Category Archives: 賃金

賃金249 タイムカードについて文書提出命令が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タイムカードについて文書提出命令が認められた事案を見ていきましょう。

JYU-KEN事件(東京地裁立川支部令和4年9月16日・労判ジャーナル132号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xの時間外勤務手当等請求事件及びY社の損害賠償等請求反訴事件について、Xが、Y社に対し、Xの出退勤時刻が記載された該当期間のタイムカードの提出を求めるため、民事訴訟法220条4号(同号の除外事由がない文書)により、文書提出義務を負っているとして、文書提出命令申立てがされた事案である。

【裁判所の判断】

認容

【判例のポイント】

1 Y社の従業員に関する出退勤時刻は、サイボウズというソフトウェアを使用したタイムカードにより行われており、平成31年2月1日から令和2年6月15日までのタイムカードの出退勤時刻の記録については、従業員であったXが自らサイボウズから印刷したものを提出していること、令和2年6月頃に労働基準監督署が介入したことを契機として、サイボウズ内のタイムカードがロックされたうえ、業務用PCの持ち出しが禁止されてしまい、Xは、令和2年6月16日以降令和2年7月31日(Xの退職日)までのタイムカードが入手できず、本件訴訟に証拠として提出できていないことが認められ、Xが提出を求めている本件文書については、当然、Y社が管理し、所持しているものと認めるべきであること等から、Y社は、本件文書を所持していると認めるべきで、民事訴訟法220条4号により、Xの本件申立ては理由があるから、これを認容する。

残業代請求訴訟においてときどき登場する文書提出命令です。

文書所持者が文書提出命令に従わない場合や、裁判での使用を妨害する目的で当該文書を滅失した場合は、「当該文書の記載に関する相手方の主張」や「その事実に関する相手方の主張」を、裁判所は真実と認めることができるので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金248 在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、在宅勤務者への出社命令に業務上の必要性が認められなかった事案を見ていきましょう。

ITサービス事業A社事件(東京地裁令和4年11月16日・労経速2506号28頁)

【事案の概要】

Xは、令和2年5月、ITソフト開発やSES等の事業を行うY社との間で、労働契約を締結した。同契約書には、就業場所について「本社事務所」と、賃金月額(40万円)には「毎月45時間分のみなし残業」が含まれる旨の記載があった。
Xは、令和3年3月3日まで自宅でリモートワークを行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであった。Xが自宅で業務を行っている際には、Slackのダイレクトメッセージ機能を用いて、他の従業員との間でやりとりをしていたが、そのやりとりには、Y社代表者を揶揄する内容が含まれていた。
Xが本件やり取りを行っていたことが判明したことから、Y社代表者は、令和3年3月2日、Xに対し、Xを同月4日から出勤停止1か月等とする懲戒処分を通知するとともに、「管理監督の観点からリモートワーク禁止とする」旨を通告し、同月4日以降のY社の事務所への出勤を求めた(なお、懲戒処分は後に保留とされた。)。
Y社は、令和3年2月分の賃金については、Xの労務提供があったにもかかわらず、その一部(5万7144円)を支払っていない。また、同年3月分以降の賃金については、Xの欠勤を理由に同月分として3万8095円のみを支払った。
Xは、Y社の違法な懲戒処分等によって労務を提供できなかったと主張して、民法536条2項に基づき、令和3年から同年4月4日までの未払賃金等の支払いを求めて提訴した。

これに対し、Y社はXが報告していた勤務時間に虚偽報告等があると主張して、賃金規程6条に基づき、不就労時間分の賃金の返還を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、5万7163円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、40万円+遅延損害金を支払え

Y社の反訴請求は棄却

【判例のポイント】

1 本件労働契約に係る契約書には、その就業場所は「本件事務所」とされているものの、Y社代表者自身が、①デザイナーは自宅で勤務をしても問題ない、②リモートワークが基本であるが、何かあったときには出社できることが条件である旨供述していること、③現に、Xは、令和3年3月3日まで自宅で業務を行い、初日のほかに、Y社の事務所に出社したのは1度だけであり、Y社もそれに異論を述べてこなかったことからすると、本件労働契約においては、本件契約書の記載にかかわらず、就業場所は原則としてXの自宅とし、Y社は、業務上の必要がある場合に限って、本件事務所への出勤を求めることができると解するのが相当である。

2 たしかに、Xは他の従業員との間で、本件やり取りも含め、必ずしも業務に必要不可欠な会話をしていたわけではないことは認められるものの、Y社が提出する証拠によっても、その時間が、Y社が主張するような長時間であるとは認められず、これにより業務に支障が生じたとも認められない。また、一般にオンライン上に限らず、従業員同士の私的な会話が行われることもあり、本件やり取りの内容は、Y社代表者を揶揄する内容が含まれる点でY社代表者が不快に感じた点は理解できるものの、そのことを理由に、事務所への出社を命じる業務上の必要性が生じたともいえない
これに加えて、Y社代表者は、令和3年3月2日午後3時24分にXに対し、メールを送った後、Xとの間で、メール上で、本件やり取りの当否をめぐって、お互いを非難しあう中で、Xの反省がないことを理由にその5時間後に本件懲戒処分とともに、本件出社命令を発したものであり、そのような経緯を踏まえると、本件の事情の下においては、本社事務所への出勤を求める業務上の必要があったとは認められない。
そうすると、Y社は、本件労働契約に基づき事務所への出社を命じることができなかったというべきであって、本件出社命令は無効であるといえる。

使用者側の判断・対応には共感しますが、裁判所の判断は上記のとおりです。

リモートワークを主たる働き方として採用している会社の経営者のみなさんは、上記判例のポイント1をしっかりと押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金247 年俸制において、一方的な固定残業代の減額が年俸額決定権の濫用にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、年俸制において、一方的な固定残業代の減額が年俸額決定権の濫用にあたるとされた事案を見ていきましょう。

インテリム事件(東京高裁令和4年6月29日・労経速2505号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で本件労働契約を締結し、退職するに至ったXが、次の(1)のとおり、Y社に対し、本件賃金減額①ないし③について、本件労働契約に基づく未払賃金の支払請求をし、また、次の(2)のとおり、Y社及びY社の代表取締役であるY1に対し、Xを医薬品の延慶担当から外したことや、Xを退職にまで至らせたこと等について、不法行為による損害賠償請求等をする事案である。
(以下略)

原審は、本件労働契約に基づく賃金請求等につき、本件賃金減額①、③に係る賃金の減額は違法・無効であるとしつつ、みなし手当の減額については、労働者であるXの同意等がなければできない通常の賃金の減額には当たらないから、違法ではないとして、その差額分の賃金請求は認められないなどと判断した。
また、原審は、不法行為による損害賠償請求等については、一部認められるが、その余の各請求は認められないと判断した。
Y社らがその違法な行為によりXを退職せざるを得なくさせたことは不法行為に当たるが、その損害額は、66万円であると判断をしている。

【裁判所の判断】

1 原判決のうち、XとY社らに対する部分を次のとおり変更する。
2 Y社らは、Xに対し、連帯して33万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、39万円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、75万円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、45万円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、Xに対し、43万円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、Xに対し、10万4032円+遅延損害金を支払え。
8 Y社は、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え。
9 Y社らは、Xに対し、連帯して110万円+遅延損害金を支払え。
10 Y社らは、Xに対し、連帯して66万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 固定残業代として支払う旨合意されていたと認められる、14期のみなし手当(月額22万円)は、年俸960万円(月額80万円)に含める旨の合意がされていたことが認められる。このように、本件労働契約に係る年俸制の合意の内容は、職務給と同様に、みなし手当もその一部に含めるものであったというのであり、そうである以上、このような、みなし手当を減額できるのは、職務給の減額の場合と同様、Y社に最終的な年俸額決定権限を付与した本件賃金規程の定めに基づいて初めて可能であったものというべく、時間外労働等に従事していた時間がみなし手当で定められている時間より実際には少ないなどの理由から、Y社において自由に減額することはできない性質のものであったというべきである。
・・・Y社が本件賃金減額①を行うに当たって、合理的で公正な評価や手続を履践したとは認められず、Y社は、合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、年俸額決定権限を濫用してXの15期の年俸を決定したものと認められる。そうすると、本件賃金減額①については、固定残業代月額3万8000円分の減額についても、違法・無効なものと解するのが相当である。

2 たとえ割増賃金の支払方法について、様々な方法が許されるとしても、本件みなし手当は、本件労働契約において年額960万円として合意されていた年俸の一部を構成するものと位置付けられていたのであるから、これは、基本給の一部を構成する場合と同様に捉えられるものである。それにもかかわらず、Y社は、このような性質を有する「みなし手当」を、合理性・透明性に欠ける手続で、公正性・客観性に乏しい判断の下で、年俸決定権限を濫用して本件賃金減額①ないし③を行ったものであるから、このような一方的な減額は、許されないものといわなければならない。

個人的には、使用者側からするとあえて年俸制を採用するメリットはほとんどないように思います。

年俸制を採用している会社では、残業代に関するいくつかの特殊な問題がありますので、事前に必ず顧問弁護士に相談をして対応しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金246 会社による賃金の消滅時効援用が権利の濫用にあたるか(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社による賃金の消滅時効援用が権利の濫用にあたるかについて争点となった事案を見ていきましょう。

酔心開発事件(東京地裁令和4年4月12日・労判1276号54頁)

【事案の概要】

本件は、未払残業代、付加金、不法行為に基づく損害賠償等を請求する事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、88万8788円+遅延損害金を支払え。

2 Y社はXに対し、64万3767円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、故意に割増賃金の支払を怠っていたY社が消滅時効を援用するのは権利の濫用であると主張するが、消滅時効制度は故意に義務の履行を怠っていたものを時効の援用権者から排除する仕組みをとっておらず、また、本件全証拠を検討しても、Y社がXによる権利行使を殊更に妨げたとも認められないことからすると、Y社が本件割増賃金請求について消滅時効を援用することが権利の濫用に当たると認めることはできない

2 また、Xは、当時、割増賃金の請求を委任していた前代理人らが催告を適時に行わなかったために消滅時効が完成してしまったのであり、それにもかかわらずY社が消滅時効を援用するのは、前代理人らの拙劣な対応の咎をXに押し付けることによって不当に利得を得るものであって、公序良俗に反するなどとも主張するが、X側の事情を理由にY社が時効の利益を受けることが制限される理由はない。この点に関するXの主張は、独自の主張と言わざるを得ず、採用しない。

未払賃金等の請求を行う場合には、消滅時効期間が他の債権と比べて短いため、対応を誤ると原告としては上記のような主張をせざるを得なくなります。

労働者側としては気を付けなければいけないポイントの1つです。

使用者側としては上記のような考え方を押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金245 賞与の支給日在籍要件の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賞与の支給日在籍要件の適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人佐藤循環器科内科事件(松山地裁令和4年11月2日・労判ジャーナル130号2頁)

【事案の概要】

本件は、診療所や有料老人ホーム等を運営する医療法人に勤務していたが、病死により退職したXの子が、Xの退職が夏季賞与の支給日の20日前であったことから当該夏季賞与が支給されなかったことについて、本件医療法人に当該賞与(28万2305円)などを支給するように求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件のような病死による退職は、整理解雇のように使用者側の事情による退職ではないものの、定年退職や任意退職とは異なり、労働者は、その退職時期を事前に予測したり、自己の意思で選択したりすることはできない。このような場合にも支給日在籍要件を機械的に適用すれば、労働者に不測の存在が生じ得ることになる。また、病死による退職は、懲戒解雇などとは異なり、功労報償の必要性を減じられてもやむを得ないような労働者の責めに帰すべき理由による退職ではないから、上記のような不測の損害を労働者に甘受させることは相当ではない。そして、賞与の有する賃金の後払いとしての性格や功労報償的な意味合いを踏まえると、労働者が考課対象期間の満了後に病死で退職するに至った場合、労働者は、一般に、考課対象期間満了前に病死した場合に比して、賞与の支給を受けることに対する強い期待を有しているものと考えるのが相当である。

2 以上のことを考慮すると、Xに対する本件夏季賞与についての本件支給日在籍要件の適用は、民法90条により排除されるべきであり、Xが本件夏季賞与の支給日においてY社に在籍していなかったことは、本件夏季賞与に係る賞与支払請求権の発生を妨げるものではない。

とても重要な裁判例ですのでしっかりと押さえておきましょう。

賞与の支給日在籍要件については、退職理由によって結論が異なりますので注意が必要です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金244 賃金減額の合意が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、賃金減額の合意が無効とされた事案を見ていきましょう。

栄大號事件(大阪地裁令和4年6月27日・労判ジャーナル129号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、令和2年12月31日付けで解雇されたが、同解雇は無効であるとして、雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、令和3年1月分から同年3月分の未払賃金の支払、賃金減額は無効であるとして、雇用契約に基づき、平成31年2月分から令和2年12月分の未払賃金の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

未払賃金等支払請求認容

【判例のポイント】

1 本件減額についての合意は黙示の合意であるというのであって、Xが本件減額を受け入れることを明らかにした行為は存在せず、また、本件減額の前で金額が判明している平成23年のXの年収が431万円であったのに対し、本件減額後の平成27年から令和2年の収入は148万2000円から196万2000円となっており、従前の約34から45%まで減額になっていることに照らせば、その不利益の程度は大きいものといわざるを得ず、さらに、Y社が、本件減額に先立ち、Xを含む従業員に対し、事前に経営状況を明らかにする資料を示すなどして説明会を開催したというような事情はうかがわせる事情もないから、本件減額に係る黙示の合意が成立したと認めることはできず、その点をさておくとしても、本件減額に合意することについて、自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできない。

賃金減額事案については、書面による合意があったとしても、自由な意思に基づかないという理由から無効とされる例が多いわけですから、いわんや黙示の合意に基づき有効と判断してもらうのは至難の業です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金243 退職した元従業員に対する研修費用返還請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職した元従業員に対する研修費用返還請求に関する裁判例を見ていきましょう。

大成建設事件(東京地裁令和4年4月20日・労判1295号73頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に在籍中、社外研修制度により留学した後、Y社を退職したXが、本訴請求事件において、Xが、Y社に対し、令和2年6月分の賞与、同年6月分の賃金、立替金請求権に基づき、Xが立て替えた経費、退職金及び共済会退職一時給付金等の支払を求め、反訴請求事件において、Y社が、社外研修に要した費用はY社がXに貸与したものであり、Xとの相殺合意に基づき、上記費用の返還請求権及びこれに対する利息請求権と本訴請求債権とを相殺したとして、Xに対し、消費貸借契約に基づき、相殺後における上記費用の残額である約730万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求棄却

反訴請求認容

【判例のポイント】

1 XとY社との間で本件消費貸借契約が成立したかについて、Xは、本件誓約書に署名押印してこれをY社に提出したところ、本件誓約書には、規程10条及び細則3条に関する説明をY社から受け、これらの内容を全て了承した旨が記載されており、そして、規程10条には、返済義務が生じる場合が特定されており、また、貸与金の具体的な内容については、規程9条2項による委任を受けた細則において定められているところ、その内容に不明確な点はなく、消費貸借の目的の特定に欠けるところもなく、Xは、自らの規程や細則等をイントラネットから印刷し、総務担当者に対し、複数回にわたって、規程や細則に定められた細目的な事項に関連する質問をしたり、誓約書のひな型が規程の別紙として定められていることを教えたりしていたこと、本件誓約書における貸与金や相殺に関する記載について異議を述べることも説明を求めることもなかったことからすれば、Xは、本件誓約書の提出に当たって、規程及び細則並びに本件誓約書に記載された内容を十分に理解した上で、本件誓約書に署名押印したと認めるのが相当であるから、X・Y社間においては、本件誓約書の提出をもって本件消費貸借契約が成立したと認められる。

2 労基法16条が、使用者に対し、労働契約の不履行について違約金を定め又は損害賠償額を予定する契約の締結を禁じている趣旨は、労働者の自由意思を不当に拘束して労働契約関係の継続を強要することを防止しようとした点にあると解されるから、本件消費貸借契約が労基法16条に反するか否かは、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるか否かによって判断するのが相当であるところ、Y社における社外研修制度の下では、応募・辞退は任意であると定められており、Xも、自らの意思で本件研修への参加を決意したものであって、本件研修に参加するよう、強制されたり、指示されたりしたものではなく、また、本件研修は、応募や辞退、研修テーマ・研修機関・履修科目の選定がXの意思に委ねられていたこと、本件研修は、汎用性が高い内容を多く含むものであり、X個人の利益に資する程度が大きいこと、貸与金の返済免除に関する基準が不合理とはいえず、返済額が不当に高額であるとまではいえないことからすると、本件消費貸借契約が労働契約関係の継続を強要するものであるとは認められないから、本件消費貸借契約は労基法16条に違反するとはいえない

同種事案において結論を分けている事情がまさに判例のポイント2に記載されている点です。

請求が認められている裁判例と本件のように棄却されている裁判例を比較検討するとよくわかると思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金242 管理監督者、事業場外みなし労働時間制、固定残業制度すべての適用が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者、事業場外みなし労働時間制、固定残業制度すべての適用が否定された事案を見ていきましょう。

イノベークス事件(東京地裁令和4年3月23日・労判ジャーナル128号32頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金等の支払並びに労基法114条に基づく付加金等請求の支払を求め、反訴において、Y社が、Xに対し、不当利得に基づき、欠勤控除分の過払賃金の返還、不法行為に基づき、不当な賃上げ要求により被った損害に係る損害賠償金の支払い、及び、不当利得に基づき、過払の残業代の返還等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

管理監督者性否定

事業場外みなし労働時間制否定

固定残業制度否定

【判例のポイント】

1 Xの労働時間は、基本的に現場の勤務時間に従うこととされ、Xが毎月Y社に提出していた作業実績報告書の記載によれば、Xは基本的に定時である午前9時から午後6時までは勤務していたことが認められるから、Xが勤務時間について裁量を与えられていたことはうかがわれず、さらに、Xの給与額は、当初は月額32万5000円(諸手当込み)、その後も最大で月額40万円であったというのであり、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところはないといえるほど待遇面で優遇措置を講じられていたと評価することはできないから、Xは、管理監督者に該当するということはできない。

2 Xの業務は、勤務場所は当該客先、勤務時間は現場の勤務時間に従うこととされていて明確であり、業務内容も一定の定型性を有していることから、Y社において事前にある程度その勤務状況や業務内容を把握することができたものということができ、また、Xは、業務時間中に常に携帯電話を所持し、Y社と連絡のつく状態でいるよう指示され、Y社代表者から連絡があった場合にはすぐに対応し、Y社代表者の指示に従い、現場で面談を行う、別の現場に移動するなどしていたというのであるから、Y社としては、勤務時間中に必要に応じてXに連絡を取り、その勤務状況等を具体的に把握することができたということができ、さらに、Xは、Y社に対し、月ごとに、毎日の始業時刻、終業時刻及び実働時間を記録した作業実績報告書を提出していたというのであるから、Y社においてXの勤務の状況を具体的に把握することが困難であったということはできず、同項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるということはできない。

3 プロジェクト手当は、就業規則第48条の事業場外みなし労働時間制に該当する者について一定額を支給するものとされているが、時間外労働に対する対価である旨の規定はなく、かえって、事業場外みなし労働時間が、労働時間を算定し難い場合に所定労働時間働いたものとみなす制度であることからすれば、上記手当は時間外労働に対する対価として支払われるものではないとみるのが自然であり、また、仮に同手当に時間外労働に対する対価の趣旨が含まれているとみるにしても、その全額が同趣旨で支払われるものであるか否かは不明といわざるを得ないから、プロジェクト手当は、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているとはいえないか、仮にそうであっても通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるとはいえないから、時間外労働に対する対価として支払われたものとは認められない。

ご覧のとおり、すべて否定されております。

管理監督者性に関しては、開かずの扉ですので、やむを得ませんが、固定残業制度については、要件を満たせば有効に運用することができますので、専門家に事前に確認しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金241 勤務時間外の酒気帯び運転で物損事故を発生させた運転手に対する退職手当支給制限処分が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、勤務時間外の酒気帯び運転で物損事故を発生させた運転手に対する退職手当支給制限処分が有効とされた事案を見ていきましょう。

東京都公営企業管理者交通局長事件(東京地裁令和4年3月17日・労経速2494号32頁)

【事案の概要】

地方公営企業である東京都交通局が運営する都営バスの運転手であったXは、令和2年9月9日、東京都交通局の管理者である東京都公営企業管理者交通局長から、Xが勤務時間外に酒気帯び運転をし、交通事故を発生させたことを理由として、懲戒免職処分及び一般の退職手当の全部を支給しないこととする退職手当支給制限処分を受けた。

本件は、Xが、Y社に対し、本件不支給処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであると主張して、本件不支給処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件非違行為は、酒気帯び運転によって物損事故を発生させたというものであり、勤務時間外に行われたものであるとはいえ、都営バスの運転手という原告の職務及びその責任に照らせば、強い非難に値する行為であるというべきである。このことは、Xの呼気から検出されたアルコール濃度が、呼気1リットルにつき0.15ミリグラムであったことにより、左右されるものではない。
また、Xは、都営バスの運転手として、長年にわたる勤務歴を有し、複数回の表彰歴も有するものの、他方で、勤務中に2回の交通事故を発生させたことからすると、Xの勤務の状況に照らして一部の支給制限にとどめるべき事情があるとまではいえない。
さらに、Xは、①本件非違行為の前日の午後11時頃以降、焼酎の水割り4、5杯とバーボンのロック3杯を飲み、アルコールが体内に残っているという認識を有していながら、知人を車で送っていくと誘い、知人を同乗させて飲酒運転を開始したこと、②普段から、自家用車を運転して飲食店に向かい、深夜まで飲酒をした後、午前7時か午前8時頃、自家用車を運転して帰宅するという行為を行っていたことからすると、Xには飲酒運転に対する規範意識が欠如していたといわざるを得ず、当該非違に至った経緯に関し、Xに有利に斟酌すべき事情は見当たらない
そして、本件非違行為は、都営バスの運転手であるXが酒気帯び運転をして交通事故を発生させたものであるから、都営バスの安全・安心な運行に対する都民の信頼を失わせるものであって、都民の理解を得て都営交通を円滑に運営するという公務の遂行に及ぼす支障の程度は決して小さいものとはいえない。
そうすると、Xが本件事故発生後速やかに本件非違行為を勤務先に報告したことや罰金を納付したことなど、非違後におけるXの言動を原告に有利に斟酌したとしても、一般の退職手当の全部を不支給とした本件不支給処分は、本件解釈運用方針に沿ったものであるというべきであり、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。

都営バスの運転手の酒気帯び運転の事案です。

他の類似の裁判例と比較したときに、本裁判例を妥当と考えるか厳しいと感じるかは人によるかと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金240 賃金額が合意に至らず、労働契約の成立が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、賃金額が合意に至らず、労働契約の成立が否定された事案を見ていきましょう。

プロバンク(抗告)事件(東京高裁令和4年7月14日・労経速2493号31頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で労働契約が成立したとして、労働契約上の地位にあることを仮に定めることを求めるとともに、令和3年10月21日以降本案判決確定に至るまでの賃金及び賞与の仮払いを求める事案である。

原審は、被保全権利の疎明を欠くなどとして、Xの仮処分命令申立てをいずれも却下したので、Xが即時抗告した。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 XとY社の間では、労働契約の締結に向けた交渉の過程で、賃金の額について合意できず、結局Xが就労するに至らなかったのであって、本件全資料によっても、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うこと」(労働契約法6条)についての合意があったとは認められない

2 (原審判断)Xは、本件採用内定通知書の交付を受けた後、本件採用内定通知書の月額総支給額40万円に45時間相当の時間外手当が含まれるか否かを問い合わせ、月給30万2237円、時間外勤務手当9万7763円(時間外労働45時間に相当するもの)と記載された労働契約書に署名押印して提出せず、P氏からの複数回にわたる本件採用内定通知書の条件によることを承諾するか否かという趣旨の問い合わせに回答することなく、入社予定日の令和3年10月21日に労働契約書の月給「302,237円」等を削除し、「400,000円」と加筆した労働契約書をY社に提出したことからすれば、P氏が令和3年10月22日にXに提示した労働条件に基づく雇用契約の申込みを撤回するとメールで伝えるまでの間に、XがY社に対し本件採用内定通知書に対する承諾の意思表示をしたと認めることはできない。
したがって、XとY社との間に本件採用内定通知書記載の労働条件による労働契約が成立したと認めることはできない。

上記判例のポイント2を読む限り、労働条件について合意に至っていない以上、労働契約は成立していないと解さざるを得ないと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。