Category Archives: 賃金

賃金84(日本テレビ放送網事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、傷病欠勤者の復職拒否を相当として、復職を前提とした賃金請求を認めなかった裁判例を見てみましょう。

日本テレビ放送網事件(東京地裁平成26年5月13日・労経速2220号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を傷病欠勤等していたXが、Y社に復職の申出をしたところY社からこれを拒否されたことにつき、復職拒否は正当な理由がなく、Xは復職を前提とした賃金請求権を有する旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、復職可能時から支払われるべき賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成22年9月10日又は、同年10月26日の時点で、復職可能であったと主張するが、Y社がXの主治医に対し、文書で治療経過や症状等にかかる意見を照会したところ、平成22年10月15日付け文書回答では「今後も職場における対人関係が休職前と同様である場合には、再度症状の悪化を招く可能性があり、その点に対する配慮が必要」と記載されていたこと、Xの状態は、平成23年において、人事局員と会うのではないかと緊張して吐いてしまうなどの状態であったこと、これらの状況を踏まえ、産業医は復職可能という判断はできないとの意見であったこと、他方、Xは人事局及びビデオラウンジへのリハビリ出勤を恣意的、客観性を欠くとして拒否し続けたことなどの事実関係によれば、Y社が、Xの主治医であるD医師の意見につき、現状のままXをビデオラウンジに職場復帰させると再度症状の悪化を招く可能性があると理解したこと、その後も、Xが人事局及び原職場のリハビリ出社を経るまで、Xの休職事由が消滅したと判断できないと考えたことは、いずれも相当というべきであり、Xの復職を認めなかったことにつき、Y社に責めに帰すべき事由は認められない

2 Xは、平成23年4月11日までに復職プログラムを履践したから、平成23年4月12日以降、Y社がXの提供する労務の受領を拒絶したことには正当な理由がないと主張するが、Y社の復職プログラムでは、会社のメンタルヘルス不調者の職場復帰の可否判断について、三段階(診療所、人事局、原職)のリハビリ出勤を経る運用をしているところ、Xは、第一段階の社内診療所へのリハビリ勤務を平成23年1月5日から同年4月14日まで行ったものの、毎日社内で7時間、8時間を過ごすのはつらいなどの理由で、週2回約1時間程度社内診療所に滞在することとしてしまい、人事局、原職場へのリハビリ勤務へ進もうとしなかったこと、それまでの診療所へのリハビリ出勤において、人事局員と会うのではないかと緊張して吐いてしまうという状態であり、産業医であるE医師としては、復職した状況に近いかたちで人事局及び原職場へのリハビリ出勤をしてみないと、復職可能という判断はできないという意見であったという事情からすると、平成23年4月12日の時点では、Xが復職可能であったとは認められず、同日以降、Y社がXの提供する労務の受領を拒絶したことに正当な理由はないとは認められない。

3 以上のとおり、Xに対するY社の復職拒否はいずれも相当であって、Xの就労不能はY社の責めに帰すべき事由によるものとは認められずXの復職を前提とした賃金請求権は認められない。

復職拒否をし、退職処分をする場合、会社としては、どの程度の対応をしたらよいのかは悩ましいところです。

会社としては、今回のケースの中で、主治医に対し、意見照会をする等の対応は、参考にしてください。

また、リハビリ出社自体は、法的な義務ではありませんが、仮に復職プログラムを策定し、運用していこうと考える場合には、どのようなプログラムにしたらよいか、顧問弁護士や顧問社労士に相談してみてください。

賃金83(ディエスヴィ・エアーシー事件)

おはようございます。

さて、今日は、更新後9年9か月勤務してきた従業員からの退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ディエスヴィ・エアシー事件(東京地裁平成25年12月5日・労判1093号79頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づく退職金およびこれに対する遅延損害金を求めた事案である。

本件の争点は、Xが、退職金規則1条(2)の「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」に該当せず、同条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するか否かである。

【裁判所の判断】

Y社に対し251万1250円の支払を命じた

【判例のポイント】

1  退職金規則1条(2)において、退職金請求権を有しない社員として定める「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」の意義については、同条における退職金請求権を有しない社員として、上記の者と併せて「試用期間中の者」及び「勤続3年未満の者」が規定されていることにも照らして合理的に解釈する必要があるところ、一般に、存続期間の定めのある雇用契約については、短期間の臨時的雇用として期間満了後の更新等による雇用継続がそもそも想定されていない形態のものから、当初より比較的長期の雇用継続が予定され、実際の雇用期間も長期に及び、およそ労働力の臨時的需要に対応するものとはいい難い状況のものまで様々な形態が考えられ得るのであり、当該被用者が、Y社との間で存続期間の定めのある雇用契約を締結した場合であっても、あらゆる場合において、当該被用者が「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」に含まれ、退職金請求権を有しないものと解するのは、退職金請求権を有しないものと解するのは、退職金の賃金後払的性格及び功労報償的正確に照らして相当とはいえない。この場合、当該雇用契約が存続期間の定めのある雇用契約であると解される場合であっても、当該有期雇用契約の締結時に当事者間において想定された更新可能性の程度、期間満了後の更新等による雇用継続の期間・実態、当該被用者の勤務内容・賃金形態等の諸般の事情を考慮した結果、当該被用者の従前の雇用継続状況が、退職金の賃金後払的性格及び功労報償的性格に照らして、「試用期間中の者」や「勤続3年未満の者」と同様に当該被用者の退職金請求権を否定すべき雇用の臨時的性格が存在しないという状況に至っている場合には、当該被用者は「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には該当せず、退職金規則1条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するものと解するのが相当である

2 …Xの勤続期間については、上記黙示の更新前における1年間に加え、とりわけ同更新後において、9年9か月間という長期に及んでいる。…Xが、Y社において従事していた業務内容や勤務時間・執務条件等については、Y社との間で存続期間の定めのない雇用契約を締結していた他の被用者との比較において、特段の相違はみられない

3 仮に、本件雇用契約について、1年の存続期間を定めた有期雇用契約であると解するとしても、Xの雇用については、上記黙示の更新の前後を通算した勤続期間全体について、Xの退職金請求権を否定すべき臨時的性格が存在しないというべきであるから、Xは、退職金規則1条(2)に定める「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には該当せず、同条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するものと解するのが相当である。

就業規則をはじめとする会社内部の規程の内容について、裁判所は、形式的に判断するだけでなく、具体的な事情を考慮した上で、実質的に判断します。

したがって、本件のような結論に至ることは何ら不思議なことではありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金82(A税務署職員事件)

おはようございます。

さて、今日は、早期退職特例の適用の可否と過払退職手当の返還請求に関する裁判例を見てみましょう。

A税務署職員事件(大阪地裁平成25年11月29日・労判1089号47頁)

【事案の概要】

Y社は、A税務署で勤務していたXが退職勧奨に応じて60歳の定年に達した後に退職した際、国家公務員退職手当法の経過措置規定を適用して退職手当の支給額を算定するに当たり、同法5条の3に規定する定年前早期退職者に対する退職手当の基本額に係る特例がY社に適用されると判断して上記支給額を算定した上で、Xに対して2958万0245円の退職手当を支給した。

本件は、Y社が、本来、Xには定年前早期退職特例が適用されないから、Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であり、本件退職手当との差額である102万9601円が過払いとなっていると主張して、Xに対し、公法上の不当利得に基づき、102万9601円及びこれに対する催告における納付期限の翌日である平成21年8月25日から支払い済みまで5%の遅延損害金の支払いを求める実質的当事者訴訟である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 ・・・そうすると、勧奨を受けて定年後に退職した者について、・・・「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」に含めることは、退手法4条1項及び同5条1項が、一定期間以上勤務し非違によることなく勧奨を受けて退職した者について、退職手当の基本額を優遇することとした趣旨に合致しないものというべきである。

2 Xは、Y税務署長から、4パーセントの退職手当の割増しがされるらしいとの話を受け、国税庁及び大阪国税局の人事政策に協力するため退職を承諾したにもかかわらず、退職後2年も経過してから、Y社がXに対して本件過払金の返還を請求することは信義則に違反すると主張する
しかしながら、退手法に基づき本来Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であって、本件過払金については法律上の原因を欠くものである以上、Y社としては、債権を適正に管理するために、Xに対してその返還を求めるべき責務を負っているものというべきである。そして、法律による行政の原理の観点からすれば、行政行為に対する信義則の法理の適用について慎重に考えるべきものであるところ、仮に、Xが主張するような事情が存在したとしても、それだけでは、Y社がXに対して本件過払金の返還を求めることが正義に反するものということはできない。

3 Xは、退職の記念に中国旅行をするなどして本件過払金を費消したから、現存利益は存在しない旨主張する
しかしながら、本件過払金は、本件退職手当の一部として支給されたものであって、Xの固有財産に混入して固有財産と区別することができない以上、本件過払金について、現存利益の消滅を観念することはできないというべきである。また、仮に、Xが、本件過払金に相当する額を旅行費用として費消したとしても、当該費用の支出を免れた部分について、Xに現存利益が存在するものというべきである。

行政行為に対する信義則の法理の適用について裁判所の考え方を参考にしてください。

また、上記判例のポイント3は、民法703条の現存利益に関する裁判所の考え方がわかりますね。

現存利益に関する考え方については、いくつか最高裁判例がありますので、確認しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金81(TBCグループ事件)

おはようございます。

さて、今日は、適格性欠如を理由とする降格・手当等減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

TBCグループ事件(東京地裁平成25年8月13日・労判1087号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の総務部長および関東地区の営業部を統括するゼネラル・マネージャーを兼務していたXが、Y社からゼネラル・マネージャーの職を解かれたうえ、出向を命じられ、その後も他社へ異動を命じられ、同時に部長職から課長Ⅱ職に降格され、さらに係長Ⅰに降格されたことに伴い、役職手当および職務給、調整手当を減額されたことに対して、これらの減額は無効であり、賞与算定に際して行われた人事評価が違法であって不法行為に当たると主張して、Y社に対して、支給されるべき給与および賞与との差額合計1318万3500円ならびに退職日まで6%の遅延損害金合計73万2091円および退職後から支払済みまで14.6%による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格処分は無効
→降格処分に伴う役職手当および職務給の減額も無効

調整手当の減額も無効

→1106万2000円+確定遅延損害金59万8514円+遅延損害金の支払いを命じた

賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上のとおり、Xに対する降格処分についてのY社の主張は前提を欠くものである。なお、Y社は、Xが総務部長として適性を欠くことについて、プローブ取引の責任について以外具体的に主張しないし、なぜ複数回の降格が必要であったかについても主張しない。なお、Y社は、XがY社の利益を犠牲にしてC社の利益を図ったのではないかという疑念を抱いているとも主張するが、XがC社の利益を図った事実を具体的に主張・立証しておらず、上記のような疑念だけでXが総務部長としての適性を欠いていたということはできない
したがって、降格処分は無効であり、降格に伴う役職手当及び職務給の減額も無効である。

2 調整手当は、給与規程上、「経済状況の変動、給与体系の変更等、調整が必要と認められた場合に暫定的に支給する」とされており、兼務の手当とはされていないこと、Xは、平成19年2月にゼネラル・マネージャーを解任された後も、3年以上調整手当の支給を受けてきており、兼務と調整手当との対応関係を見いだすのは困難であることに照らすと、調整手当は兼務の対価とは認められない
Y社は、給与管理の不備からXに調整手当を支給していることが見逃されてきたと主張するが、Y社自身が年2回の賞与の査定の際に幹部社員の賞与を厳格に査定していると主張しているにもかかわらず、その査定の際に、本給があるべき給与額より20万円以上かさ上げされていたことに気付かされなかったというのは不自然であり、Y社の主張は採用できない。

全体的に使用者側の主張・立証は具体性・整合性に欠けると評価されているように感じます。

「適性を欠く」との理由で解雇や降格をする場合には、客観的にわかりやすい証拠を会社側で準備しておかなければ、このような結果になります。 ご注意ください。

1000万円を超える支払を命じられていますので、会社としては厳しい結果ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金80(X薬局事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、事実審の口頭弁論終結時までに使用者が未払割増賃金の支払を完了した場合と裁判所が付加金の支払を命ずることの可否に関する最高裁判決を見てみましょう。

X薬局事件(最高裁平成26年3月6日・判タ1400号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、本訴として、Xを相手に、Y社に対する未払賃金債務が173万1919円を超えて存在しないことの確認を求め、Xが、反訴として、Y社を相手に、未払賃金の支払等を求めるとともに、労基法37条所定の割増賃金の未払金に係る同法114条の付加金の支払いを求める事案である。

第1審は、Xの反訴に係る未払割増賃金請求につき、173万1919円及び遅延損害金とともに、付加金86万5960円及び遅延損害金を認める判決をした。

Y社は、控訴した上で、控訴審の口頭弁論終結前に、Xに対し、未払割増賃金全額(遅延損害金を含む)を支払、Xはこれを受領した。これを受けて、Xは、上記割増賃金請求に係る訴えを取り下げ、Y社はこれに同意した。

原審は、以上の事実関係の下で、付加金請求につき、上記の限度でこれを認容すべきものとした。

【裁判所の判断】

付加金に関する部分を破棄し、同部分につきY社敗訴部分を取り消す。
→付加金に関するXの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働基準法114条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法37条の違反があっても、裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払いを命ずることができなくなると解すべきである(最判昭和35年3月11日、最判昭和51年7月9日参照)。

2 本件においては、原審の口頭弁論終結時の時点で、Y社がXに対し未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したものであるから、もはや、裁判所は、Y社に対し、上記未払割増賃金に係る付加金の支払を命ずることができないというべきである。

上記判例のポイント1を知らなかった使用者側のみなさんは、是非、覚えておきましょう。

一審で敗訴し、付加金の支払を命じられた場合には、控訴し、控訴審の口頭弁論終結時までに未払賃金を全額支払えば、付加金の支払は免れられます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金79(豊商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、元従業員による退職金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

豊商事事件(東京地裁平成25年12月13日・労判1089号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を退職したXが、①Y社の退職年金規程に基づく退職金の請求ならびに②時間外労働および休日労働を行ったことによる同各手当の請求を行ったところ、Y社が①XにはY社の退職年金規程の適用がなく、また、XとY社との間には退職金不支給の合意があること、②時間外労働および休日労働の事実が認められず、また、Xは労基法41条2号の管理監督者に該当すること、からいずれの請求にも応じられないとして争った事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、合計約178万円を支払え

【判例のポイント】

1 Xについては、嘱託雇用契約締結の期間を除いても、平成3年6月24日から平成21年8月30日までの18年間という長期間にわたりY社に勤務しており、退職金請求権の法的性質における賃金の後払的性格や功労報償的性格当然考慮されるべき期間就労していると評価できる。また、本件ではX・Y社間では1年ごとの契約更新に関する何らかの手続がなされた形跡はなく、社員台帳記載の各辞令や賃金減額の経緯も契約更新の事実と関連するものではない。そうすると、X・Y社間の平成3年6月24日から平成21年8月30日までの間の労働契約は期間の定めのない労働契約としての評価をするのが相当であるから、退職年金規程第3条の「嘱託」の類推適用によりXに同規程の適用がないとの解釈も採用できない

2 Y社は、Xの採用条件は、年収1200万円で月額100万円、嘱託扱いの雇用、退職金及び賞与はなし、基本的に1年契約であるが株式公開までの期間は契約の存続を見込む、という内容で合意したと主張し、証人Kは、平成3年の5月か6月ころだったと思うが、当時E證券に勤務していたLがY社の会長室にXを連れてきたこと、DからLとXの紹介を受け、その際、DからXの上記採用条件に関する説明がなされたこと、これに対しXは特に反論する様子もなく納得している様子だったことを供述する。
しかし、Lの電話録取報告書によると、LはXをKに紹介したのみでX・Y社間の契約に一切関与していないこと、XはLとKとは入社前に面識がなく、採用条件の説明はY社のM常務から受けた旨述べていること、Y社の代表取締役の立場にある者がXの採用条件の詳細を部下に相談せずに単独で決定したとするのはやや不自然であること、株式会社Cでの待遇との比較では、Y社のXに対する待遇が必ずしも好待遇とまではいえず、XがGの誘いをいったん断った経緯にも鑑みると、Dの上記採用条件に関する話に対してXが特に反論する様子もなく納得したと理解するには疑問が残ること、から証人Kの供述を採用することはできない

上記判例のポイント1の解釈のしかたは、参考になりますね。

退職金の法的性質と実際の勤務状況、契約更新の態様などから考えると、退職金不支給とする解釈はとりえないということです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金78(東名運輸事件)

おはようございます。

さて、今日はテレビ局の下ロケバス運転手による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

東名運輸事件(東京地裁平成25年10月1日・労判1087号56頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で稼働していたXが、平成20年6月から22年12月にかけての時間外労働等に対する割増賃金および付加金の各支払いと遅延損害金を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、583万7256円を支払え。

Y社はXに対し、400万円の付加金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、ロケバス業務に従事する従業員に関し、運行協定書が規定する事項については運行協定書が優先し、就業規則の適用が排除される旨を主張するから、運行協定書が就業規則の一部変更として有効であるか否かが問題となる。
就業規則の変更によって労働条件を変更するには、当該変更が合理的であり、かつ周知されている必要があるところ(労働契約法10条参照)、運行協定書は、その規定に特段不合理な点は認められないが、本件全証拠を総合しても、運行協定書の内容が事業場の労働者の知り得る状態におかれていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、運行協定書は、就業規則一般に必要な周知性を満たしているとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、XとY社との間の労働契約の内容と認めることはできず、単なる業務心得又は運用指針に止まるものというべきである

2 使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務が課されていると解されること、Y社は、業務毎に作成される運転日報によって労働時間を記録、管理していたことに鑑みれば、本件においては、記載内容が不合理なものでない限り、運転日報に記載された時刻を基準に出勤の有無及び労働時間を推定することが相当である(ただし、この推定は事実上のものであるから、後述の運行表等、他により客観的かつ合理的な証拠が存在する場合には、当該証拠により出勤の有無及び労働時間を認定することが相当である。)。

3 本来の輸送業務の他に、天候、出演者の体調、撮影の進行具合、買出しの必要等のために、撮影中の待機時間に突発的に運転業務を依頼される場合があること、予定外の依頼であっても、Xとして対応可能であれば応じざるを得ないこと、Y社も、待機時間中の依頼も支障のない限り手伝うようにという指示をしていたこと、等の事実を認めることができる
上記事実に鑑みれば、Xは、撮影中の待機時間についても、原則として労働契約上の役務の提供が義務付けられていたというべきである。

4 住宅手当及び通勤手当は、請求期間を通じて一定の金額が支払われていること、Xの住宅又は通勤に要する実費と支給額との関連を認めるに足りる証拠がないことから、実質的に、住宅事情や通勤費用にかかわらず支給されているものとみるべきであり、除外賃金に当たるということはできない。

5 携帯電話料は、ロケバス業務における携帯電話の使用頻度が相当高いものと推認されること…等にかんがみれば、従業員の私物を業務に利用することに伴う実費を負担するため、一種の経費精算として支給されているものとみるのが相当である。したがって、携帯電話料を算定基礎賃金に算入することは相当ではない。

トラックやタクシーのドライバーをはじめとする各種運転手が残業代等の請求をする場合、手待ち時間の問題がよく登場します。

ほとんどのケースで、労基法上の労働時間に該当すると判断するのではないでしょうか。

会社として、どのような対策を講ずるべきか、是非、顧問弁護士に相談してみてください。

 

賃金77(株式会社MID事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、保険代理店の元営業マンによる未払歩合報酬等請求に関する裁判例を見てみましょう。

株式会社MID事件(大阪地裁平成25年10月25日・労判1087号44頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、保険代理業等を営む株式会社であるY社に対し、Y社の間で基本給月額10蔓延および歩合報酬を支払う内容の社員契約を締結していたところ、上記社員契約は労働契約に該当し、Xは、Y社から解雇された旨主張して、①上記社員契約に基づき、未払の基本給合計200万円並びに遅延損害金、②上記社員契約に基づき、未払の歩合報酬合計62万2454円及び遅延損害金、③解雇予告手当10万円及び遅延損害金、④上記解雇予告手当と同額の10万円の付加金及び遅延損害金、⑤上記解雇が違法であることを理由とする不法行為に基づき、慰謝料50万円及び遅延損害金を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社はXに対し、19万0882円+遅延損害金を支払え

2 解雇予告手当10万円+付加金10万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、本件社員契約において、Y社との間で、基本給10万円の支払いについて合意していたと主張する。しかしながら、①本件契約書には、基本給の支払に関する記載は何ら存在せず、むしろ報酬はフルコミッションである旨明記されており、そのことをXも認識していたこと(なお、フルコミッションが、完全歩合制を意味することは公知の事実である。)、②Xは、本件社員契約を締結してから本件解約までの約1年7か月以上の長期間にわたり、Y社から基本給10万円の支払を受けていないにもかかわらず、弁護士や労働基準監督署等を通じてY社に対して基本給の支払いを請求することはしなかったこと、③Xは、行政書士に依頼して、本件解約前の平成23年8月29日に、未払手数料等の支払を求める通知書をY社に送付しているが、同通知書には基本給10万円の支払いを求める旨の記載は一切存在しないこと、④Xは、本件解約後の平成23年9月2日付けで、Y社に対して解雇予告手当請求書を送付しているが、同請求書には基本給10万円の支払いを求める旨の記載は一切存在せず、その後、Xが多数回にわたってY社代表者に送信した電子メールにおいても、未払手数料及ぶ解雇予告手当のみを請求しており、基本給の支払請求は一切されていないことが認められる。
以上の各事実によれば、…XとY社の間に基本給10万円を支払う旨の合意が存在したとは認められない。

2 …そうすると、本件解約以前の3か月間にXに支払われた賃金は上記最低賃金に達しないことになるから、その部分について本件社員契約は無効となり、30日分の平均賃金についても、上記最低賃金に基づき算定すべきことになる。

3 解雇権の濫用に該当する解雇であっても、これが当然に不法行為を構成するとは解されないところ、Xは、本件解約以前から本件社員契約を解除する意思を有していただけでなく、本件解約後も本件解約の有効性について何ら争っていなかったことが認められるから、Y社が本件解約をしたことが違法性を有し、Xに対する不法行為を構成するとまではいえない。

外資系生保会社などに多いフルコミッション制ですが、完全歩合とはいえ、最低賃金を下回ることは許されません。

また、本件では、基本給として10万円を支払う旨の合意があったかが争点となっています。

裁判所がよくやる認定のしかたですので、参考にしてください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金76(医療法人衣明会事件)

おはようございます。

さて、今日は、ベビーシッターの家事使用人該当性と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人衣明会事件(東京地裁平成25年9月11日・労判1085号60頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、その代表者個人宅でベビーシッター等の業務を行っていたXらが、Y社に対して、主位的に、解雇無効による地位確認と未払給与、時間外割増賃金、付加金の支払いを求め、予備的に、不法行為に基づき、同額の損害賠償を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Xらは労基法の適用除外となる家事使用人とは認められない

2 Y社はX1に対し、461万8040円+遅延損害金(6%)、191万8040円の付加金+遅延損害金(5%)、平成22年5月から本判決確定の日まで毎月30万円+遅延損害金(6%)を支払え

3 Y社はX2に対し、202万8243円+遅延損害金(14.6%)、187万8243円の付加金+遅延損害金(5%)を支払え

【判例のポイント】

1 事使用人について、労働基準法の適用が除外されている趣旨は、家事一般に携わる家事使用人の労働が一般家庭における私生活と密着して行われるため、その労働条件等について、これを把握して労働基準法による国家的監督・規制に服せしめることが実際上困難であり、その実効性が期し難いこと、また、私生活と密着した労働条件等についての監督・規制等を及ぼすことが、一般家庭における私生活の自由の保障との調和上、好ましくないという配慮があったことに基づくものと解される。しかしながら、家事使用人であっても、本来的には労働者であることからすれば、この適用除外の範囲については、厳格に解するのが相当である。したがって、一般家庭において家事労働に関して稼働する労働者であっても、その従事する作業の種類、性質等を勘案して、その労働条件や指揮命令の関係等を把握することが容易であり、かつ、それが一般家庭における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものでない場合には、当該労働者を労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。

2 Xらの労働条件は、労働契約書によって明確に規定されており、その勤務態様も、3人体制又は4人体制で2交替制又は3交替制で行われ、労働基準法上の労働時間を意識した1コマ8時間という単位のシフト制を用いて組織的に行われていたものであり、とりわけ、その労働時間管理については、タイムカードにより管理されており、医療法人であるY社を介して給与支払に反映されていたのであって、Xらの労働条件や労働の実態を外部から把握することは比較的容易であったということができ、Xらの労働が家庭内で行われていることにより、そうした把握が特に困難になるというような状況はうかがわれない。さらに、Xらベビーシッターに対する指揮命令は、子の親であるA夫妻が主として行っていたが、各種マニュアル類の整備がされ、連絡ノートの作成や月1回程度の会議も行われており、そうした指揮命令が、専ら家庭内の家族の私生活上の情誼に基づいて行われていたともいい難い。
そうすると、Xらについては、その労働条件や指揮命令の関係等を外部から把握することが比較的容易であったといえ、かつ、これを把握することが、A家における私生活上の自由の保障と必ずしも密接に関係するものともいい難いというべきであるから、Xらを労働基準法の適用除外となる家事使用人と認めることはできないものというべきである。

3 Y社は、同じ時間に2人のベビーシッターは不要であるから、Xらに割り当てられたコマの時間帯の前後については、タイムカードに記載があったとしても、単にA家に在留していたにすぎず、業務に従事していた時間ではない旨を主張する。
しかしながら、Xらベビーシッターは、自らに割り当てられたコマの担当時間の前後においても、子から離れて行わなければならない業務や子の業態に関する引継ぎ等を行っていたものであるから、その担当時間の前後におけるXらの業務が存在しなかったなどとはいえないのであり、タイムカードに記載された担当時間の前後の時間には一切の業務を行っていなかったなどとは認め難いのであって、Xらの実労働時間は、Y社にも提出され、Y社がその内容を把握していたタイムカード記載の出退勤時間によって認定することができるというべきである。

4 Y社は、Xらと合意した勤務時間には、午後10時から午前5時までのいわゆる深夜帯にかかるコマの割り当てがあったから、深夜労働についての割増賃金は、30万円の基本給に含まれることが当然の前提とされていた旨を主張する。
しかしながら、深夜労働に対する割増賃金は、労働基準法37条4項に基づき、使用者に支払義務が課せられるものであり、労働基準法所定の深夜労働割増賃金が既に支払済みであるか否かを判断するためには、基本給月額30万円のうちのどの部分が何時間分の深夜労働の割増賃金に当たるものとして合意されているかが、明確に区別されていなければならないことは明らかである。合意した労働契約において深夜労働が予定されているから、その割増賃金部分が当然に基本給に含まれているなどという主張は、およそ深夜労働があっても、基本給以外には割増金を支払わない旨を合意したから、割増賃金の支払義務がない旨を述べることと同趣旨のものにすぎず、これを採用することができないことは明らかである。

労基法116条2項には、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と規定されています。

この規定の解釈が争点となる事例というのは多くありません。 参考になりますね。

「例外規定の厳格解釈」というルールからすれば、家事使用人の範囲を狭めることは当然といえるでしょう。

また、深夜労働に関する上記判例のポイント4は、基本的なことですが、裁判でよく争いになるところですので、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金75(医療法人光優会事件)

おはようございます。

さて、今日は、看護師らによる未払賃金等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人光優会事件(奈良地裁平成25年10月17日・労判1084号24頁)

【事案の概要】

本件第1事件は、診療所を経営するY社に雇用されて正看護師として勤務していたX1と、同じく事務員として勤務していたX2が、Y社に対し、①Y社に解雇されるまでの未払賃金と立替金の支払、②解雇予告手当の支払い、③違法な業務(医師によらない診療録の作成や処方箋の発行など)を行うクリニックで勤務させられたことや些細な事柄で怒鳴りつけられるというパワハラを受け、精神的苦痛を受けたなどとして慰謝料の支払い、③解雇予告手当金と同額の付加金の支払命令を求めた事案である。

第2事件は、Y社が、X1に対し、X1がY社の業務命令に従わず職務放棄したことにより、Y社が計画していた訪問看護サービスの実施が不可能になり損害を被ったなどと主張して、債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償請求または使用者の被用者に対する求償権行使として損害金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、X1・X2への未払賃料、解雇予告手当、付加金を支払え

Y社は、X1・X2に対し、慰謝料として各50万円の支払え

Y社の請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・そもそも解雇処分後に給与減額処分はなし得ないところであるし、また、違法のおそれのある業務命令を拒否したことが違法な業務命令拒否であるとも、解雇処分後の離職を職務放棄であるとみることもできないのであって、X1に懲戒処分事由があるとも認められないから、Y社の主張は理由がない。

2 Y社は、経営危機を理由に、職員の平成24年9月分、10月分給与を減額することとし、X2の同年9月分給与も20%減額とすることを決定した旨主張する。しかし、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところ、本件全証拠によるも、X2が給与の減額に同意したことを認められないし、また、当該労働条件の不利益変更が合理的なものであることを認めるに足りず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はないのであって、Y社の上記主張は理由がない。

3 Xは、看護師として、クリニックAで行われていた上記のとおりの違法な業務に関与するおそれのある職場環境に置かれていたと認められるのであり、また、設立要件を満たしていないおそれがある訪問看護ステーションの設立及び違法な聞き取り診療を指示されるおそれのある訪問看護の実施を命じられ、かつ違法な業務命令を拒否したところ不当な解雇を受けたものと認められる
以上を総合考慮すれば、Y社の上記違法行為によりX1が受けた精神的苦痛を慰謝するものとして、X1には慰謝料50万円を認めるのが相当である。

4 X1は、Y社により解雇されたものであり、Y社の正当な業務命令を拒否して職務を放棄したものとは認められない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、Y社のX1に対する債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。

解雇処分後に賃金の減額ができないことは当然です。雇用関係が消滅しているのですから。

また、解雇事案で、賃金の支払のほかに慰謝料が認められるケースは、それほど多くありません。

今回のケースは、解雇が無効であるということのほかに、違法な業務に従事させられたという特殊な事情があったため、慰謝料が認められています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。