Category Archives: 賃金

賃金74(秋田県(県立高校職員)事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒免職処分取消後の未払給与に対する遅延損害金請求に関する裁判例を見てみましょう。

秋田県(県立高校職員)事件(秋田地裁平成25年3月29日・労判1083号81頁)

【事案の概要】

本件は、秋田県の公務員であり、酒気帯び運転により懲戒免職処分を受けたXが、別件訴訟において当該懲戒免職処分が取り消された後、秋田県から未払分の給与の支払いを受けたが、当該給与には遅延損害金が付与されていなかったとして、秋田県に対し、秋田県が制定する条例および規則に基づき当該給与の支給日の翌日から当該給与に対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件のような金銭債権をめぐる債権債務関係、すなわち未払給与に対する遅延損害金の付与の要否及びその発生時期の判断に当たっては、民法を適用し、民法に基づき解釈するのが相当である。

2 本件においては、本件懲戒免職処分が取り消されたことによって、秋田県には給与である金銭をXに給付すべき債務に不履行が認められることから、民法419条、404条に基づき、秋田県は、Xに対し、未払の給与に対しては年5分の割合による遅延損害金を付与すべきこととなる

3 その上で、未払の給与に対していつから遅延損害金を付与すべきかについては、履行期と履行遅滞について規定した民法412条に基づき判断されるところ、Xは、本件条例等によって給与の支給日が規定されている以上、民法412条1項に基づき、当該支給日の翌日から遅延損害金が発生する旨主張する一方、秋田県は、本県条例等には遅延損害金の履行期に関する規定はない以上、民法412条3項に基づき、秋田県が未払の給与の履行の請求を受けた時から遅延損害金が発生する旨主張する。
そこで検討するに、・・・本件条例等には、懲戒免職処分が取り消された場合の給与の支払いについても明示的な規定はないにもかかわらず、本件においてはXには未払の給与が支給されたが、これは本件懲戒免職処分が取り消され、Xがその身分を回復した結果、Xには本件懲戒免職処分の日に遡って本件条例等が適用され、本県条例等に基づき未払の給与の支払いがされたからにほかならない。そして、懲戒免職処分が取り消された場合における給与の支払いと当該給与の履行期について、本件条例等の適用において別異に解すべき合理的理由はないことからすれば、本件懲戒免職処分が取り消された場合の未払の給与の支払いと同様に、当該未払給与の履行期についても、本県条例等が適用されると解するのが相当である。
したがって、本件においては、本件懲戒免職処分が取り消された後に支払われた未払の給与には、民法412条1項に基づき、本件条例等に定められている支給日が到来した時、すなわち支給日の翌日から遅延損害金を付与すべきこととなる

県側の主張は、なかなか厳しいものがあります。

普通に考えれば、裁判所の判断が妥当であることは明らかでしょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金73 廃業を理由に解雇された元従業員による賃金等請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、廃業を理由に解雇された元従業員による賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

S社事件(大阪地裁平成25年1月25日・労判1081号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に金銭の貸付けまたはY社のために立替払いをし、また、貸金の未払をあるとして、Y社に対し、消費貸借契約または立替払契約に基づく貸金、立替金および雇用契約に基づく賃金として、Xら合計1500万円(一部請求)の支払を求めるとともに、Y社の代表者であるAが、Y社の資産を個人的に費消して、Y社に損害を与え、XらのY社に対する上記各請求権を回収不能にしてXらに損害を与えたとして、Aに対し、債権者代位権または会社法429条1項の損害賠償請求権に基づき、同額の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xらの請求はいずれも認容

【判例のポイント】

1 本件各貸金及び立替金は、いずれもその貸付け又は立替金の日から消滅時効が進行し、Y社の業務に関するものであるから5年の商事消滅時効にかかるというべきである。
しかしながら、・・・Y社の代表者であるAは、本件各貸金及び立替金の商事消滅時効が完成した後、これらの債務について、保証金が返ってきたら必ず返すなどと述べて、その存在を承認したということになるから、Y社は、本件各貸金及び立替金について時効の利益を放棄したものといえる
よって、Y社が消滅時効を援用することは信義則上許されない

2 Aは、Y社が返還を受けた保証金1500万円のうち250万円は、C社に返済し、その余は、Y社の残務整理に一部使用した他は、上記借入金残金の返済に充てるため留保していると主張する。
しかし、・・・留保しているとする資金の保管先について何ら主張・立証がなされていないことすると、保証金相当額の資金は、すでにA自身の債務の弁済等、個人の使途に費消されたものと推認することができ、支払のために留保してあるとのAの主張は採用できない(なお、仮にAが未だ当該資金を費消していないとしても、その留保先を明らかにしない以上、Aの行為は、Y社の資産の隠匿に当たるというべきである。)。
かかるAの行為は、Y社の代表取締役として、会社財産を、善管注意義務をもって保管する義務に違反したものとして、任務懈怠行為に当たるというべきである
そして、Y社には、廃業の時点で、保証金のほかにみるべき資産はなく、Aが返還された保証金を個人的に費消ないし隠匿したことにより、Xらは、Y社から本件各貸金及び立替金並びに未払賃金の返還を受けることが実質的に不可能となったと認められるから、Aは、Xらに対し、会社法429条1項に基づき、本件各貸金及び立替金並びに未払賃金相当額の損害賠償義務を負う

X側とすれば、既に廃業しているY社からお金はとれないため、なんとかして代表者個人から回収する方法を考えなければなりません。

そこで、上記のように、代表者の取締役責任を追及したわけです。

もっとも、金額が金額ですから、代表者に自己破産をされてしまうとそこで回収不能となってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金72(CFJ合同会社事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務遂行能力不足を理由とする降格・賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。

CFJ合同会社事件(大阪地裁平成25年2月1日・労判1080号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対して、Y社がした降格及びこれに伴う賃金の減額が人事権の濫用に当たり無効であるなどと主張して、主任職の地位確認及び賃金減額前と賃金減額後の差額賃金の支払を求める事案である。

【裁判の判断】

降格は有効

役職手当3000円の減額は有効であるが、基本給の減額は無効

【判例のポイント】

1 Xは、顧客に対する対応及びその後の対応に問題があったとして、平成19年6月16日付で係長代理から主任職への1階級降格処分(懲戒処分)を受け、本件降格までの間、数度の研修を受けているにもかかわらず、再三にわたり、Y社から顧客対応に関して注意書等により注意指導を受けている。同事実は、X自身も認めているところであり、Xの業務遂行能力は、Y社がジョブグレード制度において定める主任職の能力基準に達していないと認められる。以上の事実に加え、Y社のような貸金業者にとって、貸金業法に違反した場合、業務停止命令を受けるおそれがあるところ、Xが注意指導を受けた行為は、このような事態を招くおそれのあるものであることからすれば、本件降格は、Y社の有する人事権の範囲内であり、権利の濫用はなく、有効である。

2 以上のとおり、本件降格は、有効であるところ、Y社の給与規程第11条によれば、本件降格前にXに支給されていた役職手当は、主任職という役職に対して支給されていることが給与規程上明らかであるから、本件降格に伴ってされた役職手当3000円の減額は有効である。

3 基本給の減額は、以下のとおり、人事権の濫用であり無効というべきである。
・・・労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額については、就業規則や賃金規程等に明示されるか、労働者の個別の合意がないまま、使用者の一方的な行為によって減額することは許されないというべきであるところ、Y社のジョブグレード制度に基づき、基本給の減額が認められるためには、給与規程によって「基本給(部長職以上は、月例給)は、Job Grade別に月額で定める。」と定めるだけでは足りず、具体的な金額やその幅、運用基準を明らかにすべきである。しかし、上記のとおり、Y社においては、Xら従業員にその内容を明らかにしていない。また、主任職1等級と一般職3等級の基本給の額には約10万円もの差があり、Xも本件降格により約10万円もの減額を受けていることにも鑑みれば、本件降格によりXの基本給を減額することは、人事権の濫用として許されないというべきである。

上記判例のポイント3は、参考になりますね。

賃金の重要性に鑑みれば、規程の内容が抽象的であり、かつ、減額幅が大きい本件において、裁判所がこのような判断をしたことは妥当であると思います。

「降格処分が有効であるにもかかわらず」という視点を持つことが大切ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金71(広島経済技術協同組合ほか(外国人研修生)事件)

おはようございます。

さて、今日は、中国人研修・技能実習生らによる未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

広島経済技術協同組合ほか(外国人研修生)事件(東京高裁平成25年4月25日・労判1079号79頁)

【事案の概要】

本件は、いずれも中華人民共和国の国籍を有し、出入国管理及び難民認定法における外国人研修・技能実習制度の下、第一次受入れ機関を原審Y1社、第二次受入れ機関をY2社として、本邦に入国し在留したXらが、Y2社の「相談役」の肩書きを有するY3に対し、Y3はY2社の名義を利用していたもので、研修期間及び技能実習期間を通じて、XらはY3と雇用関係にあったと主張して、未払賃金、労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めるとともに、Xら及び同様の立場にあったX2が、Y1社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

原審は、Y3とXら及びX2との間に雇用関係があったと認め、XらのY3に対する請求並びにY1社ら及びX2のY1社に対する請求を、いずれも一部認容し、一部棄却した。

これに対し、Y3のみが控訴した。したがって、Xら及びX2のY1社に対する請求については、原判決が確定している。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(以下、原審の判断)

1 労働契約法2条2項は、同法における「使用者」について、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいうと定義し、最低賃金法2条2号が準用する労働基準法10条は、同法における「使用者」について、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいうと定義する。これらの定義からすれば、前記各法における「使用者」とは、実質的に指揮命令をして労務の提供を受け、賃金を支払っていた又は支払うべき者をいうと解するべきであり、その前提として、会社の場合においては、これらの主体となり得る実態を有していることが必要である

2 ・・・以上からすれば、外国人研修・技能実習制度における研修生が、労働契約法及び最低賃金法上の労働者に当たるか否かについては、受入れ機関側における研修体制の構築の有無、実際に実施された研修内容・時間、特に非実務研修の実施の有無、その内容・時間のほか、研修生が研修手当を受領していた場合にはその手当についての認識等を総合考慮した上で、研修生が行った作業であっても、労務の提供として賃金の支払を受けるにふさわしいものであった場合には、前記労働者に当たるというべきである

3 外国人研修・技能実習制度の団体監理型における第一次受入れ機関は、研修を受けようとする者に対して、第二次受入れ機関が研修を適正に実施する体制を整えず、体制を備えることが全く期待できない場合にあっては、そもそもそのような機関に研修生を受け入れさせてはならない義務を負い、また、研修生に対して、自ら第一次受入れ機関として適正な研修を実施し、第二次受入れ機関による研修が研修計画どおり実施されているか、実質的な労働となっていないか等について監査し、これを指導し、管轄の地方入国管理局長に報告する義務を負うというべきである。

4 研修における第一次受入れ機関は、実態のない会社と雇用契約を締結しようとしていることを管轄する地方入国管理局長に報告しないなど、実習実施機関における不法就労を殊更助長しているといえる場合に限って不法行為責任を負うというべきである
Xらの研修における形式上の第二次受入れ機関であるY2社は、Y3が、研修生及び技能実習生の受入れ等の名義として用いたに過ぎない実態のない会社であって、Xらに研修を実施する体制は何ら構築されておらず、適正な研修体制が構築されることは到底期待することができない状況であったといえる。また、Xらが研修期間中に実際に行った作業は、技術、技能又は知識を修得させることを目的とするものではなく、実態として労働であったものである。これらの事情によれば、Y3がY2社を形式上の第二次受入れ機関としてXら研修生を受け入れた目的は、労働基準法及び最低賃金法の規定を潜脱し、同法所定の最低賃金を大きく下回る研修生1人当たり月額7万円程度の研修手当を支払うのみで労働力を得ることにあったことは明白であったといえ、Y1社は、Y2社がその組合員であること、Y1社担当者がXらの受入れに当たってY3と交渉していたことからすれば、上記のとおりXらを受け入れるにあたってのY3の目的を当然に認識していたことが認められる。

法の予定していない、研修制度の悪用であるという評価です。

妥当な判断だと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金70(北港観光バス(賃金減額)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合活動を理由とする配車減による賃金・割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

北港観光バス(賃金減額)事件(大阪地裁平成25年4月19日・労判1076号37頁)

【事案の概要】

Xは、路線バス、観光バス、送迎バスなどの旅客自動車運送事業等を業とする株式会社であるY社においてバス運転手として勤務している者であり、Xの賃金は時給制である。

本件は、XがY社に対し、XとY社との間には少なくとも賃金月額が30万円を下らない金額となるよう仕事を与える合意があったにもかかわらず、XがY社の意に反した組合活動を行ったことから、何ら合理性なく、Xに対する仕事を減らしたことが、債務不履行及び不法行為に当たるとして、労働契約又は不法行為に基づき、月額30万円と平成22年7月から平成24年3月まで支払われた賃金との差額合計240万4468円、慰謝料200万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

賃金差額約236万円及び弁護士費用24万円の合計約260万円の支払を命じた

慰謝料については請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間の労働契約においては、Xの労働時間は予め定められていないから、一般的には、Xに対し一定時間以上の労働を命じることがY社の義務であるということはできない。しかしながら、Y社のバス従業員の給与は時給制であり、労働時間の多寡が各従業員の収入の多寡に直結するという本県事情の下においては、Y社が合理的な理由無く特定の従業員の業務の割り当てを減らすことによってその労働時間を削減することは、不法行為に当たり得ると解するのが相当である

2 ・・・このような事態を回避するために、各運転手の運転技術、接客態度その他の勤務態度を考慮して、配車するバスを決めるということには合理的な理由があると解され、Xには上記のような勤務態度上の問題があり、改善の意欲も十分ではないことも合わせ考慮すると、Xに対する配車を減らすという対応を取ることも理由がないとはいえない。
しかしながら、Xの月収は平成22年6月までは概ね30万円以上であったにもかかわらず、平成22年7月は25万円、平成22年3月までいずれも20万円を下回っており、Xの勤務態度に問題があったとしても、かかる大幅な配車の減少を長期にわたり続けることに合理的な理由があるかは疑問である

3 Y社は、無苦情・無事故手当、及び職務手当は、いずれも時間外労働に対する手当であるから、基礎賃金には含まれないと主張している。
ある手当が時間外労働に対する手当として基礎賃金から除外されるか否かは、名称の如何を問わず、実質的に判断されるべきであると解される。無苦情・無事故手当及び職務手当は、実際に時間外業務を行ったか否かにかかわらず支給されること、バス乗務を行った場合にのみ支給され、側乗業務、下車勤務を行った場合には支払われないことからすると、バス乗務という責任ある専門的な職務に従事することの対価として支給される手当であって、時間外労働の対価としての実質を有しないものと認めるのが相当である

非常に参考になる裁判例です。

上記判例のポイント1の視点は、是非、参考にしてください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金69(帝産キャブ奈良事件)

おはようございます。今週も一週間がんばります!!

さて、今日は、タクシー乗務員らによる最賃との差額金・未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

帝産キャブ奈良事件(奈良地裁平成25年3月26日・労判1076号54頁)

【事案の概要】

本件は、Xら30名が、タクシー事業を営むY社に雇用されてタクシー乗務員として勤務していたが、平成20年6月21日から平成23年8月20日までの勤務に対してY社から支払われた賃金が最低賃金を下回っており、さらに、Xらの一部については割増賃金の一部に未払がある等と主張して、Y社に対し、雇用契約に基づく賃金請求をした事案である。

【裁判所の判断】

1 合計約250万円の未払割増賃金の支払を命じた

2 付加金として、割増賃金と同額の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社及び組合は、平成22年12月13日、本件覚書を締結し、同月14日、Y社は、タクシー乗務員らに対し、精算金を支払った。本件覚書には、前記の期間に係るタクシー乗務員らの最低賃金の不足額について精算することとする旨の定めがあったが、同期間に係る債権債務関係が他に存在しないことを確認するような文言はない。
本件覚書及び第一次精算に至る経緯に照らすと、本件覚書を締結する際、組合は、平成20年6月21日から平成22年6月20日までの期間の勤務に係る未払賃金に関し、Y社が提示した額を受領するものの、残額があれば更に請求する意思があったことが認められる。そうすると、本件覚書の締結及び第一次精算の事実をもって、Xら乗務員が、Y社との間で、前記期間の勤務の賃金未払に掛かる争いをやめることを約したものと認めることはできない。
以上によれば、平成20年6月21日から平成22年6月20日までの期間の勤務に係る賃金の未払についてはY社とXら乗務員との間で和解が成立している旨のY社の主張は理由がない。

2 Y社は、X勤務乗務員らに対し、時間外労働に対する割増賃金及び深夜労働に対する割増賃金の支払を怠った違反がある。そして、本件において、Y社は、本訴提起前及び本訴提起後に一部未払賃金の存在を認め、口頭弁論終結時までにXらに対して一定の支払を行ってきたものの、本訴提起後においても、根拠を示さないまま不就労時間がある旨の主張を繰り返すなどしてきた。
かかる事情に照らすと、・・・割増賃金の合計額と同額の付加金の支払いを命じることが相当である。

この事件は、一審で確定しているようです。

ということは、付加金も全額支払うことになってしまいますね・・・。

控訴しておいて、その間に未払賃金を支払えば、付加金の支払いを免れることができるのですが、それはしなかったようです。律儀です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金68(八千代交通事件)

おはようございます。

さて、今日は、無効な解雇により就労できなかった期間は、年休取得要件である「全労働日」に算入され、かつ、出勤した日として扱うのが相当であるとした原審を維持した最高裁判例を見てみましょう。

八千代交通事件(最高裁平成25年6月6日・労経速2186号3頁)

【事案の概要】

本件は、解雇により2年余にわたり就労を拒まれたXが、解雇が無効であると主張してY社を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し、その勝訴判決が確定して復職した後に、合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかったところ、労働基準法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして上記5日分の賃金を支払われなかったため、Y社を相手に、年次有給休暇権を有することの確認並びに上記未払賃金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

法39条1項及び2項は、雇入れの日から6か月の継続勤務期間又はその後の各1年ごとの継続勤務期間において全労働日の8割以上出勤した労働者に対して翌年度に所定日数の有給休暇を与えなければならない旨定めており、本件では、Xが請求の前年度においてこの年次有給休暇権の成立要件を満たしているか否かが争われた。

一審および二審ともにXの主張を認めたため、Y社が上告した。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は、法の制定時の状況等を踏まえ、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと、前年度の総暦日の中で、就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは、不可抗力や使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かされるべきものは別として、上記出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である

2 無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由無く就労を拒まれたために就労することができなかった日は、労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり、このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから、法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。

異論はないと思います。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金67(ファニメディック事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、獣医師に対する試用期間中の解雇及び時間外労働に対する割増賃金等の請求に関する裁判例(ここでは、割増賃金等の請求について具体的に見ていきます。)を見てみましょう。

ファニメディック事件(東京地裁平成25年7月23日・労経速2187号18頁)

【事案の概要】

本件は、平成23年5月10日からY社で稼働していたXが、同年11月9日付けでなされた解雇について、解雇理由とされる事実自体が存在せず社会通念上相当性を欠いている等と主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案である。

Y社における獣医師の基本給は、各人別に算定される能力基本給および年功給により構成されるものとし、以下の式により算出される金額を75時間分の時間外労働手当相当額及び30時間分の深夜労働手当相当額として含むものとされている。

75時間分の時間外労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×34.5%

30時間分の深夜労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×3.0%

【裁判所の判断】

解雇は無効

未払残業代としてほぼ請求金額の満額を認めた。

付加金として同額の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 就業規則の効力発生要件としての周知は、必ずしも労基法所定の周知と同一の方法による必要はなく、適宜の方法で従業員一般に知らされれば足りると解されるところ、Y社では、流山本院の受付周辺に印字した就業規則を備え置いているほか、同じく流山本院の受付のパソコンに就業規則のデータを保管していること、Xにも、Y社での勤務開始前に、Y社代表者から上記事実が伝えられていたことを認めることができる。

2 36協定は、労基法32条または35条に反して許されないはずの労働が例外的に許容されるという麺罰的効力を持つものであるが、有効な36協定が締結されていない状況下でなされた時間外労働にも割増賃金は発生すること、その差異、就業規則に労基法に定めるものと同等か、それ以上の割増賃金に関する定めがあれば、使用者に対し、当該規定に基づく支払義務を課すことが相当であることに照らせば、36協定の効力の有無によって、割増賃金に関する就業規則の規定の効力は影響を受けないというべきである

3 基本給に時間外労働手当が含まれると認められるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が判別出来ることが必要であるところ(最高裁平成6年6月13日判決)、その趣旨は、時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が労基法所定の方法で計算した額を上回っているか否かについて、労働者が確認できるようにすることにあると解される。そこで、本件固定残業代規定が上記趣旨に則っているか否かが問題となる。
・・・確かに、本件固定残業代規定に従って計算することで、通常賃金部分と割増賃金部分の区別自体は可能である。しかし、同規定を前提としても、75時間分という時間外労働手当相当額が2割5分増の通常時間外の割増賃金のみを対象とするのか、3割5分増の休日時間外の割増賃金をも含むのかは判然とせず、契約書や級支給明細書にも内訳は全く記載されていない
結局、本件固定残業代規定は、割増賃金部分の判別が必要とされる趣旨を満たしているとはいい難く、この点に関するY社の主張は採用できない(そもそも、本件固定残業代規定の予定する残業時間が労基法36条の上限として周知されている月45時間を大幅に超えていること、4月改定において同規定が予定する残業時間を引き上げるにあたり、支給額を増額するのではなく、全体に対する割合の引上げで対応していること等にかんがみれば、本件固定残業代規定は、割増賃金の算定基礎額を最低賃金に可能な限り近づけて賃金支払額を抑制する意図に出たものであることが強く推認され、規定自体の合理性にも疑問なしとしない。)。

最近の裁判例を見る度に、固定残業代制度の終焉を迎えつつある気がしてなりません。

固定残業代制度の制度設計を間違うと、普通の未払残業代よりも多くの金額を支払わなければならないのが通常です。

しかも、使用者側の感覚からすると、二重払いのように思えてしまうので、たちが悪いです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金66(ヒロセ電機事件)

おはようございます。

さて、今日は、入退館記録表ではなく、時間外勤務命令書による労働時間管理を認めた裁判例を見てみましょう。

ヒロセ電機事件(東京地裁平成25年5月22日・労経速2187号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において勤務していたXが、時間外労働に対する賃金及び深夜労働に対する割増賃金と付加金の支払いを求めるとともに、内容虚偽の労働時間申告書等をXに作成、提出させたとして不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の旅費規程には、出張(直行、直帰も含む)の場合、所定終業時間勤務したものとみなすと規定されており、出張の場合には、いわゆる事業場外労働のみなし制(労基法38条の2)が適用されることになっている。
実際にも、Xの出張や直行直帰の場合に、時間管理をする者が同行しているわけでもないので、労働時間を把握することはできないこと、直属上司がXに対して、具体的な指示命令を出していた事実もなく、事後的にも、何時から何時までどのような業務を行っていたかについて、具体的な報告をさせているわけでもないことが認められる。Xも、出張時のスケジュールが決まっていないことや、概ね1人で出張先に行き、業務遂行についても、自身の判断で行っていること等を認めている
以上からすると、Xが出張、直行直帰している場合の事業場外労働については、Y社のXに対する具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、労働時間を管理把握して算定することはできないから、事業場外労働のみなし制が適用される

2 Xは、出張や業務内容について具体的な指示を受け、事前に訪問先や業務内容について具体的な指示を受け、指示どおりに業務に従事していたと主張する。
しかしながら、Xの訪問先や訪問目的について、Xが指示を受けていたことは認められるが、それ以上に、何時から何時までにいかなる業務を行うか等の具体的なスケジュールについて、詳細な指示を受けていた等といった事実は認められず、Xの事業場外労働について、Y社の具体的な指揮監督が及んでいたと認めるに足りる証拠はない。

3 Y社の就業規則70条2項によれば、時間外勤務は、直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないこと等が規定されている。また、平成22年4月以降の時間外勤務命令書には、注意事項として「所属長命令の無い延長勤務および時間外勤務の実施は認めません。」と明記されていること、かかる時間外勤務命令書についてXが内容を確認して、「本人確認印」欄に確認印を押していることが認められる。以上からすると、Y社においては、所属長からの命令の無い時間外勤務を明示的に禁止しており、Xもこれを認識していたといえる

4 ・・・実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていたことは明らかである。したがって、Y社における時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって、時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきである

使用者側のみなさんは、是非、参考にしてください。

既に多くの会社で本事案と同様の制度を取り入れられています。

ポイントは、単に制度をつくるのではなく、実際にちゃんと運用することです。

上記判例のポイント4がミソです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金65(朝日交通事件)

おはようございます。

さて、今日は、タクシー運転手らによる未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

朝日交通事件(札幌地裁平成24年9月28日・労判1073号86頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、時間外等割増賃金の未払があるとして、その支払と、同額の労働基準法114条に基づく付加金の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約700万円の未払残業代の支払いを命じるとともに、同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社賃金体系は、時間外等の労働時間に関係なく、出来高によって決定される完全歩合制であり、労基法等に従った時間外等の各割増賃金の支払を行わないものであって、出来高が少なければ最低賃金を下回る場合もあるし、有給補償は平均営収の28.8%とされているのであって、労基法等に違反することは明らかである

2 Y社は、休憩時間協定を適用すれば、労基法算定をしても、Y社のXらに対する未払賃金は、いずれもXら算定より少なくなるなどと主張する。しかし、客待ちのための停車が15分以上となることも十分あり得るものと考えられ、15分以上の停車を休憩時間とみなすことは相当でなく、休憩時間協定があるからといって、15分以上の停車を勤務時間から除外することはできないというべきであり、休憩時間として1時間を控除するXらの算定は相当である。

3 Y社賃金算定では、従業員が実際に従事した勤務の実態を反映させることなく、総営収を100%として、基本給34%、深夜時間手当4%、超勤時間手当11.8%、臨時労働手当4.2%と形式的に割り振っているのであるが、このような勤務実態と乖離した割振りをあえて行っていること自体、完全歩合制による賃金体系が労基法等に違反することを認識しながら、一見労基法等に従っているかのように書類上の形を整えるために行っていることが推認できるものであり、これを覆すに足りる証拠はないし、他のタクシー会社もこのような賃金体系を採用しているからといって、違法な行為が許されるものでないことも自明のことであって、付加金の支払を命ずることの相当性が失われるものではない

4 以上の認定事実等を総合すると、Y社に対し、Xらに対する付加金の支払を命ずるのが相当である。なお、仮に、Y社が主張するように、日本全国の大部分のタクシー会社が、Y社と同様に労基法等に違反する完全歩合制を採用しているのであるとすれば、タクシーの乗務員に過重な労働を強いたり、出来高を上げるための無理な運転等を助長させることにもつながり、従業員及び乗客のみならず第三者を含む道路交通の安全性にも関わるのであって、むしろ、違法な行為を防止するという観点からしても、付加金の支払を命じることが相当というべきである

すごい金額ですね。付加金を合わせると、1400万円!!

会社側は、控訴して、未払残業代を全額支払い、付加金の支払を免れる方法をとるのではないでしょうか。

「多くのタクシー会社は、完全歩合でやっているじゃないか!」という主張は、上記判例のポイント4で一蹴されています。

他の多くのタクシー会社さん、どうするのでしょうか。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。