Category Archives: 賃金

賃金90(X空港事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、元従業員からの退職功労金の請求が認められなかった裁判例を見てみましょう。

X空港事件(大阪地裁平成26年9月19日・労経速2233号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員及び元従業員の相続人が、Y社が労働組合に交付した書面に記載されていた退職功労金の支給基準は就業規則と一体のものとして労働契約の一内容となっているとして、Y社に対し、労働契約に基づき、退職功労金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 旧退職金規程7条は、退職功労金について「在籍中に特に功労があった者に対しては基本退職金の計算の範囲内で功労加算として加給する」と定めているが、在籍中に特に功労があった者に対して退職功労金を支給することを抽象的に定めているだけであり、同条によっては退職功労金の支給対象者及び支給額は確定しないから、旧退職金規程7条に基づいて、直ちに退職功労金を請求することはできず、使用者が「特に功労があった者」に当たるか否かを査定するとともに、具体的な算定方式や支給額を決定することによって初めて具体的な金額が確定するものと解される。そして、昭和55年基準は、勤続20年以上、かつその在籍中10年皆勤表彰を受賞して定年退職した受賞者を「特に功労があった者」とし、さらに勤続1年につき2万5000円を退職功労金の支給額とするとして、退職功労金の支給対象者及び支給金額の算定基準を明確にするものであるから、昭和55年基準は旧退職金規程7条退職功労金請求権の具体的な内容を確定するものであり、したがって、昭和55年基準が改廃されない限りにおいては、Y社の従業員は旧退職金規程7条及び昭和55年基準に基づいて退職功労金を請求することができるものと解される。

2 もっとも、昭和55年基準は本件組合に宛てた文書に記載されているものであって一般的な就業規則の形式とは体裁が明らかに異なっている上、就業規則を作成又は変更するに当たって法律上要求されている行政官庁への届出(労働基準法89条)や多数労働組合又は過半数代表に対する意見の聴取(同法90条9も行われていない。しかも、昭和55年書面には昭和55年基準を「内規として取扱うことを連絡致します」と記載されており、・・・Y社が昭和55年基準を就業規則ではなく、あくまでも内規として位置付けていることは明らかである。
・・・そうすると、昭和55年基準は旧退職金規程7条の内容を具体化するものではあるが、昭和55年基準自体は就業規則の一部ではないから、昭和55年基準はY社とY社の従業員との間の労働契約の内容としてY社を拘束するものではないというべきである

3 以上によれば、昭和55年基準は、Y社とY社の従業員との間の労働契約の内容にはなっておらず、あくまでも運用基準にすぎないから、Y社は、労働者の同意を得ることなく、同基準を改廃することが可能であると解される。そして、昭和55年基準は、平成12年内規が制定されたことにより改訂されているから、Xらは、昭和55年基準に基づいて退職功労金を請求することはできない。

今回のようなケースでは、賞与の請求をする場合と同様、労働者側には厳しい戦いとなります。

上記判例のポイント2の視点は、応用できますね。 参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金89(泉レストラン事件)

おはようございます。

今日は、固定残業代の有効性と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

泉レストラン事件(東京地裁平成26年8月26日・労判1103号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で稼働していたXらがY社に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する割増賃金およびその遅延損害金の支払いを求め、併せて、労働基準法114条に基づき、付加金およびその遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約430万円の割増賃金の支払+付加金約330万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 一定額の手当の支払がいわゆる固定残業代の支払として有効と認められるためには、少なくとも、①当該手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有していること、②当該手当に係る約定(合意)において、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分とを判別することができ、通常の労働時間の賃金に当たる部分から当該手当の額が労基法所定の時間外割増賃金の額を下回らないかどうかが判断し得ることが必要であると解される。

2 これを本件について見るに、①の要件につき、本件時間外勤務手当制度は、ポスト職を除く全従業員を対象に導入していると認められ、そうすると、従業員に実際に恒常的に発生する時間外労働の対価として合理的に定められたものとはいえない。また、Xらの在職中、これらの時間外労働を前提とした割増賃金が支払われていた様子はうかがえない。以上の点からすると、本件時間外勤務手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有しているとは認められず、①の要件は認められない。よって、その余の点について判断するまでもなく、本件時間外勤務手当制度をXらに適用することはできない。

中途半端に固定残業制度を導入すると、こうなりますので、注意しましょう。

中途半端にやるくらいなら、導入しないほうがまだましです。

会社としては残業代の二重払いのような感覚に陥りますが、やむを得ません。

控訴して、和解するか、割増賃金+遅延損害金全額を支払い、付加金だけは勘弁してもらいましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金88(フジスター事件)

おはようございます。

今日は、賃金格差の一部が性別に基づく不合理な取扱いとされた裁判例を見てみましょう。

フジスター事件(東京地裁平成26年7月18日・労経速2227号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、約20年間勤務した後、平成21年5月9日付けで定年退職したXが、在職中、Xが女性であることを理由として、賃金及び賞与が男性従業員よりも不当に低く抑えられてきたため、本来Xが受けるべきであった平成18年5月分以降の月例賃金、住宅手当、時間外割増手当、退職金、夏季・冬季賞与及び決算賞与の額と実際にXが支給された額との各差額相当額、年金差額相当額、慰謝料及び弁護士費用の合計として、①主位的に1621万4960円、②予備的に1551万7093円の損害を被ったと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、55万円(慰謝料50万円+弁護士費用5万円)+遅延損害金を支払え。

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社における賃金決定過程は、諸要素を考慮するものの、最終的にはY社代表者の判断で決定している部分が大きいものである。
企業として、いかなる点を重視して従業員にインセンティブを与えるべきか、という事柄は、当該企業の経営判断に属するものであり、当該企業の経営方針等に照らし、一定の職種によりインセンティブを与えるという方針の下で給与決定をすること自体は、それが職種の違いを踏まえても合理性を有しない不当な差別にわたると評価される場合に該当しない限り、違法とされるものではないというべきである。

2 Xは、平成20年2月8日付けの本件合意書において、本件組合フジスター支部の支部長として記名押印をしているところであるが、本件合意書には、X以外の本件組合の特定の組合員4名について住宅手当、家族手当及び主任手当を同年2月から支給する旨の条項、過去分の住宅手当及び家族手当については、上記組合員4名に対し、解決金名目で210万3000円を支払う旨の条項の他、いわゆる清算条項(「本件に関し」との限定を付したもの。)が設けられている。・・・本件合意書における清算条項の当事者である「組合員」にはXも含まれるということが本件合意書締結当時の当事者の意思に合致するものと解するのが相当であって、Xの、平成20年1月分までの住宅手当及び家族手当については、Y社との関係においては、本件合意により清算済みであり、現在ではY社に対する請求権を有しないというべきである

3 Xは、在職中、Y社の不法行為により、同じ企画職の男性従業員と比べて、役職手当(主任手当)の支給される時期が著しく遅くなるという不利益を被っていた。そして、その不利益は、Xが支給されるべき時間外割増手当やXが受給すべき年金額にも一定の不利益を及ぼすものである。これらの不利益の程度を具体的に認定することができないことは既に述べたとおりであるが、Xは、Y社のかかる取扱いにより、性別により差別されないという人格権を侵害されたものであり、これによりXが被った精神的苦痛を慰謝するには、上記のXが被った不利益をも考慮した相応の金員の支払が必要である。そこで検討するに、Xと、企画職の男性従業員との間の主任手当の支給額の差額、Xの勤続年数、Y社における賃金決定方法について、経営陣の裁量に委ねられる部分が大きく、Xの予測可能性が乏しいといえること、上記のとおりXが具体的な程度を認定することはできないが一定の不利益を受けていること、その他本件に現れた諸般の事情を総合すると、Xの慰謝料は、50万円と認めるのが相当である。

原告側の代理人の訴訟活動の大変さが思い浮かびます。

慰謝料の金額、少なくないですかね・・・? 日本の裁判所ではこんなもんでしょうか?

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金87(ZKR(旧全管連)事件)

おはようございます。

今日は、会員権等販売の元営業社員による未払歩合給等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ZKR(旧全管連)事件(大阪地裁平成26年1月16日・労判1096号88頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、雇用契約に基づき、未払いの歩合給およびこれに対する遅延損害金を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し約250万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、営業社員を募集する広告に、基本給のほかに歩合給を支給する旨を記載していたこと、Xは、入社時、Y社から、基本給の他に歩合給が支給されると聞いたが、その際、歩合給の支給に何らの留保は付されていなかったこと、入社後数ヶ月間は固定給が25万円であったが、数か月後に19万3000円に引き下げられたこと、給与規程に歩合給に関する定めはないが、Y社は歩合規定を設けて営業社員らに歩合を支払っており、Xに対しては、入社後平成23年4月度まで、明細書に総支給額として記載された金額から所得税の源泉徴収分を差し引いた金額が、特段の留保なく全額支払われていたこと、Y社は、Xに対し、平成24年3月9日に31万3000円、同年5月1日、同月31日及び同年7月2日に各5万円を支払ったが、その後は支払をしていないこと、Y社は、Xら営業社員に対し、月別の売上げを公表したことはないこと、Y社は、平成23年5月度以降明細書どおりの支払をしないことについて、Xに対し、売上げが上がらないので支払を待ってほしいと述べたものの、月次売上が6億円に達しないからである旨の説明をしたことはないことが認められる。

2 これらの事実によれば、XとY社との間には、Y社が、Xの上げた売上げ等に応じて歩合を計算し、明細書に記載してこれをXに交付し、当該明細書に記載された金額を歩合給として支給することを内容とする黙示の合意が存在し、これが本件雇用契約の内容となっていたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。

3 Y社は、歩合はY社がその従業員に対し恩恵的に支払っていた報奨金であってXに請求権はないと主張するが、上記各事実、・・・に照らせば、明細書を交付して支払われる金員は、Xの営業社員としての労働の対償すなわち賃金としての歩合給であり、その支払が上記のとおり本件雇用契約の内容となっていたものと推認される。

上記判例のポイント1のような事実が認定されれば、黙示の合意が存在するとされてもやむを得ないと思います。

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賃金86(X協会事件)

おはようございます。

今日は、賃金未払いのまま自宅謹慎処分を続けることが違法とされた裁判例を見てみましょう。

X協会事件(東京地裁平成26年6月4日・労経速2225号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員であったXが、Y社から正当な理由なく自宅謹慎を命じられ、その間にされた退職勧奨に応じなかったところ、自宅謹慎のまま賃金の未払が続き、Y社からの退職を余儀なくされたとして、雇用契約に基づく未払賃金の支払及び不法行為による損害賠償の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、未払賃金124万円と慰謝料30万円の合計154万円等の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、従前からの事務局内におけるXの言動、本件甲印刷での出来事、Dからの欠勤の原因の事実確認及び診断書の提出等により、Dのストレス反応及びこれによる欠勤の主たる原因がXとの人間関係によるものと判断して、本件謹慎処分に踏み切ったものと認められる。・・・これらの事情に照らせば、Y社が上記のような判断をしたことには相応の合理性が認められ、Xに対して行われた本件謹慎処分が違法なものとまではいえないというべきである。また、本件謹慎処分による自宅謹慎処分による自宅謹慎中のXの課題レポートの内容等に照らせば、Xが真摯に自らの対応を振り返り、反省ないし改善の意向を十分に示しているとはいい難いとY社が判断して、一定程度にわたってその謹慎期間を延長すること自体は、その間、賃金支払を継続していることに照らせば、必ずしも違法、不当なものとまではいい難いというべきである。

2 さらに、Y社の事務局の規模、XとDを始めとする他の事務局員との関係やXの仕事振り、Dの病状等を考慮すれば、Y社がXの勤務継続が困難であると判断して、Xに対し、賃金支払を継続しつつ退職勧奨を行うこと自体は、直ちには違法とはいい難いというべきである。

3 しかしながら、本件謹慎処分による謹慎期間は、その後も相当長期間にわたって継続されており、その間、Dの職場復帰等に向けて特にDとの間でXの状況を踏まえた話し合い等がされることもなく、また、Xに対しても、真摯な反省ないし改善を求めるという目的から離れ、専らXの退職を是として複数回にわたる退職勧奨を行うようになっていったことなどからすれば、Y社が退職勧奨に応じないXに対する対応を明確にすることなく、Xの自主退職を期待して本件謹慎処分の延長、更新を繰り返し、これを漫然と継続したことは違法といわざるを得ないというべきである。

4 ましてや、Y社が、退職勧奨に応じないXに対して、解雇等の措置に踏み切ることなく、また、Xの退職の意思が明らかでないにもかかわらず、平成24年1月分以降の賃金を支払わない措置をとったことは明らかに違法なものというべきである。なお、この点につき、Y社は、Xが本件謹慎処分による謹慎期間中に労務を提供していなかった旨を主張するが、XがY社に対して労務提供をできなかったのは、本件謹慎処分によってその受領を拒否されていたからであって、また、本件謹慎処分が当然に賃金不支給といった不利益措置を含むものであったことはうかがわれないから、Y社は、本件謹慎処分継続中もなおXに対する賃金支払義務を負っていたというべきである

退職勧奨の目的で謹慎処分を延長、更新を繰り返した行為が違法であると判断されています。

また、休職期間中、賃金の支払がない場合、休職命令に合理性が認められなければ、ノーワークだからといってノーペイにはなりません。

休職命令を発する場合には、気を付けて下さい。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金85(シー・エー・ピー事件)

おはようございます。

今日は、元従業員らによる未払賃金請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

シー・エー・ピー事件(東京地裁平成26年1月31日・労判1100号92頁)

【事案の概要】

第1事件
本件は、XらがY社に対し、労働契約に基づき、平成23年分から24年6月分の未払賃金およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

第2事件
Y社が、X1が、偽造書類を用いて、Y社に対する賃金請求権を請求債権としてY社の売掛金債権に対する仮差押決定を詐取したとして、不法行為に基づき、損害350万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

第1事件につき、Xらの請求を一部認容(合計約150万円)

第2事件につき、Y社の請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xらと賃金減額の合意をした旨の主張をし、これに沿う証拠もある。
しかしながら、賃金の減額という重大な内容の合意が成立していたのであれば、その旨を書面化するなどして明らかにしておくことが当然であるというべきであるが、そのような書面は一切存在しないし、そのような書面を作成しなかった理由について、Y社代表者は何ら合理的な説明をしないのであるから、Y社とXらの間で賃金の減額につき何らかの合意があったとは認められない
また、そもそも前記主張及び証拠によっても、Xらの各賃金のどの部分をどの程度減額するという合意であったのかについて具体的に説明したとは認められない。そして、仮に、Aにおいて抽象的にXらの賃金の減額をする旨を説明し、Xらがこれに承諾したとしても、これにより法的に拘束力のある合意が成立したとはいえない。
よって、Y社とXらの間に賃金減額の合意があったとは認められず、この点に関するY社の主張は理由がない。

2 仮差押命令申立てが相手方に対する違法な行為といえるのは、当該申立手続において債権者が主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、債権者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに敢えて申立てをしたなど、申立てが仮差押制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
これを本件について見るに、本件仮差押命令に係る請求債権は、本件訴えにおいてX1の請求に係る債権のうち元本部分と同一のものであるところ、賃金減額の合意は認められないのであるから、X1がY社に対して前記債権を有しているというべきである。
そうすると、本件仮差押命令申立手続において債権者が主張した権利が事実的、法律的根拠を欠くものとはいえない。

賃金減額の合意があったか否かについて、裁判所がどのように判断するのかがよくわかりますね。

応用できる点ですので、是非、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金84(日本テレビ放送網事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、傷病欠勤者の復職拒否を相当として、復職を前提とした賃金請求を認めなかった裁判例を見てみましょう。

日本テレビ放送網事件(東京地裁平成26年5月13日・労経速2220号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を傷病欠勤等していたXが、Y社に復職の申出をしたところY社からこれを拒否されたことにつき、復職拒否は正当な理由がなく、Xは復職を前提とした賃金請求権を有する旨主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、復職可能時から支払われるべき賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成22年9月10日又は、同年10月26日の時点で、復職可能であったと主張するが、Y社がXの主治医に対し、文書で治療経過や症状等にかかる意見を照会したところ、平成22年10月15日付け文書回答では「今後も職場における対人関係が休職前と同様である場合には、再度症状の悪化を招く可能性があり、その点に対する配慮が必要」と記載されていたこと、Xの状態は、平成23年において、人事局員と会うのではないかと緊張して吐いてしまうなどの状態であったこと、これらの状況を踏まえ、産業医は復職可能という判断はできないとの意見であったこと、他方、Xは人事局及びビデオラウンジへのリハビリ出勤を恣意的、客観性を欠くとして拒否し続けたことなどの事実関係によれば、Y社が、Xの主治医であるD医師の意見につき、現状のままXをビデオラウンジに職場復帰させると再度症状の悪化を招く可能性があると理解したこと、その後も、Xが人事局及び原職場のリハビリ出社を経るまで、Xの休職事由が消滅したと判断できないと考えたことは、いずれも相当というべきであり、Xの復職を認めなかったことにつき、Y社に責めに帰すべき事由は認められない

2 Xは、平成23年4月11日までに復職プログラムを履践したから、平成23年4月12日以降、Y社がXの提供する労務の受領を拒絶したことには正当な理由がないと主張するが、Y社の復職プログラムでは、会社のメンタルヘルス不調者の職場復帰の可否判断について、三段階(診療所、人事局、原職)のリハビリ出勤を経る運用をしているところ、Xは、第一段階の社内診療所へのリハビリ勤務を平成23年1月5日から同年4月14日まで行ったものの、毎日社内で7時間、8時間を過ごすのはつらいなどの理由で、週2回約1時間程度社内診療所に滞在することとしてしまい、人事局、原職場へのリハビリ勤務へ進もうとしなかったこと、それまでの診療所へのリハビリ出勤において、人事局員と会うのではないかと緊張して吐いてしまうという状態であり、産業医であるE医師としては、復職した状況に近いかたちで人事局及び原職場へのリハビリ出勤をしてみないと、復職可能という判断はできないという意見であったという事情からすると、平成23年4月12日の時点では、Xが復職可能であったとは認められず、同日以降、Y社がXの提供する労務の受領を拒絶したことに正当な理由はないとは認められない。

3 以上のとおり、Xに対するY社の復職拒否はいずれも相当であって、Xの就労不能はY社の責めに帰すべき事由によるものとは認められずXの復職を前提とした賃金請求権は認められない。

復職拒否をし、退職処分をする場合、会社としては、どの程度の対応をしたらよいのかは悩ましいところです。

会社としては、今回のケースの中で、主治医に対し、意見照会をする等の対応は、参考にしてください。

また、リハビリ出社自体は、法的な義務ではありませんが、仮に復職プログラムを策定し、運用していこうと考える場合には、どのようなプログラムにしたらよいか、顧問弁護士や顧問社労士に相談してみてください。

賃金83(ディエスヴィ・エアーシー事件)

おはようございます。

さて、今日は、更新後9年9か月勤務してきた従業員からの退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ディエスヴィ・エアシー事件(東京地裁平成25年12月5日・労判1093号79頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づく退職金およびこれに対する遅延損害金を求めた事案である。

本件の争点は、Xが、退職金規則1条(2)の「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」に該当せず、同条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するか否かである。

【裁判所の判断】

Y社に対し251万1250円の支払を命じた

【判例のポイント】

1  退職金規則1条(2)において、退職金請求権を有しない社員として定める「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」の意義については、同条における退職金請求権を有しない社員として、上記の者と併せて「試用期間中の者」及び「勤続3年未満の者」が規定されていることにも照らして合理的に解釈する必要があるところ、一般に、存続期間の定めのある雇用契約については、短期間の臨時的雇用として期間満了後の更新等による雇用継続がそもそも想定されていない形態のものから、当初より比較的長期の雇用継続が予定され、実際の雇用期間も長期に及び、およそ労働力の臨時的需要に対応するものとはいい難い状況のものまで様々な形態が考えられ得るのであり、当該被用者が、Y社との間で存続期間の定めのある雇用契約を締結した場合であっても、あらゆる場合において、当該被用者が「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」に含まれ、退職金請求権を有しないものと解するのは、退職金請求権を有しないものと解するのは、退職金の賃金後払的性格及び功労報償的正確に照らして相当とはいえない。この場合、当該雇用契約が存続期間の定めのある雇用契約であると解される場合であっても、当該有期雇用契約の締結時に当事者間において想定された更新可能性の程度、期間満了後の更新等による雇用継続の期間・実態、当該被用者の勤務内容・賃金形態等の諸般の事情を考慮した結果、当該被用者の従前の雇用継続状況が、退職金の賃金後払的性格及び功労報償的性格に照らして、「試用期間中の者」や「勤続3年未満の者」と同様に当該被用者の退職金請求権を否定すべき雇用の臨時的性格が存在しないという状況に至っている場合には、当該被用者は「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には該当せず、退職金規則1条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するものと解するのが相当である

2 …Xの勤続期間については、上記黙示の更新前における1年間に加え、とりわけ同更新後において、9年9か月間という長期に及んでいる。…Xが、Y社において従事していた業務内容や勤務時間・執務条件等については、Y社との間で存続期間の定めのない雇用契約を締結していた他の被用者との比較において、特段の相違はみられない

3 仮に、本件雇用契約について、1年の存続期間を定めた有期雇用契約であると解するとしても、Xの雇用については、上記黙示の更新の前後を通算した勤続期間全体について、Xの退職金請求権を否定すべき臨時的性格が存在しないというべきであるから、Xは、退職金規則1条(2)に定める「一定期間を定めて臨時に雇い入れられた者」には該当せず、同条所定の退職金請求権が認められる社員に該当するものと解するのが相当である。

就業規則をはじめとする会社内部の規程の内容について、裁判所は、形式的に判断するだけでなく、具体的な事情を考慮した上で、実質的に判断します。

したがって、本件のような結論に至ることは何ら不思議なことではありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金82(A税務署職員事件)

おはようございます。

さて、今日は、早期退職特例の適用の可否と過払退職手当の返還請求に関する裁判例を見てみましょう。

A税務署職員事件(大阪地裁平成25年11月29日・労判1089号47頁)

【事案の概要】

Y社は、A税務署で勤務していたXが退職勧奨に応じて60歳の定年に達した後に退職した際、国家公務員退職手当法の経過措置規定を適用して退職手当の支給額を算定するに当たり、同法5条の3に規定する定年前早期退職者に対する退職手当の基本額に係る特例がY社に適用されると判断して上記支給額を算定した上で、Xに対して2958万0245円の退職手当を支給した。

本件は、Y社が、本来、Xには定年前早期退職特例が適用されないから、Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であり、本件退職手当との差額である102万9601円が過払いとなっていると主張して、Xに対し、公法上の不当利得に基づき、102万9601円及びこれに対する催告における納付期限の翌日である平成21年8月25日から支払い済みまで5%の遅延損害金の支払いを求める実質的当事者訴訟である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 ・・・そうすると、勧奨を受けて定年後に退職した者について、・・・「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」に含めることは、退手法4条1項及び同5条1項が、一定期間以上勤務し非違によることなく勧奨を受けて退職した者について、退職手当の基本額を優遇することとした趣旨に合致しないものというべきである。

2 Xは、Y税務署長から、4パーセントの退職手当の割増しがされるらしいとの話を受け、国税庁及び大阪国税局の人事政策に協力するため退職を承諾したにもかかわらず、退職後2年も経過してから、Y社がXに対して本件過払金の返還を請求することは信義則に違反すると主張する
しかしながら、退手法に基づき本来Xに支給されるべき退職手当の額は2844万2544円であって、本件過払金については法律上の原因を欠くものである以上、Y社としては、債権を適正に管理するために、Xに対してその返還を求めるべき責務を負っているものというべきである。そして、法律による行政の原理の観点からすれば、行政行為に対する信義則の法理の適用について慎重に考えるべきものであるところ、仮に、Xが主張するような事情が存在したとしても、それだけでは、Y社がXに対して本件過払金の返還を求めることが正義に反するものということはできない。

3 Xは、退職の記念に中国旅行をするなどして本件過払金を費消したから、現存利益は存在しない旨主張する
しかしながら、本件過払金は、本件退職手当の一部として支給されたものであって、Xの固有財産に混入して固有財産と区別することができない以上、本件過払金について、現存利益の消滅を観念することはできないというべきである。また、仮に、Xが、本件過払金に相当する額を旅行費用として費消したとしても、当該費用の支出を免れた部分について、Xに現存利益が存在するものというべきである。

行政行為に対する信義則の法理の適用について裁判所の考え方を参考にしてください。

また、上記判例のポイント3は、民法703条の現存利益に関する裁判所の考え方がわかりますね。

現存利益に関する考え方については、いくつか最高裁判例がありますので、確認しておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金81(TBCグループ事件)

おはようございます。

さて、今日は、適格性欠如を理由とする降格・手当等減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

TBCグループ事件(東京地裁平成25年8月13日・労判1087号68頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の総務部長および関東地区の営業部を統括するゼネラル・マネージャーを兼務していたXが、Y社からゼネラル・マネージャーの職を解かれたうえ、出向を命じられ、その後も他社へ異動を命じられ、同時に部長職から課長Ⅱ職に降格され、さらに係長Ⅰに降格されたことに伴い、役職手当および職務給、調整手当を減額されたことに対して、これらの減額は無効であり、賞与算定に際して行われた人事評価が違法であって不法行為に当たると主張して、Y社に対して、支給されるべき給与および賞与との差額合計1318万3500円ならびに退職日まで6%の遅延損害金合計73万2091円および退職後から支払済みまで14.6%による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格処分は無効
→降格処分に伴う役職手当および職務給の減額も無効

調整手当の減額も無効

→1106万2000円+確定遅延損害金59万8514円+遅延損害金の支払いを命じた

賞与請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上のとおり、Xに対する降格処分についてのY社の主張は前提を欠くものである。なお、Y社は、Xが総務部長として適性を欠くことについて、プローブ取引の責任について以外具体的に主張しないし、なぜ複数回の降格が必要であったかについても主張しない。なお、Y社は、XがY社の利益を犠牲にしてC社の利益を図ったのではないかという疑念を抱いているとも主張するが、XがC社の利益を図った事実を具体的に主張・立証しておらず、上記のような疑念だけでXが総務部長としての適性を欠いていたということはできない
したがって、降格処分は無効であり、降格に伴う役職手当及び職務給の減額も無効である。

2 調整手当は、給与規程上、「経済状況の変動、給与体系の変更等、調整が必要と認められた場合に暫定的に支給する」とされており、兼務の手当とはされていないこと、Xは、平成19年2月にゼネラル・マネージャーを解任された後も、3年以上調整手当の支給を受けてきており、兼務と調整手当との対応関係を見いだすのは困難であることに照らすと、調整手当は兼務の対価とは認められない
Y社は、給与管理の不備からXに調整手当を支給していることが見逃されてきたと主張するが、Y社自身が年2回の賞与の査定の際に幹部社員の賞与を厳格に査定していると主張しているにもかかわらず、その査定の際に、本給があるべき給与額より20万円以上かさ上げされていたことに気付かされなかったというのは不自然であり、Y社の主張は採用できない。

全体的に使用者側の主張・立証は具体性・整合性に欠けると評価されているように感じます。

「適性を欠く」との理由で解雇や降格をする場合には、客観的にわかりやすい証拠を会社側で準備しておかなければ、このような結果になります。 ご注意ください。

1000万円を超える支払を命じられていますので、会社としては厳しい結果ですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。