Category Archives: 賃金

賃金64(JR東海(新幹線運転士・酒気帯び)事件)

おはようございます。 今週も一週間、お疲れさまでした。

さて、今日は、酒気帯び状態による乗車不可に伴う減給処分に関する裁判例を見てみましょう。

JR東海(新幹線運転士・酒気帯び)事件(東京地裁平成25年1月23日・労判1069号5頁)

【事案の概要】

本件は、新幹線運転士業務等に従事し、労働組合分会の書記長を務めるXが、乗務点呼時に助役から酒臭を指摘されたうえ、呼気中アルコール濃度測定の測定方式によるアルコール検査の結果、1回目に0.071mg/l、2回目に0.070mg/lの各測定値が検知されたこと等に基づき、Y社により酒気帯び状態と認定されて乗務不可とされ、平成23年2月16日付で、平均賃金1日分の半額に相当する9409円の減給処分を受けたことにつき、Y社に対し、①本件数値が乗務不可とされる基準値の0.10mg/lを下回っていたのであるから、酒気帯び状態には当たらず、懲戒事由はないというべきであるし、②Y社が組合嫌悪の意図の下、Xに弁明の機会を付与することなく、他の処分例と比較して過重な本件減給処分をすることは、懲戒権の濫用に当たると主張して、本件減給処分の無効確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

減給処分は無効

【判例のポイント】

1 懲戒処分は、企業秩序に違反する行為に対する制裁として科されるものであることからすると、違反行為と制裁との間には社会通念上相当と認められる関係があることを要するというべきであり、翻って、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められない場合には無効となるものとされている(労働契約法15条)。そして、本件のような酒気帯び状態での勤務の事案における処分量定については、当該従業員の職種(違反主体の性質)、酒気帯び状態の程度、現実に酒気帯び状態で勤務に就いたか否か(違反行為の態様)、その結果、旅客等に危険が生じたか否か(生じた結果の程度)、反省の有無等(一般情状)、過去の処分歴や余罪の有無・内容(前歴等)などといった事情を総合して判断すべきものと解するのが相当である

2 そうすると、Y社においては、従業員が酒気帯び状態で勤務に就いたと判断される場合、本件のように、たとえ、外観や言動に異常がなく、アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定値が0.10mg/l未満の微量なものであったとしても、そのような要素は処分量定上考慮されることなく、一律に減給処分以上の懲戒処分がされているというのであるが、その処分量定における判断手法は、違反行為の態様、生じた結果の程度、一般情状等を考慮しない点で、問題があるといわざるを得ない

3 ・・・以上のとおり判示してきたところを踏まえて本件の事情を評価すると、Xは、新幹線の運転士及び車掌業務に従事していたが、本件数値は乗務不可とされる基準値を下回っていたこと、前日は必ずしも過度の飲酒に及んでいたわけではないようであり、当日も乗務に就く前に管理者から酒気帯び状態を指摘され、実際に乗務に就くことはなかったため、違反行為の態様は悪質とまではいえず、その結果も重大なものではなかったこと、当初こそ飲酒の事実を否定していたものの、まもなくこれを自認するに至り、その後は管理者の指示に従って事情聴取に応じ、本件アルコール検査を受けた上、「私の対策」と題する反省文を提出しており、一応は反省の態度が認められること、Xにつき、過去に同種の処分歴があったとは認められないことを指摘することができる
そうすると、本件減給処分については、Xが新幹線乗務員という旅客の安全を最優先とすべき職務上の義務を負う立場にあることを最大限考慮したとしても、違反行為の態様、生じた結果の程度、一般情状及び前歴等、更には、Y社の過去の処分例、JR他社の取扱いと比較して、その処分量定は重きに失しており、社会通念上相当性を欠き、懲戒権を濫用したものというべきであるから、無効であるといわざるを得ない

4 Xは、Y社に対して、慰謝料150万円の支払いを求めている。
しかしながら、本件減給処分が重きに失するとはいえ、新幹線乗務員という立場にあるXが、微量ではあるが酒気を帯びて業務に就いたことは事実であって、懲戒事由に該当する行為が存在したことは明らかである上、本件減給処分の無効が、判決という形で公権的に確定されることで、Xの昇格や昇進、退職金、再雇用に係る不利益は回避され、ひいてはXの名誉も回復されることになるのであるから、Y社が重きに失する本件減給処分を行ったことに対して、別個に慰謝料の支払いを命ずるまでの必要はないと解するのが相当である。・・・したがって、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

電車や新幹線の運転手さんに限らず、運送会社のトラックの運転手さんなどにも応用できる事例ですね。

懲戒処分の種類(相当性)については、判断が難しいです。必ず顧問弁護士に相談しましょう。

賃金63(P社事件)

おはようございます。

さて、今日は女性グラフィックデザイン従業員による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

P社事件(東京地裁平成24年12月27日・労判1069号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で稼働していたXが、2年分の時間外労働等に対する割増賃金及び付加金、不法行為(男女差別、昇給差別及び賞与の不当カット)に基づく損害賠償としての差額賃金相当額等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約800万円の未払い残業代の支払いを命じた

Y社に対し、800万円の付加金の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいい、この労働時間に該当するか否かは、使用者の指揮命令下におかれているか否かにより客観的に定まるところ、使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されていると解されることからすれば、本件のように使用者がタイムカードによって労働時間を記録、管理していた場合には、タイムカードに記録された時刻を基準に出勤の有無及び実労働時間を推定することが相当である。ただし、上記推定は事実上のものであるから、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び実労働時間を認定することが相当である

2 本件の請求期間におけるXの退勤時刻は、基本的にはタイムカード記録時刻により、それを超えてXが労務を提供していたことを認めるに足りる客観的な証拠がある場合はそれにより認定することが相当である。具体的には、Xのパソコン上のデータ保存記録(タイムスタンプ)及びメール送信記録に照らし、タイムカード記録時刻ではなく、最終のデータ保存時刻又はメール送信時刻(ただし、X主張の退勤時刻がそれよりも前である場合は、X主張の退勤時刻)に退勤したものと認めることが相当である

3 本件において、Xの休憩時間を直接に示す客観的な証拠はないから、間接事実及び経験則により、休憩時間の概ねの傾向を推認するほかはない。
この点、Xは、担当していた業務量からいって、少なくとも他従業員の2倍の労働時間が必要であった等として、平日勤務における休憩時間を0、休日勤務における休憩時間を30分から1時間と主張し、証拠中にはこれに沿う部分がある。しかし、1年10か月に及ぶ請求期間を通じて、ほとんど休憩を取らずに1週間に100時間近い実労働(1週当たり60時間程度の時間外労働)に連続して従事するなどということはおよそ不可能であるし、Y社における業務内容にかんがみれば、労基法上義務づけられている休憩時間すら取得できないほど業務が過密であったり、即時対応のための待機を強いられたりしていたとは認めがたい。結局、労基法上義務付けられている程度の休憩は取得していたものとして、拘束時間が6時間を超えて8時間45分までであれば45分の、8時間45分を超えていれば1時間の休憩時間があったものと認めることが相当である

労働時間の考え方について裁判所の考え方がわかりやすく記載されていますので、参考にしてください。

付加金がほぼ満額認められていますね。 えらい金額になっています・・・。

経営者のみなさん、労働時間の管理はちゃんとしておきましょう。 義務ですので。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金62(三晃印刷事件)

おはようございます。

さて、今日は、就業規則変更による成果主義型賃金制度の導入に関する裁判例を見てみましょう。

三晃印刷事件(東京高裁平成24年12月26日・労経速2171号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、就業規則の変更により賃金が減額されたが、当該就業規則の不利益変更は、Xらを拘束するものではないと主張して、減額された賃金(調整手当減額分)及び遅延損害金の支払いを請求した事案である。

なお、原審(東京地裁平成24年3月19日)は、本件就業規則変更は、Xらのような勤務年数の長い従業員を中心に、最も重要な労働条件である賃金について、重大な不利益を受けるものであるが、変更前の旧制度と変更後の新制度の合理性の比較、制度変更をする必要性、重要な労働条件の変更に伴う激変緩和策としての調整手当の制度を6年間にわたって継続したこと、Y社の従業員全体との関係及び組合との交渉過程を総合的に考慮すれば、本件就業規則変更の合理性を認めることができるとした。

Xらは、原審判決を不服とし、控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成8年ころからの印刷業界におけるデジタル化という技術革新に対応していくための人材確保、育成の必要性に直面していたこと、売上げが平成9年をピークに減少し続け、赤字にまで至るという状況から脱却する必要があったこと、職務遂行能力を評価軸として賃金が定まる制度を整え、従業員に能力開発のインセンティブを与え、職務遂行に対するモチベーションを高めるために平成11年に人事考課制度を変更し、平成13年4月に職能資格制度及び職能給を導入したこと、激変緩和のための経過措置として調整手当が6年間にわたって支給されたこと、平成13年4月に調整手当を支給された者の中で、平成19年4月においてもY社に在籍し、人事考課の対象となる67名のうち、59名は、昇給、昇格により職能給が増額していること調整手当の削減は3段階に分けて行われたこと、Y社では、本件就業規則変更に当たり、旧給与規程における住居手当及び家族手当を、新給与規程において、それぞれ地域住居手当及び扶養家族手当に改めるとともに、支給基準、金額を見直し、従前よりも増額したこと、本件就業規則変更に伴う本来の給与額の減額分が調整手当として支給され、その後の調整手当の削減分は昇給ベースアップ又は賞与の上乗せ支給の原資に充てられ、Y社の人件費は全体として削減されなかったこと、Y社は、本件就業規則変更や本件調整手当削減に関しても、本件組合からの団体交渉の申入れがあればこれに応じる態度を取っていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
これらの事実によれば、本件就業規則変更及び本件調整手当削減は、印刷業界における技術革新に対応して従業員のモチベーションを高め、生産性を向上させ、会社組織を活性化させるという高度な必要性と合理的な根拠を有するものであり、その内容も相当なものであったということができる

これだけのことをやれば、さすがに就業規則の(不利益?)変更も認められますね。

実際に、ここまでのことができる会社はあまりないと思いますが、可能な範囲で参考にしてください。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金61(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、元料理人からの賃金減額分差額請求と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日・労判1064号37頁)

【事案の概要】

Y社は、北海道の洞爺湖近くで「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」を経営する会社である。

Xは、平成19年2月、Y社との間で労働契約を締結し、平成21年4月までの間、本件ホテルで料理人又はパティシエとして就労していた。

Y社は、Xの賃金を減額した。

Xは、賃金減額が不当である旨の抗議などはせず、文句を言わないで支払わせる賃金を受領していたところ、平成20年4月になって、Y社から、労働条件確認書に署名押印するよう求められた。

Xは、この書面に署名押印し、会社に提出した。

Y社は、その後、さらに賃金減額の提示をした。

Xは、長時間残業をさせているのに残業代も支払わず、一方的に賃金を切り下げようとするY社の労務管理のあり方に強い反発を覚え、平成21年4月をもってY社を退職した。

【裁判所の判断】

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 平成19年4月にY社がXに賃金年額を500万円にしたい旨の説明ないし提案をしたが、その提示額に関する具体的な説明はなされておらず、他方で、Xはこれに対して、基本給と職務手当の具体的な金額等について尋ねたりすることもなく、「ああ分かりました」などと応答したにとどまるところ、その言葉尻を捉えてXが賃金減額に同意したと解することは、事柄の性質上必ずしも当を得たものとはいえない何故なら、賃金減額の説明ないし提案を受けた労働者が、これを無下に拒否して経営者の不評を買ったりしないよう、その場では当たり障りのない応答をすることは往々にしてあり得る一方で、賃金の減額は労働者の生活を大きく左右する重大事であるから、軽々に承諾できるはずはなく、そうであるからこそ、多くの場合に、労務管理者は、書面を取り交わして、その時点における賃金減額の同意を明確にしておくのであって、賃金減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、事柄の性質上、そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要があるというべきである

2 その後、Y社が、平成19年6月25日支払分から平成20年4月25日支払分までの11か月間、減額後の賃金を支払うにとどめ、Xがこれに対し明示的な抗議をしなかったという事実はあるが、この事実から、Xが平成19年4月の時点で賃金減額に同意していた事実を推認することもできない
何故なら、まず、平成21年4月25日支払分の賃金額からは、Y社について、労働者の同意の有無にかかわらず、自ら提案した減額後の賃金以上は支払わないとの労務管理の方針がうかがわれるところであって、事前に賃金減額に対する同意があったから減額後の賃金を支払っていたものと推認することはできない。
また、賃金減額に不服がある労働者が減額前の賃金を取得するには、職場での軋轢も覚悟した上で、労働組合があれば労働組合に相談し、それがなければ労働基準監督官や弁護士に相談し、最終的には裁判手続をとることが必要になってくるが、そこまでするくらいなら賃金減額に文句を言わないで済ませるという対応も往々にしてあり得ることであり、そうであるとすれば、抗議もしないで減額後の賃金を11か月間受け取っていたのは事前に賃金減額に同意していたからであると推認することも困難である
したがって、Y社の上記主張は採用することができない。

3 ・・・このような無制限な定額時間外賃金に関する合意は、強行法規たる労基法37条以下の規定の適用を潜脱する違法なものであるから、これを全部無効であるとした上で、定額時間外賃金(本件職務手当)の全額を基礎賃金に算入して時間外賃金を計算することも考えられる。
しかしながら、ある合意が強行法規に反しているとしても、当該合意を強行法規に抵触しない意味内容に解することが可能であり、かつ、そのように解することが当事者の合理的意思に合致する場合には、そのように限定解釈するのが相当であって、強行法規に反する合意を直ちに全面的に無効なものと解するのは相当でない。
したがって、本件職務手当の受給に関する合意は、一定時間の残業に対する時間外賃金を定額時間外賃金の形で支払う旨の合意があると解釈するのが相当である

4 本件職務手当が95時間分の時間外賃金であると解釈すると、本件職務手当の受給を合意したXは95時間の時間外労働義務を負うことになるものと解されるが、このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえあるというべきである(月45時間以上の時間外労働の長期継続が健康を害するおそれがあることを指摘する厚生労働省労働基準局長の都道府県労働局長宛の平成13年12月12日付け通達-基発第1063号参照)。
したがって、本県職務手当が95時間分の時間外賃金として合意されていると解釈することはできない
以上のとおりであるから、本県職務手当は、45時間分の通常残業の対価として合意され、そのようなものとして支払われたものと認めるのが相当であり、月45時間を超えてされた通常残業及び深夜残業に対しては、別途、就業規則や法令の定めに従って計算した時間外賃金が支払われなければならない

高裁は、一審の判断を維持しました。

一審判決については、こちらを参照。

いろいろと参考になる裁判例ですね。

使用者側は、賃金減額をする際は、文書で合意をもらっておくべきです。

また、固定残業代の制度がこれだけ普及してくると、今までに検討されてこなかった新しい争点が出てきますね。

上記判例のポイント4については、使用者側としては頭に入れておくべきでしょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金60(HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇予告手当請求権の消滅時効について判示した裁判例を見てみましょう。

HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件(東京地裁平成25年1月18日・労経速2168号26頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社が支払った解雇予告手当の額には不足があると主張して、同未払分として190万9056円及びこれに対する退職日以降の賃確法所定の遅延利息並びに同額の付加金等を求めた事案である。

Y社は、通信・情報関連ハードウェア及びソフトウェアの開発、保守及び管理並びに情報・電算処理業、労務管理事務代行業等を目的とし、バハマ国法を準拠法とする外国会社であり、世界的金融グループであるHSBC(香港上海銀行)グループの労務管理事務の代行等を行っている。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、解雇予告手当請求権はその性質上時効消滅しない旨主張し、この点に関する根拠として行政通達(昭27・5・17基収1906号)を引用するが、当裁判所は、解雇予告手当請求権は、その性質上時効消滅しうるものであって、その時効期間は2年であると解する
すなわち、使用者が労働基準法20条所定の予告期間を置かず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであるところ(最高裁昭和35年3月11日判決)、ここにいう「予告手当の支払をしたとき」には、使用者側が自ら正当であるものとして計算した結果に従って解雇予告手当を支払ったところ、不足額があった場合も含まれるものと解する。

2 そうすると、かかる支払をした解雇は有効であるものと解すべきところ、そうであるとしても、使用者側が不足分の解雇予告手当を支払う義務を免れると解することには何ら合理的理由はないから、少なくともこの場合、労働者に不足分の解雇予告手当請求権が生じるものと解すべきである。Xが引用する前記行政通達が、解雇予告手当について一切債権債務関係の生じないことを前提として、これを理由に解雇予告手当が時効消滅し得ないものと解しているのであれば、かかる解釈は相当ではない。
そして、解雇予告手当について、請求権を観念することができる場合には、これについて時効を観念することもできるものというべきであって、その時効期間は、解雇予告手当請求権が労働基準法115条の「この法律に規定する(中略)その他の請求権」に当たることは文言上明らかであるから、同条により2年となると解すべきである

3 Xは、地位確認請求訴訟の提起が、時効中断ないしこれに準ずる効力を有するものと主張する。
この点、地位確認請求訴訟は、労働者としての地位のあることを前提とするものであるから、その訴訟提起を、同様の前提に立つ賃金請求権の行使と同視する余地はあるとしても、労働者としての地位を失ったことを前提とする解雇予告手当請求権の行使と同視する余地はない。
よって、Xによる訴訟の提起を、解雇予告手当請求権の行使と同視することはできず、Xの前記主張には理由がない

4 労働者は、付加金を請求する場合、違反のあった時から2年以内に裁判上の請求をしなければならないところ(労基法114条ただし書。この期間制限は除斥期間の定めであると解される。)、・・・この裁判上の請求には、労働審判の申立ても含むものと解する

解雇予告手当の消滅時効について判示しています。

2年以上後に解雇予告手当を請求されることはあまりありませんが、参考にしてください。

とはいえ、ややマニアックな論点ですので、事前に顧問弁護士に相談すれば足りますね。

賃金59(ワークフロンティア事件)

おはようございます。一週間、お疲れ様でした。

さて、今日は、元従業員9名による未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ワークフロンティア事件(東京地裁平成24年9月4日・労判1063号65頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に対し、未払割増賃金および付加金を求めた事案である。

Y社は、産業廃棄物の収集運搬を主たる業とする会社である。

本件の争点は、(1)清算確認の効力、固定割増賃金に関する合意等の成否およびその有効性、(3)Xらの労働時間、(4)Xらに支払われるべき割増賃金の額、(5)付加金請求の可否などである。

【裁判所の判断】

Xらの未払割増賃金請求を認容(6万余円から97万余円)

未払割増賃金と同額の付加金の支払を命じた

【判例のポイント】

1 X1ら3名は、平成20年7月分以前の割増賃金についても請求しているが、X1ら3名は、平成20年9月8日及び同月12日、平成20年2月1日から同年7月31日までの未払割増賃金の額を了承し、当該割増賃金を受領したことを確認した旨、及び「今回受領した割増賃金以外に、貴社に対する賃金債権はありません」との文言が記載された第1確認書及び第2確認書を、署名捺印の上、Y社に提出していることが認められるから、X1ら3名は、上記第1確認書及び第2確認書の提出によって、Y社に対し、平成20年7月分以前の割増賃金につき清算を確認するとともに、仮に未払の割増賃金債権が存在するとしても当該債権を放棄する旨の意思を表示したものと解される
・・・これに対し、Xらは、X1ら3名の上記意思表示につき、労基法は強行法規であるから、時間外手当請求権を放棄したとまでは言えない旨を主張する。しかしながら、あらかじめ将来の割増賃金について労働者がこれを放棄することは労基法37条に違反し許されないというべきであるが、既に発生済みの割増賃金を、労働者がその自由意思に基づき放棄することは何ら労基法には反しないと解されるから、Xの上記主張は採用の限りではない。

2 ・・・報償手当は、労基法施行規則21条に規程する除外賃金には該当しないから、割増賃金の算定基礎賃金となるものと解するのが相当である。
これに対し、Y社は、報償手当は割増賃金見合いとして支給されているものであるから算定基礎賃金とならない旨主張する。確かに、Xらに交付された労働条件通知書には、報償手当につき「時間外労働等に対する割増賃金の意味を有する」との記載がされており、新賃金規程にも同趣旨の規定がある。しかしながら、証拠によれば、Xらに支給された報償手当は、粗利生産性の上位3名、リピーター顧客からの発注などの業績ないし功績を達成した者に対し、ミニボーナスとして現金支給される手当であると認められるから、労働条件通知書や新賃金規程に「割増賃金の意味を有する」等と規定されているとしても、報償手当は業績ないし功績に対する報酬としての性質を失わないものと解するのが相当である。そうであるとすると、仮に報償手当について、労働条件通知書や新賃金規程で規定されるとおり、割増賃金の意味をも有していると解し得たとしても業績ないし功績に対する報酬としての部分と、時間外労働等に対する割増賃金としての部分とを区別することができないものと言わざるを得ないから、結局、報償手当の支給をもって時間外労働に対する割増賃金が支給されたものと見ることはできないと言うべきである。したがって、Y社の上記主張は採用することができない。

3 一般に、固定割増賃金に関する上記のような合意がされた場合についての合理的意思解釈としては、実際に行われた時間外労働時間に基づいて計算した割増賃金の額が、あらかじめ定められた固定割増賃金の額に満たない場合であっても、基本給は満額支払われる(固定割増賃金は減額されない。)というものであると解するのが相当である。固定割増賃金を基本給に含ませることのメリットとしては、あらかじめ時間外労働があることが予想される場合に、一定時間までの時間外労働に対する割増賃金については基本給で支払済みとすることによって、労基法に則った厳密な割増賃金の事後的な算定・支払という煩雑な手続を回避することができることが挙げられるが、Y社主張のように解した場合には、実際の時間外労働時間が本件であれば1月当たり45時間に満たない場合には、割増賃金額を計算した上で、基本給中の固定割増賃金を減額する措置が必要となって、上記メリットが得られなくなってしまう。また、そもそも、Y社主張のような内容の合意をするのであれば、端的に、固定割増賃金額を控除した額を「基本給」として合意すれば足り、あえて固定割増賃金額を含めた額を「基本給」として合意する意味はないことになるから、そのような解釈が妥当でないことは明らかである。

固定残業代に関する判断は大変参考になります。

なんでもかんでも固定残業代の趣旨であるとすることに対する警鐘の意味合いが強いですね。

形式及び実質ともに残業代であることを明確にする必要があるということです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金58(朝日自動車(未払賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、労使協定の効力と未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

朝日自動車(未払賃金)事件(東京地裁平成23年11月11日判決・労判1061号94頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して労務を提供しているXほか6名が、Y社に対し、平成21年6月10日付労使協定は、Xらの雇用条件を変更する効力を有さず、Xらは本件協定以前の雇用条件により本件協定によって減額された差額賃金の支払いを請求することができるとして、雇用契約に基づく賃金請求権に基づき、本件協定適用後である平成21年7月から22年8月までの未払賃金およびこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件の争点は、本件労使協定に基づく雇用条件変更の効力の有無である。

【裁判所の判断】

本件労使協定に基づく雇用条件変更は無効

【判例のポイント】

1 まず、本件協定は、本件各手当を廃止ないし減額するものであって、廃止ないし減額の対象となる本件各手当の支給がXらとY社との間の雇用条件となっていることを前提とするものであるから、本件協定成立時において、本件各手当の支給がXらとY社との間の雇用条件となっていたものと認めるのが相当である。したがって、Y社が、Xらの同意等賃金減額の根拠となりうる正当な理由なしに一方的に変更することはできないものである。

2 本件協定による本件各手当廃止の有効性について検討するに、本件組合が必ずしも本件規約所定の手続を経ることなく労働協約を締結していたにもかかわらず、これによる法的な紛争が顕在化していなかったことが認められるものの、労働協約の有する効力の内容からいって、軽々に本件規約の明文に反するY社主張に係る労使慣行が成立していたものとはいえないし、労働協約の締結に際し大会決議を要するとする本件規約が黙示的に廃止されたものともいえない。そして、本件各手当の廃止は、形式的にも実質的にも賃金減額を伴うものであるから、本件組合が本件協定を締結するには本件規約に基づく大会決議を要するものと認められ、本件規約に定める大会決議を欠き、本件規約に反して締結された本件協定は、適正な授権を欠いて無効なものといわざるを得ない。したがって、Xらは、本件協定の締結によって本件各手当を請求する権利を失わず、Xらは、本件請求期間中の労務提供によって、本件各手当相当の賃金の支払を求める賃金請求権を取得したものである。
そして、本件組合は、Xらが取得した具体的な賃金請求権についての処分権限を有しないから、本件組合が後日大会において本件協定を追認する趣旨の決議をなしたとしても、Xらが取得した具体的な賃金請求権の帰趨に何の影響もない。したがって、Xらは、賃金請求権に基づいて、本件請求期間中の本件各手当の支払を請求することができる。

そう簡単に労使慣行の成立は認められません。

規約で定める手続を経ていない労使協定の効力については、原則に従い、無効であると判断されています。

また、本件規約により賃金が減額されるという点からしても、軽々に労使慣行を認めるわけにはいかないという価値判断が働きます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金57(トレーダー愛事件)

おはようございます。

さて、今日は元従業員による未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

トレーダー愛事件(京都地裁平成24年10月16日・労判1060号83頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社に対し、未払賃金、時間外手当および付加金の支払を請求した事案である。

Y社は、冠婚葬祭やそれに関連する諸分野を中心に事情を展開する会社である。

Xは、ホテルにおいてフロント(宿泊)担当として勤務していたところ、平成22年5月から、本件ホテルを買収したY社との間で労働契約を締結し、本件ホテルでの勤務を継続した。

本件の争点は、成果給が時間外手当にあたり、割増賃金の基礎賃金から除外されるかという点である。

Y社の就業規則及び給与規程において、成果給を時間外手当とし、割増賃金を計算する基礎賃金にも含まれないことが明記されており、この就業規則や給与規程は、Xに交付されている。そして、成果給は、前年度の成果(業績)に応じて人事考課によって決められることになっている。

【裁判所の判断】

Y社に対し、未払賃金等283万余円の支払を命じた

付加金の支払は否定

【判例のポイント】

1 成果給はすべて時間外手当であり、基本給との区別は明確にされているので、時間外労働に対する割増賃金を計算することはできる。そして、時間外手当につき、定額で支払うことは可能であることからすると、Y社の定める賃金体系には問題はないようにみえる。
しかしながら、Y社のこうした賃金体系は、次の理由により、是認することはできない。

2 まず、Xの基本給は14万円、成果給は13万円とほぼ拮抗しており、さらに、他の手当も、役割給(役職者手当)と通勤手当を除くと、すべて時間外手当と位置づけられており、宿日直手当を受けているXの場合、宿日直手当を含めると、時間外手当が基本給を上回る仕組みとなっている
・・・所定内労働と時間外労働で労働内容が異なるものではない。そうすると、基本給(所定労働時間内の賃金)と成果給(時間外手当)とで労働単価につき著しい差を設けている場合には、その賃金体系は、合理性を欠くというほかなく、基本給と成果給(時間外手当)の割り振りが不相当ということになる

3 また、成果給は、前年度の成果に応じて人事考課によって決められる。他方、時間外手当は労働者を法定労働時間を超えて労働させた場合に使用者が支払う手当であって、労働時間に比例して支払わなければならないものであり、前年度の成果に応じて決まるような性質のものではない。そうすると、Y社において、性質の異なるものを成果給の中に混在させているということができる

4 さらにいえば、Y社における基本給は、ほぼ最低賃金に合わせて設定されている。そして、それ以外の賃金はすべて時間外手当とすることによって、よほど長時間の労働をしない限り時間外手当が発生しない仕組みになっている

5 所定労働時間内の業務と時間外の業務とで業務内容が異ならないにもかかわらず、基本給と時間外手当とで時間単価に著しい差を設けることは本来あり得ず、Y社の給与体系は、時間外手当を支払わないための便法ともいえるものであって、成果給(時間外手当)の中に基本給に相当する部分が含まれていると評価するのが相当である。

6 以上のとおり、Y社の賃金体系は不合理なものであり、成果給(時間外手当)の中に基本給の部分も含まれていると解するのが相当である。そうすると、成果給がすべて時間外手当であるということはできず、成果給の中に基本給と時間外手当が混在しているということができるのであって、成果給は割増賃金計算の基礎賃金に含まれるとともに、時間外手当を支払った旨のY社の主張は失当である

かなり踏み込んだ裁判例です。

実質的にみて、成果給の中に基本給の一部が含まれていると解釈しています。

控訴審でも維持されるのでしょうか?

このような判断が通るとすると、労働者側は争い方が増えますね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金56(テックジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社契約社員からの時間外手当等請求に関する裁判例を見てみましょう。

テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日・労判1060号5頁)

【事案の概要】

本件は、人材派遣を業とするY社に雇用されて派遣労働者として就労していたXが、Y社に対し、Y社がXを社会保険に加入させなかったことおよびXに有給休暇を取得させなかったことは不法行為に当たると主張して、Xが被った精神的損害に対する慰謝料の支払ならびに、平成17年5月から18年10月までの時間外手当および付加金の支払を求めた事案である。

XとY社は、本件雇用契約を締結するにあたり、月間総労働時間が140時間から180時間までの労働について月額41万円の基本給を支払う旨を約したものというべきであり、Xは、本件雇用契約における給与の手取額が高額であることから、標準的な月間総労働時間が160時間であることを念頭に置きつつ、それを1か月に20時間上回っても時間外手当は支給されないが、1か月に20時間下回っても上記の基本給から控除されないという幅のある給与の定め方を受け入れ、その範囲の中で勤務時間を適宜調節することを選択したものということができる

高裁は、本件雇用契約の条件は、それなりの合理性を有するものというべきであり、Xの基本給には、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当が実質的に含まれているということができ、また、Xの本件雇用契約に至る意思決定過程について検討しても、有利な給与設定であるという合理的な代償措置があることを認識した上で、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権をその自由意思により放棄したものとみることができると判断した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 月額41万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。
これらによれば、Xが時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について労働基準法37条1項の規定する割増賃金が支払われたとすることはできないというべきであり、Y社は、Xに対し、月間180時間を超える労働時間中の時間外労働についても、月額41万円の基本給とは別に、同項の規定する割増賃金を支払う義務を負うものと解するのが相当である(高知県観光事件・最高裁平成6年6月13日判決)。

2 また、労働者による賃金債権の放棄がされたというためには、その旨の意思表示があり、それが当該労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないものと解すべきであるところ(シンガー・ソーイング・メシーン事件・最高裁昭和48年1月19日判決)、そもそも本件雇用契約の締結の当時又はその後にXが時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたことを示す事情の存在がうかがわれないことに加え、上記のとおり、Xの毎月の時間外労働時間は相当大きく変動し得るのであり、Xがその時間数をあらかじめ予測することが容易ではないことからすれば、原審の確定した事実関係の下では、Xの自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえず、Xにおいて月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権を放棄したということはできない

最高裁判決です。

従来の原則的な考え方に基づいた解釈をしています。

基本給と残業代が明確に区別できるかどうかという基準を貫いています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金55(アクティリンク事件)

おはようございます。

さて、今日は、不動産会社元従業員による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

アクティリンク事件(東京地裁平成24年8月28日・労判1058号5頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産売買、賃貸、管理およびこれらの仲介業を目的とする会社である。

Xらは、Y社の元従業員である。

Xらは、Y社に対し、雇用契約に基づく賃金請求として、時間外労働に対する割増賃金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

X1につき、Y社に対し約278万の未払残業代及び275万円の付加金の支払いを命じた。

X2につき、Y社に対し、約193万円の未払残業代及び190万円の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労基法37条5項及び労基法施行規則21条所定の手当は、いずれも除外賃金とされているが、除外賃金に該当するか否かは、名称に関わりなく実質的にこれを判断すべきである。住宅手当が除外賃金とされた趣旨は、労働と直接的な関係が薄い費目を基礎賃金から除外することにあると解されるから、除外されるべき住宅手当とは、その名称の如何を問わず、実質的にみて住宅に要する費用に応じて算定され、支給される手当をいうものと解するのが相当である
Y社では、住宅所有の有無や、賃貸借の事実の有無にかかわらず、年齢、地位、生活スタイル等に応じて1万円から5万円の範囲で住宅手当が支給されていたこと、Xらは、本件請求にかかる期間中、家賃等住宅にかかる費用についてY社に申告したこともないこと等の事実を認めることができる。これらの事実にかんがみれば、本件における住宅手当は、実質的にみて、住宅に要する費用に応じて支給される手当ということはできない。
よって、本件における住宅手当は、除外賃金には当たらないというべきである

2 ・・・営業手当は、本件賃金規程において、月30時間分に相当する時間外労働割増賃金として支給されることとされていることからすれば、いわゆる定額残業代の支払として認められるかのようにもみえる
しかし、このような他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには、(1)実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件(1))は勿論、(2)支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること(条件(2))が必要不可欠であるというべきである
・・・これらの事実にかんがみれば、営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして支給されていたとみるのが相当であり、実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできない

3 労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)とは、同号の趣旨にかんがみ、一般に「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」をいうものと解され、それに当たるか否かの判断は、職位等の名称にとらわれずに、職務内容、権限及び責任並びに職務態様等に関する実態を総合的に考慮して決すべきものと解される。
この点、確かにXらは、課長または班長の地位にあったことが認められるが、反面、Y社の経営に参画し、自らの部下らに対する労務管理上の決定権を有していたとまでは認めることができず、少なくとも業務開始時刻については、タイムカードによる出退勤管理を受けていたことが明らかである。
したがって、Xらが「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」ということはできず、Xらは、労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には当たらないものというべきである。

固定(定額)残業代に関する上記判例のポイント2は参考になりますね。

あらゆる手当に固定残業代の意味であるとすることは許されないということになります。

当然といえば当然のことですね。

また、上記判例のポイント1の除外賃金についても、よく争われるところですが、しっかり理解しておかないと勘違いをしてしまいます。

ご注意ください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。