Category Archives: 賃金

賃金104(農事組合法人乙山農場ほか事件)

おはようございます。

今日は、元従業員5名による未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

農事組合法人乙山農場ほか事件(千葉地裁八日市場支部平成27年2月27日・労判1118号43頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y1社及びY2社に対し、賃金、時間外手当の支払いを求めるとともに、Y社の理事兼Y社の代表取締役であるAに対し、各賃金不払につき第三者であるXらに対する責任を負う旨主張して、農業協同組合法73条2項・35条の6第8項又は会社法429条1項に基づき、前記各請求と連帯して、前記各賃金と同額の損害金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1社及びY2社は、Xらそれぞれに対し、連帯して、約175万円、約448万円、約22万円、約577万円、324万円を支払え。

【判例のポイント】

1 X1、X2およびX3がY1社と雇用契約を締結して労務を提供していたことは争いがないのであるが、結局、各認定した労務の実態に照らすと、前記3名が提供した労務の大部分はいずれもY2社の業務に関するものであって、また、Y2社及びY1社の経理が厳密に区別されてこなかった結果、各賃金支払もY1社・Y2社いずれからも行われてきたものである
そうすると、X1、X2及びX3との間の各雇用契約は、黙示にはY1社のみならずY2社との間でも各締結されていたと捉えることができる
そうすると、X1、X2及びX3の賃金請求との関係では、Xらの主張する事実との関係に照らしても、Xらが法律構成として主張する法人格否認の法理を適用するまでもなく、Y2社においても前記3名が雇用されていたものと認定すれば足り、またY2社とY1社との債務の関係は、商法511条1項により、連帯債務と解することができる。
したがって、Y2社は、Y1社の負う本件各債務についても連帯してその支払義務を負うと解され、X1、X2及びX3は、Y2社に対しても、各賃金等を請求することができる。

2 Aにつき、Xらの各賃金未払いを明確に認識していたものと認められず、一方で、未払給与の支払いを求められたAがY2社の小切手を交付して対応するなどして未払い解消に努めようとしていた事情も認められるのであって、Y1社又はY2社の給与支払業務につき、法令違反による任務懈怠が認められるとしても、Aに悪意又は重大な過失があったとまでは評価できないし、また、Xらの各賃金請求につき、遅延損害金を含めてY2社に各請求することが可能であると解されるところ、Xらに各損害が現実に発生したと評価することも困難である
したがって、XらがAに対して、農業協同組合法73条2項・35条の6第8項又は会社法429条1項に基づき、賃金額と同額の損害を請求することはできない。

それにしてもすごい金額になっていますね。 ちゃんと支払ってもらえるのでしょうか・・・。

「法人格否認の法理を適用するまでもなく」との判断は、参考になりますね。

なお、商法511条1項は以下のとおりです。

数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金103(Y社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、退職金減額決定は有効であり、未払退職金はないとされた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成27年7月17日・労経速2253号18頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、労働契約に基づき、Y社に対し、退職金未払部分352万余+遅延損害金の支払を求める事案である。

Xは平成元年7月、Y社との間で労働契約を締結した。Y社は、平成22年9月、Xに対し、懲戒解雇の意思表示をした。

Y社は、平成22年10月、Y社の退職金規程に従って計算したXの退職金の額である528万円余を3分の1に減額して支払う旨の決定をし、退職金176万円余から源泉所得税を控除した額を支払った。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件退職金規程は、4条以降で退職金の額を一義的に算定することができる計算方法を具体的に規定していることに照らせば、Y社における退職金が賃金の後払いとしての性格を有するというべきである。もっとも、同規程13条が懲戒解雇の場合の退職金の不支給を定めていることに照らせば、Y社における退職金には功労報償的性格をも有することは否定できない
したがって、原則として、Y社は、本件退職金規程により算定される退職金の支払義務を負うが、懲戒解雇による退職の場合で、かつ、退職者において長年の勤労の功を減殺し、又は抹消する程度に背信的な事情がある場合には、退職金を減額し、又はこれを支給しないことが許されるというべきである。

2 これを本件についてみると、Xは、度重なる遅刻をした上、上司に対し合理的な理由なく反抗的な態度をとった上、乱暴な言葉遣いで誹謗中傷やおよそ趣旨の不明瞭な反論をするなど、職場環境に悪影響を与えるような言動を繰り返したというのである。
これらの遅刻の期間、回数、上司に対する反抗的態度の内容、またこれらの言動が本件戒告処分及び本件出勤停止処分によってもなお改まる兆候が見られなかったこと等に照らせば、Xの勤務態度は、長年の勤労の功を抹消する程度に背信的なものであったと評価するほかない
よって、本件退職金減額決定は有効であり、未払い退職金はないというべきである。

非常にオーソドックスな退職金請求事件です。

実務においては、どれだけ退職金を減額するかの判断をしなければなりません。

背信性がそれほど高くないのに、大幅は退職金の減額や不支給とすると、会社側が一部敗訴する場合もありますので、注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金102(京都大学事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、国立大学法人教職員への給与減額支給措置に関する裁判例を見てみましょう。

京都大学事件(京都地裁平成27年5月7日・労経速2252号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でそれぞれ雇用契約を締結し、Y社の教職員として勤務していたXらが、平成24年8月1日から平成26年3月31日までの期間につき一定の割合で教職員の給与を減額することを内容とする「国立大学法人京都大学教職員の給与の臨時特例に関する規程」は、就業規則を不利益に変更するものであって無効であると主張し、Y社に対し、雇用契約に基づく給与請求として、それぞれ同規程により減額された俸給月額、期末手当及び勤勉手当並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらは、Xらの給与水準がそもそも国家公務員や私立大学教員と比較して低い、本件給与減額支給措置によって、教育研究にも支障が生じていることなどを主張するが、Y社においては、教職員の給与減額という必要性に直面しながらも、教職員の負担をできる限り緩和するような対応が講じられており、かえって、国立大学法人の中でも最も優遇された状況にあるともいえるのであって、Xらに上記のような問題が生じているとしても、それは本件給与減額支給措置による不利益の程度の埒外の問題であるといわざるを得ない

2 Y社においては、教職員のみならず、本件給与減額支給措置と同一の期間において、役員減額が、教職員の最も高い区分の減額率と等しい4.35%の減額率をもって実施されているのであり、本件給与減額支給措置が、教職員のみに負担を課すものではないことも、本件特例規程の相当性を基礎づけるものとなり得るというべきである。

3 本件特例規程は、教職員の給与が、社会一般の情勢に適合したものとなるように、又は国家公務員の例に準拠するものとなるように一定の減額を実施すべき高度の必要性が存したことによって制定及び改定されたものであって、これによってXらを含む教職員に生ずる不利益も、特に他の公立大学法人と比較すれば限定的なものにとどまっていることなどに照らせば、それ自体相当性を有するというべきものであり、また、その制定及び改定に当たっては、職員組合との十分な団体交渉が繰り返されているのであって、これらの事情を総合的にみると、本件特例規程による給与規程の変更は、合理的なものであると認めるのが相当である。

賃金の減額をする際、従業員から同意を得られない場合には、上記のような賃金減額の合理性を裏付けるいくつかのポイントを押さえる必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金101 (コンチネンタル・オートモーティブ事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金の支払場所は労働者の労務提供場所であるとして、移送の申立てを認容した裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(広島高裁平成27年3月17日・労経速2249号9頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社を債務者として広島地方裁判所に申し立てた基本事件(地位保全及び賃金仮払い仮処分命令申立事件)について、Y社が、基本事件の「本案の管轄裁判所」(民事保全法12条1項)は、広島地方裁判所ではなく横浜地方裁判所であると主張して、同裁判所への移送の申立てをしたところ、原決定は、これを認め、基本事件を横浜地方裁判所に移送する旨の決定をしたことから、Xが本件抗告をした事案である。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 賃金を労働者の預貯金口座に振り込む方法により支払うことは、賃金の通貨払いの原則に反するものであるが、労働者がこれに同意するときは、その例外として許容されていることから(労働基準法24条1項ただし書)、前記のXとY社との振込みに関する合意は、上記通貨払いの原則の例外として認められるためにされたものと解される。このように、上記の合意は、特段の事情がない限り、賃金の支払方法についての合意にすぎず、その支払場所(義務履行地)に関する合意を含むものではないと解するのが相当である。本件において、上記特段の事情の主張及び立証はない。

2 賃金の支払場所は、もともと、労働者が労務を提供する場所であるとするのが、その合理的意思に沿うものであると認められることからすると、たとえ、賃金を労働者の預貯金等の口座に振り込む方法が一般的になっていても、労働者の住所地を賃金の支払場所とは考えないのが通常であると解されること、したがって、賃金の支払が預貯金口座に振り込む方法であったとしても、賃金の支払場所は、労働者の労務提供場所とするのが、使用者及び労働者の合理的意思に合致すると解される。仮に、賃金の支払場所につき上記の合意が存在したとは認められないとしても、以上説示したところによれば、民法484条又は商法516条1項の規定を適用する前提を欠くというべきであり、労働者の住所を支払場所とするのは相当ではない。

3 本件においては、Xは、かつてはY社広島事務所において勤務していたが、平成26年1月1日以降Y社本社において勤務していたのであるから、賃金の支払場所は、Y社本社であると認められる。少なくとも、本件支店又はXの住所が賃金の支払場所であると認めることはできない。したがって、賃金の義務履行地を管轄する裁判所は、広島地方裁判所ではなく、Y社本社の所在地を管轄する横浜地方裁判所である。

非常に参考になる判断です。

是非、残業代等の賃金請求事件で管轄が問題となった際には参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金100(サンテレホン事件)

おはようございます。

今日は、東京本社で勤務していた者の賃金不払等の事件につき、大阪地裁から東京地裁への移送が認められた事件について見てみましょう。

サンテレホン事件(大阪地裁平成27年3月25日・労経速2249号3頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、Y社の事業所で働いていた間の時間外労働に対する未払賃金及び賃金不払等を内容とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として基本事件の提起に要した弁護士費用相当額の損害金の支払いを求める事案である。

Y社は、民事訴訟法16条1項又は17条により基本事件を東京地方裁判所に移送すべきである旨主張している。

【裁判所の判断】

東京地方裁判所へ移送する。

【判例のポイント】

1 基本事件においては、本件未払賃金の存否に関し、XにおけるY社の就労実態が主たる争点となることが予想されるところ、Xは、本件雇用契約の期間を通じ、東京本社において就労していたのであるから、Xの就労実態を知る者やXの就労実態に関する検証物で移動が困難なものは、Xが就労していた東京本社ないし東京地方裁判所の管轄区域内に所在すると考えられる一方、一件記録上、大阪地方裁判所の管轄区域内には、Y社を除き、Xの就労実態を知る者や上記のような検証物があることはうかがわれない

2 ・・・加えて、Y社の就業規則には、賃金の支払方法につき、「給与は全額を、原則、通貨にて直接本人に支払うが、本人が希望する場合には、本人が指定する銀行その他金融機関の本人名義預貯金口座へ振り込むことにより、支払うことができる」(給与規程4条1項)とあるほかに特段の定めはなく、相手方の賃金はその指定する銀行口座への振込みにより支払われていたこと、相手方は、大阪地方裁判所の管轄区域内に事務所を有する弁護士を代理人として選任し、基本事件の提起遂行を委任しているが、争点及び証拠の整理は電話会議システムを使用して行うことも可能であることをも併せ考慮すれば、Xの指摘する、Xが一給与所得者にすぎないことやY社の事業規模といった事情を考慮してもなお、基本事件を東京地方裁判所に移送する必要があると認められる。

実務上、管轄裁判所の問題はとても重要ですが、本件のような場合には、やはり東京地裁への移送が認めるのが相当です。

是非、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金99(国際自動車事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金規定の有効性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

国際自動車事件(東京地裁平成27年1月28日・労判1114号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、歩合級の計算に当たり残業手当等に相当する額を控除する旨を定めるY社の賃金規則上の規定は無効であり、Y社は、控除された残業手当等相当額の賃金支払義務を負うと主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、未払賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、付加金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、X1~X14の未払賃金合計約1500万円の支払いを命じる

付加金の支払は命じない

【判例のポイント】

1 被告賃金規則は、所定労働日と休日のそれぞれについて、揚高から一定の控除額を差し引いたものに歩合率を乗じ、これらを足しあわせたものを対象額Aとした上で、時間外等の労働に対し、これを基準として計算した額の割増金を支払うものとし、Y社は、Xらを含むそのタクシー乗務員に対し、かかる計算に則って算出された割増金を支給した。ところが、他方において、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから「割増金」及び「交通費」を差し引くものとし、上記支払うものと定められている割増金及び交通費に見合う額を控除するものとしている。

2 これらによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別として、揚高が同じである限り、時間外等の労働をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は全く同じになるのであるから、本件規定は、法37条は、強行法規であると解され、これに反する合意は当然に無効となる上、同条の規定に違反した者には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が科せられる(同法119条1号)ことからすれば、本件規定のうち、歩合級の計算に当たり対象額Aから割増金に見合う額を控除している部分は、法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして、民法90条により無効であるというべきである
なお、本件規定が対象額Aから控除するものとしている「割増金」の中には、法定外休日労働に係る公出手当が含まれており、また、所定労働時間を超過するものの、法所定の労働時間の制限を超過しない、いわゆる法内残業に係る残業手当が含まれている可能性もあるが、本件規定は、これらを他と区別せず一律に控除の対象としているから、これらを含めた割増金に見合う額の控除を規定する「割増金」の控除部分全体が無効になるものと解するのが相当である。

3 本件は、Y社において長年にわたり採用され、多数派組合との労使協定においても維持され、その後も長く問題視されることのなかった賃金計算の仕組みについて、その有効性が争点となった事案であるということができる。また、本件規定は公序良俗に反するというべきものではあるが、本件規定が公序良俗に反する無効なものであることが一見して明白であるとまでいうことはできない。そうすると、Y社において、本件規定が有効であると主張してXらの請求を争うことにも相応の合理性があったというべきである。
したがって、Y社は、賃金の存否に係る事項について、合理的な理由により裁判所において争っているものと認めるのが相当であるから、Y社を退職したXらとの関係においても、賃確法6条1項は適用されず、未払賃金に対する遅延損害金の利率は、商事法定利率である年6分になるというべきである。

非常に重要な判断が複数含まれている裁判例です。

タクシー業界に与える影響は少なくないと思います。

是非、全文読まれることをおすすめします。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金98(甲商事事件)

おはようございます。

今日は、年休・夏季休日の取得妨害、法内時間外労働の賃金未払を理由とする損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

甲商事事件(東京地裁平成27年2月28日・労経速2245号3頁)

【事案の概要】

本件は、XらがY社に対し、不当に年次有給休暇や夏季休日の取得を妨害されたとして債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、就業規則上、所定労働時間は7時間30分とされているにもかかわらず、実際には8時間労働しており、1日当たり30分の法内時間外労働について賃金が未払であったとして債務不履行に基づく損害賠償の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に対し、80万5871円+遅延損害金を支払え。

Y社は、X2に対し、76万7568円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法の規定に基づいて労働者に年次有給休暇を取得する権利が発生した場合には、使用者は、労働者が同権利を行使することを妨害してはならない義務を労働契約上も負っているということができる。
本件のように、Y社が、平成15年7月を堺に給与明細書の有給残日数を勝手に0日に変更したり、通達を発して取得できる年次有給休暇日数を勝手に6日間に限定したり、しかもその取得理由を冠婚葬祭や病気休暇に限るとしたことは、Xらに対して、労基法上認められている年次有給休暇を取得することを萎縮させるものであり、労働契約上の債務不履行にあたる

2 Xらは、Y社の妨害により取得することができなかった年次有給休暇の日数分に相当する賃金額をY社の債務不履行に基づく損害として主張する。しかし、Xらは、Y社に対して、実際に取得した日数以上に、年次有給休暇の取得申請行為を行っていないのであるから、Xらが取得することを妨害されたと主張している年次有給休暇(予定日)についても、Xらの就労義務は消滅しておらず、同日就労したことをもって、就労義務がないのに就労したとXらに賃金相当額の損害が発生していると評価することはできない
もっとも、Y社がXらの年次有給休暇の取得申請を妨害した行為自体は認めることができるため、かかる妨害行為により、Xらが被ったであろう精神的苦痛等を慰謝するのに必要な限度で損害を認めることができる。
これを本件についてみるに、・・・Xらについて、各50万円ずつの損害の発生を認めるのが相当である。

3 就業規則の変更により労働条件を変更する必要性や変更後の就業規則の内容の相当性についてみるに、もともとの就業規則が当時、従業員の間でも1日の所定労働時間は8時間であることが共通認識であったところ、Y社の誤りで7時間30分とされていたものを訂正したものにすぎず、就業規則を変更することにより労働条件を変更する必要性は高いといえ、変更後の就業規則の内容についても不相当なものとは認め難い。
本件では、就業規則の変更にあたって、労働基準監督署への届出がなされ、外形上、労働者代表者の意見聴取もなされているところであるが、Xらは就業規則の変更に伴う労働者の過半数代表者の意見聴取手続が行われていないと主張しており、従業員代表を選ぶための投票等の手続がとられた事実も証拠上認めることはできない。
もっとも、就業規則の変更にあたっては、従業員代表の意見聴取、労働基準監督署への届出がなされていることが望ましい(労契法11条、労基法90条)ものの、就業規則の変更の有効性を認めるための絶対的な条件であるとはいえず、これらの事情は、労契法10条における「その他の就業規則の変更に係る事情」として、合理性判断において考慮される要素と解される
そうすると、本件においては、就業規則の変更は労働基準監督署に届け出られているものの、本件訴訟に至るまでにXらに対し、実質的な周知がなされていたと認めることはできず、就業規則の不利益変更の要件を満たしているということはできない

年次有給休暇の取得妨害についての判断です。

賃金相当額についての損害は認められませんが、そのかわりに慰謝料で認定されています。

また、就業規則の周知要件についての判断も参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金97(全駐留軍労働組合事件)

おはようございます。

今日は、ストライキ支援のための年休取得と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

全駐留軍労働組合事件(那覇地裁平成26年5月21日・労判1113号90頁)

【事案の概要】

本件は、沖縄県内のアメリカ合衆国軍隊基地に勤務するXらが、年次有給休暇の時季指定権を行使したにもかかわらず、年次休暇時間分の賃金の支払いを受けていないとして、雇用者であるY国に対し、各自、未払賃金及び遅延損害金、付加金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y国はXらに対し、各自、別紙未払賃金一覧表の各未払賃金額欄記載の金員及び遅延損害金を支払え。

Y国はXらに対し、同額の付加金+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件年休申請は、Xらの有する有給休暇の範囲内でされたものであり、その有給休暇の取得に違法はない。そして、Y国は、何ら時季変更権の行使等の主張をしないから、帰するところ、Xらに対し、未払となっている本件各未払賃金を支払う義務を負うものというべきである
したがって、Xらの請求のうち、Y社に対して本件各未払賃金及びその遅延損害金の支払いを求める部分は理由がある。

2 Y国は、全駐労による交渉や申入れ等を受け、本件年休申請につき在日米軍が適法な時季変更権を行使しないことへの懸念を有していたものであるところ、本件各未払賃金が現実化した後もその支払をせず、本件訴訟において、一旦は時季変更権の主張をしたもののこれを撤回し、その後に至っても未だ各未払賃金を支払っていないのであるから、このようなY社による本件各未払賃金の不払の状況や、これによるXらの不利益は軽視することはできない
そうであれば、Y社に対し、本件各未払賃金と同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。

3 付加金の支払による制裁の対象は、当該労働者の雇用主であると解されるところ、Y社と在日米軍は、いわば雇用主の権利義務を分掌しているものと見ることができるから、両者を併せて制裁の対象ととらえることができる。しかるに、付加金の支払を命ずることによって、Y国がその制裁を受けることはいうまでもないが、在日米軍についても、Y国は、命ぜられた付加金の支払をした後に、在日米軍に対してその求償をすることができるのであるから、その意味において、在日米軍も制裁を受けるということができるのである(仮に、在日米軍がその償還を拒んだとしても、制裁が無意味であるとまでいうことはできないし、いずれにしても、本件と同様の事態を招かないという意味において、制裁の効用を認めることできると考えられる。)。

国の方はあまり強く争う気持ちが見られませんね。

付加金のことを考えると控訴をして有給分を支払って終わりにしたいところです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金96(ハンナシステム事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、元従業員による割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ハンナシステム事件(大阪地裁平成26年10月16日・労判1112号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、①平成22年5月21日から24年2月16日までの間の労働契約に基づく未払いの時間外割増賃金、休日割増賃金および深夜割増賃金の合計613万2756円ならびに遅延損害金を求めるとともに、②22年11月21日から24年2月16日までの間の割増賃金等に対する付加金及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、合計568万8723円+遅延損害金、付加金352万657円の支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、原告との間で、基本給には月20時間分の割増賃金等が含まれる旨の合意があり、割増賃金等として月額4万2000円は支払済みであると主張する。しかし、Xは、Y社在職中にこのような説明を受けたことやこのような合意をしたことは一切ないと供述し、他にY社主張の合意を認めるに足りる証拠もない。そして、基本給に割増賃金等が含まれる合意については、割増賃金等に当たる部分とそれ以外の部分とを明確に区分することができる場合に限り、その有効性を認めることができると解されるところ(最高裁昭和63年7月14日判決)、Y社がXに交付していた給与支給明細書には、支給項目として基本給と交通費としか記載がなく、そのような明確な区分がされているものとは認められず、その計算方法をY社がXに周知していたことを認めるに足りる証拠もないことからすれば、仮に、Y社主張のような合意があったとしても、有効な合意とは認められない。よって、Y社の主張はいずれにしても理由がない

2 Y社の就業規則及び賃金規程では、法定外休日についても割増率1.35とし、労働基準法37条を超える定めをしているから、この部分に対応する付加金の請求をすることはできないというべきである。

3 Y社は、平成22年以降、多額の欠損金が生じ、給与の遅配等が生じており、平成24年6月には一度、手形の不渡りを出していること、Y社では、X以外の従業員に対しても割増賃金等が支払われていないことが認められるが、付加金は、労働基準法114条所定の同法違反行為に対する制裁としての性質を有するものであることを考慮すれば、付加金の支払を命じることの可否及びその額を検討するに当たり、これを減免の事情として斟酌することはできず、この点に関するY社の主張は理由がない。

固定残業制度を中途半端に導入するとこうなります。

会社の経営状況は付加金の減免理由にならないので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金95(ワークスアプリケーションズ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、うつ病による休職期間満了後の退職扱いの有効性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ワークスアプリケーションズ事件(東京地裁平成26年8月20日・労判1111号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結した労働者で、平成24年12月7日をもって休職期間満了により退職とされたXが、使用者であるY社に対し、休職前である24年5月1日から同年10月10日までの時間外労働手当およびこれに対する遅延損害金の支払い、その付加金および遅延損害金の支払い、休職期間満了日までにXは就労が可能となり復職要件を満たしていたのにY社から就労を拒絶されたため就労できなかったとして、同日からの賃金およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

Xは、上記の請求と合わせて、労働契約上の権利を有する地位の確認も求めていたところ、同請求については、Y社がこれを認諾して終局した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し102万9670円+遅延損害金、同額の付加金+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、179万4877円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、平成25年4月から同年9月まで39万2858円、同年10月限り、28万5715円、平成25年6月限り39万2858円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 労働時間を算定しがたいか否かは、その業務の性質、内容等、及び、使用者と労働者との間の当該業務に関する指示及び報告の方法等から、当該業務について使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったといえるかどうかによって判断すべきである。労務管理を行うべき者が多忙であるため労働時間を算定しがたいことは、労働者の業務の性質、内容等や、使用者と労働者との間の業務に関する指示及び報告の方法等による制約とはいえないから、当該業務について使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったといえないというべきであり、Y社の主張は採用できない

2 営業手当が50時間分の時間外労働手当の支払といえるには、時間外労働手当に当たる部分とそれ以外の部分が明確に区分されて合意がされていることを前提として、少なくとも、営業手当の額が、労基法所定の計算方法によって計算した50時間分の時間外労働手当の額を下回らないことが必要である。なぜならば、時間外労働手当に当たる部分とそれ以外の部分が明確に区分されていなければ、労基法所定の計算方法による時間外労働手当の額を計算することができないし、計算した結果、労基法所定の計算方法による時間外労働手当の額を下回っているようでは、時間外労働手当によって時間外労働を抑制しようとした労基法の趣旨を没却するのみならず、労基法に定める基準に達しない労働条件を定めたこととなり、無効となるからである

3 労働者が債務の本旨にしたがった履行の提供をしているにもかかわらず、使用者の復職可能との判断や、使用者の指定した医師による通常勤務に耐えられる旨の診断書が得られないことによって、労働者が、就労を拒絶されたり、退職とされたりするいわれはないから、「傷病が治癒し且つ通常勤務に耐えられる旨の会社が指定した医師の作成した証明書の提出を求め、復職できると会社が認めたとき」とは、傷病についての医師の診断書等によって労働者が債務の本旨にしたがった履行の提供ができると認められる場合をいい、Y社の復職可能との判断やY社指定の医師の復職可能との診断書等は要しないというべきである

4 ・・・他方、労働契約においては、当事者は、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないのであるから(労働契約法3条4項)、使用者の労務の受領拒絶により就労が不能となった後、使用者が受領拒絶をやめ、就労を命じた場合においては、労働者も自己の就労が再び可能となるよう努力すべき信義則上の義務があるというべきである。したがって、Y社が10月16日付け復職通知により、Xのために東京都内の住居を用意し、住居費用及び通勤費用の立替払を申し出て、Xが就労するために必要な準備を行う姿勢を示したことに対し、Xは、Y社が用意した前記住居に居住する義務はないものの、信義則上、Xの就労を可能とするためにY社との協議に応じる義務があったというべきである。しかし、Xは、10月16日付け復職通知を受けた後、何らY社と協議をすることなく相当期間である同月23日が経過した。そうすると、翌24日以降においては、もはや「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」(民法536条2項)とはいえないと認められるから、平成25年10月24日からの賃金請求は理由がないというべきである

5 Xは、Y社には本件退職扱い後の未払賃金の支払を履行する必要があり、その履行義務を争いつつ、本件退職扱いを撤回しても無効である旨主張するが、過去の賃金支払義務と現在の就労義務は別の法律関係であり、前者を争いつつ、後者の履行を求めることができないとする理由はないから、Xの主張は採用できない。

6 Xは、「受領拒絶の解消には、債権者が先に拒絶した履行の提供において、遅滞中の一切の効果を承認して、受領拒絶を解消して改めて受領すべき意思を表示することが必要と解されているところ、受領拒絶の効果として生じた過去の賃金の発生を認めてその履行をしなければ、受領拒絶を解消したとはいえない。」旨主張する。しかし、労働者が就労しないのに賃金請求権を失わないのは、いわゆる受領拒絶の効果ではなく、民法536条2項の効果による。したがって、就労がないとき賃金請求権が発生するかは同項の要件を満たすか否かにより決すべきであり、受領拒絶の効果を解消することは、必ずしも必要ではないというべきである(なお、受領拒絶の効果を解消するため、どのような行動が必要かは当該事案の具体的事情によるというべきであり、一義的に決められるものではない。)

超重要な裁判例です。

複数の重要論点に関する判断が含まれています。

是非、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。