就労等についての未払賃金等支払請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職中の不就労等についての未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

ウィンアイコ・ジャパン事件(東京地裁令和3年5月28日・労判ジャーナル115号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、平成30年9月分及び同年10月分の日割給与が未払であるとして、労働契約に基づく未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社から解雇されたにもかかわらず解雇予告手当が支払われないとして、労働契約に基づく賃金請求として解雇予告手当等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金等請求一部認容

【判例のポイント】

1 本件休職命令による休職がY社の責に帰すべき事由による履行不能(民法536条2項)に当たるかについて、①本件契約において、Xが競業避止義務を負うことが明確に定められていたこと、②本件解雇の理由は、Xが会社在籍中、Y社商品の売買仲介等によって利益を上げる目的でY社を設立し、競業避止義務に違反したというものであること、③Y社が主張するXの競業避止義務違反の態様は、Xが某と共謀して、真の顧客である第三者が高額で支払うことに合意しているにもかかわらず、Y社に対して低額でしか売れない旨を報告してY社をして低額で販売する決裁をせしめ、その差額を自己らの利益としたということを反復継続して行い、Y社に損害を与えたというものであること、④本件休職命令時点で、Xが上記③の行為をした疑いがあったことから、Y社がXに対して解雇が妥当か否かを調査するためにXに対して本件休職命令をもって休職を命じたのは合理的というべきであり、Xの休職はY社の「責めに帰すべき事由」によるものとは認められず、Y社は、Xに対して、その休職期間につき労働基準法26条に基づき平均賃金の60%を支払えば足りるものであり、それを超える責任は負わない。

上記①から④の理由に基づき、裁判所は賃金100%の支払を否定しました。

しかしながら、ノーワークノーペイとはいかず、労基法26条の適用を肯定したために60%分は支払を命じています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金218 就業規則等に規定されていない能力給の請求は認められるの?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払能力給支払請求の可否に関する裁判例を見てみましょう。

白鳳ビル事件(東京地裁令和3年4月23日・労判ジャーナル114号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、網膜剥離等にり患していたXに無理な職場復帰を求めるなどといった安全配慮義務違反がY社にあり、これにより損害を被ったとして、慰謝料等の損害合計約167万円等の賠償金の支払、雇用契約に基づき、平成30年6月21日から同年7月16日までの管の就労に係る能力給約2万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社との間の雇用契約では、偶数月の末日に能力給が支払われることが合意されていた旨主張するが、Y社の就業規則やXが同意したとして署名した本件説明書には能力給との名称の賃金についての規定がなく実際にもXに対し能力給との名称の賃金は支払われていないから、XとY社の間の雇用契約において、能力給との名称の賃金が支払われることが合意されていたとは認められず、また、Xは、賞与の支払を求めるものとも思われるが、Y社では、賞与の支払については、Y社の業績や従業員の貢献度を基にしてY社の裁量により査定をして金額を定めるものとされているところ、査定の結果は明らかではなく、賞与の具体的な金額を算定することができず、また、賞与については支払日である偶然月の末日に在籍した従業員に対してのみ支払われるものとされているところ、Xが支払を請求する平成30年6月21日から同年7月16日までの間の賞与の支払日は同年8月31日と解されるが、Xは、同日より前の同年7月17日にはY社を退職しており、これにもかかわらず賞与の支払の請求を認めるべき事情を本件証拠上見出せないから、Xは、Y社に対し、能力給ないし賞与の支払を請求することはできない

これではどうしようもありません。

口頭でそういう話を聞いたというだけでは、裁判に勝つのは難しいです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金217 会社の責めに帰すべき事由に基づく未払賃金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、会社の責めに帰すべき事由に基づく未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ホームケア事件(横浜地裁令和2年3月26日・労判ジャーナル112号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、訪問介護(デイサービス)施設の利用者の送迎業務に従事していたXが、Y社に対し、週の所定労働日数が5日であったにもかかわらず、会社の責めに帰すべき事由によりこれに満たない日数しか労務を提供することができなかったと主張して、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における週の所定労働日数について、は、原審のX本人尋問における供述は、X本人尋問を通じて一貫しており、その内容に特段、不合理な点も見当たらないから、信用することができ、そして、Xの使用者であり、出勤簿等をもってXの出勤簿を管理していたことがうかがわれるY社が、平成29年以前のXの勤務実態について立証しないことを踏まえると、Xは、本件請求期間より前である平成29年以前は、おおむね週4日勤務していたものと推認されるから、本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、週4日であったと認めるのが相当である。

2 Xの出勤日は、Y社において、利用者の送迎計画表を作成することによって決定されることが認められるところ、Xを送迎計画表に入れるかどうかは、Y社の判断に委ねられているのであり、各日の送迎計画表をもって具体的な勤務を命じられていたXは、送迎計画表に入らなかった日については、当該日の送迎業務に従事することを命じられておらず、これを受けた労務の提供の有無を観念する局面に至っていなかったというべきであるから、Xが就労しなかったことは、基本的にはY社の責めに帰すべき事由によるものであったと解するのが相当であるから、Y社がXを送迎計画表に入れなかった日については、Xが就労しなかったことは、Y社の責めに帰すべき事由によるものと認めるのが相当であって、Xは、Y社に対する賃金請求権を失うものではない

当事者の合理的意思解釈により勤務日数が週4日と認定されています。

その結果、シフトを作成する上で、週4日を下回る場合には、会社都合により休ませたこととなり、ノーワークノーペイの例外として賃金が発生します。

シフト制だからといって、勤務日数を全く自由に決定できるわけではないということをしっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

賃金216 事業譲渡先会社に対する退職金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、事業譲渡先会社に対する退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ヴィディヤコーヒー事件(大阪地裁令和3年3月26日・労判1245号13頁)

【事案の概要】

本件は、a株式会社(後に会社分割を行い,補助参加人に商号を変更した。以下,会社分割前の同社を「a社」という。)に採用され、a社が経営する店舗で勤務し、a社がY社に同店舗の事業を譲渡した後も同店舗で引き続き勤務して退職したXが、Y社に対し、①主位的に、Y社はa社からXとの間の雇用契約を従前の労働条件のまま引き継いだと主張し、雇用契約終了に基づく退職金請求として、a社に採用されてY社を退職するまでの期間にかかる退職金461万9167円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Y社はa社からXに対する退職金債務を引受け、又は会社法22条1項に基づき譲受会社として同債務を弁済する責任があると主張し、債務引受又は会社法22条1項に基づき、a社で勤務していた期間にかかる退職金415万9167円+遅延損害金の支払を求め、補助参加人がXに補助参加した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 a社とd社との間で、本件事業譲渡契約の条件交渉の際、本件店舗等の従業員の処遇について、勤務地、給与、交通費、店舗における立場を変えずにY社が引き継ぐものの、d社において退職金の定めはないことが明らかにされていたこと、Cから本件店舗等の各店長に対しても、経営者が変わっても雇用条件や地位に変更はないが退職金はなくなること、ただしa社の下での退職金はa社において支払うことが説明されたこと、その上で、Xを含む本件店舗等の店長は、d社が設立したY社との間で新たに雇用契約書及び労働条件通知書を取り交わし、本件店舗等のアルバイトは、改めてY社に履歴書を提出し、Y社との間で労働条件通知書を取り交わしていることが認められ、これらの事実によれば、本件事業譲渡契約において、d社は、本件店舗等の従業員が望めば、勤務地、給与、地位等の条件を変えることなくY社において雇用を維持することを約したにすぎず、Y社においては退職金の定めがないこともあって、Y社による雇用を望む従業員とは新たに雇用契約を締結し直すことが予定されていたものであり、Xについても、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書の内容で、Y社と新たな雇用契約を締結したというべきである。

2 Y社は、本件事業譲渡契約後も平成28年8月15日まで、引き続きa社名義で本件店舗等の経営を行い、本件店舗の店名は平成29年3月までb店のままであったことが認められるものの、a社はCを通じて、Xに対し、a社の下で発生した退職金債務はa社において支払う旨を伝え、Y社は、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書を通じて、Xに対し、退職金債務を弁済する責任を負わない旨を通知したということができる。
したがって、Y社に会社法22条1項は適用されないというべきであり、a社のXに対する退職金債務についてY社に会社法22条1項の責任があるとの原告の主張は採用できない。

上記判例のポイント1は、まあそうでしょうね、という内容です。

なお、会社法22条1項には「事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」と規定されていますが、本件では、適用は否定されています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

賃金215 退職金制度廃止の有効性と労働者の同意の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職金制度廃止の有効性と労働者の同意の有無に関する裁判例を見てみましょう。

東神金商事件(大阪地裁令和2年10月29日・労判1245号41頁)

【事案の概要】

本件は、土木建築資材の販売等を目的とするY社の従業員であったXらがY社に対し、各労働契約に基づき、それぞれX1については退職金のうち253万8000円、X2については退職金のうち112万2300円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、239万3588円+遅延損害金を支払え。

Y社は、X2に対し、112万2300円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 将来の退職金を失わせるという不利益の大きさに鑑み、その同意の有無については慎重に判断せざるを得ないところ、まず、X1を含むY社の従業員とY社との間で、退職金制度の廃止に同意する旨の書面は取り交わされていない。また、X1を含むY社の従業員は、C会長及びB元社長から退職金制度の廃止の説明を受けた際、特に異議を述べておらず、退職金支払のための積立型保険の解約返戻金も受領しているけれども、従業員としての立場を考えると、そのことから直ちに退職金制度の廃止自体にまで同意していたとまではいえない。そのほか、Y社代表者の上記供述部分を裏付けるに足りる証拠はなく、これを採用することができない。
仮に、X1を含むY社の従業員が形式上Y社の退職金制度の廃止に同意したと見られる行為を行っていたとしても、同廃止は、Y社が自社ビルを約3億円で購入し、その借金が嵩んだことを主たる要因とするものであって、そのような理由で退職金を廃止されることに労働者が同意するとは考え難い。したがって、このような行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえず、X1の同意があったものとすることができない(最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁等参照)。
したがって、X1を含むY社の従業員がY社の退職金制度の廃止を同意していたとは認められない。

2 Y社が平成26年10月頃の時点において、Y社の退職金を廃止しなければならない経営状況であったなどの事情は見当たらない。この点、Y社代表者も、平成26年10月頃の就業規則変更に関する説明の際には、Y社の経営状況等退職金制度の廃止の必要性については述べていない。また、平成26年10月頃の時点では、XらのY社における勤続年数が10年を超え、基本退職金額が既に140万円を超えていたのであるから、退職金の廃止による不利益は大きい。

3 Y社代表者は、X2のほか、平成13年以降に新たに採用する従業員に対しては、退職金がないと説明した旨供述し、X2も、採用時に退職金があるとの説明はなかった旨供述している。しかしながら、X2採用時のY社の就業規則の定めが本件旧就業規則のとおりである以上、X2にその認識がなくとも労働契約の内容となっているといわざるを得ず(労働契約法12条)、X2に対する採用時のこのような説明内容は、上記判断には影響しない。

4 以上によれば、本件新就業規則及び本件新賃金規程の退職金規定部分は,合理的なものとは認められず、XらとY社との間の労働契約の内容とはならない(労働契約法9条、10条)。

賃金や退職金の減額・不支給について労働者の同意の有効性が争点となることは本当に多いです。

そして、その多くが無効と判断されています。

同意さえ取ればよしという考えは通用しないことを理解しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金214 業務手当は固定残業代?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、業務手当の割増賃金該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ライフデザイン事件(東京地裁令和2年11月6日・労判ジャーナル109号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払割増賃金等の支払を、また、Y社の代表取締役であったCに対し、会社法429条に基づき、Y社と連帯して、同額の賠償金の支払、Y社に対し、労基法114条に基づき、上記割増賃金と同額の付加金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Y社及びCは、業務手当が割増賃金の趣旨で支払われたものであると主張するが、Xが在職していた当時に就業規則や賃金規程は存在しなかったところ、労働条件通知書や採用内定通知書といった雇用契約の内容が記載された書面では、単に固定給として月30万円が支払われるとされただけで、業務手当が支払われる趣旨について何ら記載されることはなくXの採用時にその趣旨について説明がされることもなく、Cも業務手当を割増賃金として支払っていたかは分からない旨供述していることから、業務手当が割増賃金として支払われたとは到底認められない。

2 Xは、Y社の代表取締役であったCが、故意又は重過失によりY社に労基法37条を遵守させず、Xに対して割増賃金を支払わせる任務を行ったことにより、Xに割増賃金相当額の損害が発生した旨主張するが、そのことにつきCに悪意又は重大な過失があったとまで認めるべき的確な証拠はなく、また、Xは、Y社に対し、時間外労働等の時間に相当する額の割増賃金の支払請求権を有するのであって、Xに割増賃金相当額の損害が発生しているということはできないから、Cは、Xに対し、上記損害についての損害賠償責任を負わない。

各種手当を固定残業代として支払っている会社はリスクしかありません。

固定残業代は「固定残業代」として支払いましょう。そうすればだれがどう見ても固定残業代なので。

今回の紛争も日頃から顧問弁護士に相談をすれば、間違いなく防げるレベルです。

賃金213 固定残業代が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業手当と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

フーリッシュ事件(大阪地裁令和3年1月12日・労判ジャーナル110号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 出勤時刻及び退勤時刻について、出退勤時にタイムカードを打刻していたことが認められるから、基本的にタイムカードの打刻時刻をもってXの出勤時刻及び退勤時刻と認めるのが相当であり、始業時刻について、Xは、所定の始業時刻より前の時間についても労働時間に当たると主張するが、Y社がXに対して早出を命じていたと認めることはできないから、Xが午前6時30分より前に出勤した場合の出勤時刻から所定労働時刻である午前6時30分までの間は労働時間と認めることはできないが、ただし、平成30年12月24日については、早出の出勤命令があったものと容易に推認されるから、出勤時刻を始業時刻と認めるのが相当であり、終業時刻について、Xは、所定労働時刻後も、菓子の製造作業や清掃等の業務に従事していたものと認められ、かかる業務への従事につき、少なくともY社の黙示の指示命令があったと推認されるから、退勤時刻をもって終業時刻と認めるのが相当であり、休憩時間について、始業時刻から終業時刻までの間に少なくとも1日につき1時間30分の休憩時間を取得していたものと認めるのが相当である。

2 本件雇用契約においては、固定残業手当として月額2万6000円又は2万9000円が支払われる旨の定めがあるところ、Xは、Y社との間で、当初、雇用契約を締結した際にも、固定残業手当が月2万6000円である旨が明記されている契約書を取り交わしたものと推認され、これらの固定残業手当の定めの存在を認識したものと認められ、また、XがY社から交付を受けていた毎月の給与明細書には、固定残業手当として2万6000円又は2万9000円が計上されているところ、Xがこれについて特段の異議を述べた形跡はなく、そして、固定残業手当は、その名称からも、これが通常の労働時間の賃金ではなく、時間外労働等の割増賃金として支払われる手当であることを容易に理解することができるから、Xに支払われていた固定残業手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する割増賃金として支払われるものとされていたと認められ、かつ、当該手当が基本給とは別に定められていることからすると、その全額が時間外労働等に対する対価として支払われるものであることを明確に判別することができるといえるから、Y社による固定残業手当の支払をもって、時間外労働等に対する賃金の支払とみることができる。

上記判例のポイント2のようにしっかり固定残業制度の基本を押さえていれば有効と判断されます。

それほど難しいものではないのですが、要件を満たさない会社が山ほど存在しますので気を付けましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金213 固定残業制度が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業代の合意と未払時間外割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

KAZ事件(大阪地裁令和2年11月27日・労判ジャーナル109号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、平成28年11月1日から平成30年8月31日までの未払の時間外割増賃金429万0085円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労働基準法114条に基づき、付加金370万5074円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、362万2460円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金297万1771円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、調整手当のうち5万5000円は、1日10時間、1か月26日の就労を前提に、1日8時間を超える2時間の就労に対し、時給1000円を基準に食事休憩20分を除いた1時間40分の時間外割増賃金の26日分として計算した残業代としての支払であると主張し、証拠中にはこれに沿う部分がある。
しかし、Xは採用時にY社代表者から、1日10時間のシフト制のもとで1か月26日の就労を前提に月27万円と職能手当として月5000円を支払うとの説明を受けたにすぎず、職能手当以外の賃金の内訳についての説明はなかったこと、シフト上の休憩時間以外にY社が主張する20分の食事休憩はその説明も実態もなかったことが認められ、このことは、証人が、Y社の正社員となって以降の自らの賃金について、額面でいくらとの定めであり、調整手当が何時間分の労働に対する対価かは分からないと証言するところによっても裏付けられ、これに反するY社の主張は採用できない。
かかる事実に、調整手当という名称から、これが時間外労働に対する割増賃金の支払であると理解することは困難であることを併せてみれば、XY社間に調整手当のうち5万5000円を固定残業代とする旨の合意があったとは認められない

2 Xは採用時にY社代表者から、1日10時間のシフト制のもとで1か月26日の就労を前提に月27万円と職能手当として月5000円を支払うとの説明を受けたにすぎず、職能手当以外の賃金の内訳についての説明は受けていなかったものの、証拠によれば、Y社は、所定休日を1か月に6日として、これを基準に休日手当を支払っていたこと、月27万円の賃金は、1か月26日の就労であれば所定休日のうち2日は就労することになることを前提に、月2万5000円の休日手当を含むものであったことが認められる。
かかる事実に、休日手当は、その名称自体から、これが休日労働に対する割増賃金の支払であると理解することが容易であり、1か月に6日の所定休日を前提に休日に就労した日数に応じて金額が増減されていることも給与明細上明らかであって、Xからかかる費目や金額について異議が述べられることもなかったことを併せてみれば、休日手当は休日労働に対する対価としての支払とみるのが相当である。

固定残業代についてさまざまな名称の手当で支給している会社が散見されますが、メリットは皆無ですので、ふつうに「固定残業代として」とすればいいのです。

そうすればだれがどう見ても固定残業代なのですから。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることの大切さがわかると思います。

賃金212 勤務日数・シフトの大幅削減は違法?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、勤務日数・シフトの大幅な削減がシフト決定権限の濫用に当たり違法とされた事案を見てみましょう。

有限会社シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日・労経速2443号3頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Xと労働契約を締結し、Xを雇用していたY社が、Xに対し、本件労働契約において、Y社のXに対する別紙1債務目録記載の各債務の不存在確認を求める事案である。

本件反訴は、Xが、Y社に対し、①主位的に、本件労働契約において勤務時間を週3日、1日8時間、週24時間、勤務地、職種を介護事業所及び介護職と合意したにもかかわらず、Y社の責めに帰すべき事由により当該合意に基づき就労することができなかったと主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成28年5月1日から平成31年3月31日までの未払賃金230万8425円+遅延損害金、b)平成31年4月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、月額賃金10万4290円+遅延損害金、②予備的に、平成29年8月以降のシフトの大幅な削減は違法かつ無効であると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、a)平成29年9月支払分から令和2年3月支払分までの未払賃金207万9751円+遅延損害金、b)令和2年4月支払分から同年7月支払分までの未払賃金27万5668円+遅延損害金、c)同年8月支払分以降の賃金として、同年8月から本判決確定の日まで、毎月末日限り6万8917円+遅延損害金の支払を求めるとともに、③給与振込手数料の控除には理由がない旨主張して、本件労働契約に基づく賃金請求又は不当利得に基づく返還請求として、控除された給与振込手数料4746円+遅延損害金、④通勤手当の未払いがあると主張して、本件労働契約に基づく賃金請求として、未払通勤手当15万1880円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社の本件各本訴請求をいずれも却下する。
 Y社は、Xに対し、13万0234円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、5149円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき,賃金を請求し得ると解される
そこで検討すると、Xの平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間)、同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間78時間)であったが、同年8月のシフトは、同年7月20日時点では合計17日であったところ、同月24日時点では5日(勤務時間40時間)に削減された上、同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなった。同年8月については変更後も5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており、勤務時間も一定の時間が確保されているが、少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。

2 この点、Y社は、Xが団体交渉の当初から、児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたことから、Xのシフトを組むことができなくなったものであり、Xが就労できなかったことはY社の責めに帰すべき事由によるものではない旨主張する。
しかしながら、第二次団体交渉が始まったのは同年9月29日であるところ、Xが児童デイサービスでの半日勤務に応じない旨表明したのは同年10月30日で、一切の児童デイサービスでの勤務に応じない旨表明したのは平成30年3月19日であり、平成29年9月29日時点でXが一切の児童デイサービスでの勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、Y社はこの他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば、勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。
一方、Xは、同年10月30日の第2回団体交渉において、児童デイサービスでの半日勤務には応じない旨表明しているところ、このようなXの表明により、原則として半日勤務である放課後児童デイサービス事業所でのシフトに組み入れることが困難になるといえる。そして、Xの勤務地及び職種を介護事業所及び介護職に限定する合意があるとは認められないところ、Xの介護事業所における勤務状況から、Y社がXについて介護事業所ではなく児童デイサービス事業所での勤務シフトに入れる必要があると判断することが直ちに不合理とまではいえないことからすれば、同年11月以降のシフトから外すことについて、シフトの決定権限の濫用があるとはいえない。
そうすると、Xの同年9月及び10月の賃金については、前記シフトの削減がなければ、シフトが削減され始めた同年8月の直近3か月(同年5月分~7月分)の賃金の平均額を得られたであろうと認めるのが相当であり、その平均額は、以下のとおり、6万8917円である。

この裁判例は非常に重要ですのでしっかり押さえておきましょう。

労働条件の不利益変更の一類型として捉えることができるため、考え方はそれほど難しくありません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。   

賃金211 固定残業代が無効と言われる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業制度に関する裁判例を見てみましょう。

アクレス事件(東京地裁令和2年10月15日・労判ジャーナル108号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し就労していたXが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払賃金、未払割増賃金、未払退職金及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金等請求は一部認容、未払退職手当等請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが管理監督者に該当する旨主張するものの、Xが実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるような重要な職務と責任、権限を付与されているか、自己の労働時間について裁量を有しているか、管理監督者としての地位や職責にふさわしい賃金等の待遇がなされているか等について具体的な主張をしておらず、その他本件に現れた一切の事情を考慮しても、Xが労基法41条2号の管理監督者に該当するとは認められない

2 本件において、Y社は、Xの基本給に残業代が含まれている旨主張しており、証拠によれば、Xが平成29年5月1日付け及び同年11月1日付けで押印した各雇用条件通知書兼雇用契約書の「賃金」欄の基本給40万円の記載の直後に、「残業代込み」と記載されていることが認められるが、同契約書のその他の記載を見ても具体的に基本給のうちいくらが残業代に当たるのか又は何時間分の残業代が基本給に含まれているのかを明示する部分はない。また、証拠によれば、Xの平成30年3月分及び令和元年5月分の各給与明細の備考欄には「※基本給には定額残業代100,000円(45時間分)を含む」と記載されていることが認められるが、これらはXがY社での勤務を開始してから相当期間が経過した後に被告が記載したものであって、これらにより直ちにY社とXの間で基本給のうち10万円を固定残業代とする旨の合意をしたことが推認されるとはいえない
また、就業規則において通常の労働の対価の部分と残業代が明確に区分されているとも認められない(なお、証拠によれば就業規則33条及び46条には賃金に関する詳細は賃金規程に定める旨記載があるが、Y社は賃金規程を証拠として提出せず、また、その内容も覚えていない旨述べている。)。その他一件記録によっても、本件労働契約締結時又はその後いずれかの時点において、XとY社の間において金額又は対象時間数を明示したうえで基本給の一部を固定残業代とする旨の合意をしたと認めるに足りる証拠は見当たらない。
よって、Y社主張の固定残業代の合意が有効であるとは認められない。

いつまで続くのでしょうか・・・

固定残業代の有効要件を満たすことは全然難しいことではないのですが、いつまで経ってもこの手のケアレスミスがなくなりません。

ケアレスミスの代償は、賃金の消滅時効が伸びることによりますます大きくなります。

日頃から顧問弁護士に相談をすれば、間違いなく防げる内容です。