Category Archives: 賃金

賃金70(北港観光バス(賃金減額)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合活動を理由とする配車減による賃金・割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

北港観光バス(賃金減額)事件(大阪地裁平成25年4月19日・労判1076号37頁)

【事案の概要】

Xは、路線バス、観光バス、送迎バスなどの旅客自動車運送事業等を業とする株式会社であるY社においてバス運転手として勤務している者であり、Xの賃金は時給制である。

本件は、XがY社に対し、XとY社との間には少なくとも賃金月額が30万円を下らない金額となるよう仕事を与える合意があったにもかかわらず、XがY社の意に反した組合活動を行ったことから、何ら合理性なく、Xに対する仕事を減らしたことが、債務不履行及び不法行為に当たるとして、労働契約又は不法行為に基づき、月額30万円と平成22年7月から平成24年3月まで支払われた賃金との差額合計240万4468円、慰謝料200万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

賃金差額約236万円及び弁護士費用24万円の合計約260万円の支払を命じた

慰謝料については請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間の労働契約においては、Xの労働時間は予め定められていないから、一般的には、Xに対し一定時間以上の労働を命じることがY社の義務であるということはできない。しかしながら、Y社のバス従業員の給与は時給制であり、労働時間の多寡が各従業員の収入の多寡に直結するという本県事情の下においては、Y社が合理的な理由無く特定の従業員の業務の割り当てを減らすことによってその労働時間を削減することは、不法行為に当たり得ると解するのが相当である

2 ・・・このような事態を回避するために、各運転手の運転技術、接客態度その他の勤務態度を考慮して、配車するバスを決めるということには合理的な理由があると解され、Xには上記のような勤務態度上の問題があり、改善の意欲も十分ではないことも合わせ考慮すると、Xに対する配車を減らすという対応を取ることも理由がないとはいえない。
しかしながら、Xの月収は平成22年6月までは概ね30万円以上であったにもかかわらず、平成22年7月は25万円、平成22年3月までいずれも20万円を下回っており、Xの勤務態度に問題があったとしても、かかる大幅な配車の減少を長期にわたり続けることに合理的な理由があるかは疑問である

3 Y社は、無苦情・無事故手当、及び職務手当は、いずれも時間外労働に対する手当であるから、基礎賃金には含まれないと主張している。
ある手当が時間外労働に対する手当として基礎賃金から除外されるか否かは、名称の如何を問わず、実質的に判断されるべきであると解される。無苦情・無事故手当及び職務手当は、実際に時間外業務を行ったか否かにかかわらず支給されること、バス乗務を行った場合にのみ支給され、側乗業務、下車勤務を行った場合には支払われないことからすると、バス乗務という責任ある専門的な職務に従事することの対価として支給される手当であって、時間外労働の対価としての実質を有しないものと認めるのが相当である

非常に参考になる裁判例です。

上記判例のポイント1の視点は、是非、参考にしてください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金69(帝産キャブ奈良事件)

おはようございます。今週も一週間がんばります!!

さて、今日は、タクシー乗務員らによる最賃との差額金・未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

帝産キャブ奈良事件(奈良地裁平成25年3月26日・労判1076号54頁)

【事案の概要】

本件は、Xら30名が、タクシー事業を営むY社に雇用されてタクシー乗務員として勤務していたが、平成20年6月21日から平成23年8月20日までの勤務に対してY社から支払われた賃金が最低賃金を下回っており、さらに、Xらの一部については割増賃金の一部に未払がある等と主張して、Y社に対し、雇用契約に基づく賃金請求をした事案である。

【裁判所の判断】

1 合計約250万円の未払割増賃金の支払を命じた

2 付加金として、割増賃金と同額の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社及び組合は、平成22年12月13日、本件覚書を締結し、同月14日、Y社は、タクシー乗務員らに対し、精算金を支払った。本件覚書には、前記の期間に係るタクシー乗務員らの最低賃金の不足額について精算することとする旨の定めがあったが、同期間に係る債権債務関係が他に存在しないことを確認するような文言はない。
本件覚書及び第一次精算に至る経緯に照らすと、本件覚書を締結する際、組合は、平成20年6月21日から平成22年6月20日までの期間の勤務に係る未払賃金に関し、Y社が提示した額を受領するものの、残額があれば更に請求する意思があったことが認められる。そうすると、本件覚書の締結及び第一次精算の事実をもって、Xら乗務員が、Y社との間で、前記期間の勤務の賃金未払に掛かる争いをやめることを約したものと認めることはできない。
以上によれば、平成20年6月21日から平成22年6月20日までの期間の勤務に係る賃金の未払についてはY社とXら乗務員との間で和解が成立している旨のY社の主張は理由がない。

2 Y社は、X勤務乗務員らに対し、時間外労働に対する割増賃金及び深夜労働に対する割増賃金の支払を怠った違反がある。そして、本件において、Y社は、本訴提起前及び本訴提起後に一部未払賃金の存在を認め、口頭弁論終結時までにXらに対して一定の支払を行ってきたものの、本訴提起後においても、根拠を示さないまま不就労時間がある旨の主張を繰り返すなどしてきた。
かかる事情に照らすと、・・・割増賃金の合計額と同額の付加金の支払いを命じることが相当である。

この事件は、一審で確定しているようです。

ということは、付加金も全額支払うことになってしまいますね・・・。

控訴しておいて、その間に未払賃金を支払えば、付加金の支払いを免れることができるのですが、それはしなかったようです。律儀です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金68(八千代交通事件)

おはようございます。

さて、今日は、無効な解雇により就労できなかった期間は、年休取得要件である「全労働日」に算入され、かつ、出勤した日として扱うのが相当であるとした原審を維持した最高裁判例を見てみましょう。

八千代交通事件(最高裁平成25年6月6日・労経速2186号3頁)

【事案の概要】

本件は、解雇により2年余にわたり就労を拒まれたXが、解雇が無効であると主張してY社を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定して復職した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかったところ、労働基準法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして上記5日分の賃金を支払われなかったため、Y社を相手に、年次有給休暇権を有することの確認並びに上記未払賃金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

法39条1項及び2項は、雇入れの日から6か月の継続勤務期間又はその後の各1年ごとの継続勤務期間において全労働日の8割以上出勤した労働者に対して翌年度に所定日数の有給休暇を与えなければならない旨定めており、本件では、Xが請求の前年度においてこの年次有給休暇権の成立要件を満たしているか否かが争われた。

一審および二審ともにXの主張を認めたため、Y社が上告した。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かされるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である

2 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由無く就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。

異論はないと思います。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金67(ファニメディック事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、獣医師に対する試用期間中の解雇及び時間外労働に対する割増賃金等の請求に関する裁判例(ここでは、割増賃金等の請求について具体的に見ていきます。)を見てみましょう。

ファニメディック事件(東京地裁平成25年7月23日・労経速2187号18頁)

【事案の概要】

本件は、平成23年5月10日からY社で稼働していたXが、同年11月9日付けでなされた解雇について、解雇理由とされる事実自体が存在せず社会通念上相当性を欠いている等と主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案である。

Y社における獣医師の基本給は、各人別に算定される能力基本給および年功給により構成されるものとし、以下の式により算出される金額を75時間分の時間外労働手当相当額及び30時間分の深夜労働手当相当額として含むものとされている。

75時間分の時間外労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×34.5%

30時間分の深夜労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×3.0%

【裁判所の判断】

解雇は無効

未払残業代としてほぼ請求金額の満額を認めた。

付加金として同額の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 就業規則の効力発生要件としての周知は、必ずしも労基法所定の周知と同一の方法による必要はなく、適宜の方法で従業員一般に知らされれば足りると解されるところ、Y社では、流山本院の受付周辺に印字した就業規則を備え置いているほか、同じく流山本院の受付のパソコンに就業規則のデータを保管していること、Xにも、Y社での勤務開始前に、Y社代表者から上記事実が伝えられていたことを認めることができる。

2 36協定は、労基法32条または35条に反して許されないはずの労働が例外的に許容されるという麺罰的効力を持つものであるが、有効な36協定が締結されていない状況下でなされた時間外労働にも割増賃金は発生すること、その差異、就業規則に労基法に定めるものと同等か、それ以上の割増賃金に関する定めがあれば、使用者に対し、当該規定に基づく支払義務を課すことが相当であることに照らせば、36協定の効力の有無によって、割増賃金に関する就業規則の規定の効力は影響を受けないというべきである

3 基本給に時間外労働手当が含まれると認められるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が判別出来ることが必要であるところ(最高裁平成6年6月13日判決)、その趣旨は、時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が労基法所定の方法で計算した額を上回っているか否かについて、労働者が確認できるようにすることにあると解される。そこで、本件固定残業代規定が上記趣旨に則っているか否かが問題となる。
・・・確かに、本件固定残業代規定に従って計算することで、通常賃金部分と割増賃金部分の区別自体は可能である。しかし、同規定を前提としても、75時間分という時間外労働手当相当額が2割5分増の通常時間外の割増賃金のみを対象とするのか、3割5分増の休日時間外の割増賃金をも含むのかは判然とせず、契約書や級支給明細書にも内訳は全く記載されていない
結局、本件固定残業代規定は、割増賃金部分の判別が必要とされる趣旨を満たしているとはいい難く、この点に関するY社の主張は採用できない(そもそも、本件固定残業代規定の予定する残業時間が労基法36条の上限として周知されている月45時間を大幅に超えていること、4月改定において同規定が予定する残業時間を引き上げるにあたり、支給額を増額するのではなく、全体に対する割合の引上げで対応していること等にかんがみれば、本件固定残業代規定は、割増賃金の算定基礎額を最低賃金に可能な限り近づけて賃金支払額を抑制する意図に出たものであることが強く推認され、規定自体の合理性にも疑問なしとしない。)。

最近の裁判例を見る度に、固定残業代制度の終焉を迎えつつある気がしてなりません。

固定残業代制度の制度設計を間違うと、普通の未払残業代よりも多くの金額を支払わなければならないのが通常です。

しかも、使用者側の感覚からすると、二重払いのように思えてしまうので、たちが悪いです。

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賃金66(ヒロセ電機事件)

おはようございます。

さて、今日は、入退館記録表ではなく、時間外勤務命令書による労働時間管理を認めた裁判例を見てみましょう。

ヒロセ電機事件(東京地裁平成25年5月22日・労経速2187号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において勤務していたXが、時間外労働に対する賃金及び深夜労働に対する割増賃金と付加金の支払いを求めるとともに、内容虚偽の労働時間申告書等をXに作成、提出させたとして不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の旅費規程には、出張(直行、直帰も含む)の場合、所定終業時間勤務したものとみなすと規定されており、出張の場合には、いわゆる事業場外労働のみなし制(労基法38条の2)が適用されることになっている。
実際にも、Xの出張や直行直帰の場合に、時間管理をする者が同行しているわけでもないので、労働時間を把握することはできないこと、直属上司がXに対して、具体的な指示命令を出していた事実もなく、事後的にも、何時から何時までどのような業務を行っていたかについて、具体的な報告をさせているわけでもないことが認められる。Xも、出張時のスケジュールが決まっていないことや、概ね1人で出張先に行き、業務遂行についても、自身の判断で行っていること等を認めている
以上からすると、Xが出張、直行直帰している場合の事業場外労働については、Y社のXに対する具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、労働時間を管理把握して算定することはできないから、事業場外労働のみなし制が適用される

2 Xは、出張や業務内容について具体的な指示を受け、事前に訪問先や業務内容について具体的な指示を受け、指示どおりに業務に従事していたと主張する。
しかしながら、Xの訪問先や訪問目的について、Xが指示を受けていたことは認められるが、それ以上に、何時から何時までにいかなる業務を行うか等の具体的なスケジュールについて、詳細な指示を受けていた等といった事実は認められず、Xの事業場外労働について、Y社の具体的な指揮監督が及んでいたと認めるに足りる証拠はない。

3 Y社の就業規則70条2項によれば、時間外勤務は、直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないこと等が規定されている。また、平成22年4月以降の時間外勤務命令書には、注意事項として「所属長命令の無い延長勤務および時間外勤務の実施は認めません。」と明記されていること、かかる時間外勤務命令書についてXが内容を確認して、「本人確認印」欄に確認印を押していることが認められる。以上からすると、Y社においては、所属長からの命令の無い時間外勤務を明示的に禁止しており、Xもこれを認識していたといえる

4 ・・・実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていたことは明らかである。したがって、Y社における時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって、時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきである

使用者側のみなさんは、是非、参考にしてください。

既に多くの会社で本事案と同様の制度を取り入れられています。

ポイントは、単に制度をつくるのではなく、実際にちゃんと運用することです。

上記判例のポイント4がミソです。

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賃金65(朝日交通事件)

おはようございます。

さて、今日は、タクシー運転手らによる未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

朝日交通事件(札幌地裁平成24年9月28日・労判1073号86頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、時間外等割増賃金の未払があるとして、その支払と、同額の労働基準法114条に基づく付加金の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約700万円の未払残業代の支払いを命じるとともに、同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社賃金体系は、時間外等の労働時間に関係なく、出来高によって決定される完全歩合制であり、労基法等に従った時間外等の各割増賃金の支払を行わないものであって、出来高が少なければ最低賃金を下回る場合もあるし、有給補償は平均営収の28.8%とされているのであって、労基法等に違反することは明らかである

2 Y社は、休憩時間協定を適用すれば、労基法算定をしても、Y社のXらに対する未払賃金は、いずれもXら算定より少なくなるなどと主張する。しかし、客待ちのための停車が15分以上となることも十分あり得るものと考えられ、15分以上の停車を休憩時間とみなすことは相当でなく、休憩時間協定があるからといって、15分以上の停車を勤務時間から除外することはできないというべきであり、休憩時間として1時間を控除するXらの算定は相当である。

3 Y社賃金算定では、従業員が実際に従事した勤務の実態を反映させることなく、総営収を100%として、基本給34%、深夜時間手当4%、超勤時間手当11.8%、臨時労働手当4.2%と形式的に割り振っているのであるが、このような勤務実態と乖離した割振りをあえて行っていること自体、完全歩合制による賃金体系が労基法等に違反することを認識しながら、一見労基法等に従っているかのように書類上の形を整えるために行っていることが推認できるものであり、これを覆すに足りる証拠はないし、他のタクシー会社もこのような賃金体系を採用しているからといって、違法な行為が許されるものでないことも自明のことであって、付加金の支払を命ずることの相当性が失われるものではない

4 以上の認定事実等を総合すると、Y社に対し、Xらに対する付加金の支払を命ずるのが相当である。なお、仮に、Y社が主張するように、日本全国の大部分のタクシー会社が、Y社と同様に労基法等に違反する完全歩合制を採用しているのであるとすれば、タクシーの乗務員に過重な労働を強いたり、出来高を上げるための無理な運転等を助長させることにもつながり、従業員及び乗客のみならず第三者を含む道路交通の安全性にも関わるのであって、むしろ、違法な行為を防止するという観点からしても、付加金の支払を命じることが相当というべきである

すごい金額ですね。付加金を合わせると、1400万円!!

会社側は、控訴して、未払残業代を全額支払い、付加金の支払を免れる方法をとるのではないでしょうか。

「多くのタクシー会社は、完全歩合でやっているじゃないか!」という主張は、上記判例のポイント4で一蹴されています。

他の多くのタクシー会社さん、どうするのでしょうか。

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賃金64(JR東海(新幹線運転士・酒気帯び)事件)

おはようございます。 今週も一週間、お疲れさまでした。

さて、今日は、酒気帯び状態による乗車不可に伴う減給処分に関する裁判例を見てみましょう。

JR東海(新幹線運転士・酒気帯び)事件(東京地裁平成25年1月23日・労判1069号5頁)

【事案の概要】

本件は、新幹線運転士業務等に従事し、労働組合分会の書記長を務めるXが、乗務点呼時に助役から酒臭を指摘されたうえ、呼気中アルコール濃度測定の測定方式によるアルコール検査の結果、1回目に0.071mg/l、2回目に0.070mg/lの各測定値が検知されたこと等に基づき、Y社により酒気帯び状態と認定されて乗務不可とされ、平成23年2月16日付で、平均賃金1日分の半額に相当する9409円の減給処分を受けたことにつき、Y社に対し、①本件数値が乗務不可とされる基準値の0.10mg/lを下回っていたのであるから、酒気帯び状態には当たらず、懲戒事由はないというべきであるし、②Y社が組合嫌悪の意図の下、Xに弁明の機会を付与することなく、他の処分例と比較して過重な本件減給処分をすることは、懲戒権の濫用に当たると主張して、本件減給処分の無効確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

減給処分は無効

【判例のポイント】

1 懲戒処分は、企業秩序に違反する行為に対する制裁として科されるものであることからすると、違反行為と制裁との間には社会通念上相当と認められる関係があることを要するというべきであり、翻って、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められない場合には無効となるものとされている(労働契約法15条)。そして、本件のような酒気帯び状態での勤務の事案における処分量定については、当該従業員の職種(違反主体の性質)、酒気帯び状態の程度、現実に酒気帯び状態で勤務に就いたか否か(違反行為の態様)、その結果、旅客等に危険が生じたか否か(生じた結果の程度)、反省の有無等(一般情状)、過去の処分歴や余罪の有無・内容(前歴等)などといった事情を総合して判断すべきものと解するのが相当である

2 そうすると、Y社においては、従業員が酒気帯び状態で勤務に就いたと判断される場合、本件のように、たとえ、外観や言動に異常がなく、アルコール検知器による呼気中のアルコール濃度の測定値が0.10mg/l未満の微量なものであったとしても、そのような要素は処分量定上考慮されることなく、一律に減給処分以上の懲戒処分がされているというのであるが、その処分量定における判断手法は、違反行為の態様、生じた結果の程度、一般情状等を考慮しない点で、問題があるといわざるを得ない

3 ・・・以上のとおり判示してきたところを踏まえて本件の事情を評価すると、Xは、新幹線の運転士及び車掌業務に従事していたが、本件数値は乗務不可とされる基準値を下回っていたこと、前日は必ずしも過度の飲酒に及んでいたわけではないようであり、当日も乗務に就く前に管理者から酒気帯び状態を指摘され、実際に乗務に就くことはなかったため、違反行為の態様は悪質とまではいえず、その結果も重大なものではなかったこと、当初こそ飲酒の事実を否定していたものの、まもなくこれを自認するに至り、その後は管理者の指示に従って事情聴取に応じ、本件アルコール検査を受けた上、「私の対策」と題する反省文を提出しており、一応は反省の態度が認められること、Xにつき、過去に同種の処分歴があったとは認められないことを指摘することができる
そうすると、本件減給処分については、Xが新幹線乗務員という旅客の安全を最優先とすべき職務上の義務を負う立場にあることを最大限考慮したとしても、違反行為の態様、生じた結果の程度、一般情状及び前歴等、更には、Y社の過去の処分例、JR他社の取扱いと比較して、その処分量定は重きに失しており、社会通念上相当性を欠き、懲戒権を濫用したものというべきであるから、無効であるといわざるを得ない

4 Xは、Y社に対して、慰謝料150万円の支払いを求めている。
しかしながら、本件減給処分が重きに失するとはいえ、新幹線乗務員という立場にあるXが、微量ではあるが酒気を帯びて業務に就いたことは事実であって、懲戒事由に該当する行為が存在したことは明らかである上、本件減給処分の無効が、判決という形で公権的に確定されることで、Xの昇格や昇進、退職金、再雇用に係る不利益は回避され、ひいてはXの名誉も回復されることになるのであるから、Y社が重きに失する本件減給処分を行ったことに対して、別個に慰謝料の支払いを命ずるまでの必要はないと解するのが相当である。・・・したがって、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

電車や新幹線の運転手さんに限らず、運送会社のトラックの運転手さんなどにも応用できる事例ですね。

懲戒処分の種類(相当性)については、判断が難しいです。必ず顧問弁護士に相談しましょう。

賃金63(P社事件)

おはようございます。

さて、今日は女性グラフィックデザイン従業員による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

P社事件(東京地裁平成24年12月27日・労判1069号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で稼働していたXが、2年分の時間外労働等に対する割増賃金及び付加金、不法行為(男女差別、昇給差別及び賞与の不当カット)に基づく損害賠償としての差額賃金相当額等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約800万円の未払い残業代の支払いを命じた

Y社に対し、800万円の付加金の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいい、この労働時間に該当するか否かは、使用者の指揮命令下におかれているか否かにより客観的に定まるところ、使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されていると解されることからすれば、本件のように使用者がタイムカードによって労働時間を記録、管理していた場合には、タイムカードに記録された時刻を基準に出勤の有無及び実労働時間を推定することが相当である。ただし、上記推定は事実上のものであるから、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び実労働時間を認定することが相当である

2 本件の請求期間におけるXの退勤時刻は、基本的にはタイムカード記録時刻により、それを超えてXが労務を提供していたことを認めるに足りる客観的な証拠がある場合はそれにより認定することが相当である。具体的には、Xのパソコン上のデータ保存記録(タイムスタンプ)及びメール送信記録に照らし、タイムカード記録時刻ではなく、最終のデータ保存時刻又はメール送信時刻(ただし、X主張の退勤時刻がそれよりも前である場合は、X主張の退勤時刻)に退勤したものと認めることが相当である

3 本件において、Xの休憩時間を直接に示す客観的な証拠はないから、間接事実及び経験則により、休憩時間の概ねの傾向を推認するほかはない。
この点、Xは、担当していた業務量からいって、少なくとも他従業員の2倍の労働時間が必要であった等として、平日勤務における休憩時間を0、休日勤務における休憩時間を30分から1時間と主張し、証拠中にはこれに沿う部分がある。しかし、1年10か月に及ぶ請求期間を通じて、ほとんど休憩を取らずに1週間に100時間近い実労働(1週当たり60時間程度の時間外労働)に連続して従事するなどということはおよそ不可能であるし、Y社における業務内容にかんがみれば、労基法上義務づけられている休憩時間すら取得できないほど業務が過密であったり、即時対応のための待機を強いられたりしていたとは認めがたい。結局、労基法上義務付けられている程度の休憩は取得していたものとして、拘束時間が6時間を超えて8時間45分までであれば45分の、8時間45分を超えていれば1時間の休憩時間があったものと認めることが相当である

労働時間の考え方について裁判所の考え方がわかりやすく記載されていますので、参考にしてください。

付加金がほぼ満額認められていますね。 えらい金額になっています・・・。

経営者のみなさん、労働時間の管理はちゃんとしておきましょう。 義務ですので。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金62(三晃印刷事件)

おはようございます。

さて、今日は、就業規則変更による成果主義型賃金制度の導入に関する裁判例を見てみましょう。

三晃印刷事件(東京高裁平成24年12月26日・労経速2171号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、就業規則の変更により賃金が減額されたが、当該就業規則の不利益変更は、Xらを拘束するものではないと主張して、減額された賃金(調整手当減額分)及び遅延損害金の支払いを請求した事案である。

なお、原審(東京地裁平成24年3月19日)は、本件就業規則変更は、Xらのような勤務年数の長い従業員を中心に、最も重要な労働条件である賃金について、重大な不利益を受けるものであるが、変更前の旧制度と変更後の新制度の合理性の比較、制度変更をする必要性、重要な労働条件の変更に伴う激変緩和策としての調整手当の制度を6年間にわたって継続したこと、Y社の従業員全体との関係及び組合との交渉過程を総合的に考慮すれば、本件就業規則変更の合理性を認めることができるとした。

Xらは、原審判決を不服とし、控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成8年ころからの印刷業界におけるデジタル化という技術革新に対応していくための人材確保、育成の必要性に直面していたこと、売上げが平成9年をピークに減少し続け、赤字にまで至るという状況から脱却する必要があったこと、職務遂行能力を評価軸として賃金が定まる制度を整え、従業員に能力開発のインセンティブを与え、職務遂行に対するモチベーションを高めるために平成11年に人事考課制度を変更し、平成13年4月に職能資格制度及び職能給を導入したこと、激変緩和のための経過措置として調整手当が6年間にわたって支給されたこと、平成13年4月に調整手当を支給された者の中で、平成19年4月においてもY社に在籍し、人事考課の対象となる67名のうち、59名は、昇給、昇格により職能給が増額していること調整手当の削減は3段階に分けて行われたこと、Y社では、本件就業規則変更に当たり、旧給与規程における住居手当及び家族手当を、新給与規程において、それぞれ地域住居手当及び扶養家族手当に改めるとともに、支給基準、金額を見直し、従前よりも増額したこと、本件就業規則変更に伴う本来の給与額の減額分が調整手当として支給され、その後の調整手当の削減分は昇給ベースアップ又は賞与の上乗せ支給の原資に充てられ、Y社の人件費は全体として削減されなかったこと、Y社は、本件就業規則変更や本件調整手当削減に関しても、本件組合からの団体交渉の申入れがあればこれに応じる態度を取っていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
これらの事実によれば、本件就業規則変更及び本件調整手当削減は、印刷業界における技術革新に対応して従業員のモチベーションを高め、生産性を向上させ、会社組織を活性化させるという高度な必要性と合理的な根拠を有するものであり、その内容も相当なものであったということができる

これだけのことをやれば、さすがに就業規則の(不利益?)変更も認められますね。

実際に、ここまでのことができる会社はあまりないと思いますが、可能な範囲で参考にしてください。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金61(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!!

さて、今日は、元料理人からの賃金減額分差額請求と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日・労判1064号37頁)

【事案の概要】

Y社は、北海道の洞爺湖近くで「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」を経営する会社である。

Xは、平成19年2月、Y社との間で労働契約を締結し、平成21年4月までの間、本件ホテルで料理人又はパティシエとして就労していた。

Y社は、Xの賃金を減額した。

Xは、賃金減額が不当である旨の抗議などはせず、文句を言わないで支払わせる賃金を受領していたところ、平成20年4月になって、Y社から、労働条件確認書に署名押印するよう求められた。

Xは、この書面に署名押印し、会社に提出した。

Y社は、その後、さらに賃金減額の提示をした。

Xは、長時間残業をさせているのに残業代も支払わず、一方的に賃金を切り下げようとするY社の労務管理のあり方に強い反発を覚え、平成21年4月をもってY社を退職した。

【裁判所の判断】

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 平成19年4月にY社がXに賃金年額を500万円にしたい旨の説明ないし提案をしたが、その提示額に関する具体的な説明はなされておらず、他方で、Xはこれに対して、基本給と職務手当の具体的な金額等について尋ねたりすることもなく、「ああ分かりました」などと応答したにとどまるところ、その言葉尻を捉えてXが賃金減額に同意したと解することは、事柄の性質上必ずしも当を得たものとはいえない何故なら、賃金減額の説明ないし提案を受けた労働者が、これを無下に拒否して経営者の不評を買ったりしないよう、その場では当たり障りのない応答をすることは往々にしてあり得る一方で、賃金の減額は労働者の生活を大きく左右する重大事であるから、軽々に承諾できるはずはなく、そうであるからこそ、多くの場合に、労務管理者は、書面を取り交わして、その時点における賃金減額の同意を明確にしておくのであって、賃金減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、事柄の性質上、そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要があるというべきである

2 その後、Y社が、平成19年6月25日支払分から平成20年4月25日支払分までの11か月間、減額後の賃金を支払うにとどめ、Xがこれに対し明示的な抗議をしなかったという事実はあるが、この事実から、Xが平成19年4月の時点で賃金減額に同意していた事実を推認することもできない
何故なら、まず、平成21年4月25日支払分の賃金額からは、Y社について、労働者の同意の有無にかかわらず、自ら提案した減額後の賃金以上は支払わないとの労務管理の方針がうかがわれるところであって、事前に賃金減額に対する同意があったから減額後の賃金を支払っていたものと推認することはできない。
また、賃金減額に不服がある労働者が減額前の賃金を取得するには、職場での軋轢も覚悟した上で、労働組合があれば労働組合に相談し、それがなければ労働基準監督官や弁護士に相談し、最終的には裁判手続をとることが必要になってくるが、そこまでするくらいなら賃金減額に文句を言わないで済ませるという対応も往々にしてあり得ることであり、そうであるとすれば、抗議もしないで減額後の賃金を11か月間受け取っていたのは事前に賃金減額に同意していたからであると推認することも困難である
したがって、Y社の上記主張は採用することができない。

3 ・・・このような無制限な定額時間外賃金に関する合意は、強行法規たる労基法37条以下の規定の適用を潜脱する違法なものであるから、これを全部無効であるとした上で、定額時間外賃金(本件職務手当)の全額を基礎賃金に算入して時間外賃金を計算することも考えられる。
しかしながら、ある合意が強行法規に反しているとしても、当該合意を強行法規に抵触しない意味内容に解することが可能であり、かつ、そのように解することが当事者の合理的意思に合致する場合には、そのように限定解釈するのが相当であって、強行法規に反する合意を直ちに全面的に無効なものと解するのは相当でない。
したがって、本件職務手当の受給に関する合意は、一定時間の残業に対する時間外賃金を定額時間外賃金の形で支払う旨の合意があると解釈するのが相当である

4 本件職務手当が95時間分の時間外賃金であると解釈すると、本件職務手当の受給を合意したXは95時間の時間外労働義務を負うことになるものと解されるが、このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえあるというべきである(月45時間以上の時間外労働の長期継続が健康を害するおそれがあることを指摘する厚生労働省労働基準局長の都道府県労働局長宛の平成13年12月12日付け通達-基発第1063号参照)。
したがって、本県職務手当が95時間分の時間外賃金として合意されていると解釈することはできない
以上のとおりであるから、本県職務手当は、45時間分の通常残業の対価として合意され、そのようなものとして支払われたものと認めるのが相当であり、月45時間を超えてされた通常残業及び深夜残業に対しては、別途、就業規則や法令の定めに従って計算した時間外賃金が支払われなければならない

高裁は、一審の判断を維持しました。

一審判決については、こちらを参照。

いろいろと参考になる裁判例ですね。

使用者側は、賃金減額をする際は、文書で合意をもらっておくべきです。

また、固定残業代の制度がこれだけ普及してくると、今までに検討されてこなかった新しい争点が出てきますね。

上記判例のポイント4については、使用者側としては頭に入れておくべきでしょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。