Category Archives: 賃金

賃金80(X薬局事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、事実審の口頭弁論終結時までに使用者が未払割増賃金の支払を完了した場合と裁判所が付加金の支払を命ずることの可否に関する最高裁判決を見てみましょう。

X薬局事件(最高裁平成26年3月6日・判タ1400号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、本訴として、Xを相手に、Y社に対する未払賃金債務が173万1919円を超えて存在しないことの確認を求め、Xが、反訴として、Y社を相手に、未払賃金の支払等を求めるとともに、労基法37条所定の割増賃金の未払金に係る同法114条の付加金の支払いを求める事案である。

第1審は、Xの反訴に係る未払割増賃金請求につき、173万1919円及び遅延損害金とともに、付加金86万5960円及び遅延損害金を認める判決をした。

Y社は、控訴した上で、控訴審の口頭弁論終結前に、Xに対し、未払割増賃金全額(遅延損害金を含む)を支払、Xはこれを受領した。これを受けて、Xは、上記割増賃金請求に係る訴えを取り下げ、Y社はこれに同意した。

原審は、以上の事実関係の下で、付加金請求につき、上記の限度でこれを認容すべきものとした。

【裁判所の判断】

付加金に関する部分を破棄し、同部分につきY社敗訴部分を取り消す。
→付加金に関するXの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働基準法114条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法37条の違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払いを命ずることができなくなると解すべきである(最判昭和35年3月11日、最判昭和51年7月9日参照)。

2 本件においては、原審の口頭弁論終結時の時点で、Y社がXに対し未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したものであるから、もはや、裁判所は、Y社に対し、上記未払割増賃金に係る付加金の支払を命ずることができないというべきである。

上記判例のポイント1を知らなかった使用者側のみなさんは、是非、覚えておきましょう。

一審で敗訴し、付加金の支払を命じられた場合には、控訴し、控訴審の口頭弁論終結時までに未払賃金を全額支払えば、付加金の支払は免れられます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金79(豊商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、元従業員による退職金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

豊商事事件(東京地裁平成25年12月13日・労判1089号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を退職したXが、①Y社の退職年金規程に基づく退職金の請求ならびに②時間外労働および休日労働を行ったことによる同各手当の請求を行ったところ、Y社が①XにはY社の退職年金規程の適用がなく、また、XとY社との間には退職金不支給の合意があること、②時間外労働および休日労働の事実が認められず、また、Xは労基法41条2号の管理監督者に該当すること、からいずれの請求にも応じられないとして争った事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、合計約178万円を支払え

【判例のポイント】

1 Xについては、嘱託雇用契約締結の期間を除いても、平成3年6月24日から平成21年8月30日までの18年間という長期間にわたりY社に勤務しており、退職金請求権の法的性質における賃金の後払的性格や功労報償的性格当然考慮されるべき期間就労していると評価できる。また、本件ではX・Y社間では1年ごとの契約更新に関する何らかの手続がなされた形跡はなく、社員台帳記載の各辞令や賃金減額の経緯も契約更新の事実と関連するものではない。そうすると、X・Y社間の平成3年6月24日から平成21年8月30日までの間の労働契約は期間の定めのない労働契約としての評価をするのが相当であるから、退職年金規程第3条の「嘱託」の類推適用によりXに同規程の適用がないとの解釈も採用できない

2 Y社は、Xの採用条件は、年収1200万円で月額100万円、嘱託扱いの雇用、退職金及び賞与はなし、基本的に1年契約であるが株式公開までの期間は契約の存続を見込む、という内容で合意したと主張し、証人Kは、平成3年の5月か6月ころだったと思うが、当時E證券に勤務していたLがY社の会長室にXを連れてきたこと、DからLとXの紹介を受け、その際、DからXの上記採用条件に関する説明がなされたこと、これに対しXは特に反論する様子もなく納得している様子だったことを供述する。
しかし、Lの電話録取報告書によると、LはXをKに紹介したのみでX・Y社間の契約に一切関与していないこと、XはLとKとは入社前に面識がなく、採用条件の説明はY社のM常務から受けた旨述べていること、Y社の代表取締役の立場にある者がXの採用条件の詳細を部下に相談せずに単独で決定したとするのはやや不自然であること、株式会社Cでの待遇との比較では、Y社のXに対する待遇が必ずしも好待遇とまではいえず、XがGの誘いをいったん断った経緯にも鑑みると、Dの上記採用条件に関する話に対してXが特に反論する様子もなく納得したと理解するには疑問が残ること、から証人Kの供述を採用することはできない

上記判例のポイント1の解釈のしかたは、参考になりますね。

退職金の法的性質と実際の勤務状況、契約更新の態様などから考えると、退職金不支給とする解釈はとりえないということです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金78(東名運輸事件)

おはようございます。

さて、今日はテレビ局の下ロケバス運転手による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

東名運輸事件(東京地裁平成25年10月1日・労判1087号56頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で稼働していたXが、平成20年6月から22年12月にかけての時間外労働等に対する割増賃金および付加金の各支払いと遅延損害金を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、583万7256円を支払え。

Y社はXに対し、400万円の付加金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、ロケバス業務に従事する従業員に関し、運行協定書が規定する事項については運行協定書が優先し、就業規則の適用が排除される旨を主張するから、運行協定書が就業規則の一部変更として有効であるか否かが問題となる。
就業規則の変更によって労働条件を変更するには、当該変更が合理的であり、かつ周知されている必要があるところ(労働契約法10条参照)、運行協定書は、その規定に特段不合理な点は認められないが、本件全証拠を総合しても、運行協定書の内容が事業場の労働者の知り得る状態におかれていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、運行協定書は、就業規則一般に必要な周知性を満たしているとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、XとY社との間の労働契約の内容と認めることはできず、単なる業務心得又は運用指針に止まるものというべきである

2 使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されていると解されること、Y社は、業務毎に作成される運転日報によって労働時間を記録、管理していたことに鑑みれば、本件においては、記載内容が不合理なものでない限り、運転日報に記載された時刻を基準に出勤の有無及び労働時間を推定することが相当である(ただし、この推定は事実上のものであるから、後述の運行表等、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び労働時間を認定することが相当である。)。

3 本来の輸送業務の他に、天候、出演者の体調、撮影の進行具合、買出しの必要等のために、撮影中の待機時間に突発的に運転業務を依頼される場合があること、予定外の依頼であっても、Xとして対応可能であれば応じざるを得ないこと、Y社も、待機時間中の依頼も支障のない限り手伝うようにという指示をしていたこと、等の事実を認めることができる
上記事実に鑑みれば、Xは、撮影中の待機時間についても、原則として労働契約上の役務の提供が義務付けられていたというべきである。

4 住宅手当及び通勤手当は、請求期間を通じて一定の金額が支払われていること、Xの住宅又は通勤に要する実費と支給額との関連を認めるに足りる証拠がないことから、実質的に、住宅事情や通勤費用にかかわらず支給されているものとみるべきであり、除外賃金に当たるということはできない。

5 携帯電話料は、ロケバス業務における携帯電話の使用頻度が相当高いものと推認されること…等にかんがみれば、従業員の私物を業務に利用することに伴う実費を負担するため、一種の経費精算として支給されているものとみるのが相当である。したがって、携帯電話料を算定基礎賃金に算入することは相当ではない。

トラックやタクシーのドライバーをはじめとする各種運転手が残業代等の請求をする場合、手待ち時間の問題がよく登場します。

ほとんどのケースで、労基法上の労働時間に該当すると判断するのではないでしょうか。

会社として、どのような対策を講ずるべきか、是非、顧問弁護士に相談してみてください。

 

賃金77(株式会社MID事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、保険代理店の元営業マンによる未払歩合報酬等請求に関する裁判例を見てみましょう。

株式会社MID事件(大阪地裁平成25年10月25日・労判1087号44頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、保険代理業等を営む株式会社であるY社に対し、Y社の間で基本給月額10蔓延および歩合報酬を支払う内容の社員契約を締結していたところ、上記社員契約は労働契約に該当し、Xは、Y社から解雇された旨主張して、①上記社員契約に基づき、未払の基本給合計200万円並びに遅延損害金、②上記社員契約に基づき、未払の歩合報酬合計62万2454円及び遅延損害金、③解雇予告手当10万円及び遅延損害金、④上記解雇予告手当と同額の10万円の付加金及び遅延損害金、⑤上記解雇が違法であることを理由とする不法行為に基づき、慰謝料50万円及び遅延損害金を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、19万0882円+遅延損害金を支払え

2 解雇予告手当10万円+付加金10万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、本件社員契約において、Y社との間で、基本給10万円の支払いについて合意していたと主張する。しかしながら、①本件契約書には、基本給の支払に関する記載は何ら存在せず、むしろ報酬はフルコミッションである旨明記されており、そのことをXも認識していたこと(なお、フルコミッションが、完全歩合制を意味することは公知の事実である。)、②Xは、本件社員契約を締結してから本件解約までの約1年7か月以上の長期間にわたり、Y社から基本給10万円の支払を受けていないにもかかわらず、弁護士や労働基準監督署等を通じてY社に対して基本給の支払いを請求することはしなかったこと、③Xは、行政書士に依頼して、本件解約前の平成23年8月29日に、未払手数料等の支払を求める通知書をY社に送付しているが、同通知書には基本給10万円の支払いを求める旨の記載は一切存在しないこと、④Xは、本件解約後の平成23年9月2日付けで、Y社に対して解雇予告手当請求書を送付しているが、同請求書には基本給10万円の支払いを求める旨の記載は一切存在せず、その後、Xが多数回にわたってY社代表者に送信した電子メールにおいても、未払手数料及ぶ解雇予告手当のみを請求しており、基本給の支払請求は一切されていないことが認められる。
以上の各事実によれば、…XとY社の間に基本給10万円を支払う旨の合意が存在したとは認められない。

2 …そうすると、本件解約以前の3か月間にXに支払われた賃金は上記最低賃金に達しないことになるから、その部分について本件社員契約は無効となり、30日分の平均賃金についても、上記最低賃金に基づき算定すべきことになる。

3 解雇権の濫用に該当する解雇であっても、これが当然に不法行為を構成するとは解されないところ、Xは、本件解約以前から本件社員契約を解除する意思を有していただけでなく、本件解約後も本件解約の有効性について何ら争っていなかったことが認められるから、Y社が本件解約をしたことが違法性を有し、Xに対する不法行為を構成するとまではいえない。

外資系生保会社などに多いフルコミッション制ですが、完全歩合とはいえ、最低賃金を下回ることは許されません。

また、本件では、基本給として10万円を支払う旨の合意があったかが争点となっています。

裁判所がよくやる認定のしかたですので、参考にしてください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金76(医療法人衣明会事件)

おはようございます。

さて、今日は、ベビーシッターの家事使用人該当性と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人衣明会事件(東京地裁平成25年9月11日・労判1085号60頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、その代表者個人宅でベビーシッター等の業務を行っていたXらが、Y社に対して、主位的に、解雇無効による地位確認と未払給与、時間外割増賃金、付加金の支払いを求め、予備的に、不法行為に基づき、同額の損害賠償を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Xらは労基法の適用除外となる家事使用人とは認められない

2 Y社はX1に対し、461万8040円+遅延損害金(6%)、191万8040円の付加金+遅延損害金(5%)、平成22年5月から本判決確定の日まで毎月30万円+遅延損害金(6%)を支払え

3 Y社はX2に対し、202万8243円+遅延損害金(14.6%)、187万8243円の付加金+遅延損害金(5%)を支払え

【判例のポイント】

1 事使用人について、労働基準法の適用が除外されている趣旨は、家事一般に携わる家事使用人の労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため、その労働条件等について、これを把握して労働基準法による国家的監督・規制に服せしめることが実際上困難であり、その実効性が期し難いこと、また、私生活と密着した労働条件等についての監督・規制等を及ぼすことが、一般家庭における私生活の自由の保障との調和上、好ましくないという配慮があったことに基づくものと解される。しかしながら、家事使用人であっても、本来的には労働者であることからすれば、この適用除外の範囲については、厳格に解するのが相当である。したがって、一般家庭において家事労働に関して稼働する労働者であっても、その従事する作業の種類、性質等を勘案して、その労働条件や指揮命令の関係等を把握することが容易であり、かつ、それが一般家庭における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものでない場合には、当該労働者を労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。

2 Xらの労働条件は、労働契約書によって明確に規定されており、その勤務態様も、3人体制又は4人体制で2交替制又は3交替制で行われ、労働基準法上の労働時間を意識した1コマ8時間という単位のシフト制を用いて組織的に行われていたものであり、とりわけ、その労働時間管理については、タイムカードにより管理されており、医療法人であるY社を介して給与支払に反映されていたのであって、Xらの労働条件や労働の実態を外部から把握することは比較的容易であったということができ、Xらの労働が家庭内で行われていることにより、そうした把握が特に困難になるというような状況はうかがわれない。さらに、Xらベビーシッターに対する指揮命令は、子の親であるA夫妻が主として行っていたが、各種マニュアル類の整備がされ、連絡ノートの作成や月1回程度の会議も行われており、そうした指揮命令が、専ら家庭内の家族の私生活上の情誼に基づいて行われていたともいい難い。
そうすると、Xらについては、その労働条件や指揮命令の関係等を外部から把握することが比較的容易であったといえ、かつ、これを把握することが、A家における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものともいい難いというべきであるから、Xらを労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。

3 Y社は、同じ時間に2人のベビーシッターは不要であるから、Xらに割り当てられたコマの時間帯の前後については、タイムカードに記載があったとしても、単にA家に在留していたにすぎず、業務に従事していた時間ではない旨を主張する。
しかしながら、Xらベビーシッターは、自らに割り当てられたコマの担当時間の前後においても、子から離れて行わなければならない業務や子の業態に関する引継ぎ等を行っていたものであるから、その担当時間の前後におけるXらの業務が存在しなかったなどとはいえないのであり、タイムカードに記載された担当時間の前後の時間には一切の業務を行っていなかったなどとは認め難いのであって、Xらの実労働時間は、Y社にも提出され、Y社がその内容を把握していたタイムカード記載の出退勤時間によって認定することができるというべきである。

4 Y社は、Xらと合意した勤務時間には、午後10時から午前5時までのいわゆる深夜帯にかかるコマの割り当てがあったから、深夜労働についての割増賃金は、30万円の基本給に含まれることが当然の前提とされていた旨を主張する。
しかしながら、深夜労働に対する割増賃金は、労働基準法37条4項に基づき、使用者に支払義務が課せられるものであり、労働基準法所定の深夜労働割増賃金が既に支払済みであるか否かを判断するためには、基本給月額30万円のうちのどの部分が何時間分の深夜労働の割増賃金に当たるものとして合意されているかが、明確に区別されていなければならないことは明らかである。合意した労働契約において深夜労働が予定されているから、その割増賃金部分が当然に基本給に含まれているなどという主張は、およそ深夜労働があっても、基本給以外には割増金を支払わない旨を合意したから、割増賃金の支払義務がない旨を述べることと同趣旨のものにすぎず、これを採用することができないことは明らかである。

労基法116条2項には、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と規定されています。

この規定の解釈が争点となる事例というのは多くありません。 参考になりますね。

「例外規定の厳格解釈」というルールからすれば、家事使用人の範囲を狭めることは当然といえるでしょう。

また、深夜労働に関する上記判例のポイント4は、基本的なことですが、裁判でよく争いになるところですので、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金75(医療法人光優会事件)

おはようございます。

さて、今日は、看護師らによる未払賃金等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人光優会事件(奈良地裁平成25年10月17日・労判1084号24頁)

【事案の概要】

本件第1事件は、診療所を経営するY社に雇用されて正看護師として勤務していたX1と、同じく事務員として勤務していたX2が、Y社に対し、①Y社に解雇されるまでの未払賃金と立替金の支払、②解雇予告手当の支払い、③違法な業務(医師によらない診療録の作成や処方箋の発行など)を行うクリニックで勤務させられたことや些細な事柄で怒鳴りつけられるというパワハラを受け、精神的苦痛を受けたなどとして慰謝料の支払い、③解雇予告手当金と同額の付加金の支払命令を求めた事案である。

第2事件は、Y社が、X1に対し、X1がY社の業務命令に従わず職務放棄したことにより、Y社が計画していた訪問看護サービスの実施が不可能になり損害を被ったなどと主張して、債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償請求または使用者の被用者に対する求償権行使として損害金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、X1・X2への未払賃料、解雇予告手当、付加金を支払え

Y社は、X1・X2に対し、慰謝料として各50万円の支払え

Y社の請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・そもそも解雇処分後に給与減額処分はなし得ないところであるし、また、違法のおそれのある業務命令を拒否したことが違法な業務命令拒否であるとも、解雇処分後の離職を職務放棄であるとみることもできないのであって、X1に懲戒処分事由があるとも認められないから、Y社の主張は理由がない。

2 Y社は、経営危機を理由に、職員の平成24年9月分、10月分給与を減額することとし、X2の同年9月分給与も20%減額とすることを決定した旨主張する。しかし、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところ、本件全証拠によるも、X2が給与の減額に同意したことを認められないし、また、当該労働条件の不利益変更が合理的なものであることを認めるに足りず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はないのであって、Y社の上記主張は理由がない。

3 Xは、看護師として、クリニックAで行われていた上記のとおりの違法な業務に関与するおそれのある職場環境に置かれていたと認められるのであり、また、設立要件を満たしていないおそれがある訪問看護ステーションの設立及び違法な聞き取り診療を指示されるおそれのある訪問看護の実施を命じられ、かつ違法な業務命令を拒否したところ不当な解雇を受けたものと認められる
以上を総合考慮すれば、Y社の上記違法行為によりX1が受けた精神的苦痛を慰謝するものとして、X1には慰謝料50万円を認めるのが相当である。

4 X1は、Y社により解雇されたものであり、Y社の正当な業務命令を拒否して職務を放棄したものとは認められない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、Y社のX1に対する債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。

解雇処分後に賃金の減額ができないことは当然です。雇用関係が消滅しているのですから。

また、解雇事案で、賃金の支払のほかに慰謝料が認められるケースは、それほど多くありません。

今回のケースは、解雇が無効であるということのほかに、違法な業務に従事させられたという特殊な事情があったため、慰謝料が認められています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金74(秋田県(県立高校職員)事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒免職処分取消後の未払給与に対する遅延損害金請求に関する裁判例を見てみましょう。

秋田県(県立高校職員)事件(秋田地裁平成25年3月29日・労判1083号81頁)

【事案の概要】

本件は、秋田県の公務員であり、酒気帯び運転により懲戒免職処分を受けたXが、別件訴訟において当該懲戒免職処分が取り消された後、秋田県から未払分の給与の支払いを受けたが、当該給与には遅延損害金が付与されていなかったとして、秋田県に対し、秋田県が制定する条例および規則に基づき当該給与の支給日の翌日から当該給与に対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件のような金銭債権をめぐる債権債務関係、すなわち未払給与に対する遅延損害金の付与の要否及びその発生時期の判断に当たっては、民法を適用し、民法に基づき解釈するのが相当である。

2 本件においては、本件懲戒免職処分が取り消されたことによって、秋田県には給与である金銭をXに給付すべき債務に不履行が認められることから、民法419条、404条に基づき、秋田県は、Xに対し、未払の給与に対しては年5分の割合による遅延損害金を付与すべきこととなる

3 その上で、未払の給与に対していつから遅延損害金を付与すべきかについては、履行期と履行遅滞について規定した民法412条に基づき判断されるところ、Xは、本件条例等によって給与の支給日が規定されている以上、民法412条1項に基づき、当該支給日の翌日から遅延損害金が発生する旨主張する一方、秋田県は、本県条例等には遅延損害金の履行期に関する規定はない以上、民法412条3項に基づき、秋田県が未払の給与の履行の請求を受けた時から遅延損害金が発生する旨主張する。
そこで検討するに、・・・本件条例等には、懲戒免職処分が取り消された場合の給与の支払いについても明示的な規定はないにもかかわらず、本件においてはXには未払の給与が支給されたが、これは本件懲戒免職処分が取り消され、Xがその身分を回復した結果、Xには本件懲戒免職処分の日に遡って本件条例等が適用され、本県条例等に基づき未払の給与の支払いがされたからにほかならない。そして、懲戒免職処分が取り消された場合における給与の支払いと当該給与の履行期について、本件条例等の適用において別異に解すべき合理的理由はないことからすれば、本件懲戒免職処分が取り消された場合の未払の給与の支払いと同様に、当該未払給与の履行期についても、本県条例等が適用されると解するのが相当である。
したがって、本件においては、本件懲戒免職処分が取り消された後に支払われた未払の給与には、民法412条1項に基づき、本件条例等に定められている支給日が到来した時、すなわち支給日の翌日から遅延損害金を付与すべきこととなる

県側の主張は、なかなか厳しいものがあります。

普通に考えれば、裁判所の判断が妥当であることは明らかでしょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金73 廃業を理由に解雇された元従業員による賃金等請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、廃業を理由に解雇された元従業員による賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

S社事件(大阪地裁平成25年1月25日・労判1081号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に金銭の貸付けまたはY社のために立替払いをし、また、貸金の未払をあるとして、Y社に対し、消費貸借契約または立替払契約に基づく貸金、立替金および雇用契約に基づく賃金として、Xら合計1500万円(一部請求)の支払を求めるとともに、Y社の代表者であるAが、Y社の資産を個人的に費消して、Y社に損害を与え、XらのY社に対する上記各請求権を回収不能にしてXらに損害を与えたとして、Aに対し、債権者代位権または会社法429条1項の損害賠償請求権に基づき、同額の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xらの請求はいずれも認容

【判例のポイント】

1 本件各貸金及び立替金は、いずれもその貸付け又は立替金の日から消滅時効が進行し、Y社の業務に関するものであるから5年の商事消滅時効にかかるというべきである。
しかしながら、・・・Y社の代表者であるAは、本件各貸金及び立替金の商事消滅時効が完成した後、これらの債務について、保証金が返ってきたら必ず返すなどと述べて、その存在を承認したということになるから、Y社は、本件各貸金及び立替金について時効の利益を放棄したものといえる
よって、Y社が消滅時効を援用することは信義則上許されない

2 Aは、Y社が返還を受けた保証金1500万円のうち250万円は、C社に返済し、その余は、Y社の残務整理に一部使用した他は、上記借入金残金の返済に充てるため留保していると主張する。
しかし、・・・留保しているとする資金の保管先について何ら主張・立証がなされていないことすると、保証金相当額の資金は、すでにA自身の債務の弁済等、個人の使途に費消されたものと推認することができ、支払のために留保してあるとのAの主張は採用できない(なお、仮にAが未だ当該資金を費消していないとしても、その留保先を明らかにしない以上、Aの行為は、Y社の資産の隠匿に当たるというべきである。)。
かかるAの行為は、Y社の代表取締役として、会社財産を、善管注意義務をもって保管する義務に違反したものとして、任務懈怠行為に当たるというべきである
そして、Y社には、廃業の時点で、保証金のほかにみるべき資産はなく、Aが返還された保証金を個人的に費消ないし隠匿したことにより、Xらは、Y社から本件各貸金及び立替金並びに未払賃金の返還を受けることが実質的に不可能となったと認められるから、Aは、Xらに対し、会社法429条1項に基づき、本件各貸金及び立替金並びに未払賃金相当額の損害賠償義務を負う

X側とすれば、既に廃業しているY社からお金はとれないため、なんとかして代表者個人から回収する方法を考えなければなりません。

そこで、上記のように、代表者の取締役責任を追及したわけです。

もっとも、金額が金額ですから、代表者に自己破産をされてしまうとそこで回収不能となってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金72(CFJ合同会社事件)

おはようございます。

さて、今日は、業務遂行能力不足を理由とする降格・賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。

CFJ合同会社事件(大阪地裁平成25年2月1日・労判1080号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対して、Y社がした降格及びこれに伴う賃金の減額が人事権の濫用に当たり無効であるなどと主張して、主任職の地位確認及び賃金減額前と賃金減額後の差額賃金の支払を求める事案である。

【裁判の判断】

降格は有効

役職手当3000円の減額は有効であるが、基本給の減額は無効

【判例のポイント】

1 Xは、顧客に対する対応及びその後の対応に問題があったとして、平成19年6月16日付で係長代理から主任職への1階級降格処分(懲戒処分)を受け、本件降格までの間、数度の研修を受けているにもかかわらず、再三にわたり、Y社から顧客対応に関して注意書等により注意指導を受けている。同事実は、X自身も認めているところであり、Xの業務遂行能力は、Y社がジョブグレード制度において定める主任職の能力基準に達していないと認められる。以上の事実に加え、Y社のような貸金業者にとって、貸金業法に違反した場合、業務停止命令を受けるおそれがあるところ、Xが注意指導を受けた行為は、このような事態を招くおそれのあるものであることからすれば、本件降格は、Y社の有する人事権の範囲内であり、権利の濫用はなく、有効である。

2 以上のとおり、本件降格は、有効であるところ、Y社の給与規程第11条によれば、本件降格前にXに支給されていた役職手当は、主任職という役職に対して支給されていることが給与規程上明らかであるから、本件降格に伴ってされた役職手当3000円の減額は有効である。

3 基本給の減額は、以下のとおり、人事権の濫用であり無効というべきである。
・・・労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額については、就業規則や賃金規程等に明示されるか、労働者の個別の合意がないまま、使用者の一方的な行為によって減額することは許されないというべきであるところ、Y社のジョブグレード制度に基づき、基本給の減額が認められるためには、給与規程によって「基本給(部長職以上は、月例給)は、Job Grade別に月額で定める。」と定めるだけでは足りず、具体的な金額やその幅、運用基準を明らかにすべきである。しかし、上記のとおり、Y社においては、Xら従業員にその内容を明らかにしていない。また、主任職1等級と一般職3等級の基本給の額には約10万円もの差があり、Xも本件降格により約10万円もの減額を受けていることにも鑑みれば、本件降格によりXの基本給を減額することは、人事権の濫用として許されないというべきである。

上記判例のポイント3は、参考になりますね。

賃金の重要性に鑑みれば、規程の内容が抽象的であり、かつ、減額幅が大きい本件において、裁判所がこのような判断をしたことは妥当であると思います。

「降格処分が有効であるにもかかわらず」という視点を持つことが大切ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金71(広島経済技術協同組合ほか(外国人研修生)事件)

おはようございます。

さて、今日は、中国人研修・技能実習生らによる未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

広島経済技術協同組合ほか(外国人研修生)事件(東京高裁平成25年4月25日・労判1079号79頁)

【事案の概要】

本件は、いずれも中華人民共和国の国籍を有し、出入国管理及び難民認定法における外国人研修・技能実習制度の下、第一次受入れ機関を原審Y1社、第二次受入れ機関をY2社として、本邦に入国し在留したXらが、Y2社の「相談役」の肩書きを有するY3に対し、Y3はY2社の名義を利用していたもので、研修期間及び技能実習期間を通じて、XらはY3と雇用関係にあったと主張して、未払賃金、労働基準法114条所定の付加金等の支払を求めるとともに、Xら及び同様の立場にあったX2が、Y1社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

原審は、Y3とXら及びX2との間に雇用関係があったと認め、XらのY3に対する請求並びにY1社ら及びX2のY1社に対する請求を、いずれも一部認容し、一部棄却した。

これに対し、Y3のみが控訴した。したがって、Xら及びX2のY1社に対する請求については、原判決が確定している。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(以下、原審の判断)

1 労働契約法2条2項は、同法における「使用者」について、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいうと定義し、最低賃金法2条2号が準用する労働基準法10条は、同法における「使用者」について、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいうと定義する。これらの定義からすれば、前記各法における「使用者」とは、実質的に指揮命令をして労務の提供を受け、賃金を支払っていた又は支払うべき者をいうと解するべきであり、その前提として、会社の場合においては、これらの主体となり得る実態を有していることが必要である

2 ・・・以上からすれば、外国人研修・技能実習制度における研修生が、労働契約法及び最低賃金法上の労働者に当たるか否かについては、受入れ機関側における研修体制の構築の有無、実際に実施された研修内容・時間、特に非実務研修の実施の有無、その内容・時間のほか、研修生が研修手当を受領していた場合にはその手当についての認識等を総合考慮した上で、研修生が行った作業であっても、労務の提供として賃金の支払を受けるにふさわしいものであった場合には、前記労働者に当たるというべきである

3 外国人研修・技能実習制度の団体監理型における第一次受入れ機関は、研修を受けようとする者に対して、第二次受入れ機関が研修を適正に実施する体制を整えず、体制を備えることが全く期待できない場合にあっては、そもそもそのような機関に研修生を受け入れさせてはならない義務を負い、また、研修生に対して、自ら第一次受入れ機関として適正な研修を実施し、第二次受入れ機関による研修が研修計画どおり実施されているか、実質的な労働となっていないか等について監査し、これを指導し、管轄の地方入国管理局長に報告する義務を負うというべきである。

4 研修における第一次受入れ機関は、実態のない会社と雇用契約を締結しようとしていることを管轄する地方入国管理局長に報告しないなど、実習実施機関における不法就労を殊更助長しているといえる場合に限って不法行為責任を負うというべきである
Xらの研修における形式上の第二次受入れ機関であるY2社は、Y3が、研修生及び技能実習生の受入れ等の名義として用いたに過ぎない実態のない会社であって、Xらに研修を実施する体制は何ら構築されておらず、適正な研修体制が構築されることは到底期待することができない状況であったといえる。また、Xらが研修期間中に実際に行った作業は、技術、技能又は知識を修得させることを目的とするものではなく、実態として労働であったものである。これらの事情によれば、Y3がY2社を形式上の第二次受入れ機関としてXら研修生を受け入れた目的は、労働基準法及び最低賃金法の規定を潜脱し、同法所定の最低賃金を大きく下回る研修生1人当たり月額7万円程度の研修手当を支払うのみで労働力を得ることにあったことは明白であったといえ、Y1社は、Y2社がその組合員であること、Y1社担当者がXらの受入れに当たってY3と交渉していたことからすれば、上記のとおりXらを受け入れるにあたってのY3の目的を当然に認識していたことが認められる。

法の予定していない、研修制度の悪用であるという評価です。

妥当な判断だと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。