Category Archives: 賃金

賃金223 未払賃金の時効援用を受けて、法的根拠を変更した不法行為に基づく損害賠償請求が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、未払賃金の時効援用を受けて、法的根拠を変更した不法行為に基づく損害賠償請求が否定された事案を見ていきましょう。

フルキャストアドバンス事件(東京地裁令和3年8月20日・労経速2471号35頁)

【事案の概要】

本件はかつてY社から雇用されていたXらが、①Y社から、給与明細に休憩時間の項目を設けないようにするなどして休憩時間があったかのように装って欺罔され、休憩時間の給与相当分の金員が支払われず、②Xらの就業先が都内であり、東京都内の最低賃金が適用されるにもかかわらず、Y社から、実際には最低賃金法に違反して最低賃金より低い額で給与を算定され、Xらが損害を受けたなどと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償金として、X1については787万8575円、X2については810万0585円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xらの労働時間を把握するために勤務実績表、「管制」への電話連絡及び勤務予定表といった手段を整えていた。もっとも、勤務実績表及び勤務予定表には休憩時間が記載されず、Xらからの「管制」への電話連絡でも仮眠や休憩の時間は報告されていなかった。そうであるにもかかわらず、Xらの平成30年2月分以前の給与明細上は、日によって異なる休憩時間が存在した前提で労働時間が算定されている。したがって、Y社は、Xらの日々の休憩時間を厳密には把握しないまま、休憩時間が取られた前提で給与計算をしていたと認められる。
また、勤務実態としても、Xらは、休憩時間・仮眠時間とされた時間において、平成30年10月に1病院当たり2名体制に変更になるまでは、救急の患者が来た時には医師や看護師に連絡するなど即座の対応をする必要があったのであり、休憩時間・仮眠時間とされていた時間も、いわゆる手待ち時間であるともいえるものではあった。

2 しかしながら、Xらは、Y社の社内(事業場内)ではなく、外部にある病院内で警備業務を行っていたところ、平成30年3月までは休憩時間を取得できなかったなどという申告や報告を被告にしていなかった。また、Y社と本件各病院との間の警備業務請負契約においても、警備を担当する労働者の休憩時間・仮眠時間が設けられ、これに沿ってXらの勤務シフトが作成されていた。実際にも、Xらは、本件各病院における警備業務において休憩や仮眠をしていたし、客観的に休憩や仮眠ができないような勤務シフトではなかった。そのため、Xらにおいて休憩時間が取得できない時間帯があったとしても、Xらの申告や報告があるまでは、かかる状況を被告が把握することは困難であったと認められる。
 
3 以上のとおり、Y社は、Xらの日々の休憩時間を厳密には把握せず、勤務予定表で休憩・仮眠とされた時間が実質的には手待ち時間であったにもかかわらず、休憩時間が取られた前提で給与計算をしていたのであり、原告らの労働時間管理が不十分であったことは否めないものの、Y社において、Xらからの申告や報告があるまでは、かかる状況を把握することは困難であったと認められる上、Y社は、Xらの申告を受けた後は速やかに過去2年分について休憩時間分を全て労働時間に算入して再計算した賃金を追加支払するとともに、更なるXらからの申告を受けて警備員を1名体制から2名体制へと変更している。
これらに加え、Y社がXらの労働時間を把握するために勤務実績表、「管制」への電話連絡及び勤務予定表といった手段を整えていたことからすれば、Y社が休憩時間として控除した分の賃金の支払義務を認識しながら、労働者による賃金請求が行われるための制度を全く整えなかったと評価することはできない。

賃金不払いがあったとしても、それをもって当然に不法行為に該当するわけではありません。

今回の事案では、消滅時効の問題があったため、やむなく不法行為構成に変更しましたが、上記判例のポイント2のような事情が認められたため、裁判所は、賃金不払いの違法性を認めませんでした。

いずれにせよ、日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金222 元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役に対する未払割増賃金相当額の損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

エイシントラスト元代表取締役事件(宇都宮地裁令和2年6月5日・労判1253号138頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Aは、Y社の代表取締役として、同社をしてその従業員であったXに対し割増賃金を支払わせる義務があるのに、これを怠った等と主張して、Aに対し、会社法429条1項又は民法709条に基づき、未払割増賃金に相当する損害賠償金1023万0677円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

AはXに対し、1023万0677円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 会社の従業員に対する賃金の支払義務は、一時的には当該会社自身が負うべきことは当然であるが、会社は基本的に従業員を労働させることによって利益をあげており、従業員は会社の重大な存立基盤である上、従業員の側からみても、会社から適法に賃金の支払がされることは、その生活を維持するために最も重要な事項であって、違法な賃金の不払には罰則が定められていること(労働基準法119条等)も踏まえれば、会社によって賃金支払義務が履行されず、その不履行が役員の悪意又は重大な過失によるものであって、かつ、従業員が会社に対する賃金支払請求権を有するとしても、なお従業員に損害が生じているものと認められる場合には、当該会社の役員は、会社をして従業員に対し適法な賃金の支払をさせる任務を怠ったものとして、会社法429条1項に基づき、従業員に生じた損害を賠償する責任を負うものと解すべきである。

2 Y社のようなトラックによる運送事業を営む会社において、その運転手の労務管理は経営上重要度の高い事項であり、かつ、必ずしも容易なものではないと考えられるところ、Bらは同業のC社の従業員であったとはいえ、運送会社の経営や労務管理を行った経験があったとは認められないのであるから、Aには、Bらに対して運転手の労務管理についてC社のノウハウを具体的に伝えて指導する等し、また、Y社の業務開始後少なくとも当面の間は、自ら行うか又は専門家に依頼するなどして、給与規程の内容、従業員の稼働状況及び給与の支払状況を確認し、従業員に対し適法な賃金の支払がなされているかどうかを確かめる義務があったというべきである

3 ところが、Y社は、Y社の給与規程の内容や、いわゆる36協定の有無について把握しておらず、法令の遵守について、口頭で法令を守るようにBらに指示することはあったが、具体的な就業規則、給与規程の作成を指示することはせず、従業員の稼働状況や給与の支払い状況について確かめておらず、Xから未払賃金の請求を受けた後も、A代理人弁護士を通じて、Y社の代表取締役を辞任した旨の通知を送った後は、Xの稼働状況等を調査し未払賃金の有無を確認することもしなかったのであって、これは、上記の義務を怠ったものと評価せざるをえず、少なくとも重大な過失により自らの代表取締役としての任務を怠り、BらがY社をしてXに対し労働基準法に定められた割増賃金を支払わせる義務を怠るのを看過したものであって、会社法429条1項に基づき、これによりXに生じた損害を賠償すべき責任を負うと解するのが相当である。

労使ともに今回の裁判例をしっかり押さえておきましょう。

会社法429条1項により役員の責任追及の形で会社と不真正連帯債務を負うことになる可能性があります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金221 タイムカードの代行打刻と降格・懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タイムカードの代行打刻と降格・懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

ディーエイチシー事件(東京地裁令和3年6月23日・労判ジャーナル117号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、①平成30年5月1日付けでされた降格の懲戒処分及びその後にされた減給、並びに、同年7月2日付けでされた懲戒解雇がいずれも無効であるとして、雇用契約に基づき、本件減給前の賃金月額124万円で計算した同年7月支給分の未払賃金残額3万4571円、同月額で計算した同年8月支給分からXがY社を定年退職となる令和元年11月20日までの未払賃金合計1984万円(124万円×16か月=1984万円)、平成30年12月及び令和元年6月に208万円ずつ支給されるはずであった未払賞与合計416万円、及び、上記各元本に対する各支払期日の翌日から同年11月25日までの遅延損害金合計93万8546円(計算については別紙1のとおり。)の合計2497万3117円+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、退職金156万円+遅延損害金の支払、③本件懲戒解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金110万円(慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計)+遅延損害金の支払、④Xが株式会社aの取締役に就任した平成30年9月25日をもってXY社間の雇用契約が終了したと解されて第1項の一部が棄却された場合の予備的請求として、本件懲戒解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金1498万2000円(同日からXがY社を定年退職となる令和元年11月までに支払を受けられたはずの給与及び賞与の合計額2131万3333円から、定年退職日となる同月20日までにa社から支払われた報酬合計873万3333円を差し引いた残額1258万円、平成30年9月25日時点での退職金の額と定年退職時の退職金額との差額104万円及び弁護士費用136万2000円の合計)+遅延損害金の支払を、各求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1255万9315円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、156万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、部下にタイムカードの代行打刻を行わせていたことを理由として、Xを本件事業部の部長から次長に降格する懲戒処分(本件降格)を行っているところ、Y社では、就業規則(就業規則、賃金規程等は、本件事業部の従業員らに実質的に周知されていたと認めるのが相当である。)には、出退社の際は本人自ら所定の方法により出退社の事実を明示する旨規定されていたのであるから、Xの上記取扱いはY社の上記就業規則の規定に違反し、Y社による従業員の労働時間管理を妨げるものとして、Y社の業務に支障を生じさせ得るものであったというべきである。そして、本来、部下らに規則を守らせるべき本件事業部長であるX自らが部下に上記代行打刻を行わせていたこと、本件事業部の他の従業員らにも同様の代行打刻がみられ、Y社として本件事業部内の規律を正す必要があったことも考慮すれば、後に判示するXの不利益に鑑みても、Y社が本件降格を行ったことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえず、本件降格が懲戒権の濫用として無効となるものとは認められない。
よって、本件降格は有効である。

2 次に、本件降格が有効であるとしても、本件減給については別途労働契約上の根拠が必要であるところ、役付手当については、賃金規程において、部長は月額20万円、次長は月額15万円と明確に定められているから、本件降格に伴い、賃金規程の上記規定に従って役付手当を減額したことは、有効である。
他方、基本給については、XY社間の雇用契約書にはその減額の根拠とすべき規定はなく、賃金規程にも、第3条に雇入れの際の初任給の決定に関する規定があるのみで、雇用継続中の基本給の減額を基礎づける規定は見当たらない。そうすると、本件減給のうち基本給の減額については、労働契約上の根拠なくされたものといわざるを得ず、これに対するXの同意も得られていない以上、無効といわざるを得ない。
以上によれば、本件降格及び本件減給のうち役付手当の減額については有効であるが、本件減給のうち基本給の減額については、労働契約上の根拠を欠き無効である。

上記判例のポイント2は注意が必要です。

仮に降格が有効であったとしても、基本給の減額に関する根拠規定が存在しない場合には、当然には減額はできません。

手続きを進める際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をし、慎重に対応しましょう。

賃金220 正社員としての退職金規程に基づく未払退職金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、正社員としての退職金規程に基づく未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

いづみや岡本鉄工所事件(大阪地裁令和3年7月16日・労判ジャーナル116号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、定年後も正社員として勤務していたとして、雇用契約に基づく退職金等の支払を求めるとともに、会社代表者から、Xが正社員ではなく嘱託社員である、嘱託社員には有給休暇がないと虚偽の事実を告げられたことで失望し、有給休暇を取得することなく退職することとなったため、有給休暇を取得する機会を奪われたとして、会社法350条に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成23年●月●日に60歳の誕生日を迎えているところ、同日時点において効力を有する就業規則は旧就業規則であり、そして、旧就業規則によれば、60歳の誕生日が定年退職日であるが、労働者が希望し、会社が必要と認めた場合には、嘱託社員として5年を限度に再雇用する旨定められており、また、Xが令和2年3月24日に退職金を受領していることに照らせば、Xが一旦退職し、その後、再雇用するという扱いがとられていることがうかがわれ、さらに、賃金が減額になっていることは雇用形態が正社員から嘱託社員に変動になったことをうかがわせる事情であるといえ、加えて、Y社では従業員はタイムカードで出退勤が管理されていたところ、平成24年以降は1日の勤務時間が8時間に満たない日が散見されるが、Y社における所定労働時間は1日8時間とされているから、かかる勤務状況は、正社員としての勤務とは整合しないことになり、以上からすれば、XのY社における60歳以降の雇用形態は、正社員ではなく、嘱託社員であったと認められ、そして、Y社の退職金規程においては、嘱託として雇用された者には退職金規程が適用されないこととされていることからすれば、Xが、Y社に対し、退職金規程に基づき、退職金の支払を請求することはできない。

Xの主張は、定年後も嘱託社員ではなく、正社員として勤務していたというものですが、上記の状況証拠からしますと、結果としては嘱託社員と判断されることは異論がないと思います。

とはいえ、トラブルを回避するためには、書面で明確にしておくに越したことはありません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金219 休職中の不就労等についての未払賃金等支払請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職中の不就労等についての未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

ウィンアイコ・ジャパン事件(東京地裁令和3年5月28日・労判ジャーナル115号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、平成30年9月分及び同年10月分の日割給与が未払であるとして、労働契約に基づく未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社から解雇されたにもかかわらず解雇予告手当が支払われないとして、労働契約に基づく賃金請求として解雇予告手当等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金等請求一部認容

【判例のポイント】

1 本件休職命令による休職がY社の責に帰すべき事由による履行不能(民法536条2項)に当たるかについて、①本件契約において、Xが競業避止義務を負うことが明確に定められていたこと、②本件解雇の理由は、Xが会社在籍中、Y社商品の売買仲介等によって利益を上げる目的でY社を設立し、競業避止義務に違反したというものであること、③Y社が主張するXの競業避止義務違反の態様は、Xが某と共謀して、真の顧客である第三者が高額で支払うことに合意しているにもかかわらず、Y社に対して低額でしか売れない旨を報告してY社をして低額で販売する決裁をせしめ、その差額を自己らの利益としたということを反復継続して行い、Y社に損害を与えたというものであること、④本件休職命令時点で、Xが上記③の行為をした疑いがあったことから、Y社がXに対して解雇が妥当か否かを調査するためにXに対して本件休職命令をもって休職を命じたのは合理的というべきであり、Xの休職はY社の「責めに帰すべき事由」によるものとは認められず、Y社は、Xに対して、その休職期間につき労働基準法26条に基づき平均賃金の60%を支払えば足りるものであり、それを超える責任は負わない。

上記①から④の理由に基づき、裁判所は賃金100%の支払を否定しました。

しかしながら、ノーワークノーペイとはいかず、労基法26条の適用を肯定したために60%分は支払を命じています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金218 就業規則等に規定されていない能力給の請求は認められるの?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払能力給支払請求の可否に関する裁判例を見てみましょう。

白鳳ビル事件(東京地裁令和3年4月23日・労判ジャーナル114号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、網膜剥離等にり患していたXに無理な職場復帰を求めるなどといった安全配慮義務違反がY社にあり、これにより損害を被ったとして、慰謝料等の損害合計約167万円等の賠償金の支払、雇用契約に基づき、平成30年6月21日から同年7月16日までの管の就労に係る能力給約2万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社との間の雇用契約では、偶数月の末日に能力給が支払われることが合意されていた旨主張するが、Y社の就業規則やXが同意したとして署名した本件説明書には能力給との名称の賃金についての規定がなく実際にもXに対し能力給との名称の賃金は支払われていないから、XとY社の間の雇用契約において、能力給との名称の賃金が支払われることが合意されていたとは認められず、また、Xは、賞与の支払を求めるものとも思われるが、Y社では、賞与の支払については、Y社の業績や従業員の貢献度を基にしてY社の裁量により査定をして金額を定めるものとされているところ、査定の結果は明らかではなく、賞与の具体的な金額を算定することができず、また、賞与については支払日である偶然月の末日に在籍した従業員に対してのみ支払われるものとされているところ、Xが支払を請求する平成30年6月21日から同年7月16日までの間の賞与の支払日は同年8月31日と解されるが、Xは、同日より前の同年7月17日にはY社を退職しており、これにもかかわらず賞与の支払の請求を認めるべき事情を本件証拠上見出せないから、Xは、Y社に対し、能力給ないし賞与の支払を請求することはできない

これではどうしようもありません。

口頭でそういう話を聞いたというだけでは、裁判に勝つのは難しいです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金217 会社の責めに帰すべき事由に基づく未払賃金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、会社の責めに帰すべき事由に基づく未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ホームケア事件(横浜地裁令和2年3月26日・労判ジャーナル112号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、訪問介護(デイサービス)施設の利用者の送迎業務に従事していたXが、Y社に対し、週の所定労働日数が5日であったにもかかわらず、会社の責めに帰すべき事由によりこれに満たない日数しか労務を提供することができなかったと主張して、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における週の所定労働日数について、は、原審のX本人尋問における供述は、X本人尋問を通じて一貫しており、その内容に特段、不合理な点も見当たらないから、信用することができ、そして、Xの使用者であり、出勤簿等をもってXの出勤簿を管理していたことがうかがわれるY社が、平成29年以前のXの勤務実態について立証しないことを踏まえると、Xは、本件請求期間より前である平成29年以前は、おおむね週4日勤務していたものと推認されるから、本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、週4日であったと認めるのが相当である。

2 Xの出勤日は、Y社において、利用者の送迎計画表を作成することによって決定されることが認められるところ、Xを送迎計画表に入れるかどうかは、Y社の判断に委ねられているのであり、各日の送迎計画表をもって具体的な勤務を命じられていたXは、送迎計画表に入らなかった日については、当該日の送迎業務に従事することを命じられておらず、これを受けた労務の提供の有無を観念する局面に至っていなかったというべきであるから、Xが就労しなかったことは、基本的にはY社の責めに帰すべき事由によるものであったと解するのが相当であるから、Y社がXを送迎計画表に入れなかった日については、Xが就労しなかったことは、Y社の責めに帰すべき事由によるものと認めるのが相当であって、Xは、Y社に対する賃金請求権を失うものではない

当事者の合理的意思解釈により勤務日数が週4日と認定されています。

その結果、シフトを作成する上で、週4日を下回る場合には、会社都合により休ませたこととなり、ノーワークノーペイの例外として賃金が発生します。

シフト制だからといって、勤務日数を全く自由に決定できるわけではないということをしっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

賃金216 事業譲渡先会社に対する退職金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、事業譲渡先会社に対する退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ヴィディヤコーヒー事件(大阪地裁令和3年3月26日・労判1245号13頁)

【事案の概要】

本件は、a株式会社(後に会社分割を行い,補助参加人に商号を変更した。以下,会社分割前の同社を「a社」という。)に採用され、a社が経営する店舗で勤務し、a社がY社に同店舗の事業を譲渡した後も同店舗で引き続き勤務して退職したXが、Y社に対し、①主位的に、Y社はa社からXとの間の雇用契約を従前の労働条件のまま引き継いだと主張し、雇用契約終了に基づく退職金請求として、a社に採用されてY社を退職するまでの期間にかかる退職金461万9167円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Y社はa社からXに対する退職金債務を引受け、又は会社法22条1項に基づき譲受会社として同債務を弁済する責任があると主張し、債務引受又は会社法22条1項に基づき、a社で勤務していた期間にかかる退職金415万9167円+遅延損害金の支払を求め、補助参加人がXに補助参加した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 a社とd社との間で、本件事業譲渡契約の条件交渉の際、本件店舗等の従業員の処遇について、勤務地、給与、交通費、店舗における立場を変えずにY社が引き継ぐものの、d社において退職金の定めはないことが明らかにされていたこと、Cから本件店舗等の各店長に対しても、経営者が変わっても雇用条件や地位に変更はないが退職金はなくなること、ただしa社の下での退職金はa社において支払うことが説明されたこと、その上で、Xを含む本件店舗等の店長は、d社が設立したY社との間で新たに雇用契約書及び労働条件通知書を取り交わし、本件店舗等のアルバイトは、改めてY社に履歴書を提出し、Y社との間で労働条件通知書を取り交わしていることが認められ、これらの事実によれば、本件事業譲渡契約において、d社は、本件店舗等の従業員が望めば、勤務地、給与、地位等の条件を変えることなくY社において雇用を維持することを約したにすぎず、Y社においては退職金の定めがないこともあって、Y社による雇用を望む従業員とは新たに雇用契約を締結し直すことが予定されていたものであり、Xについても、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書の内容で、Y社と新たな雇用契約を締結したというべきである。

2 Y社は、本件事業譲渡契約後も平成28年8月15日まで、引き続きa社名義で本件店舗等の経営を行い、本件店舗の店名は平成29年3月までb店のままであったことが認められるものの、a社はCを通じて、Xに対し、a社の下で発生した退職金債務はa社において支払う旨を伝え、Y社は、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書を通じて、Xに対し、退職金債務を弁済する責任を負わない旨を通知したということができる。
したがって、Y社に会社法22条1項は適用されないというべきであり、a社のXに対する退職金債務についてY社に会社法22条1項の責任があるとの原告の主張は採用できない。

上記判例のポイント1は、まあそうでしょうね、という内容です。

なお、会社法22条1項には「事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」と規定されていますが、本件では、適用は否定されています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

賃金215 退職金制度廃止の有効性と労働者の同意の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職金制度廃止の有効性と労働者の同意の有無に関する裁判例を見てみましょう。

東神金商事件(大阪地裁令和2年10月29日・労判1245号41頁)

【事案の概要】

本件は、土木建築資材の販売等を目的とするY社の従業員であったXらがY社に対し、各労働契約に基づき、それぞれX1については退職金のうち253万8000円、X2については退職金のうち112万2300円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、239万3588円+遅延損害金を支払え。

Y社は、X2に対し、112万2300円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 将来の退職金を失わせるという不利益の大きさに鑑み、その同意の有無については慎重に判断せざるを得ないところ、まず、X1を含むY社の従業員とY社との間で、退職金制度の廃止に同意する旨の書面は取り交わされていない。また、X1を含むY社の従業員は、C会長及びB元社長から退職金制度の廃止の説明を受けた際、特に異議を述べておらず、退職金支払のための積立型保険の解約返戻金も受領しているけれども、従業員としての立場を考えると、そのことから直ちに退職金制度の廃止自体にまで同意していたとまではいえない。そのほか、Y社代表者の上記供述部分を裏付けるに足りる証拠はなく、これを採用することができない。
仮に、X1を含むY社の従業員が形式上Y社の退職金制度の廃止に同意したと見られる行為を行っていたとしても、同廃止は、Y社が自社ビルを約3億円で購入し、その借金が嵩んだことを主たる要因とするものであって、そのような理由で退職金を廃止されることに労働者が同意するとは考え難い。したがって、このような行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとはいえず、X1の同意があったものとすることができない(最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁等参照)。
したがって、X1を含むY社の従業員がY社の退職金制度の廃止を同意していたとは認められない。

2 Y社が平成26年10月頃の時点において、Y社の退職金を廃止しなければならない経営状況であったなどの事情は見当たらない。この点、Y社代表者も、平成26年10月頃の就業規則変更に関する説明の際には、Y社の経営状況等退職金制度の廃止の必要性については述べていない。また、平成26年10月頃の時点では、XらのY社における勤続年数が10年を超え、基本退職金額が既に140万円を超えていたのであるから、退職金の廃止による不利益は大きい。

3 Y社代表者は、X2のほか、平成13年以降に新たに採用する従業員に対しては、退職金がないと説明した旨供述し、X2も、採用時に退職金があるとの説明はなかった旨供述している。しかしながら、X2採用時のY社の就業規則の定めが本件旧就業規則のとおりである以上、X2にその認識がなくとも労働契約の内容となっているといわざるを得ず(労働契約法12条)、X2に対する採用時のこのような説明内容は、上記判断には影響しない。

4 以上によれば、本件新就業規則及び本件新賃金規程の退職金規定部分は,合理的なものとは認められず、XらとY社との間の労働契約の内容とはならない(労働契約法9条、10条)。

賃金や退職金の減額・不支給について労働者の同意の有効性が争点となることは本当に多いです。

そして、その多くが無効と判断されています。

同意さえ取ればよしという考えは通用しないことを理解しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金214 業務手当は固定残業代?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、業務手当の割増賃金該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ライフデザイン事件(東京地裁令和2年11月6日・労判ジャーナル109号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払割増賃金等の支払を、また、Y社の代表取締役であったCに対し、会社法429条に基づき、Y社と連帯して、同額の賠償金の支払、Y社に対し、労基法114条に基づき、上記割増賃金と同額の付加金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Y社及びCは、業務手当が割増賃金の趣旨で支払われたものであると主張するが、Xが在職していた当時に就業規則や賃金規程は存在しなかったところ、労働条件通知書や採用内定通知書といった雇用契約の内容が記載された書面では、単に固定給として月30万円が支払われるとされただけで、業務手当が支払われる趣旨について何ら記載されることはなくXの採用時にその趣旨について説明がされることもなく、Cも業務手当を割増賃金として支払っていたかは分からない旨供述していることから、業務手当が割増賃金として支払われたとは到底認められない。

2 Xは、Y社の代表取締役であったCが、故意又は重過失によりY社に労基法37条を遵守させず、Xに対して割増賃金を支払わせる任務を行ったことにより、Xに割増賃金相当額の損害が発生した旨主張するが、そのことにつきCに悪意又は重大な過失があったとまで認めるべき的確な証拠はなく、また、Xは、Y社に対し、時間外労働等の時間に相当する額の割増賃金の支払請求権を有するのであって、Xに割増賃金相当額の損害が発生しているということはできないから、Cは、Xに対し、上記損害についての損害賠償責任を負わない。

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