Category Archives: 賃金

賃金110(ANA大阪空港事件)

おはようございます。

今日は、退職功労金の権利性と内規の就業規則該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ANA大阪空港事件(大阪高裁平成27年9月29日・労判1126号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員及び元従業員の相続人が、Y社が労働組合に交付した書面に記載されていた退職功労金の支給基準は就業規則と一体のものとして労働契約の内容となっているとして、Y社に対し、労働契約に基づき、退職功労金及び遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Y社が労働組合に交付した書面に記載されていた退職功労金の支給基準は労働契約の内容となっているとは認められないとして、Xらの請求をいずれも棄却したので、これを不服とするXらが本件各控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 旧退職金規程7条は、退職功労金について「在籍中に特に功労のあった者に対しては基本退職金の計算の範囲内での功労加算として加給する」と定めているが、在籍中に特に功労があった者に対して退職功労金を支給することを抽象的に定めているだけであり、同条によっては退職功労金の支給対象者及び支給額は確定しないから、旧退職金規程7条に基づいて、直ちに退職功労金を請求することはできず、使用者が「特に功労があった者」に当たるか否かを査定するとともに、具体的な算定方式や支給額を決定することによって初めて具体的な金額が確定するものと解される

2 日本語の通常の意味として、「内規」とは、「内部の規定、内々の決まり」を意味するから、それが就業規則と異なることは明らかである。加えて、昭和55年基準は、労使の合意として書面が作成されていない。これらからすると、Y社が昭和55年基準に従って退職功労金を労働契約の内容とする意思を有していなかったことが認められるから、Y社は昭和55年基準を就業規則として定めたものではなく、どのような者を「特に功労があった者」と認めるか、及び退職功労金の支給額をいくらにするかはあくまでもY社の運用に委ねられていることを前提としつつ、その運用基準として昭和55年基準を定めたものと認めるのが相当である
そうすると、昭和55年基準は旧退職金規程7条の内容を具体化するものではあるが、昭和55年基準自体は就業規則の一部ではないから、昭和55年基準はY社とY社の従業員との間の労働契約の内容としてY社を拘束するものではないというべきである。

原告としてはチャレンジングな訴訟だったと思いますが、裁判所の判断は特に驚くような内容とはなりませんでした。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金109(中野運送店事件)

おはようございます。

今日は、就業規則変更による運行手当減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

中野運送店事件(京都地裁平成26年11月27日・労判1124号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員(運転手)であるXらが、Y社の就業規則の一部をなす「運行に関する手当明細表」の変更により賃金が減額となったが、当該不利益変更は高度の合理がなく無効であるとして、従前の運行手当明細表に基づく賃金の支給を受けるべき労働契約上の地位の確認を求めるとともに、平成23年9月分以降に支給された賃金と従前の運行手当明細表に基づき支給されるべき賃金との差額の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

X1を除くすべての原告につき平成22年4月1日に定められた運行手当明細表に基づく賃金支給を受けるべき労働契約上の地位を有することを確認する。
*X1は訴訟途中でY社を退社したため。

【判例のポイント】

1 Y社は、経営状態の改善のために、人件費の削減により資金(キャッシュフロー)を得ることを目的として本件改定を行ったものであり、本件改定の一応の必要性があったことは認められる。しかし、平成23年8月に本件改定を行わなければならないとするだけの高度の必要性を窺わせる事情は、特段、見当たらない

2 そして、Y社が本件改定に先立ち本件組合に行った説明は、本件組合に示された改定の内容も変遷しており、その変遷の理由も明らかではなく、また、本件改定の必要性等の理由の説明も、当初はなされず、その後も説明自体が変遷しており、さらには、理由を裏付ける客観的な資料は何ら提供されていないのであり、これらに照らすと、Y社が、本件改定に先立ち、本件組合に対して十分な説明を行っていたものということはできない。

3 以上に加えて、本件改定がXらに与える不利益が少ないとはいえないこと、本件改定に対する代償措置もとられていないことに照らすと、上記の本件改定の一応の必要性を考慮してもなお、未だ、本件改定に合理性があるということはできない。

就業規則の変更により賃金を減額する場合には、他の労働条件の変更に比べてもより慎重に行う必要があります。

「高度の必要性」が求められていますので、軽い気持ちで行うとやけどします。

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賃金108(有限会社空事件)

おはようございます。

今日は、雇用契約書等のない居酒屋店板前による割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

有限会社空事件(東京地裁平成27年2月27日・労判1123号149頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、法定時間外労働・深夜労働に対する割増賃金及び付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、552万9711円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金229万9369円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xと雇用契約を締結する際に法定時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を含んで月額30万円(後に増額して月額33万円)とすることをXとの間で合意した旨主張し、Aはこれに沿う旨の陳述をする。確かに、居酒屋aの営業時間及びXが板前であること等を踏まえれば、Y社としては、Xの日々の業務において時間外労働及び深夜労働の発生が当然に予想されることを考慮した上でXの賃金額を月額30万円(後に33万円)と定めた可能性も否定できないが、Xが上記合意の事実を否認し、かつ、Xの入社時に雇用契約書その他の労働条件を記載した書面が作成されていない以上、Aの上記陳述のみから上記合意の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また、Y社は、月額賃金のうち4万1000円は割増賃金として支払われたものである旨主張する。このように毎月支払われる賃金のうちの一定額が割増賃金(いわゆる固定残業代)として支払われている場合には、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができる必要がある(平成24年3月8日最高裁第一小法廷判決等参照)ところ、Y社からXに交付されていた給料支払明細書には「基本給330,000」と記載されているのみであり、他にXの月額賃金の内訳を明らかにした書面等が存するとは認められないから、月額賃金のうち4万1000円が割増賃金として支払われていた旨のY社の上記主張は理由がない
よって、Xの月額賃金33万円に割増賃金が含まれているものと認めることはできず、この点に関するY社の主張は理由がないといわざるを得ない。

2 労働基準法114条に定める付加金の支払請求については、使用者による同法37条等違反の程度や態様、労働者が受けた不利益の性質や内容、前記違反に至る経緯等の諸事情を考慮してその可否及び金額を検討するのが妥当である。
前記に検討したところによれば、Y社は、Xに対して割増賃金の支払義務を負いながらその支払を怠っていたものと認めることができるが、前記のとおり、Y社としては、Xの日々の業務において時間外労働及び深夜労働の発生が当然に予想されることを考慮した上でXの賃金額を月額33万円と定めた可能性も否定できないこと、Y社がXに対し割増賃金を支払ってこなかった背景には、割増賃金も含めて月額33万円の賃金が支払われているとY社が認識していた面もあると考えられること、月額33万円の賃金に割増賃金の一部が含まれているとしても、前記のとおり本件においては月額33万円の全額を割増賃金の算定基礎とするほかなく、その分、割増賃金が高額に上っている面もあると考えられることなど、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、本件においては、前記の未払割増賃金のうち、労働基準法114条ただし書の規定により付加金請求の対象とし得る平成24年4月分以降の割増賃金(合計459万8737円)の全額を付加金として被告に支払を命ずるのは、同条の趣旨を考慮しても必ずしも相当ではないというべきであり、本件の付加金としては、上記合計額の5割に相当する229万9369円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を命ずるのが相当というべきである。

この事例でも、固定残業制度の理解が不十分であったために逆効果の結果となっています。

このような例は枚挙に暇がありません。

普通に基本給+残業代を支払っているほうが、よほど使用者にメリットがあるわけですが、どうしても基本給の金額を大きく見せたいという気持ちが働くのでしょうね。

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賃金107(宮城交通事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、欠勤、有給休暇取得による賃金控除規定の有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

宮城交通事件(東京地裁平成27年9月8日・労経速2263号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社においてタクシー運転手として稼働しているXらが、Y社の賃金控除に関する規定が公序良俗に反し、違法無効であると主張して、Y社に対し、それぞれ控除された賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお、乗務員賃金規則では、欠勤し、又は有給休暇を取得した場合、賃金が以下のとおり控除される旨の規定がある。

控除額=基本給÷月間所定勤務日数×(欠勤日数+有休取得日数)

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労基法136条が、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと規定していることからすれば、使用者が有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであり、また、このような措置は、有給休暇を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、労基法136条は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されず、前記のような措置の効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に前記権利を保障した趣旨を実質的に失わせると認められるものでない限り、公序に反して無効となるということはできないと解するのが相当である(最判昭和60年7月16日、最判平成元年12月14日、最判平成5年6月25日参照)。

2 これを本件についてみるに、Y社については、その収入の大部分をタクシー乗務員の乗務による営業収入に依存しているという、タクシー会社としての特色があり、Y社の営業収入に対する各乗務員の貢献度をそれぞれの賃金額に反映させ、その後の業務の遂行を奨励することを通じて、営業収入の維持・向上を図る経営上の必要があることが容易に推認され、本件賃金控除規定が有給休暇の取得又は欠勤をした場合の基本給の受給に関する調整を目的とする旨のY社の説明も、広い意味では前記趣旨に向けたものであると認められるところ、Y社は、本件賃金控除規定について、多数組合の同意を得ており、労働基準監督署の確認も受けている

3 ・・・さらに、実際の有給休暇の取得率をみると、Xらが所属する自交総連東京地連宮城交通労働組合の組合員と、厚生労働省の発表した数値との間に有意の差があるとは即断できない
これらの点を総合考慮すると、本件賃金規定について、これがタクシー乗務員の有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては労基法が労働者に有給休暇取得の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるとまで認めることはできず、これが公序良俗に反するものとして違法無効であるということもできない

労働者側は納得しにくい内容かもしれません。

使用者側は、有給休暇についてこのような判断があり得るということを理解し、労務管理の参考にしてください。

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賃金106(国(国家公務員・給与減額)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、財政状況・東日本大震災を理由とする給与減額に対する差額等請求に関する裁判例を見てみましょう。

国(国家公務員・給与減額)事件(東京地裁平成26年10月30日・労判1122号77頁)

【事案の概要】

本件は、政府が、厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み、一層の歳出の削減が不可欠であるとして、国家公務員の給与について減額支給措置を講ずる方針を決定し、当該措置を実施するため国会に提出した給与臨時特例法案の内容を基礎として、議員立法により平成24年2月29日に成立し翌3月1日に施行された給与改定・臨時特例法について(1)個人原告らが、被告に対し、①国家公務員の給与減額支給措置を講じるに当たり、人事院勧告に基づかず、かつ、職員団体との合意に向けた交渉を尽くさず制定され、立法事実に合理性・必要性もない給与改定・臨時特例法は、憲法28条、72条、73条4号、ILO第87号条約及びILO第98号条約に違反し無効である旨主張して、従前の法律状態に基づく給与相当額との差額の支払を請求し(差額給与請求)、これと選択的に、国会議員が、人事院勧告に基づかずに、また、政府をして原告X労連と団体交渉を行わせることなく給与改定・臨時特例法を成立させた行為並びに内閣総理大臣が、人事院勧告に基づかず、国会議員により提案された給与改定・臨時特例法の成立を看過し、その成立に際して原告X労連と団体交渉を行わなかった行為及び憲法とILO条約に反する給与改定・臨時特例法に基づき減額された給与を支払った行為が、それぞれ国賠法上違法である旨主張して、同法1条1項に基づき、給与減額相当分の損害の賠償を請求(損害賠償請求)するとともに、②上記の違法行為による慰謝料として、個人原告ら1人あたり10万円の支払を求め、(2)原告X労連が、被告に対し、給与改定・臨時特例法が成立する過程において、内閣総理大臣が原告X労連と団体交渉を行わなかったことなどが国賠法上違法である旨主張して、同法1条1項に基づき、1000万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告らは、本件で問題となっているのは、年間約2900億円の給与減額の問題であり、一般論として「我が国の厳しい財政事情」を論じても意味がない、国の財政事情及びその国家公務員の給与との関係を客観的に見れば、国家公務員の給与を2年間で約5800億円削減することが必要となるほどの「厳しい財政事情」にあったとはいえない旨主張する。
確かに、国家公務員の給与を減額しても年間約2900億円の歳出削減にしかならず、平成24年度末の公債発行残高705兆円に遠く及ばないことは明らかであり、今回の給与減額支給措置が直ちに被告主張の厳しい財政事情の改善をもたらすものとは考え難い。
しかし、政府(国会)としては、厳しい財政事情を改善するために様々な措置をとる必要性があるのであって、その様々な措置の取り方について議論はあるにしても、その一つとしての給与減額支給措置をとるとする判断が不合理なものとはいえない。もとより、厳しい財政事情が直ちに解消するとは考え難い現状において、そのことのみをもって今回のような大幅な給与減額支給措置の必要性が当然に満たされるかについては議論があり得るところではあるが、今回給与減額支給措置がとられた理由としては、厳しい財政事情に加えて、東日本大震災が発生し、短期的にみて復興予算確保の必要性が生じた状況が存在するのであり、この事情を併せ考えれば、本件給与減額支給措置を実施することが、そのことのみによって直ちに厳しい財政事情を有意に改善することにならないからといって、その必要性が否定されるものではない

2 ・・・これらの事情からすれば、給与減額支給措置が恒久的、あるいは長期間にわたるものや、減額率が著しく高いものであればともかく、今回、前記の必要性のもと、東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置として、平均7.8%という減額率で実施された本件給与減額支給措置について、人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価することは相当ではない。

3 国家公務員の場合、私企業とは異なり給与の財源が国の財政とも関連して主として税収によって賄われるため、その勤務条件は全て政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならないとされている上、その決定手続も、私企業の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によるのではなく、国民の代表者により構成される国会での法律・予算の審議・可決に基づくものとされているため、原告らの主張する準則は、そもそも、国家公務員の給与減額支給措置の場合に当てはまるとはいえず、民間労働者に適用される「就業規則による労働条件の不利益変更法理」と同等の要件が満たされなければならないことを前提とする原告らの主張は採用できない

公務員の特殊性から、上記のような判断がなされています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金105(槇町ビルヂング事件)

おはようございます。

今日は、労使慣行に基づく退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

槇町ビルヂング事件(東京地裁平成27年6月23日・労経速2258号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において稼働した後、退職したXらが、Y社には従業員に退職金を支払う労使慣行が存在すると主張して、Y社に対し、それぞれ、本件労使慣行に基づく退職金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 そもそも、労使慣行については、①労使慣行が長期間にわたって反復継続し、②当該労使慣行に対し労使双方が明示的に異議をとどめず、③当該労使慣行が労使双方に、特に使用者側で当該労働条件について決定権又は裁量権を有する者に規範として認識されていることを要する

2 退職金の支払に関する労使慣行が成立している場合には、退職金の支払について定めた就業規則、労働協約、労働契約等の成文規範がないにもかかわらず、当該労使慣行を原因として退職金請求権という具体的な法的権利が発生することになるのであるから、単に一時期退職金が複数の従業員に支払われていたに過ぎない事例等と区別して、権利発生の原因事実の存否を適切に判断し得るように、その外延を明確にする必要がある。かかる見地からすると、退職金の支給基準について、具体的な数値まで全て認識していることを要するかどうかはともかくとして、退職金が「一定の基準」により算出され、支払われているという認識があるに過ぎないのでは、労使慣行の成立要件として甚だ不十分といわざるを得ず、勤続年数に比例した退職金が支払われるといった程度の認識でも十分とはいえないと解される

3 以上の次第であって、本件では、Y社において従業員に退職金を支払う旨の本件労使慣行が存在し、規範として認識されていると認めることはできない。従業員に退職金が支払われた例が散見され、退職金が相応の金額に上ることもあったにしても、これはあくまでも代表者の裁量的判断に基づく処遇であったとみるのが相当である。

労使慣行に関してわかりやすく説明してくれています。

規範を見る限り、ハードルがかなり高いことがよくわかりますね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金104(農事組合法人乙山農場ほか事件)

おはようございます。

今日は、元従業員5名による未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

農事組合法人乙山農場ほか事件(千葉地裁八日市場支部平成27年2月27日・労判1118号43頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y1社及びY2社に対し、賃金、時間外手当の支払いを求めるとともに、Y社の理事兼Y社の代表取締役であるAに対し、各賃金不払につき第三者であるXらに対する責任を負う旨主張して、農業協同組合法73条2項・35条の6第8項又は会社法429条1項に基づき、前記各請求と連帯して、前記各賃金と同額の損害金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y1社及びY2社は、Xらそれぞれに対し、連帯して、約175万円、約448万円、約22万円、約577万円、324万円を支払え。

【判例のポイント】

1 X1、X2およびX3がY1社と雇用契約を締結して労務を提供していたことは争いがないのであるが、結局、各認定した労務の実態に照らすと、前記3名が提供した労務の大部分はいずれもY2社の業務に関するものであって、また、Y2社及びY1社の経理が厳密に区別されてこなかった結果、各賃金支払もY1社・Y2社いずれからも行われてきたものである
そうすると、X1、X2及びX3との間の各雇用契約は、黙示にはY1社のみならずY2社との間でも各締結されていたと捉えることができる
そうすると、X1、X2及びX3の賃金請求との関係では、Xらの主張する事実との関係に照らしても、Xらが法律構成として主張する法人格否認の法理を適用するまでもなく、Y2社においても前記3名が雇用されていたものと認定すれば足り、またY2社とY1社との債務の関係は、商法511条1項により、連帯債務と解することができる。
したがって、Y2社は、Y1社の負う本件各債務についても連帯してその支払義務を負うと解され、X1、X2及びX3は、Y2社に対しても、各賃金等を請求することができる。

2 Aにつき、Xらの各賃金未払いを明確に認識していたものと認められず、一方で、未払給与の支払いを求められたAがY2社の小切手を交付して対応するなどして未払い解消に努めようとしていた事情も認められるのであって、Y1社又はY2社の給与支払業務につき、法令違反による任務懈怠が認められるとしても、Aに悪意又は重大な過失があったとまでは評価できないし、また、Xらの各賃金請求につき、遅延損害金を含めてY2社に各請求することが可能であると解されるところ、Xらに各損害が現実に発生したと評価することも困難である
したがって、XらがAに対して、農業協同組合法73条2項・35条の6第8項又は会社法429条1項に基づき、賃金額と同額の損害を請求することはできない。

それにしてもすごい金額になっていますね。 ちゃんと支払ってもらえるのでしょうか・・・。

「法人格否認の法理を適用するまでもなく」との判断は、参考になりますね。

なお、商法511条1項は以下のとおりです。

数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金103(Y社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、退職金減額決定は有効であり、未払退職金はないとされた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成27年7月17日・労経速2253号18頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、労働契約に基づき、Y社に対し、退職金未払部分352万余+遅延損害金の支払を求める事案である。

Xは平成元年7月、Y社との間で労働契約を締結した。Y社は、平成22年9月、Xに対し、懲戒解雇の意思表示をした。

Y社は、平成22年10月、Y社の退職金規程に従って計算したXの退職金の額である528万円余を3分の1に減額して支払う旨の決定をし、退職金176万円余から源泉所得税を控除した額を支払った。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件退職金規程は、4条以降で退職金の額を一義的に算定することができる計算方法を具体的に規定していることに照らせば、Y社における退職金が賃金の後払いとしての性格を有するというべきである。もっとも、同規程13条が懲戒解雇の場合の退職金の不支給を定めていることに照らせば、Y社における退職金には功労報償的性格をも有することは否定できない
したがって、原則として、Y社は、本件退職金規程により算定される退職金の支払義務を負うが、懲戒解雇による退職の場合で、かつ、退職者において長年の勤労の功を減殺し、又は抹消する程度に背信的な事情がある場合には、退職金を減額し、又はこれを支給しないことが許されるというべきである。

2 これを本件についてみると、Xは、度重なる遅刻をした上、上司に対し合理的な理由なく反抗的な態度をとった上、乱暴な言葉遣いで誹謗中傷やおよそ趣旨の不明瞭な反論をするなど、職場環境に悪影響を与えるような言動を繰り返したというのである。
これらの遅刻の期間、回数、上司に対する反抗的態度の内容、またこれらの言動が本件戒告処分及び本件出勤停止処分によってもなお改まる兆候が見られなかったこと等に照らせば、Xの勤務態度は、長年の勤労の功を抹消する程度に背信的なものであったと評価するほかない
よって、本件退職金減額決定は有効であり、未払い退職金はないというべきである。

非常にオーソドックスな退職金請求事件です。

実務においては、どれだけ退職金を減額するかの判断をしなければなりません。

背信性がそれほど高くないのに、大幅は退職金の減額や不支給とすると、会社側が一部敗訴する場合もありますので、注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金102(京都大学事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、国立大学法人教職員への給与減額支給措置に関する裁判例を見てみましょう。

京都大学事件(京都地裁平成27年5月7日・労経速2252号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でそれぞれ雇用契約を締結し、Y社の教職員として勤務していたXらが、平成24年8月1日から平成26年3月31日までの期間につき一定の割合で教職員の給与を減額することを内容とする「国立大学法人京都大学教職員の給与の臨時特例に関する規程」は、就業規則を不利益に変更するものであって無効であると主張し、Y社に対し、雇用契約に基づく給与請求として、それぞれ同規程により減額された俸給月額、期末手当及び勤勉手当並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらは、Xらの給与水準がそもそも国家公務員や私立大学教員と比較して低い、本件給与減額支給措置によって、教育研究にも支障が生じていることなどを主張するが、Y社においては、教職員の給与減額という必要性に直面しながらも、教職員の負担をできる限り緩和するような対応が講じられており、かえって、国立大学法人の中でも最も優遇された状況にあるともいえるのであって、Xらに上記のような問題が生じているとしても、それは本件給与減額支給措置による不利益の程度の埒外の問題であるといわざるを得ない

2 Y社においては、教職員のみならず、本件給与減額支給措置と同一の期間において、役員減額が、教職員の最も高い区分の減額率と等しい4.35%の減額率をもって実施されているのであり、本件給与減額支給措置が、教職員のみに負担を課すものではないことも、本件特例規程の相当性を基礎づけるものとなり得るというべきである。

3 本件特例規程は、教職員の給与が、社会一般の情勢に適合したものとなるように、又は国家公務員の例に準拠するものとなるように一定の減額を実施すべき高度の必要性が存したことによって制定及び改定されたものであって、これによってXらを含む教職員に生ずる不利益も、特に他の公立大学法人と比較すれば限定的なものにとどまっていることなどに照らせば、それ自体相当性を有するというべきものであり、また、その制定及び改定に当たっては、職員組合との十分な団体交渉が繰り返されているのであって、これらの事情を総合的にみると、本件特例規程による給与規程の変更は、合理的なものであると認めるのが相当である。

賃金の減額をする際、従業員から同意を得られない場合には、上記のような賃金減額の合理性を裏付けるいくつかのポイントを押さえる必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金101 (コンチネンタル・オートモーティブ事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金の支払場所は労働者の労務提供場所であるとして、移送の申立てを認容した裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(広島高裁平成27年3月17日・労経速2249号9頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社を債務者として広島地方裁判所に申し立てた基本事件(地位保全及び賃金仮払い仮処分命令申立事件)について、Y社が、基本事件の「本案の管轄裁判所」(民事保全法12条1項)は、広島地方裁判所ではなく横浜地方裁判所であると主張して、同裁判所への移送の申立てをしたところ、原決定は、これを認め、基本事件を横浜地方裁判所に移送する旨の決定をしたことから、Xが本件抗告をした事案である。

【裁判所の判断】

抗告棄却

【判例のポイント】

1 賃金を労働者の預貯金口座に振り込む方法により支払うことは、賃金の通貨払いの原則に反するものであるが、労働者がこれに同意するときは、その例外として許容されていることから(労働基準法24条1項ただし書)、前記のXとY社との振込みに関する合意は、上記通貨払いの原則の例外として認められるためにされたものと解される。このように、上記の合意は、特段の事情がない限り、賃金の支払方法についての合意にすぎず、その支払場所(義務履行地)に関する合意を含むものではないと解するのが相当である。本件において、上記特段の事情の主張及び立証はない。

2 賃金の支払場所は、もともと、労働者が労務を提供する場所であるとするのが、その合理的意思に沿うものであると認められることからすると、たとえ、賃金を労働者の預貯金等の口座に振り込む方法が一般的になっていても、労働者の住所地を賃金の支払場所とは考えないのが通常であると解されること、したがって、賃金の支払が預貯金口座に振り込む方法であったとしても、賃金の支払場所は、労働者の労務提供場所とするのが、使用者及び労働者の合理的意思に合致すると解される。仮に、賃金の支払場所につき上記の合意が存在したとは認められないとしても、以上説示したところによれば、民法484条又は商法516条1項の規定を適用する前提を欠くというべきであり、労働者の住所を支払場所とするのは相当ではない。

3 本件においては、Xは、かつてはY社広島事務所において勤務していたが、平成26年1月1日以降Y社本社において勤務していたのであるから、賃金の支払場所は、Y社本社であると認められる。少なくとも、本件支店又はXの住所が賃金の支払場所であると認めることはできない。したがって、賃金の義務履行地を管轄する裁判所は、広島地方裁判所ではなく、Y社本社の所在地を管轄する横浜地方裁判所である。

非常に参考になる判断です。

是非、残業代等の賃金請求事件で管轄が問題となった際には参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。